●ザ・コンピュータ館を“王道”に戻したラオックス
秋葉原のPC専門店の歴史を振り返る中で、'90年に誕生した「ラオックス ザ・コンピュータ館(ザ・コン)」は欠かすことができない店舗である。秋葉原で最初の大型PC専門店であり、何度かの変遷を経ながらも、秋葉原の代表の座は常に守り続けてきた。 そのザ・コンが、8月にリニューアルを宣言したとき、どのような変貌を見せるのか、大きな注目が集まった。自らを上回る超大型店ヨドバシカメラに対して、どのようなコンセプトで対抗するかが期待されたからだ。 8月26日、リニューアルオープンしたザ・コンピュータ館を見た感想は、ずばり「基本への回帰」。ビジネス向け製品の強化やなど新しいコンセプトを探り続けてきたザ・コンピュータ館が、王道といえるPCの総合店に戻ったという印象を受けた。 しかし、ザ・コンピュータ館は単純に原点に還ったわけではない。今回のリニューアルで目指したのは、'90年のPC総合店としての王道ではなく、PCの普及が進んだ2005年のPC総合店としての王道だったのだ。 ●単なる回帰ではなく、用途提案を前提としたリニューアル
「昔に戻ったようだ? うん、その印象は当たっている部分もあるけど、単純に昔に戻ったわけではないんだ」-今回のリニューアルは、ザ・コンピュータ館が最も強かった時期に回帰したような印象があるが、という筆者の質問に、ラオックス執行役員 山下巌 広報IR室長は笑顔でこう答えた。 「'90年にザ・コンピュータ館ができた時には、PCは一部の人だけが持っているもので、みんなが持っているものではなかった。だから、『PC』を中心に全フロアのコンセプトが成り立っていた。ところが、現在はほとんどの人がPCを持っている。PCをもっていないという人も、昔に比べていろいろな情報を持っている。それだけに、今回のリニューアルのコンセプトは『デジタルライフ・スタイル提案と、初心者にも優しいPC総合専門店』。PC本体からではなく、デジタルライフ・スタイルの提案をしていく中で、PCの必要性をあらためて考えてみる、使い方提案が前面に出た店舗となった」 かつてのザ・コンピュータ館と、今回のリニューアルの違いを表しているのが、1階フロアだ。'90年にはまだ珍しかったPC書籍専門フロアが1階に置かれていたが、現在の1階は携帯電話や携帯オーディオ機器が置かれている。 「'90年の時には、PCに関する知識が欲しい人にとって書籍や雑誌が参考になった。しかし、今は書籍や雑誌は何かしらの目的をもって購入する場合がほとんど。現在の1階には書籍よりも、ユーザーを増やしているデジタル機器の方が向いている」 1階に置かれたデジタル機器は、製品単体で利用することが可能なものもあれば、携帯オーディオプレイヤーのようにPCを使い始めるきっかけと成り得る製品も置かれている。「PCを持っていない人でも、ぶらりと来て楽しめるフロア作り」を目指した結果である。
使い方提案から派生して新たにコーナーができたのが、5階のロボットフロアだ。ロボットといってもさまざまなものがあるが、ここに置かれたロボットは、PCでプログラミングして動かすものばかり。つまり、PCの周辺機器の1つとみなすこともできる。 同じ5階には、岡三証券との提携により、オンライントレードのための相談コーナーも設けられている。ロボットとオンライントレードとは相容れないもの同士にも見えるが、「PCを利用してトライするという意味では、共通するところがある。もしかしたら、PCを持っていて、何かしたいと思ってロボットやオンライントレードに行き着くかもしれない。逆にオンライントレードをやりたいから、自分でロボットを動かしたいから、PCが必要になるという人もいるかもしれない。PCの用途提案をいろいろ揃えるという意味で、オンライントレードやロボットのコーナーが用意された」のだという。 そして、こうした用途提案に対する相談に応えるスキルをもった店員を配置することで、「ヨドバシカメラにはない店作りが実現できるのではないか」というのだ。
●Appleとは違うMac専門店
これも原点回帰と言えそうなのが、Apple製品の専門館である「The Mac Store」だ。 ラオックスでは、ザ・コンピュータ館の中にあったApple製品のコーナーを、単館で独立させた理由を次のように説明する。 「iPod人気によって、Apple製品への注目度合いが再び高まった。同じPCといっても、WindowsとMachintoshには違いも多く、単独で専門店を置いた方がユーザーメリットが高いと判断した」(山下広報室長) Appleが自社で専門店Apple Storeをオープンするようになって、Apple専門店は次々に姿を消している。そんな中、久々に誕生するApple製品の単独店舗の看板はシンプルで美しい。まるで、Appleの直営店舗のようだ。 店の内部も、1階は直営店と同じような雰囲気ではあるが、上のフロアに行くごとに直営店にはない、独立した店舗が運営する独自のテイストが出てくる。
それが最も結実したのが5階の中古Macフロアだろう。日によって置かれている商品に違いはあるものの、比較的最近のMacから、ちょっと懐かしいMacまで、さまざまな製品が置かれている。ラオックスでは、基本的には中古PC事業を休止したものの、Macに関してはWindows PCとは違う需要があるということで、中古Macの取り扱いを行なっているという。 「Macは古いものにも価値を見出して値段をつけるという文化がある。Windows PCが古いものは中古製品になってしまうのとは違う意味の中古品販売ができると考えて、The Mac Storeには中古品販売フロアを設けた」 良くも悪くも、Apple Storeは、Appleにとって最も都合の良いように作られている。Appleにはできない専門店としての品揃えやフロア構成というものも存在するはずだ。Macファンにとっては、Apple Storeとは違う専門店のあり方を目にするという目的だけでも、秋葉原に足を向ける理由となるのではないか。 ●開店時間と閉店時間の検討も開始 ラオックスでは、ザ・コンピュータ館を皮切りに全店舗のリニューアルを実施中だ。 こうしたリニューアルとは別に、社内で検討課題となっているのが、「現行の閉店時間のままでよいのか」という点だと言う。 ザ・コンピュータ館の閉店時間は夜の21時。夜が早い秋葉原の店舗の中では遅い閉店時間ではあるが、つくばエキスプレスの開通によってサラリーマンの乗り換え客が増加したこと、秋葉原ダイビルのようにオフィスビルが秋葉原にできたことで、「会社の帰りにぶらりと秋葉原に寄ってみたという客層が存在するのではないか」という点が議論のポイントとなっているのだという。 「当社の社長の本多が、現在の閉店時間ではサラリーマンが会社帰りにちょっと立ち寄るというのが難しいと言い出したのがこの議論のきっかけとなっている。実は要望の中には、会社に行く前の早朝、店舗が開いていると使い勝手がいいのだがという意見もある。秋葉原の街が変わっている最中でもあり、こうした要望をどう取り入れていくのかは、今後の検討課題としたい」(山下広報室長) ザ・コンピュータ館は夜が早かった秋葉原の街の中で、21時閉店を実現させた店舗でもある。秋葉原の街の新しいトレンドを作るという意味では、他店に先駆けて開店時間や閉店時間を変えていくというのも1つの方法だ。この検討がどう実っていくのか、秋葉原のユーザーとしては成り行きを注目したい。
□ラオックスのホームページ (2005年9月21日) [Reported by 三浦優子]
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