新店舗の盛況ぶりとともに注目を集めているのが、新参者である「ヨドバシカメラ」に対し、既存のPC専門店や家電店がどう対抗していくのかということだ。ヨドバシカメラの出店は、大きな福音とも新たな障害とも受け取れるからだ。
秋葉原の電気店が参加する任意団体秋葉原電気街振興会の会長で、オノデンの社長である小野一志氏に振興会としての見解を聞いた。 ●振興会への入会を決めるのは先方次第 「ヨドバシさんが振興会に入るか、どうか。それは先方が決めることですよ。無理矢理入れと強制するものではないし、入りたいというのであれば、断るつもりはありません」 ヨドバシカメラマルチメディアAkibaの開店直後、「ヨドバシ対既存家電店」という視点の報道があふれた。秋葉原電気街振興会にもマスコミからの問い合わせが相次ぎ、取材も急増した。実際に振興会の事務所にやって来て、「一言、コメントが欲しい」というマスコミもあった。だが、マスコミ側の熱い報道ぶりを小野会長は冷静にこう分析する。 「競争は今、始まったことではない。昔から繰り返してきたことでもある。むしろ、マスコミが競争が大変だと報道してくれれば、それだけ秋葉原の街への注目が集まり、街を訪れる人も増える。これは、既存の販売店にとっても朗報だろう。後はヨドバシカメラだけではなく、既存の店にも足を向けてもらえるような動線を作り、それぞれの店舗が魅力ある店作り、売り場作りをしていくこと。それしかない」
取材の中で、「対新宿」、「対有楽町」ということばが何回も出てきたことから、ヨドバシカメラの巨大店舗が秋葉原以外の地域に出来ていたとすれば、もっと危機感があったのではないかと推測された。 これは振興会の役割が、「秋葉原の街へ人を呼ぶインフラ作りを進めること」だと小野会長が断言することからもうかがえる。 「振興会の最初のミッションは、セールの時に多くの人に集まってもらう仕掛け作りとして『秋葉原電気まつり』を行なうことだった。振興会を、価格の談合や取り扱う商品を同じにしようとする仲良しクラブだと思っている人もいるが、実態はそうではない。振興会に参加する各店舗は、『秋葉原の街に人を呼ぶ』という点では利害が一致し、協力関係にある。だが、同時に熾烈な競争を繰り広げているライバル同士でもある」 秋葉原の街に人を呼ぶということが振興会のミッションであるとすれば、「街に人を呼ぶという点から、ヨドバシカメラさんが振興会にメリットを感じる場面があるかもしれない」と小野会長は指摘する。 開店前には、ヨドバシカメラの藤沢昭和社長が小野会長のところに挨拶に訪れた。
「『同じ秋葉原の街にお店を構える同士、仲良くやっていきましょう』というお話だけで、それ以上の深いお話はしていない。藤沢社長とは、メーカーの懇親会などで何度も顔を合わせている。最初にお話ししたように、振興会に入るかどうかは、先方が決められること。入りたいというお話があれば、お断りするつもりもないし、こちらから無理矢理、入ってくださいとお願いするつもりもない」 ●家電店や超専門店が軒を連ねて切磋琢磨 小野会長にあらためて、「秋葉原電気街の魅力とはどこにあるのか」を聞いてみた。 「各店舗が競い合っているからこそ、秋葉原の街ならではの魅力が生まれるのだと考えている。振興会のメンバー同士とはいえ、お互いにライバルですから、『他店にはない商品を並べてやろう』とか、『他店より安く売ってやろう』と各店舗が考えて店作りを行っている。だから、他の地域にはない新しい商材があり、色々な値段で商品が置かれている。各店舗が切磋琢磨するからこそ、秋葉原の街に魅力が生まれる」というのが小野会長の分析だ。 各店舗が切磋琢磨している結果、「秋葉原の街を歩くと、その時の電気製品のトレンドが見えてくる。ヨドバシカメラさんがいくら巨大で、品揃えが豊富だからといって、1店舗の内部を歩いただけでは、トレンドを感じるということは難しいだろう。1店舗だけでは、店舗側の意向が強く反映されるため、全体の傾向を掴むことはできない。それは郊外の店舗を見ても同じ。電気店の集積地である秋葉原だからこそ、店舗の意図を越えた製品トレンドを捉えることができる」という特徴が生まれる。 確かに、秋葉原の街を歩くと、今、どんな製品が売れているのか、これからどんな製品が売れていくのかといった傾向を掴むことができる。実際にメーカーでは、実験的な製品が出来上がると、秋葉原の電気店に「この商品を置いてくれないか」という売り込みをかけてくるという。新しい電気製品を作るメーカーと、それを売る販売店の両方があってこそ、日本の電機製造業は成長を続けてきたといえる。 「家電製品をはじめ、日本の電機製造業は、自動車と共に日本のGNPの中核を担う産業」だと小野会長は指摘する。そして、「こうした家電製品などのトレンドを掴むとともに、秋葉原は試作品を作っていくうえで欠かせない街」ともなっている。 「電気街」と名の付いた街は他にもあるが、「秋葉原ならでは」といえるのは、電気製品の内部に使われている部材の専門店の存在だ。こうした部材は今でも、メーカーが製作する製品の試作品として利用されている。 「世界的に見ても、部材の店まである電気街は他にはないと聞いている。最近では、インドの電気街に部材の店も出来たそうだが、多くの場合、電気街=完成した電気製品を販売する街。それに対して、秋葉原にはネジやケーブルの専門店まで存在する。完成品だけでなく、部材を販売する『超専門店』まで存在する、含めて店舗の多様性が秋葉原電気街の魅力といえるだろう」と小野会長はアピールする。 今年8月、皇太子殿下が秋葉原を視察した際には、小野会長がオノデン本店、ラオックス本店と共に、ネジの専門店である西川電子部品に案内している。「ここにはネジだけで4,000種類の品揃えがありますという説明をさせていただいた」そうだ。 さまざまなな種類の店が混在するからこそ、秋葉原は輝いている。特に最近は秋葉原にある店舗側も、「店としての特徴をどうやって確立するのか」に力を入れている。同じPCであっても、店舗によって置く商品、ターゲットユーザーを変えていこうとする意図が感じられるようになった。 「ヨドバシカメラが秋葉原にできて、初めて秋葉原に来る人も出てくるだろう。その人たちに、『秋葉原は面白い街だ、また来よう』と思ってもらえるような店作りを、各店舗で進めていかなければならない。ヨドバシカメラの一人勝ちとならないように、各店舗が力を入れていかなければならない」 捉えようによっては、ヨドバシカメラの出店は、秋葉原の既存店舗に緊張感を与えるカンフル剤の役割を果たしているようだ。 ●案内板の充実や観光バスの発着拠点などインフラ整備が今後の課題
2002年春に第一弾を発売した秋葉原限定ブランド「√a」(ルート・エー)生活家電シリーズは、振興会が秋葉原の街の振興を目的に生産している商品だ。 現在までに発売した製品は全て完売している。「今後、どんな製品を出していくのかといったことは、市場の声を聞いて考えなければいけないこと。こちらから勝手に押しつけるのではうまくいかない」と市場第一主義を貫く姿勢を示す。 振興会の設立のきっかけとなった「秋葉原電気まつり」は現在でも毎年、開かれている。期間中はセールをだけでなく、吉本興業の若手芸人を呼んだイベントも行なわれている。 「吉本興業の若手芸人さんを目当てに、若い女性に秋葉原に来てもらって、『面白い街だ』と思えば、二度、三度と足を運んでもらうこともできるだろう」(小野会長) 最近では、9月6日から10月23日までの間、開催されている、2006年に秋葉原UDXビル内に「デザインミュージアム秋葉原(仮称)」が誕生することを受けたプレイベント、「D-秋葉原テンポラリー」に協賛。
7月には、つくば市が「つくばエクスプレス」の開通記念プレイベントとして秋葉原ダイビルで開催した「つくばフェスタin秋葉原」に協賛しているが、あえてこれまでのアキバ系とは一線を画するイベントに協賛していくことで、「新しい客層を秋葉原に呼び込む」ことを積極的に進めている。
「人を呼ぶための仕掛け作りは、一度で完了というものではない。色々な積み重ねを行なって、その結果、秋葉原を訪れる人が増えていく」と小野会長は継続性の重要性を強く訴える。 さらに、街を訪れた人が安心して街を歩くことができるように、案内標識などの充実を警察や区や都に訴えていくことも振興会の重要な仕事となっている。 実際に、今年大きな地震が起こり、JRがストップした際には、外国人に向けた案内板が少なかったために、秋葉原を訪れていた外国人がどこに向かうべきかがわからず、途方に暮れるという光景が見られたのだという。 「少なくとも、英語、中国語など4カ国語くらいは表示している案内板があってしかるべき。街に人を呼ぶためには、そういう環境整備を整えていかなければならない。ただし、これは振興会の力だけで実現できることではないので、色々なところに働きかけていきたい」 秋葉原を訪れる外国人観光客の数は増えているが、観光客を受け入れるための観光バスの発着地が近隣にないことが、秋葉原の大きな弱点として指摘されている。小野会長は、「移転が決まっている交通博物館の跡地を、観光バスの発着拠点として整備するといったことをしてくれれば、もっと多くの観光客を秋葉原に呼べると思うのだが」と苦笑いした。
東京都や千代田区は、「秋葉原は宣伝をしないで人が集まる。観光地としては優等生」と秋葉原を賞賛するものの、賞賛するだけではなく、もっと積極的に街の振興のために協力が必要とされている。
□秋葉原電気街振興会のホームページ (2005年9月20日) [Reported by 三浦優子]
【PC Watchホームページ】
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