第305回

新型VAIO type T開発秘話



昨年夏、「VAIO 第2章」についてプレゼンテーションを行なう木村敬治 常務取締役

 ふと思い返してみると、ずいぶん長い間、ソニーのVAIO担当と話をしていなかった。ソニーに対してPC関連で取材をしたのは、おそらく「VAIO 第2章」をテーマに新しいブランド展開を図ろうとした昨年初夏、ソニー 常務取締役の木村敬治氏に話を聞いた時だろう。

 当時、木村氏が「たとえば、自己満足で“このソフトは便利”と自社開発し、なんでもバンドルするようではダメ。あらゆるソフトが動く汎用パソコンでは、世界で一番優れているソフトしか使ってもらえない。だから不要なソフトはすべて開発を中止させた。ハードウェアだって同じ事だ」と話していたのが印象的だった。

 しかしVAIO 第2章の立ち上げ後、次々に新しいコンセプトのハードウェアとソフトウェアを見せてくれたか? と言えば、個人的には物足りなさが残る。これは僕の感想というよりも、市場の評価だったとも言える。日本市場でのVAIOの存在感は以前ほど大きなものではなくなってきた。

 ところがVAIOは昨年、欧州と北米で絶好調だったほか、中国をはじめアジア地区での人気も急速に高まっているという。日本での不調が嘘のように海外では好調で、ソニーのPC事業を支えた。

 もっとも、それはソニーがVAIOで積み上げてきた部分が、今、海外で評価されているという事ではないだろうか。しかし、それも随時“燃料補給”していかなければ、好調を維持できるかどうか。海外での事業も不調に陥ればVAIO事業の見直しなんて事になるかもしれない。

 それはVAIOに関わる者たちも十分に承知しているのだろう。今回発表のモデルでは、今後、彼らが育てようと考えているいくつかの要素も“燃料”として投下された。今回はそのうち、携帯性を重視した「VAIO type T」について、ソニー自身の声と共に記事として取り上げてみたい。

●久々のソニーらしいモバイル機「type T」

 光学ドライブ内蔵でありながらコンパクトで軽量化やバッテリ駆動時間などにも配慮した設計になっていた旧type T。もちろんモバイル機として平均点は超えているが、どちらかといえばカワシボ風仕上げや手帳ライクな渋めの塗装など、所有欲やデザインへのコダワリに力点を置いた製品というのが個人的な印象だった。

 もちろん、デザインや質感に力を入れる事が悪いという話ではない。type Tは昨年、日本市場でもっとも成功したモデルであり、また意外にも欧州や北米でも予想以上の売り上げを示していたという。特に小型ノートPCのニーズがさほど大きいとは思えない北米での人気は意外なものだ。

昨年の日本市場でもっとも成功したモデルとなった旧VAIO type T(写真左)と新type T

 しかし純粋にスペックでの比較となると、携帯機としてやや分の悪い面もある。国内でモバイル機と言えば、松下電器のLet'snote Lightシリーズが、すっかりビジネス向けモバイル機の定番になってきた。バッテリ駆動時間や重量を数値で比較されれば、Let'snoteに対して分が悪い。製品を企画する上での選択肢が異なるのだから、それも致し方ないと個人的には捉えていたが、type Tの企画担当者はそうは考えていなかったようだ。

 「前の製品も小型・軽量化、バッテリ駆動時間などモバイルでの利便性に力を入れていましたが、どちらかと言えばデザインが評価されていました。もちろん、それはうれしいことですが、我々としては最高のモバイルコンピュータとして、鞄の中に常に入れておきたいと思うような、ベストな道具である事を追求したい。今回、こだわったのはその部分です」

 実際、個人的にはバイオノートSRX以来、実に久々に使ってみたいという気にさせるモバイル機という印象を持った。メモリースティックに加え、SDカードスロットを小さな筐体に押し込めている点も、最近のデジタルカメラ事情を考えるとうれしいところだ。

 カタログ上や広告などでは、カーボン積層板の繊維が織りなす模様を活かしながらパール塗装を施した液晶パネル裏のカバーや、薄型化された筐体などデザイン面などをアピールする事になるのだろうが、type Tの本質は、むしろもっと本質的な“道具としてのパソコン”という側面にあるように思う。

 とかく比較対象として比べられることが多いLet'snote Lightシリーズにしても、賛否両論ある部分は持っているにせよ、鞄に入れて持ち歩く道具として、どのような製品が快適かを松下電器なりに追求した結果、生まれた製品だった。新型type Tのハイライトは、従来とは異なるイメージに衣替えしたデザインよりも、モバイル機としてどれほど使いやすいものになったかという点にある。

●コンパクト化と操作性の両方が同時に前進

 新type Tはバッテリを除く本体部分の底面積は変わらないものの、旧型機でやや気になったバッテリの突出部が小さくなった分、コンパクト化されている。全体のフォルムも突出した部分がなくなり、薄型化も同時に進んだことでスッキリと洗練された印象だ。

 バッテリの突出部が小さくなったということは、つまりバッテリパックが本体の中に入ってきたわけで、その分、メイン基板や内蔵ドライブに使える空間が減っているわけだ。ざっと見たところ、18650セル(通常のノートPC用バッテリセル)の直径半分ぐらいが本体の中に入り込んだ形となっている。

旧type T(写真左)との比較。基本的な底面積はほとんど変わりないが、バッテリの突出部が小さくなったのがわかる

 新型type Tの本体部厚みはバッテリパックの厚み+α程度で、この部分には何も入っていない。当然、キーボードを載せるスペースはなく、キーボード全体がやや手前に移動している。さらにこれまではパッと見て横長変形である事がわかったキーボードの縦横比は、縦方向に伸び、ちょっと見ただけではわからない程度の変形になっている。

 実際にキーをタイプしても違和感はない。見た目は派手目でタッチが良くなさそうに見えるのだが、このクラスの中ではタッチも良い部類に入る。個人的には好きなキーボードだ。

 またヒンジ部分に配置されたAV機能の操作ボタンに並んで、光学ドライブのイジェクトボタンが独立配置されている点も使いやすい。側面を持ったときにうっかりイジェクトボタンを押すといった事もない。

 さらに液晶パネル部分。LEDバックライト化で薄型化。カバーに積層カーボン素材を用いたことで軽量化された液晶パネル部は、軽量なためヒンジの設計がかなり楽になったという。カチッとはめるツメがないラッチレスメカで、ヒンジのトルク変動によって液晶パネルを閉じた状態に保つメカニズムだが、使用していて不安感を感じることはない。液晶を開ける時にも、スッと抵抗感なく開いてくれる。

薄型化を実現しながら圧力に対する強度は従来比で230%強化された

 液晶部はあまりにも薄く、見た目には不安を感じるが、液晶裏に部品を配置しないフラット構造のため、圧力がかかっても液晶が割れにくいように工夫しているという。またネジで固定しないことでパネルへのストレスを抜き、ガラス基板の薄型化で“しなり”を出し、従来機比で230%もパネル面への圧力に強くなった。

 外装のデザインや質感は、どちらかといえば購入前に気になるところだろうが、購入後はむしろ上記のような使用中に“感じる”質感の方が気になるものだ。この点で新しいtype Tに大きな不満はない。

 ハードスイッチでON/OFF可能なワイヤレス機能やBluetoothの標準搭載、6セルバッテリ+光学ドライブ内蔵で1.25kgの軽さ、Sonomaベースになっても約9時間を確保しているバッテリ持続時間など、スペックで見ればわかるところは省略するが、外見以外の部分での満足度が高まっている点は高く評価したい。


●type Tへの疑問と回答

 さてLEDバックライトとなった液晶パネルは、もしかすると暗いのでは? と心配している読者も多いのではないか。しかし新型type Tの液晶パネルは、冷陰極管を用いた従来機と同じ明るさである。比べてみても見た目にはほとんど違いはない。

 この液晶パネルは、いわゆるツルツルの光沢フィルムで仕上げられたものだが、低反射コートの質が良いのか、普段はこの手の液晶パネルが好きになれない筆者でも嫌悪感は感じない。完全16:9の1,366×768ピクセルという解像度は、果たして本当に16:9にこだわるべきなのか? という疑問はある。DVD用といっても、ビスタサイズ以外はどうせ16:9でフル画面にならないのだから。とはいえ、XGAに比べ画面を広く使える点は便利ではある。

 と、試作機に触れながら考えていたが、詳細なレビューは Hothotレビューに任せよう。以下は個人的な疑問に対してtype Tの企画担当者と開発担当者から回答をもらったものだ。

--- LEDバックライトが省電力化する上で大きなポイントになったとの事だが、冷陰極管と比較して、どの程度、下がっているのか?

 「type Tの輝度設定は新/旧ともに全く同じ仕様ですが、最低輝度時に90%減、最高輝度時に20%減になります。LEDの場合(冷陰極管でインバータの効率が悪くなる)低輝度領域ほど、省電力効果が高くなります」

--- Sonomaベースでもバッテリ駆動が落ちず、むしろ長くなった理由は?

 「まずはLEDバックライトの採用。次に省電力型の新規開発したクロックジェネレータを採用したことです。また、光学ドライブのオートパワーオフ機能を付けました。起動時やスタンバイ、休止状態からの復帰時にメディアが入っていないと自動的にドライブの電源が落ちます。ちなみに、光学ドライブはイジェクトボタンで電源が入ります」

【お詫びと訂正】初出時に、光学ドライブのオートパワーオフの説明が誤っておりました。お詫びして訂正させていただきます。

--- 重量面では従来機比で150gの減量を果たした。その主な理由は?

 「液晶ディスプレイが薄く、軽くなった点が大きいですね。導光板が薄くなり、インバータが不要となったため、そのための駆動基板が小さく軽量になりました。また、液晶パネルのガラス基板も磨くことで0.3mmにまで加工し、軽量化に貢献しています。その次がマグネシウムからカーボン積層素材へと変更したボディの軽量化。さらに光学ドライブ自身の軽量化もあります」

液晶ディスプレイのバックライトにLEDを採用したことで消費電力を軽減できたほか、ガラス基板の薄型化で軽量にも貢献

--- 外から見るだけではわからない開発が困難だった部分は?

 「薄く軽い液晶ディスプレイの開発がもっとも苦労しました。細かな点ではありますが、画面下部分(VAIOロゴ部)をいかに「広げないか」があります。LEDバックライト回路やLCDドライバ、LED光源の拡散処理などを考慮すると、当初は画面下部のベゼル幅を広くしなければなりませんでした。その為に、液晶ドライバ基板を可能な限り細く設計し、さらに、LEDバックライトの駆動回路は液晶パネルの部分ではなく、メイン基板側に内蔵しています」

 「次にカーボン積層素材のボディですね。カーボン積層素材は量産化が非常に難しい素材で、カーボン素材ベンダーと共同で、量産しやすい形状の試行錯誤や製造工程の一からの見直しを行なっています」

 「最後にバッテリ持続時間を延ばすこと。ご存知のようにSonomaプラットフォームを素直に実装するだけではバッテリ持続時間が短くなります。いかにしてそれを延ばすか、試行錯誤で電気設計の担当者がなんとか約9時間というスペックにまで持ち込みました。映画も標準バッテリで4時間分を見ることが可能です」

【お詫びと訂正】初出時に、バッテリ駆動時間を8.5時間としておりましたが、約9時間の誤りです。お詫びして訂正させていただきます。

type Tに利用されるカーボン素材(写真左)とその積層板

--- ソニー製ノートPCでは久々のBluetooth搭載機だ。早期からBluetoothに取り組みながら、最近は採用を中断していたソニーが再度、標準搭載に踏み切った理由は?

 「既に欧州ではBluetoothが普及していますし、北米でもその兆しが見えています。そして日本国内でも、やっとBluetooth対応機器が増えつつあります。また、我々はVAIOをコミュニケーションツールとして使って欲しいと考えています。秋モデルからBluetoothヘッドセットをオプションで用意しましたが、ワイヤレスのヘッドセットでIP電話やVideoチャットを楽しんでもらいたいという気持ちから標準搭載にしました。FeliCaに関しても、同様の考えから標準搭載を実現しています」

--- エンドユーザーに一番、評価して欲しいポイントはどこか?

「ソニーが考えるモバイルで重要な3要素は、
1. モバイル性(薄型・軽量・スタミナ)
2. デザイン性(持ち歩くことを意識し、持つ人のこだわりを表現するデザイン)
3. 使い勝手(キーボードの打ちやすさ、AVプレーヤーとして簡単に使える、等)
です。そのすべてを妥協せず、いずれも高いレベルで実現させている点を見て欲しいですね」

●このクオリティの維持と拡大を

 今回の記事を書くにあたって数日間ながらtype Tを使わせていただいた。改善点を中心に記事を進めたが、もちろん誰にとってもベストな製品というわけではない。

 たとえば11.1型1,366×768ピクセルの液晶パネルは、人によってはピクセルピッチが小さすぎると感じるだろう。バッテリ持続時間も、他にもっと長時間の製品もある。高速化されたとはいえ1.8インチHDDは、いまだに嫌いだというユーザーに本製品は向かない。

 本製品の長所は、あくまでもトータルバランス良さだ。これはソニーへの問い合わせ自身で作り手側も話しているが、使っていて困ることが極力ないようにと気遣いが込められているのが新型type Tである。これを地味と捉えるか、それとも道具として素晴らしいと捉えるかは人それぞれだ。

 しかし、製品のクオリティレベルが高いことは間違いない。願わくは同様のクオリティレベルを、すべてのモバイル機で実現してほしい。type Tがベストフィットのユーザーもいれば、type Sが良いというユーザーもいる。重要なことは継続的に高いレベルを維持することだ。

 このレベルの製品を連発できれば、かつては各メーカーの企画担当者に「モバイルPCはソニーが強すぎて利益確保が難しい……」と悩ませた時代に、また戻ることができるはずだ。

□関連記事
【9月1日】さらに薄く軽くなった2スピンドルノートPC「VAIO type T」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0901/hotrev270.htm
【8月30日】ソニー、21mm厚/1.25kgの新型「VAIO type T」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0830/sony1.htm

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(2005年9月13日)

[Text by 本田雅一]


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