2005年の今年、第3回目を迎えた「Imagine Cup」は、マイクロソフトが主催するイベントで、学生を対象とした技術コンテストである。2003年、第1回目がスペイン・バルセロナにおいてソフトウェアデザイン部門のみでスタート、翌年の第2回目は、部門を4部門に拡大し、ブラジル・サンパウロで開催された。 そして、第3回目の今年は、9部門に拡大され、7月27日から8月1日までの間、横浜で開催された。今回は、予選を通過した44カ国から220名の優秀な学生が集結、過去最大規模の開催になった。 ●9部門に分かれて学生が戦う Imagine Cupの今年のテーマは『テクノロジの力であらゆる境界をなくしていこう』というもので、参加資格は、14歳以上の学生であることのみだ。年齢の上限もない。マイクロソフトでは、このコンテストを『広範な技術的および芸術的な探究において優れた資質を発揮する学生を奨励することを目的として開催』するものと位置づけている。 ちなみに、コンテストは下記の9部門に分かれている。 ・アルゴリズム部門 また、下記の3部門に関しては特別に高校部門が設けられている。 ・ビジュアルゲーミング高校部門 ●日本の高校生が大奮闘 各部門ごとの詳細に関してはウェブサイトを参照していただくとして、参加者は要項にしたがい、前年11月から今年の3月までの間にエントリー、国内予選を通過した上で世界大会に臨む。
今年は、うれしいことに、世界大会でのビジュアルゲーミング高校部門で、日本の高校生が優勝を果たした。ビジュアルゲーミングといっても、Xboxなどのゲームをプレイする腕を競うものではない。今年の場合でいえば、こんなテーマが設定されていた。 「ホシミ教授はついに人類史上初となる研究開発を成功させた。人間の体内に注入することで、あらゆる病気を治すことができるメカニカル分子だ。ホシミ教授は学会でこの革新的な医療法の発表を行なった。しかし、他の教授やメディアはこの発見を馬鹿にし相手にしなかった。自ら正しいことを証明するために、ホシミ教授は故意にウィルスを自分の体内に注入……そして意識不明の昏睡状態に陥る。教授は自ら作成したこの分子に全てを託した。彼を救う方法はただ1つ。Nanobotsと呼ばれる非常に小さなロボット分子をホシミ教授の体内に侵入させ、異分子を排除するしかない。Nanobotsの動きは、全て君のプログラムによって制御される。ホシミ教授が助かるかどうかは、君の手にかかっている」 参加者は、配布されているSDK(ソフトウェア開発キット)を入手し、VBまたはC#を使って自分自身のNanobotsを開発して勝負に挑む。テクニカルドキュメントはすべて英語なので、日本人の高校生にとっては不利な条件であったにもかかわらず、この部門では灘高等学校の加藤新英君が優勝、一関工業高等専門学校の熊谷一生君が3位入賞と奮闘した。 優勝した加藤君に話を聞いたところ、SDKはそれなりによくできていて、特に難しいとは感じなかったという。予選を通り、6名での争いのステージに進んだところで、もしかしたら優勝できるかもしれないと思ったというから驚く。パシフィコ横浜で開催された世界大会での本戦は、24時間の制限時間の中で、自作Nanobotsを活動させて得点を競う過酷な戦いだ。残り時間もわずかに迫った時点での本戦会場をのぞかせてもらったが、ディスプレイの前にうつぶせになって眠りこける加藤君を目撃している。 このほか、日本からは、ソフトウェアデザイン部門にチームGEONOTEとして、大阪大学大学院の中山浩太郎さん、前川卓也さん、富安宏和さん、ローズ・ロバーツさんらが、Officeデザイナ部門として、チーム「The Quester」として海城高校の竹井悠人さんが出場しているが、残念ながら入賞には及ばなかった。 ●マイクロソフトの実践する学生支援
マイクロソフトは、この大会のために巨額の賞金を用意するのはもちろん、大会出場に関わる費用の一切を負担する。 予選、本戦大会への出場のための旅費宿泊費、大会期中の食事、もし、未成年で保護者の同伴が必要なら、そのための費用もマイクロソフトが負担する。また、大会で使用するコンピュータは、不公平を排除するために、持ち込みは許されず、会場に用意されたものをそのままの状態で使わなければならない。つまり、予選を通過した参加者は、いっさいの費用を負担することなく、勝負に専念することができるのだ。 日本が豊かな国であるとはいいたくはないが、世界にはまだまだ貧しい国もあるのは事実だ。そんな中からも、夢と向上心を兼ね備えていれば、対等な立場でコンテストに参加できるのだ。 優勝者の表彰式後、ソフトウェアデザイン部門で優勝を果たしたロシアの学生チーム「OmniMusic」のメンバーは、がんばれば夢は必ずかなう、だからがんばろうと、日本の学生に熱いメッセージを投げかけた。 マイクロソフトは、このコンテストとは別に、プログラミングを自己表現方法のひとつとして考える学生を支援するために、「the spoke」と呼ばれるコミュニティを用意している。参加は無料で、メンバーはブログや掲示板などを利用して互いに自分の技術を高めていく。今回の決戦に進んだメンバーの多くは、このコミュニティの主要メンバーでもある。 また、プログラミングには開発環境が必須だが、こちらは、「Microsoft Visual Studio .NET theSpoke Premium Version 2003」が学生限定特別価格4,830円で提供されている。この製品を通常価格で購入した場合、10万円を軽く上回る。アカデミックディスカウントの一種とはいえ、かなり思い切った価格設定だ。しかも、このパッケージには、何の制限もない。購入した学生が、それを使ってビジネスを起業してもいっこうにかまわないのだ。 このように、マイクロソフトが学生を熱心に支援するのは、ビル・ゲイツ会長の意志も強く反映されているという。彼もまた、高校生だったレイクサイド・スクール時代から、先輩のポール・アレンらとプログラミングに熱中し、ついにはシアトル市交通局からソフトウェアを受注するまでに至ったというエピソードもある。 彼らはプログラミングの成果として、金銭というよりも、コンピュータを自由に使う権利を報酬として受け取っていた。その高校生時代に、「8008」というチップに夢を見いだし未来を確信、ハーバード学生時代にマイクロソフトを起業し、夢を追いかけてここまでたどりついたのは有名な話だ。 彼らの逸話は数多く語り継がれているが、例外なく、プログラミングに熱中する彼らを優しく見守る親たちの姿が登場する。彼らが熱中できたのは、親たちの理解と、経済的、心理的な支援があってのことだ。 ゲイツ氏は学生たちに、その理解ある親のような立場で接したいのではないか。オリンピックでもそうだが、一生懸命がんばって栄冠を手にしたとき、人はものすごくいい顔をしていることに気がつく。この世界大会でもそうだった。ロシアの学生諸君はもちろん、優勝を果たした加藤くんも、本当にいい顔をしていた。そして、そのいい顔をした彼らが、明日の地球を担っていくのだ。ゲイツ氏は、そこに学生時代の自分を重ねているのではないだろうか。 Dream Comes True。夢は必ずかなう。来年のImagine Cupはインドのデリーで開催されることが決定した。夢をかなえる準備はお早めに。未来を作るのは、学生諸君、きみたちなのだから。 □マイクロソフトのホームページ
(2005年8月8日)
[Reported by 山田祥平]
【PC Watchホームページ】
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