AMDは8月1日、ローコスト路線のCPUを拡充する2つの新製品を発表した。1つはデュアルコアCPUであるAthlon 64 X2の最廉価モデルとなる「Athlon 64 X2 3800+」。もう1つは、バリューCPUブランドであるSempronの最上位モデル「Sempron 3400+」である。ここでは、この両製品の特徴やパフォーマンスを紹介していきたい。 ●4万円台で入手できる「Athlon 64 X2 3800+」 まずは、Athlon 64 X2のエントリー向けモデルである「Athlon 64 X2 3800+」について紹介したい。Athlon 64 X2が発表された際に最廉価モデルとして投入されたのが「Athlon 64 X2 4200+」だ。だが、この製品は発表当時の1,000個ロット時価格が59,070円(537ドル)。国内におけるリテール品の販売価格は65,000円を超えており、メインストリーム向け製品としては割高な感が否めない。 Athlon 64 X2 3800+は、そのような中投入される最廉価モデルだ。価格は1,000個ロット時40,710円(354ドル)となる。さらに、Athlon 64 X2 3800+のリリースと同時に,AMDは価格改定を行ない、Athlon 64 X2、Athlon 64各製品の価格を下げた。Socket 939対応CPUの価格面の魅力を上げる動きを見せているわけだ。
そのAthlon 64 X2 3800+のスペックは表1にまとめたとおりで、Athlon 64 X2 4200+のクロックを下げたモデルと見ればいい。ちなみにOPNは「ADA3800DAA5BV」(写真1)。Revision E4であるAthlon 64 X2 4200+のOPN「ADA4200DAA5BV」と同じ末尾になっており、そのことはCPU-Zの結果からも確認できる(画面1)。
ただ、CPU-Zでは「SH9-E4」という表記がなされているものの、AMDが提供しているRevision Guideを参照すると、Athlon 64 X2は「BH-E4」または「JH-E6」の2種類のみとなっている。CPU-Zの結果から得られるFamily-Model-Stepping欄の「F-B-1」の結果は、Revision GuideのBH-E4の値に合致しており、本製品のRevisionは「BH-E4」というのが正解だろう。 コアあたりのL2キャッシュが512KBとなるAthlon 64 X2 4600+/4200+/3800+は、CPU-Zでも表示されているとおり「Manchester」の開発コードネームで呼ばれるコアが使われている。対して、L2キャッシュを各コア1MBずつ搭載する製品は「Toledo」コアと呼ばれる。 この両者はL2キャッシュサイズの違いに伴い、トランジスタ数がそれぞれ1億5,400万個/2億3,320万個、ダイサイズが147平方mm/199平方mmと異なっている。ちなみに、Processor Reference Guideを参照すると、OPNの末尾が「CD」となるToledoコアを使用したAthlon 64 X2 4600+/4200+、もリリースされているようだが、秋葉原等で入手可能な製品はいずれも末尾が「BV」となるManchesterコアとなっているようだ。 ●AMD64への対応を進めるSempron 一方の「Sempron 3400+」であるが、本製品のスペック等を紹介する前に、まずはSempronシリーズのAMD64対応について触れる必要があるだろう。コンシューマ向けCPUでの64bit化が導入されたのはAthlon 64が初だが、バリュー向けCPUではIntelのCeleron Dが先鞭をきる格好となった。だが、7月8日付けでAMDも従来のSocket 754向けSempronの各製品に、AMD64対応版をラインナップすることを発表した。 今回使用するSempron 3400+もAMD64対応版だ。スペックを表2、CPUの表面を写真2に示したが、OPNが「SDA3400AIO3BX」となっている。AMD64に対応しない従来モデルの「Sempron 3300+」の写真も併せて掲載した(写真3)。末尾から3桁目の“2”と“3”の違いは、L2キャッシュ容量の違いを表し、2が128KB、3が256KBとなる。
製品選びにおいて注意したいのは末尾が“BO”か“BX”という点である。これは製品のRevisionを表しているが、残念ながらCPU-Z 1.29にはSempron 3400+のデータが登録されておらず、Revision欄は空欄となってしまった(画面2、3)。
CPU-Zで取得したFamily-Model-Stepping欄は、3400+が「F-C-2」、3300+が「F-C-0」となっている。これをもとに、Revision Guideを参照すると、前者がDH-E6、後者がDH-E3となる。3300+については、CPU-Zの結果とも合致する。つまり、OPNの末尾がBXの製品はRevision DH-E6、BOの製品はRevision DH-E3となる。 今回使用しているSempron 3300+はAMD64に対応していない。つまり、Revision DH-E6の製品がAMD64対応版であり、AMD64対応のSempronを求める場合は、末尾がBXの製品を探せばよいわけだ。例えば、Sempron 3300+には「SDA3300AIO2BX」という製品も存在しており、こちらがAMD64対応版ということになる。 ●各製品のベンチマーク環境 それでは、今回発表されたAthlon 64 X2 3800+とSempron 3400+のパフォーマンスを検証していきたい。環境は表3に示したとおりで、Socket 939、Socket 754でそれぞれ環境を用意し、各製品の比較対象を同一環境でテストする。
●CPU性能 では、まずはCPU性能の測定から行なっていきたい。最初のテストは、「Sandra 2005 SR2」の「CPU Arithmetic Benchmark」(グラフ1)と「CPU Multi-Media Benchmark」(グラフ2)だ。
SandraのCPU周りのテストは、デュアルコア環境においてスコアが跳ね上がる傾向があるため、Athlon 64 X2 3800+とAthlon 64 3800+の差が大きく開いた。ここでは、むしろSempron 3300+と3400+の性能差がゼロに近いことに留意しておくべきだろう。これは、両製品の差がL2キャッシュのみで動作クロックが同一であることに起因する。つまり、演算能力自体は、アーキテクチャ、クロックともに同一のために差がないわけだ。 続いて、もう少し実践的なCPUテストとして、「PCMark05」の「CPU Test」を実施したい(グラフ3、4)。本連載では初めて採用するPCMark05だが、CPUテストにおいては、前半にシングルタスクのテスト、後半に複数テストを同時実行するテストが実施される。後半のテストは「File Compression」、「File Encryption」の2つを同時実行するパターンと、「File Decompression」、「File Decryption」、「Audio Decompression」「Image Decompression」の4つを同時実行するパターンに分かれており、グラフもこうしたテストの流れを反映したものにしている。
まずグラフ3のシングルタスクテストの結果から見てみると、こちらはAthlon 64 3800+が優れた性能を出している。これは、クロックの高さ(2.4GHz)が効を奏した結果といえるだろう。一方で、Athlon 64 X2 3800+はSempron両製品と同一クロックであるが、こうしたシングルタスク/シングルスレッドのテストにおいては、デュアルコアであることのメリットはまったく見受けられない。L2キャッシュの容量差が若干見られるが、このテストにおいてはクロックの重要性が高いことが分かる。 一方、グラフ4に示したマルチタスクの結果は、Athlon 64 X2 3800+が飛び抜けて優秀な結果を見せている。複数アプリケーション同時実行におけるデュアルコアの優位性が示された格好といえる。 ●メモリ性能 続いてはメモリ性能を見てみよう。テストはSandra 2005 SR2の「Cache & Memory Benchmark」である。グラフ5に全結果、グラフ6に一部結果を抜粋した数値を掲載している。グラフ5を見ると、各製品のL2キャッシュ容量の違いがよく分かるだろう。
グラフ6に示した各容量は、4KBがL1データキャッシュ、128KBがL2キャッシュ、256MBがメインメモリの性能を示すことになる。L1/L2の各キャッシュ性能はアーキテクチャが同じであれば、クロックに比例した性能となり、ここではAthlon 64 3800+がクロック差だけ飛び抜けている。同じ2GHzとなるAthlon 64 X2 3800+とSempron両製品がほぼ同一のスコアとなるのも妥当であろう。 一方で、メインメモリへのアクセス性能について、まず、Athlon 64両製品とSempron両製品の間に大きな開きがあるのは、前者がデュアルチャネルメモリインターフェイスを実装するからであり、当然その分高速な結果となっている。 Athlon 64製品間では若干差が開いており、Athlon 64 X2 3800+のほうが遅めの結果になっている。これは、デュアルコアにより2つのコアのデータを処理するSystem Request Interfaceで余分なレイテンシが発生しているためだろう。 ●アプリケーション性能 次に、実際のアプリケーションを使用したテストを実施していきたい。テストは「SYSmark2004」(グラフ7)、「Winstone2004」(グラフ8)、「CineBench 2003」(グラフ9)、「TMPGEnc 3.0 XPress」(グラフ10)である。
まずAthlon 64 2製品について結果を見てみると、シングルコア製品とデュアルコア製品の性格の違いによって、結果がはっきりと分かれている。マルチスレッドアプリケーションまたはマルチタスク動作が多用されるSYSmark2004やTMPGEnc 3.0 XPressではAthlon 64 X2 3800+。逆にシングルスレッドアプリケーションやシングルスレッド動作がメインとなるWinstone2004やCineBench2003のシングルCPUレンダリングではAthlon 64 3800+が、それぞれ優秀な結果を示す。 これによく似た傾向は、Athlon 64 X2 4800+とAthlon 64 FX-57を比較したテストでも表れていた。Athlon 64 X2 3800+により、4万円台というセグメントでも、ニーズに応じた選択が可能な、製品バリエーションが揃ったといえるだろう。 一方のSempron両製品だが、こちらはL2キャッシュを増量した同一クロックの製品である。よって、3400+が3300+に対し、同等またはそれ以上の結果という妥当な結果に収まっている。 ●3D性能 最後に3D性能のテストだ。「Unreal Tournament 2003」(グラフ11)、「DOOM3」(グラフ12)、「3DMark05」(グラフ13)、「3DMark03」(グラフ14)、「AquaMark3」(グラフ15)、「FINAL FANTASY Official Benchmark 3」(グラフ16)の各テストを実施している。
ここでは、Athlon 64 3800+の性能の良さが目立つが、これはAthlon 64 FX-57のコンセプトと同様、3DゲームのAI処理がマルチスレッド化されていないために、コアの数よりもクロックの高さの方が性能に結びついた格好だ。 ただし、SempronについてはL2キャッシュの容量に加え、メモリ帯域幅の狭さもあり、Athlon 64勢とは大きな差が付いている。もっともバリューCPUの対象ユーザーを考慮すれば、この面で高い性能を求める必要もないだろう。 ●Socket 939プラットフォームの普及へ弾みがつくか 以上のとおり各製品について紹介してきたが、今回の発表はAMDにとって、かなり戦略的な行動であると見るべきだ。同日に価格改定を行なったことや、従来よりも下のクロックの製品に対してプレスリリースを発行したことからも、そうした方向性が伺える。 まず、Sempron 3400+については、このタイミングの発表により、バリュー向けCPUにもAMD64対応製品を投入することを、改めて周知させることができる。 一方のAthlon 64 X2 3800+は、冒頭でも少し触れたとおり、価格改定と併せた一連の低価格化の動きにより、Athlon 64 X2の割高感を一気に解消しようと考えているのだろう。 CPUの絶対的パフォーマンス面では、Athlon 64 X2 4800+、Athlon 64 FX-57がすでに高い評価を得ている。今回、それに加えて、コスト面の魅力を上げてきたことになる。これにより、Socket 939プラットフォームのシェア拡大が加速するか、注目していきたい。 □関連記事 (2005年8月2日) [Text by 多和田新也]
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