現在、自作市場ではデュアルコアCPUが話題を集めている。AMDのAthlon 64 X2が当初案内されていたよりも早く秋葉原に姿を見せ、ユーザーの耳目をひいたのは、つい1週間ほど前のことである。 そして6月27日、AMDからシングルコアの新製品となる「Athlon 64 FX-57」がリリースされた。同社では以前から、当面はゲーマー向けにシングルコア製品を継続投入することを明言していた。今回は、特にゲーム用途においてデュアルコア以上の性能を発揮できるのかどうかについて検証したい。 ●90nm SOIプロセスのSanDiegoコアを採用 今回発表された「Athlon 64 FX-57」(以下FX-57)の主な仕様と、従来の「Athlon 64 FX-55」(以下FX-55)などとの比較は表1にまとめたとおりだ。その一番の違いは動作クロックで、FX-55の2.6GHzから2.8GHzへ高速化された。
クロックは引き上げられたものの、動作電圧やT.Case、TDPの要求は同等以下となっているのも大きな特徴である、これは、従来のFX-55が130nm SOIプロセスで製造されていたのに対し、FX-57は90nm SOIプロセスのSanDiegoコアを採用していることの効果だ。 ちなみに、90nm SOIプロセスは、すでにAthlon 64 X2やAthlon 64のRevision.D/Eシリーズのコアで採用されており、歩留まりの向上によって2.8GHz動作品が供給されるようになったのだろう。 これまでのAthlon 64 FXシリーズは、最高性能の製品を提供する、という同社のポリシーから、新製品が登場した段階で従来製品は終息するルールが取られてきた。しかしながら、FX-55は今後も引き続き販売されるという。ということは、これまでのAthlon 64の流れからいえば、90nm SOI版のFX-55が登場する可能性も十分に考えられる。 価格は、1,000個ロット時で1,031ドル(113,410円)。FX-55は価格改定されず、827ドル(90,970円)に据え置かれる。 さて、実際の製品だが、Socket 939パッケージで提供される(写真1)。OPNは「ADAFX57DAA5BN」となる。一部はデータシートに記載のない文字が使われているが、従来のルールを適用すれば、順に ADA:ブランド名(デスクトップ向けAthlon 64) という意味を持つことになる。
Revision欄を“?”としているのは、現時点で情報がないためだ。CPU-Z 1.29を使って情報を取得してみると、Revision欄は「SH7-B3」と表示される(画面1)。これは初期のOpteronで利用されていたRevisionと同じである(Revision Guide for AMD Opteron Processors(PDF)の6ページ参照)。 そのため、この結果はCPU-Zのデータベースの誤りか、情報が登録されていないための誤認識と見たほうが良い。おそらく、SanDiegoコアのAthlon 64シリーズと同じく、Revision.Enになると推測されるが、詳しくは発表後に公開されるであろうデータシートを待ちたい。 ●ベンチマーク環境 それでは、FX-57の性能を見るためにベンチマーク結果を見ていきたい。テスト環境は表2に示したとおり。なお、FX-57とAthlon 64 X2 4800+(以下X2 4800+)は、同じマザーボードを使用しているが、前者はASUSTeKのWebサイトで提供されているBIOS Revision.1011、後者はこちらの記事でも紹介した“MCT2/dualcore”が適用されている。 また、メーカーから借用した機材の都合により、Athlon 64の3製品間でも環境が異なる部分が多いのだが、結果に影響したと思われる部分は随時本文で言及していきたい。
●CPU性能 まずはCPUの演算性能を測定する、「Sandra 2005 SR1」の「CPU Arithmetic Benchmark」(グラフ1)と「CPU Multi-Media Benchmark」(グラフ2)の結果を見ていきたい。ここでは、FX-55との性能差を見てみたいが、FX-57はFX-55に対して、動作クロックで約1.077倍となるが、DhrystoneやWhetstoneといったシンプルな演算テストの場合は、1.09倍前後の性能向上を見せている。環境の違いがあるので誤差を大きめに見る必要もあり、ほぼ理論どおりの性能向上といって差し支えない。 しかしながら、グラフではiSSE2と表記した拡張命令を使った場合の演算性能を見てみると、こちらは1.03~1.04倍程度の性能向上に留まっている。こうした傾向の違いが表れた原因としては、FX-57がSSE3に対応したためだろう。SSE3命令を使った場合、性能が伸び悩むようだ。 やや話は本題から逸れるが、Athlon 64 X2 4800+でも拡張命令を使った場合のテスト結果で、Pentium Extreme Edition 840と比較した場合に伸び悩みが見られていた。Sandraの最適化が進めば傾向は変わるかも知れないし、AMDのSSE3の実装にも一工夫の余地があるのかも知れない。
続いては、「PCMark04」の「CPU Test」の結果を見ていきたい(グラフ3、4)。こちらもグラフ3に示したマルチタスクテスト、グラフ4に示したシングルタスクテストのいずれもFX-57が順調な性能向上を見せている。グラフ4のテスト中、シングルスレッドアプリケーションとなるテストにおいては、クロックで勝るFX-57がAthlon 64 X2以上の性能を見せているのも順当な結果だ。 DivXのみはFX-57がFX-55に劣るという結果が出ているが、これはテスト環境に依存したものだと思われる。可能性として高いのは、メモリのレイテンシの違いだと思われるが、プラットフォームの選択によっては、FX-55との性能差が逆転してしまう可能性もあることを示している。
●メモリ性能 次にメモリ性能を測定する、「Sandra 2005 SR1」の「Cache & Memory Benchmark」の結果を見てみよう。グラフ5に全結果、グラフ6に一部結果の抜粋を示している。 まずグラフ5を簡単に眺めてみたいが、FX-57とFX-55のキャッシュメモリ性能は動作クロック差の分、FX-57が高速となる。グラフ5では、128~512KBのテストにおいて差が詰まっている部分が見られるものの、全般にFX-57のほうが高速であることは確認できる。 ただ、グラフ6の4KB/1MBの詳細な数字を見てみると、その差はおよそ1.03~1.04倍程度に留まっており、クロック差ほどの性能差が出ていないことが分かる。これは登場したてのCPUではよくある結果で、今後BIOSのチューンナップが進めば、グラフ5で見られた128~512KBの性能差の小ささも含めて、徐々に改善されていくことだろう。 一方、実メモリのテストとなる256MBの転送はFX-55のほうが高速となっているが、これは使用しているメモリの種類の問題で、CPUの違いが原因でないのは確かだ。
●アプリケーション性能 続いては、実際のアプリケーションを使用したベンチマークの結果を見ていきたい。「SYSmark2004」(グラフ7~9)、「Winstone2004」(グラフ10)、「CineBench 2003」(グラフ11)、「TMPGEnc 3.0 XPress」(グラフ12)の結果を提示する。 結果を大別すると、マルチタスク/マルチスレッド動作となるSYSmark2004やTMPGEnc 3.0 XPressではデュアルコアのAthlon 64 X2に分があり、そのほかのテストではAthlon 64 FX-57に分がある結果となった。こうした傾向はPentium勢にも出ているが、クロック差がそれほどでもないためか、きっちりと傾向に違いが出たのが特徴的である。 その意味では、Pentium勢はマルチタスク/スレッドを多用する場合でもクロックの高いPentium 4シリーズに分がある場合があり、選択に頭を悩ませるところだが、Athlon 64勢は多用するアプリケーションに応じてCPUを選択しやすいということが言えそうだ。
●3D性能 最後に3D性能のテスト結果である。「Unreal Tournament 2003」(グラフ13)、「DOOM3」(グラフ14)、「3DMark05」(グラフ15)、「3DMark03」(グラフ16)、「AquaMark3」(グラフ17)、「FINAL FANTASY Official Benchmark 3」(グラフ18)を提示している。 Athlon 64 X2 4800+を取り上げたときFX-55以上の性能を見せており、クロックを上昇させたシングルコア製品がAthlon 64 X2 4800+以上の結果を見せるかが注目となる。 結果を見ると、AMDの方針が間違っていなかったことを証明している。つまり、Athlon 64 X2 4800+以上の性能を確認できた。また、Pentium 4に対しても、総じて高い結果となった。特にUnreal Tournament 2003やFinalFantasy Official Benchmarkのように、CPU性能に依存しがちなテストにおいて良好な結果を見せており、AI処理が多用される実際のゲームにおいて、その効果を存分に享受できそうである。
●用途が明確に分けられたAthlon 64シリーズ このとおり結果を見てくると、Athlon 64 FX-57とAthlon 64 X2 4800+の性能には明確な傾向差が見て取れる。つまり、マルチタスク動作をさせることが多いビジネス用途アプリケーションやマルチスレッド対応アプリケーションを使うならAthlon 64 X2。3Dゲームのようにマルチスレッド化が進んでおらず、かつ単一動作させることが多いアプリケーションをメインに使うならばAthlon 64 FX-57という傾向だ。 また、FX-57は10万円を超える高価なCPUであり、従来のルールに則さずFX-55も並行販売されることは好ましい方針である。さらにいえば、Pentiumシリーズほどの製品ラインナップを持たないAthlon 64勢ではあるものの、安価な製品からハイエンドクラスまで出揃ったCPUは、それぞれ明確な対象をもっており、選択のしやすさという点も含めてSocket 939プラットフォームの魅力が高まっている印象である。 □関連記事 (2005年6月27日) [Text by 多和田新也]
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