Entertainment PC(以下ePC)は、DVD/HDDレコーダのような外観を持つPCのことで、DVD/HDDレコーダのようにテレビ近くのAVラックなどに入れて利用することを前提としたPCとなっている。 ePCの構想自体は、2004年1月に開催されたInternational CESの基調講演において、Intelのポール・オッテリーニ社長兼COO(当時)が明らかにしていたが、これまで大手OEMベンダから液晶ディスプレイとのセットで発売された例はあったものの、自作市場向け製品はほとんどなかった。 そんな中、FICが開発したePCである「SPECTRA」が、日本国内でもベアボーンキットとして発売された。今回は、このSPECTRAを使ってみてわかったことなどをお届けしていきたい。 ●外箱には“FOR MICROSOFT MCE ONLY”とわざわざシールが…… 筆者はSPECTRA(以下本製品)を秋葉原のPCショップであるFaithで購入した。価格は59,800円で、ベアボーンシステムとしては決して安価というわけではないが、大体1万円程度のTVチューナカードが導入済みであることを考えると、実質的には49,800円程度と考えることができるだろう。ハイエンドのベアボーンシステムが39,800円ぐらいだから、それでもやや高めだが、ePCのベアボーンとしては初めての製品でもあり、致し方ないというところだろうか。 購入して持ち帰ると、最初に気付いたのは、外箱に“FOR SATA HDD ONLY”、“FOR MICROSOFT MCE ONLY”というシールがわざわざ貼ってあったことだ。後述するが、本製品はWindows XP Media Center Edition(以下Windows XP MCE)やSerial ATAのHDDしか利用できないという制限があるのだが、それをわざわざ外箱に注意書きとして書いておく必要があるのか、筆者にはよくわからない(苦笑)。 箱を開けてみると、中には2つの箱が入っている。白い方の箱はワイヤレスキーボードが入っており、茶色の箱はマニュアルとCD、リモコンなどが入っていた。その2つの箱をどかすと、ようやく本体を拝むことが可能になっている。また、本体の横には青い箱があり、それはCPUクーラーが格納されていた。 本体を取り出してみると、前面パネルには傷が付かないようにシールで保護されていた。梱包は割ときちんとされていて、それなりの値段がする製品としては妥当なところではないだろうか。
●主な付属品はワイヤレスキーボード、リモコン、マニュアル、CD 付属品方をチェックしてみると、ワイヤレスキーボード(ポインティングデバイス内蔵)、リモコン、マニュアルが2冊(ベアボーンのマニュアルとマザーボードのマニュアル)、CD2枚(マザーボード用とベアボーン用がそれぞれ1枚ずつ)というものだった。 キーボードは、赤外線のワイヤレスキーボードで、3本の単三電池というやや中途半端な数で動くようになっている(一般的に単三電池って4本セットで1パッケージになっているので、3本というのは常に1本余ってしまうので、微妙だ……)。いわゆるマルチメディアキーボードというやつで、キーボード上には再生や早送りなどのボタンのほか、トラックボールが用意されており、これで操作するということのようだ。 付属のリモコンはWindows XP MCE用のもので、おなじみのグリーンボタンが付いたものとなっている。秋葉原で見かけるMicrosoft純正やSMKのものとはややデザインが異なり、ボタンの配置などが若干ことなっている。MicrosoftやSMKのリモコンが日本語表示なのに対し、本製品のリモコンは英語のみとなっている点が大きな違いといえる。 マザーボード、ベアボーンのマニュアルともに、英語版で、日本語のマニュアルなどは用意されていない。ただ、いずれも簡単な英語で、英語があまり得意でない人でも辞書を引きながらで、十分理解できるだろう。むろん、日本語マニュアルがあればさらにベターだったのは言うまでもないが。 日本語の注意書きとしてA4用紙1枚の注意書きが入っている。これはWindows XP MCEインストール時の注意と、後述するVFDパネル用ソフトウェアのインストール方法などについて解説がされている。
●充実した入出力ポート 本体のサイズは390×430×86mm(幅×奥行き×高さ)となっている。横と高さに関しては、DVD/HDDレコーダの大きさとほぼ同じで、実際筆者宅のAVラックに入れてみると、横と高さに関しては他の機器と遜色なかった。 ただし、430mmという奥行は、AVラックによってはかなりぎりぎりではないだろうか。筆者宅の機器と比較してみると、東芝のHDDレコーダ「RD-H1」が336mm、ヤマハのAVアンプ「DSP-AX1500」が433.5mmとなっており、大柄なAVアンプとほぼ同じ奥行となっている。従って、AVラックに入れて使いたいというのであれば、430mmの奥行+ケーブルのコネクタ分のスペースがあるかどうかを確認した方がよい。 本製品には、前面と背面にコネクタ類が用意されている。AV機器的な使い方をするのだかから、どんなポート類が用意されているのか気になるところ。 背面には、S/PDIFの出力(角形と丸形、排他利用)、ライン出力/入力、IEEE 1394(6ピン)、MCEリモコンの外部機器制御のIRケーブル出力(2ポート)、PS/2(キーボード、マウス)、シリアル、パラレル、アナログRGB出力、USB 2.0×4、Ethernet、オーディオ入出力(7.1チャネルアナログ出力可能)が用意されている。 前面には、IEEE 1394(4ピン)、USB 2.0×2、S/PDIF入力、マイク入力、ラインアウトの各端子が用意されているほか、コンパクトフラッシュ、スマートメディア、SD/MMC、メモリスティックを読み書き可能なカードリーダーが内蔵されている。 AV用途に利用するPCとしては必要十分なポートなどが実装されていると言っていいだろう。
●マザーボードはFICのP4M-915GD1が採用されている、が…… それでは、早速ケースを開けてみよう。ケースの蓋は背面のネジ3本で留まっており、比較的簡単にはずすことができる。開けると、マザーボードが確認できるが、モデル名はFICの「P4M-915GD1」となっていた。フォームファクタは標準的なmicroATXとなっている。 P4M-915GD1は、チップセットにIntel 915Gが採用されており、PCI Expressに対応したマザーボード。ただし、PCI Expressのスロットはビデオ用に用意されているx16のみで、x1のスロットは用意されていない。FICでは「P4M-915GD2」というモデルも用意しており、そちらではPCI Express x1が1スロット用意されているようだ。 なお、オプションでICH6Rも選択できるようだが、本製品に搭載されていたP4M-915GD1は、RAIDには対応していないICH6が選択されているようだ。スペックには、RealtekのGigabit Ethernetコントローラがオンボード搭載されているとなっているのだが、実際の製品には100BASE-TX対応のコントローラが搭載されており、Gigabit Ethernetには対応していなかった。 FICのWebサイトを見る限り、対応するプロセッサは533/800MHzシステムバスのPentium 4としか書いていないのだが、マニュアルにはPrescottの2.8/3/3.2/3.4/3.6GHzに対応とのみかかれており、Prescott 2M、つまりPentium 4 6xxシリーズへの対応についてはどこにも書いていなかった。 そこで、筆者の手元にあったPentium 4 680(3.8GHz)を試してみたが、やはり動作しなかった。これは、試用したPrescott 2Mが3.8GHzという最新のモデルであるためなのかもしれないが、起動すらしなかった。3.6GHz以下のグレードであれば動く可能性もあるが、マニュアルにはPrescott 2Mが動くとはどこにも書いていないので、このあたりはユーザーのリスクで、ということになってしまうので注意したい。 なお、BIOSが古いからか、とも思い、FICのWebサイトをチェックしてみたのだが、P4M-915GD1のBIOSアップデートは公開されていなかった。P4M-915GD1が去年のチップセットであるIntel 915Gベースのマザーボードであることを考えると、1年もBIOSアップデートが公開されていないのは、“FICやるなぁ”という感想を持たざるを得ない。もう少し高い頻度でBIOSアップデートを公開して欲しいものだ。 そんなわけで、EIST(拡張版SpeedStepテクノロジ)が利用できるPentium 4 6xxを使いたかったのだが、それは諦めて、Pentium 4 530(3GHz)を利用することにした。
●ロープロファイルのPCI Express x16が利用可能 すでに述べたように、P4M-915GD1はPCI Express x16のスロットを1つ備えているため、PCI Express x16対応ビデオカードが利用できる。ただ、本製品は、ケースの高さの関係で、利用できるのはロープロファイルのみ。フルサイズのビデオカードは利用できない。 P4M-915GD1は、GPU内蔵のIntel 915Gを採用しているため、特にビデオカードを挿さなくても利用できるのだが、内蔵GPUとATIやNVIDIAのGPUの場合、ビデオ再生の品質にかなりの違いがあるので、購入前からビデオカードは絶対必要だと考えていたため、本体を購入するのと同時にロープロファイルのビデオカードを購入することにした。 候補はいくつかあったのだが、結局以下の2つに絞った。 ・AOpen Aeolus PCX6600-DV128LP 前者はパッケージ製品で、後者はバルク品となる。どちらもLow ProfileながらGeForce 6600を搭載。特に前者はファンレスのため、静音性も重視されるePC向けかなと思ったのだが、ビデオカードの裏側にもヒートシンクがあり、これがP4M-915GD1のチップセットのヒートシンクと干渉してしまうことがわかった。ちょうど、あるお店でENUC6600/D/128MB/LPが8,900円と格安で販売されていることもわかったので、結局これを選択した。 いろいろ調べてわかったことは、ロープロファイルのビデオカードは選択肢が少ない、ということだ。GPUの性能がとにかく重視されるハイエンドゲーマーには、あまり向いていないマシンだろう。 ●標準で採用されているTVチューナはWinTV-PVR 250 MCE すでに述べたように、本製品では標準状態で、TVチューナカードがPCIスロットに導入されている。P4M-915GD1の3つめのスロットは、PCIのライザーカードが取付されており、ライザー上には、2つのPCIスロットが用意されており、そのうちの1つにTVチューナカードが取り付けられている。 付属していたTVチューナカードは、Hauppauge製のWinTV-PVRのMCE版と思われるTVチューナカードだ。HauppaugeのTVチューナカードである、WinTV-PVRのMCE版には、WinTV-PVR 150、250の2つのシングルチューナモデルと、WinTV-PVR 500というデュアルチューナモデルがある。本製品にバンドルされていたのはシングルチューナのカードで、WinTV-PVR 250 MCEに相当するバージョンとなる。というのも、150と250の違いは、FMチューナの有無になっており、本製品に採用されていたのはFMチューナありバージョンとなっているからだ。 ただ、今回筆者は自分のPCを組み上げるにあたり、最初から入っていたTVチューナカードは結局使っていない。なぜなら、すでにノバックの「Dual TV-2」というデュアルチューナのカードを持っており、これをWindows XP MCE用として利用していたからだ。 Dual TV2は、WinTV-PVR 250 MCEが対応していない3D Y/C分離や3Dノイズリダクションなどの機能を搭載しており、画質の点でも期待できそうということもあったほか、デュアルチューナ構成(Windows XP MCEは標準で2つまでのチューナをサポートする)用に、PCIスロットをもう1つ消費するのがもったいない、ということもあった。
●インストール時にはやや問題点があったが、回避可能
そんなこんなで、組み上げて実際にWindows XP MCEをインストールしたのだが、インストールにはやや注意が必要だった。今回新しいHDDを購入して利用したのだが、最初のインストール時にUSBが有効になっていると、USBで接続されているカードリーダ(CFやSDなど)がC:ドライブになってしまい、OSをインストールすべきHDDがH:ドライブになってしまうという問題が発生した。 この問題は、OSをインストールする前にBIOSセットアッププログラムでUSBをオフにすることで回避できたのだが、そのことに気がつかずにインストールを勧めると、HDDがH:ドライブなどになり、アプリケーションによっては正しく動作しないということが起きる可能性がでてきてしまうので注意したい(実際、ATIのGPUドライバは、この状態だとインストールできなかった)。 OSをインストールした後、本製品の特徴の1つでもある「VFDパネル」と呼ばれる、前面の液晶パネル用のソフトウェアをインストールする必要がある。これは、Windows XP MCEを利用しているときに動作状況を表示するほか、Windows XP MCEのシェルである“メディアセンター”が起動していない時には、ユーザーが自由に設定した7文字の文字列(アルファベットのみ)を表示するためのソフトウェアだ。 インストールは難しいことはなく、インストールの最後に表示する文字列(標準では“SPECTRA”になっている)をユーザーが設定する程度だ。ちなみに、筆者は“WELCOME”と表示させている。 ●細かな問題はあるがおおむね満足できる仕上がり 購入してから3週間ばかり筆者宅のリビングで使っているが、今のところ強制リブートがかかったりということもなく、何の問題もなく使えている。 CPUにPentium 4を採用しているということで、静音性には問題があるかもと思っていたのだが、CPUクーラーがファンレスで、電源のファンを利用して冷やすという構造のためか、思いのほか静かだ。 具体的には実際に騒音計を利用してはかってみると、38dBだった。これが静かか、うるさいかは意見がわかれるところだと思うが、ちなみに、それ以前にリビングで利用していたPentium Mベースのマシンは42dBだったことを考えると、筆者的には満足している。Pentium 4ベースの本製品の方が騒音が低い理由は、Pentium Mベースのマシンの電源のファンがうるさいためで、やはり電源の選択は大事だと再認識させられた。 ただ、細かなところではいくつかの問題を発見している。1つは、VFDパネルの表示品質の問題だ。VFDパネルにはHDDのステータスを示すアイコンがあるのだが、それが点灯したままで、HDDにアクセスしたときにアイコンが消えるという、本来とは逆の動作をしている。HDD LEDのピン配列が間違っているのかと、ピンを逆に差し替えてみたりなどしてみたのだが、それでも消えないようだ。とりあえず実害がないので困っていないが、なんだか気持ちが悪い。 もう1つ、Windows XP MCE利用時のVFDの表示もなんだか変だ。これは仕様のようなのだが、Windows XP MCEで、録画したテレビ番組を再生する場合、VFDに録画した番組名などが表示される。しかし、VFDは日本語表示ができず、アルファベットしか表示できないため、日本語で記録されている番組名を正しく表示できないのだ。これは、音楽を再生するときにも同じことが言える。 そうした意味では、VFDパネルはあまり役に立ってない、というのが正直な感想だ。個人的には、番組名を表示するほかに、時間や日付を表示するといったオプションがあってもいいのではないかと感じている。こうした点は、今後ソフトウェアのアップデートで対応できるだけに、期待したいところだ(もっとも、VFDのソフトウェアは元々日本語などは未サポートなので、文句もいえないところなのだが……)。
●ePCにすることで、違和感がなくなったリビング
本製品を導入してよかったことは、なんといってもPCっぽく見えないことだ。以前、筆者宅のリビングには、タワー型のケースを置いていたのだが、見た目でPCとわかることもあり、来客があると、すぐに「なんでPCがリビングにあるんですか?」という質問に答えないといけないハメになっていた。 ところが、本製品を導入して以降、AVラックを見てもお客さんからそういう指摘をされることはなくなった。みなHDDレコーダかなにか、と勘違いしているようで、PCのケースがドーンと置いてあるということからくる違和感がなくなったようだ。逆に、「これはPCですよ」と指摘するまで、PCとは気がついてくれない人も多いほどだ。 筆者が思うに、ePCのメリットは、こうした“違和感の減少”にあるのではないだろうか。すでに筆者がこの連載で訴えてきたように、リビングにPCを置くメリットは多数ある。本誌の読者ならすでにおわかりのように、どんなコーデックにも対応できる点、HDDレコーダとしてだけでなく、音楽や静止画などを表示できる点、HDDの容量を簡単に増やすことができる点など、実にさまざまなメリットがある。 しかし、リビングに従来のPCを置くと、リビングの雰囲気と合わないことから、家族から反対されたりするケースも多かったはずだ。しかし、ePCではそうした問題が解決される。この点が最大のメリットと言えるかもしれない。 本製品の評価としては、VFD周りに若干の問題は残るものの、安定して動作し、かつ騒音もPentium 4を搭載したPCとしてはそれなりに静かだ。ちなみに、筆者は初代PlayStation 2を利用しているが、動作時にはそっちの方がうるさいぐらいだ。 問題はやはり価格だろう。TVチューナ込みとはいえ、59,800円という価格はやはりちょっと高いという印象を持たざるを得ない。できれば、49,800円あたりに設定してくれれば、もう少しお買い得感がでると思う。そうした意味では、TVチューナカードを外した廉価版モデルの登場に期待したいところだ。 (2005年7月15日) [Reported by 笠原一輝]
【PC Watchホームページ】
|
|