「20周年にふさわしい製品を作れ。月並みな製品では絶対にだめだ」。商品企画の開始に際して、株式会社東芝PC&ネットワーク社PC商品企画部第一担当、濱田宗信氏らが念を押された点である。dynabook SS SXの開発は、そこから始まった。
「今回は、完全な第二世代の筐体になりました。ユーザーの方からみて、いちばん大きく変わった、目に見える違いは、裏にひっくり返してもらうとわかるのですが、かなり大きなバッテリを搭載している点です。容量的には従来の倍になっています。基板を小さくできたからこそ、これだけのバッテリを搭載できたのですが、それによって、駆動時間は大幅に伸ばすことができました」(濱田氏) 設計側からすると、チャレンジングな要素もふまえてバッテリでの運用時間は5時間程度をターゲットにして始めたそうだが、それが実現できたのは、前機種に比べて72%までに小さくなった基板が大きく貢献している。 「レイアウトを決めるときに、バッテリの位置が決まらないと設計が進まないんですね。つまり、5時間を持たせるバッテリをどう配置するかで全体のスペックが決まります。丸セルのバッテリを使うと効率的であることはわかっているんですが、それでは本体が分厚くなってしまいます。前機種と比べて厚みも増やしてはいけないというミッションもありましたし。とにかく厚み、サイズ、重量は据え置きで、5時間持たなければなりません。それが必須条件でした」 バッテリのロードマップは東芝内部で決めるわけではない。ベンダーの都合にしたがわなければならない面もあり、そのしわ寄せは設計側に押しつけられることになってしまう。 結局、最終的な重量は1.29kgと、前機種よりも200g増えてしまった。ただ、厚みは変わっていない。 【お詫びと訂正】初出時、濱田氏のお名前を誤って掲載しておりました。お詫びとともに訂正させていただきます。
●薄型化がもたらすもの 「サポートしているポート類も減らしたくなかったです。とにかく、以前の機種に対して何も犠牲にしないことが大前提です。ただ、今回は、マイク端子を省略し、その代わりにハードウェアボリュームを装備しました。これはリクエストも多かったんです。音を出してはいけない場所で起動しなくてはならないような場合、より簡単にボリュームを下げることができるようにしました。その関係でマイク端子は落ちましたが、減点を補って余りあるという判断です」 【お詫びと訂正】初出時、「マイクを省略した」と記述しておりましたが、「マイク端子を省略」の誤りでした。お詫びとともに訂正させていただきます。 東芝はワールドワイドでノートパソコンを提供するメーカーのひとつだ。それゆえにさまざまな国からマーケティング経由でフィードバックが入ってくる。 濱田氏らは、薄型軽量化は、ユーセージの拡大を実現すると信じている。つまり、パソコンが薄く軽くなることで、今まで導入に踏み切れなかった分野でも使われるようになると目論んでいるわけだ。特にdynabook SS SXのような12型1スピンドル機は従来から、市場の伸びとしては決してよくないことはわかっていても、今、限られた範囲の中で、そういうニーズを取り込みたいというのが東芝の戦略だ。
「メモリはどうしても、空きスロットをひとつ確保しなければなりませんから、オンボードで実装できたのはスペースの関係で256MBが限界でした。また、今回はCentrinoじゃありません。なぜならIntelの無線LANユニットの厚みを吸収するのが難しかったからです」 そのくらいdynabook SS SXの厚みは限界に近づいている。もちろん設計側は、底面の一部をちょっとだけふくらませられないかといったことを、いろいろ言ってくるわけだ。もちろん、企画側の濱田氏は、だめ出しをする。こうしたやりとりを繰り返し、19.8mm前後を行ったり来たりしながらせめぎあい、解を出していく。 「今の時点で、本体の厚みは一般的な雑誌よりも薄くなっています。個人的にはこれ以上薄くなってもあまりメリットはないように感じています。というか、このくらいがちょうどいいんじゃないでしょうかね。今後は、この薄さをキープしつつ、もっとバッテリが持つようにするとか、さらに軽量化にチャレンジするとか、さらに丈夫にするといった方向性を考える段階ですね。むしろ、これらの要素の方が重要になってくるんじゃないかと考えています」 なぜ、ここまでの努力をして、最新のプラットフォームに対応しなければならないのかを聞いてみた。そこには、やはり、ユーザー企業の事情があるらしい。なにしろ、企業ユースのパソコンは、少なくとも3年以上使われることになる。つまり、企業が使うプラットフォームはずっと供給し続けるために、長持ちしなければならないのだ。それゆえに、技術者は苦しみ、商品企画者は悩む。 □関連記事
(2005年5月12日)
[Reported by 山田祥平]
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