山田祥平のRe:config.sys【特別編】

松下電器「Let'snote」シリーズ開発者インタビュー




12時間駆動を実現した「Let'snote T4」

 モバイルパソコンが実際に持ち運ばれることを考える場合、パソコンは壊れやすいものだということが前提になれば、そのとたんに、持ち運びの気軽さはスポイルされてしまう。貴重品ではあっても、壊れ物、割れ物であってほしくはない。それが持ち運ばれるパソコンの目指すべき1つの方向性だ。

 松下電器はLet's Noteの2005年夏モデルの開発にあたり、堅牢であることに1つのテーマを設定した。松下電器産業株式会社パナソニックAVCネットワークス社ITプロダクツ事業部テクノロジーセンター ハード設計第二チーム主席技師 古川 治氏に話を聞いてきた。


●100kgの圧力に耐えるモバイルノートを

パナソニックAVCネットワークス社ITプロダクツ事業部テクノロジーセンター ハード設計第二チーム主席技師 古川 治氏

 「とにかく耐100kg級ボディが必要だと考えました。修理に戻ってきた製品を調べていると、液晶が割れてしまっているものが少なからずあることに気がついたからです。追調査をしてみると、落として割ったという場合もあるんですが、どうも、カバンの中に入れておいたらいつのまにか割れていた、というケースがあるんですね」

 古川氏らは、カバンの中に入れて持ち歩くだけで液晶が割れてしまうという現実を数値化するために、実際に満員電車に乗車して測定してみることにした。彼らにとって、軽量とバッテリ運用の長時間化はすでに当たり前のことであり、さらにそれらの進化に加えた付加価値が必要だったのだ。

 「日本でいちばん満員になる電車は、どうやら東急・田園都市線らしいということがわかりました。そこで、開発メンバーが、大阪から出張し、カバンの中にパソコンを入れて測定してみました。本体の表裏にセンサーやシートを貼り付けて荷重などを調べるんです。人間そのものにも同様のセンサーを取り付けました。

 その結果、ウィークデーの朝のラッシュアワーでは、最大100kg重程度がかかっていることがわかりました。点ではなく面です。1日に2時間程度のデータをとって、最大がそのくらいでした。そのモデル化のために、試験器を作りました。重りを乗せて13分間、1Gの圧力をかける仕掛けです」

 古川氏らの試験では他社製のパソコンでは液晶割れが発生したという。JIS規定を元に、それよりもさらに厳しい実用的な値でテストを繰り返し、なんとかそれをクリアしようとしたのだ。

 「いろいろな点で工夫をしています。耐衝撃HDDではダンパーの材料を吟味しました。軽量化のために、シャーシのあちこちに坑をあけていますが、それによってたわみなどが発生しないように、リブの入れ方を、従来からさらに工夫しています。基板の厚みは今まで0.9mmだったのですが、今回は0.85mmです。それで数グラム軽量化していますね。また、W4の光ディスクドライブのユニットは59.5gです。こちらはどうしようもなかったんですが、やはり、基板の厚みを削って以前のものよりも39.5g軽量化しました。あちこちの数グラム減量の積み重ねですね。一気に軽量化しようとしてもできるはずがありません」

Let'snote T4のパームレストとボトムケース。従来モデルよりもさらに薄肉化された ケースの裏側
Let'snote W4のパームレストとボトムケース ケースの裏側
HDDの緩衝材も従来から変更された W2に搭載されていた光学ドライブ(右)との比較。重量は大幅に軽減された

●Alvisoを搭載しながらファンレスを維持

 Let's Noteの特徴はファンレスにこだわっている点にもある。だが、今回こそは、チップセットのAlvisoの発熱が大きすぎて挫折しかかったともいう。だが、従来から効果を上げていた放熱のためのグラファイトシートをチップセットにまで拡大、シートの面積を大きくすることでなんとかしてしまった。

Let'snote W4の基板。Alvisoを採用しつつ、グラファイトシートの面積を拡大することで放熱効率をアップした

 「プロセッサとチップセットの消費電力が上がって困るのは最大消費電力があがることもありますが、リーク電流が増えることによって全体の消費電力が底上げされてしまっている点がやっかいです。でも、ストップクロックの入る確率は以前の機種とあまり変わらないようなレベルに抑えなければなりません。今回は、いろいろな工夫で、それができています」

 古川氏らは液晶パネルのバックライトの工夫など、さまざまな点で工夫をしながらバッテリ駆動時間の延長を果たした上で、さらにバッテリの長寿命化という付加価値まで与えることに成功した。それがエコノミーモードだ。

 「今回搭載したエコノミーモードは、バッテリの長寿命化に大きく貢献しています。リチウムイオンバッテリというのは、初期容量の50%までしか性能を発揮できなくなった時点で寿命とするんですが、そこに達するまでの時間を長くしようとしたわけです。満充電の値を総容量の80%に抑えると、バッテリはかなり長寿命になるんですよ」

 従来は700回くらいの充電で寿命を迎えていたバッテリは、80%充電に抑えることで、大きくその寿命を延ばすことができるようになった。つまり、毎日充電して2年持っていたバッテリが、おおむね3年程度持つようになったという。まさに、基本性能としてバッテリでの運用時間が12時間とか8時間といった長時間を実現できているからこその荒技である。12時間持つのなら、その8掛けで9.6時間。それでも多くのモバイルパソコンのバッテリ運用時間を超えている。

 電車で移動することが多い都市生活者にとって、通勤時の満員電車は悩みの種だ。人間だってつらいのに、パソコンのことまで心配していられないというのが本音じゃないだろうか。今回の松下の製品群は、こうした悩みへの回答だ。

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【4月26日】松下、12時間駆動の「Let'snote T4」など夏モデル
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【4月26日】Let'snoteシリーズ新製品発表会
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0426/pana2.htm

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(2005年5月6日)

[Reported by 山田祥平]


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