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情報のプロパティと視覚




 今週から、TVドラマの新しいクールが始まっている。ドラマ好きにとっての最重要課題は、お目当てのドラマを見逃さないようにすることだが、夜の9時や10時といった時間にTVの前に座っていられることは難しく、どうしてもビデオレコーダーに頼ることになる。

●ドラマファンを泣かせる特別編成

 最近のTVドラマは、初回と最終回は特別編成になっていて、通常時よりも時間枠を拡張して放送されることが少なくない。今クールでいえば、14日木曜日のゴールデンタイムは大変だった。なにしろ、9時から10時までの2時間の間に4つのドラマが新番組として開始されたのだ。しかも、『アタックNo.1』(TV朝日)は21:00から22:09までの特別編成。22:00からの9分間が、別の番組にかぶってしまう。この編成のおかげで、『夢で逢いましょう』(TBS)21:00~22:00、『汚れた舌』(フジTV)22:00~22:59、『恋におちたら・僕の成功の秘密』(フジTV)22:00~23:59と、その日に始まるドラマの初回をすべて見るためには、ダブルチューナでも足りない。

 まあ、趣味も趣向も違うこれらのドラマをすべて見るという人は少ないと思うが、初回を見て物色しようという場合は大変だ。

 初回がすんだらすんだで、次週以降に備え、録画予約を再設定し、レギュラー枠の定期録画を設定しなければならない。また、今クールはナイターシーズンに入っているため、次回以降の放映では、野球の試合延長に備えることも重要なポイントだ。まあ、これに関しては、予約録画を常に30分だけ多めに設定しておけばすむ話だ。でも、異なる局のドラマがその時間のあとに続くようなケースでは、個別の設定が必要になるのでやっかいだ。

 こうして、21時から23時までに放映されるゴールデンタイムのドラマを全部見ようとすると、

月曜日 エンジン
火曜日 離婚弁護士、曲がり角の彼女
水曜日 anego
木曜日 夢で逢いましょう、アタックNo.1、汚れた舌、恋におちたら・僕の成功の秘密
金曜日 タイガー&ドラゴン
土曜日 瑠璃の島
日曜日 あいくるしい

と、1週間に、11本ある。時間にして10時間程度といったところだろうか。回が進むにつれて見なくなってしまうものもあるとしても、それはそれでけっこうな時間だ。前クールなどは、あまり期待もせずに見始めた『ごくせん』が視聴率トップになってしまうというハプニングもあった。とりあえず流行ものは見ておきたいという気持ちが強いので、これを見逃していたらくやしい思いをしただろう。

●見たら消すというスタイル

 デジタル家電としてのHDDレコーダーや、パソコンでのTV録画機能の浸透によって、VHSカセットに予約録画をしていたころに比べ、TVを見るスタイルは大きく変わった。何よりも、録画予約がカンタンだ。多くの場合はEPGによる番組表から、見たい番組を指示するだけでいい。以前は、時刻を指定したり、Gコードを指定して録画を予約していたのだから、驚くほどカンタンになった。

 ぼくは、VHSのビデオカセットデッキを引退させ、DVデッキにしたころから、テープの交換や、録画済み番組の頭出しなどが億劫になり、録画してまでTVを見なくなってしまっていた。長時間テープを入れっぱなしにするという手もあるのだろうが、見終わったら、消してもいいところまでテープを送り、次に備えて録画待機させるというような作業が面倒でしかたなく思えるようになり、だんだん、録画には縁がなくなっていったのだ。

 けれども、パソコンの録画機能やHDD/DVDレコーダーを使うようになってから、また、TVを見始めた。ライブで放送を見る機会はあいかわらず少ないけれど、多くのTV番組を録画して見ている。

 最近は、TV録画も、保存のために録画をするのではなく、録って見たらすぐに消すというユーザーが増えてきているらしい。レコーダーを明確にタイムシフトのために使うユーザーが増えてきているということなのだろう。自分の都合でドラマを見ていても、電話がかかってくるかもしれないし、鍋は容赦なく沸騰し、風呂は風呂でお湯があふれる。ライブにつきあっていては、TVの時間に自分を合わせざるをえないが、録画してタイムシフトすれば、そんなことをする必要はない。

 つまり、録画したTV番組は、捨てられやすくなっている。それは、保存の方法にも関係しているように思う。保存したファイルは、ファイル名やフォルダ名とそのタイムスタンプ、あるいは、DVD-Rなどのメディアの整理などによって管理するしかないのだが、ぼくの知る限り、録画時にはあれほど親切だったEPGの情報を、録画済みデータといっしょに保存してくれる環境がまったくない。

 たとえば、録画済み番組500本があったとして、そこから、特定の出演者の出ている番組を探し出すことができるだろうか。未来の番組は録画予約に備えてそれができるのに、過去の番組ではそれができない。TV番組情報サイトでは、昨日の番組の情報でさえ、見ることはできない。そういう意味では、デジタルデータでの番組保存も、カセットテープへのシーケンシャル録画の域を超えてはいない。録画時にこうしたメタデータがいっしょに保存されていれば、どれだけ重宝するだろう。

●視覚で情報のプロパティを見切る

 その一方で、録画予約をするという行為が、見たい番組を見るという行為である以上、まずは、見たい番組を探さなければならない。以前は、その手段は、新聞のTV欄が独擅場的に担っていた。新聞のTV欄はザッと見れば、どの番組が重要なのかが一目でわかったし、特におすすめの番組は、あらすじなども紹介されている。今夜はどうすればいいのかが、すぐに理解できたのだ。

 ところが、EPGの番組表は、どのサイトを見ても、今ひとつ、これは見ておこうという番組を直感的に探し出しにくい。同じことは、新聞社のニュースサイトを見ても感じていたことだ。紙の新聞では記事のスペースや見出し、写真の大きさなどで、個々の記事の重要性がザッと見ただけで理解できるが、ウェブサイトのニュース一覧ではそれがわかりにくい。

 ぼく自身にとっては、どうも、英語を読んでいるときと似たような感覚である。日本語の情報は、表意文字である漢字が散在するため、パッと見ただけでも視覚的に意味を理解することができる。ところが、英語の場合は、読まなければわからない。英語の速読は、文字の集合としての単語を、一種の表意文字のように扱うことで、読むスピードを加速するのだそうだが、日本人は意識しないうちに、それと同じことをやっているというわけだ。

 今、せっせと、iPodに、手持ちのCDを片っ端から保存している。実は、最近になってiPod Photoを買ったのだが、今まで入手しようとしなかったのは、このデバイスを単なるPhotoビューワ的なものだと思いこんでいたからだ。ところが、iTunesで、CDのジャケット情報を添付してやると、再生時にそれが表示されると知って欲しいと思った。その点だけで、小ささがとりえのシリコンオーディオプレーヤーよりもずっと魅力的に感じる。

 LPレコードの時代には、その30cm四方というダイナミックなサイズのせいもあり、アルバムジャケットの印象は強かったのだが、CDになってからはそれが薄れていた。アルバムは背表紙もそれなりの色で判別できるので、棚の何百枚のレコードの中からも、目的のアルバムをサッと見つけ出すことができた。でも、CDは文字を読まなくちゃならないことが多い。欧文の場合は、首を横にしてアルファベットを読む。これがまたつらい。だから、よほどきちんと整理していない限り、棚から目的のCDを探し出すのはたいへんだ。

 視覚とデータの関係は、いろいろな部分に影響を与える。CDのジャケットを、かつてのレコードジャケットのように、きちんと認識できるようになったら、以前に買ったのを忘れていて、2枚購入してしまうタイトルも少なくなるにちがいない。こういうことが起こるのは、単なる老化現象のせいだけとは思えないのだ。デジタルにはまだまだできることがあるのに、それが放置されている。

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(2005年4月15日)

[Reported by 山田祥平]


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