元麻布春男の週刊PCホットライン

仮想化技術「Intel Virtualization Technology」




●付加価値を求めるためのTs

IDF初日のキーノートで、日立製作所製の2ウェイItanium 2サーバー(年内にリリースされる予定のデュアルコアプロセッサであるMontecitoと日立製チップセットを用いた試作機)上で動作する、Vanderpool対応の日立製VMM(日立仮想化機構)をデモするパット・ゲルシンガー副社長。PAL、SAL、EFIとFirmwareが階層化されて整備されているIA-64は、システムの仮想化にも適している
 「インターネット」に代わるキラーアプリケーションの見つからない現状では、性能を究極の付加価値として高価なプロセッサを売るのは難しい。

 性能そのものを信奉するエンスージャスト/マニア層はともかく、一般市場でCeleronの割合が増え続け、Intelの最新CPUを搭載したPCが店頭に並ばない理由の1つは間違いなくこれだ。いまや単なるプロセッサベンダではなく、プラットフォームベンダとなったIntelも、次のキラーアプリケーションを模索している(そういえば、P2PがIDFのキーノートで取り上げられたこともあった)が、簡単には見つからない。自らによる模索と平行して、プロセッサの性能をデュアルコア/マルチコア化で引き上げつつ、それにより「ほかの誰か」がその性能を用いたキラーアプリケーションを思いつくのを待つ、というのがこの方面におけるIntelのアプローチのようだ。

 しかし、いつまでも待つだけでは、現実のビジネスは厳しさを増すばかり。新しい、高価で高性能なプロセッサを売るための、「銭になる技術」を見つける必要がある。こちらのアプローチで一足先に成功をおさめたのがMobility Group(旧Mobile Platforms Group)のCentrinoというプラットフォームブランディングであり、直接処理性能には関与しない機能技術であるEISTによるPentium MとCeleron Mの差別化だ。これがうまくいった以上、ほかの分野でもこれにならった戦略をとるのは当たり前のことかもしれない。

 処理性能以外の技術の訴求ということに関しては、「GHzだけじゃないIntel」ということで、さまざまな技術を披露してきた。いわゆる「Ts」(TはテクノロジのT)がそれである。Hyper-Threading Technology(HT)、LaGrande Technology、Vanderpool Technology、Centrino Mobile Technology、Extended Memory 64 Technology(EM64T)、Intel Active Management Technology(iAMT)など、時に増減しつつ、さまざまな「T」をIntelは紹介している(しかし「Intel Multicore Technology」は存在しない)。

 ちなみにCentrinoのデビューは2003年3月、IntelがTsと言い始めたのは2003年秋からのことだ。IntelはこれらのTの組み合わせを変えることで、プラットフォームの差別化を行なったり、これらのTの中から「銭になる技術」を見極めようというのかもしれない。HTの有無が、Pentium DプロセッサとPentium Extreme Editionの違いになることは、前回も触れたとおりだ。

●Intel Virtualization Technology

 このTsのうちシステムの仮想化に関するVanderpool Technologyの正式名称が今回のIDFで発表された。その名前はなんと「Intel Virtualization Technology」。そのままやん、というツッコミはともかく、この技術はシステムの仮想化を助けるものだ。

Intel Virtualization Technology(Vanderpool)の概要

 システムを仮想化し、複数のOSを同時に実行可能にすることで、1台のマシンに複数の役割を安全に持たせることが可能になる。1つのアプリケーションがOSをクラッシュさせるようなことがあっても、ほかのアプリケーションの利用に影響を与えないですむ。たとえば、ある仮想マシン内のOSがクラッシュしても、別の仮想マシンで実行されているテレビ録画が中断されることはない。また、異なるバージョンのOSを利用することで、プログラムのデバッグや動作検証を安全に行なったり、最新のOSではサポートされないアプリケーションの実行が可能となる。

 もちろん現在(つまりはVanderpoolのない今)でも、システムを仮想化し、複数のOSを同時に実行することはできる。買収によりMicrosoftの製品となったVirtual PCやVMwareのvPlatformなどはその代表だ。Vanderpoolは、こうしたシステムを仮想化するソフトウェア(Virtual Machine Monitor:VMM)を補助し、加速化する技術と考えればよい。

 Vanderpoolのような、ハードウェアによる補助のない現在のVMMには、時にゲストOS(VMM上で実行するOS)にパッチをあてたりコードの一部を変換する必要があった。また特定の処理に時間がかかること(特権的なアクセスが必要な際のオーバーヘッド等)による性能低下といった問題もある。Vanderpoolは、これらの問題を解消するためのものだ。

 Vanderpoolは、いくつかの段階を経て進化していくことが考えられているが、まず提供されるのは、仮想マシンの作成や終了、仮想マシンに割り当てられるレジスタセットの切り替え、キャッシュやTLBの管理等に関する命令セットの拡張(IA-32プロセッサではVirtual Machine Extensions:VMXと呼ばれる)と、そのサポートに必要なアーキテクチャの改良となる。

●拡張命令セットの互換性

 命令セットの拡張という点で気になってくるのはAMDの動向だ。命令セットという点では、これまでAMDはIntelの後をひたすら追ってきた。MMXやSSE、SSE2など、Intelが命令を追加するたびに、少し遅れて対応する、というのが常だった(互換プロセッサベンダの宿命なのだが)。先日発表されたx52シリーズのOpteronプロセッサがSSE3対応したのは記憶に新しい。だが、現在のAMDはIntelの後を追うだけではなくなっている。Microsoftによる対応版Windowsのリリースが迫るx64(64bit拡張)アーキテクチャは、2003年にデビューしたOpteronプロセッサが最初に実装したものであり、Intelが約1年遅れて後を追う形となった。

 システム仮想化技術についてもAMDは「Pacifica」(パシフィカ)というコード名で開発を進めている。サンフランシスコの南、太平洋に面した町の名前(スペイン語で平和の意味らしい)からとったと思われるPacificaも、やはり命令セットの拡張を含む。では、PacificaはVanderpool(VMX)の後を追ったものなのだろうか。

 AMDによると、Pacificaは機能的にはVanderpoolに相当するが、命令セットレベルでの完全な互換性を持っているわけではない、ということであった。MMXやSSEのようなSIMD命令と異なり、VMMを提供するソフトウェアベンダは極めて少数だ。AMDはほぼすべてのVMMベンダとの間に協力関係を持ち、VMMのPacifica対応を推進している。VMMベンダの数はそれが可能なくらい限られている(おそらく片手プラスα程度)ため、命令セットの非互換性は問題にならないと考えているようだ。

 なお、AMDはIntelのLaGrandeに相当する技術の開発も行なっている。サンフランシスコ市内ゴールデンゲートブリッジの付け根にある国立公園(西海岸最古の米軍駐屯地跡)の名前を開発コード名とする「Presidio」(プレシディオ)がそれだが、こちらはMicrosoftの定める仕様(NGSCB:Next Generation Secure Computing Base、最近情報のアップデートがないが)に対するインプリメントであるため、Intelとの互換性は問題にならない(結果として互換になるのかもしれないが)。複数OSを共存させる技術のコード名が「平和」という町の名前から、セキュリティ技術のコード名が古の米軍駐屯地(実際はサンフランシスコ湾を守る要塞のような施設)の史跡からというのは、なかなか凝った命名だ。

□Intelのホームページ(英文)
http://www.intel.com/
□IDFのホームページ(英文)
http://www.intel.com/idf/us/spring2005/systems/
□関連記事
【3月4日】【元麻布】デュアルコア+HTはゼニが取れる技術か
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0304/hot358.htm
【3月3日】【元麻布】ムーアの法則はまだ必要とされているのか
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0303/hot357.htm

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(2005年3月5日)

[Reported by 元麻布春男]


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