■元麻布春男の週刊PCホットライン■Intelがプラットフォーム化を推し進める理由 |
今回のIDFでIntelエグゼクティブの口から頻繁に出てきた言葉の1つは「プラットフォーム」だ。プロセッサやチップセット、周辺チップといった個々の製品ではなく、それらを統合した、1つの機能を果たすことが可能な単位としてのプラットフォームの重要性が繰り返し語られた。このプラットフォーム戦略について、昨年秋あたりから今年の初めにかけて、Platform-ization(プラットフォーミゼイション、プラットフォーム化)という造語が良く使われていたのだが、今回のIDFでこの言葉を用いたエグゼクティブはいなかった。分かりにくい、という批判でもあったのだろうか。それならもう2度とこの造語が使われることはないかもしれない。
それはともかく、CPUやマザーボード、周辺チップに限らず、サーバシャーシやソフトウェア類まで含めたプラットフォームをプッシュする証であるかのように、今回のIDFでは大量にプラットフォームのコード名が公開された。すでに公開されてきたSonoma、Napaといったモバイルプラットフォーム、Lyndon、Anchor Creek、Averill、Bridge Creekといったデスクトッププラットフォームに加え、Truland、Bensley、Richfordなどサーバープラットフォームのコード名まで公開されている。プロセッサ、チップセット、プラットフォーム、さらにはネットワーク製品やテクノロジのコード名まで加えると、膨大な数に上るため、もはや誰も覚えられないほどだ。
Intelがプラットフォーム化を推進する1つの理由は、マーケティング的なものである。Centrinoブランディングの成功により、CPU、チップセット、無線LANモジュールの3点がセットで採用される機会が増えた。しかも、CPUは高い方(Pentium M)が売れる。こんないい話をほかのセグメントでも利用しない理屈がない。また、最近のIntelのCPUは競合会社の製品に対して競争力に翳りが見えるから、競争力の高いチップセットを前面に押し出して戦おうとしているのだ、という見方もあるかもしれない。いずれも、完全には否定できないことではある。
だが、Intelのプラットフォーム化戦略は、こうしたマーケティング的な理由だけで推進されているものでは、おそらくない。これからIntelがイネーブリング(表に出す)してくる技術は、CPUやチップセット、周辺チップといった個々の製品で完結したものばかりでなく、CPU、チップセット、周辺チップ、マザーボード(BIOS/Firmware)、コンパイラなどのソフトウェア製品も含めたプラットフォーム全体で実現可能なものが増えてくるのだと思われる。つまり、ある種の技術的必然性がプラットフォーム化を促しているわけだ。
●I/OATもプラットフォームベース
すでに一定の情報が公開されているLaGrandeテクノロジの場合、CPUやチップセットはもちろん、TPM、キーボードコントローラ、グラフィックスチップ、それらのデバイスドライバ、そしてOSと、プラットフォームぐるみでの対応が必要になる。今回発表されたIntel I/O Accelerattion Technology(I/OAT)も、プラットフォームレベルの技術として紹介されている。
I/OATは、I/Oハードウェア、ドライバ、アプリケーション間のデータ移動を、ドライバの最適化、メモリコントローラであるチップセット(MCH)、周辺チップの3つを総合的に最適化することで、I/O処理に伴うCPUの負荷を軽減しようというもの。今回公開されたのはGigabit Ethernet(GbE)の効率化に関するものだが、将来的にはストレージ(RAID6コントローラ)など他のI/O分野への応用が考えられている。以前発表されたものの、キャンセルされてしまったTCP/IP Offload Engine(TOE)が、CPU占有率には効果があるものの、別途追加されるTOEチップによるコストアップに加え、アプリケーションがデータを得るまでのレイテンシーが大きくなるという問題があったのに対し、I/OATによるGbEではこれらの問題すべてが解決するという。
GbE対応のI/OATの例。I/O ATはCPU占有率の低減、レーテンシの削減、コスト削減のすべてに効果があるという。TOEはレーテシやコストが上昇するほか、Linuxでの効果が薄かったとされている |
I/OAT以外にも、技術のプラットフォーム化の兆しはそこここに見て取れる。今回、テクニカルセッションで945G(Lakeport-G)チップセット用の周辺機器として紹介されたADD2+Mediaカードも、プラットフォーム化をうかがわせるものになっている。ADD2+Mediaカードは、Intelのチップセット内蔵グラフィックスコアの出力(SDVO)をデジタル(DVI)出力するためのADDカードの最新版にあたる。
最初のADDカードはAGP対応、次のADD2カードがPCI Express対応で、それぞれ内蔵グラフィックスの出力をデジタル出力するだけの単機能カードだった。ADD2+Mediaカードは、カード上にTVエンコーダー/デコーダーとTVチューナを搭載することで、ADDカードにメディア機能を付け加えたものだ。アンテナ入力のTVチューナあるいはビデオ入力をキャプチャし、それをデジタル出力する機能を備える。
このADD2+Mediaカードを利用するには、Intelの945Gチップセットが必要になる。ドライバ等の最適化もPentium 4/Pentium Dプロセッサを前提に行なわれるだろう。キャプチャに用いるCODECも、Intelのプロセッサに最適化されたものになるのは疑う余地がない。つまりはADD2+Mediaカードも、プラットフォームの一環だと考えられる。
●AMDとの競争にも有効か
さらに将来の方向性としては、おそらく次世代のVanderpoolでもプラットフォーム化が進められるハズだ。現時点で公開されている最初のVanderpoolの実装は、プロセッサのアーキテクチャと命令セットにほぼ限定される。しかし、それだけでは決して十分ではない。VMMの下で実行されるアプリケーションの性能向上、あるいは対応可能なアプリケーションの幅を広げるには、VMM下で利用可能なI/O性能の向上が欠かせない。これを実現するために、ハードウェアを仮想化するためのラッピングは薄くなる傾向にある。
たとえば、VMMから見たグラフィックスハードウェアは、極端に言えば何にでもできる。どのグラフィックスチップをエミュレートするか、というだけの問題であるからだ。しかし、当然のことながらエミュレートされたグラフィックス(ソフトウェアベースのグラフィックス)では、最新のFPSゲームを楽しむようなレベルの高い性能は期待できない。ラッピングを薄くしてVMMから見えるグラフィックスチップを実際にPCにインストールされているものにして、処理をハードウェアに任せた方が高い性能が得られる。そういう意味で、グラフィックスハードウェアにも仮想化への対応(仮想化に適したアーキテクチャ)がおそらく求められるようになるだろう。また、ディスプレイドライバやディスプレイドライバインターフェイスも、仮想化を前提にしたものが必要になってくると思われる。こうしたことも技術のプラットフォーム化につながるわけだ。
この技術のプラットフォーム化には、実はもう1つ利点がある。それは競合するAMDが追いかけにくいということだ。PCI Express対応のチップセットも含め、AMDはCPU以外のパート(チップセット、マザーボード、周辺機器等)の製品化に積極的ではない。CPU以外は極力パートナー(サードパーティ)に任せる、というのが基本的なAMDのスタンスだ。
しかしこのスタンスでプラットフォーム化した技術を推進するとなると、複数のパートナーとの連携が必要になる。パートナー1社との協業であっても、単独に比べて時間がかかるのに、パートナーが増えればより一層時間がかかるようになる。また、AMDとパートナー間の協力関係がどれほど良くても、複数のパートナー間の関係が良好とは限らない。作業はさらに難しいものになるかもしれない。
プラットフォーム化を推進することで、売り上げを増やしつつ、AMDのおいかけにくい技術を確立し、それを「銭になる技術」に育てる。これが、Intelの願いだろう。
□Intelのホームページ(英文)
http://www.intel.com/
□IDFのホームページ(英文)
http://www.intel.com/idf/us/spring2005/systems/
□関連記事
【3月5日】【元麻布】仮想化技術「Intel Virtualization Technology」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0305/hot359.htm
(2005年3月6日)
[Reported by 元麻布春男]