笠原一輝のユビキタス情報局

長時間駆動とパフォーマンスを両立させるNapaプラットフォーム





 Intel Developer Forum(IDF)も2日目を迎えた。本レポートではモビリティ事業本部 モバイルプラットフォーム事業部のジェネラルマネージャであるムゥリー・イーデン氏が明らかにした、Napaプラットフォームの詳細情報をベースに、2006年第1四半期にリリースされるこのプラットフォームにより、どのようなノートPCが登場することになるのかを考えていきたい。


●「速くて、薄くて、長く動いて、無線でつながる」というCMTの開発思想は継続

 イーデン氏は元イスラエル空軍少佐という特異な経歴を持つエンジニアで、Intelがイスラエルにおいている研究所で、初代Pentium M、つまり開発コードネーム「Banias」でよばれるプロセッサの開発をリードしてきた。その後、Baniasの開発を成功に導いた手腕を買われ、米国の本社に渡り、旧モバイルプラットフォーム事業本部の副社長兼マーケティングディレクターに就任した。

Intelがデモを行なったNapaプラットフォームのシステム。現時点ではリファレンスシステムということもあり、ノートPCには不釣り合いなCPUクーラーが実装されているが、これはデバッグのためで、リリース時にはもっと小さなクーリングシステムで対応できるとイーデン氏は説明した Intel モビリティ事業本部 モバイルプラットフォーム事業部 ジェネラルマネージャのムゥリー・イーデン氏

 さらに、今年の1月に行なわれた組織再編で、モバイルプラットフォーム事業本部がモビリティ事業本部に統合されたことを受け、モビリティ事業本部の中で、ノートPC向けのソリューションを担当するモバイルプラットフォーム事業部のジェネラルマネージャに就任した。

 こうした経歴からもわかるように、彼は「ミスターCentrino」と言ってよいほど、Centrinoモバイル・テクノロジ(CMT)の表も裏もよく知る人間の一人だ。

 そのイーデン氏は冒頭で、今後のCMTの開発ポリシーについて説明した。イーデン氏は「これまでCMTでは4つの方向性を基に開発を続けてきた。それが性能、フォームファクタ、バッテリ持続時間、無線による接続性の4つだ。今後のCMTでも、この方針を維持して開発を続けていく」(イーデン氏)と述べ、今後も、薄さと性能のバランスをとり、かつ長時間のバッテリ駆動を実現し、無線によるネットワークへの接続性を実現するという方針でCPUやチップセットなどを開発していくことを宣言した。

●Yonah+Calistoga+Golanから構成されるNapaプラットフォーム

 引き続きイーデン氏はNapaプラットフォームの詳細を明らかにした。既報の通り、Napaプラットフォームは、CPUの「Yonah(ヨナ)」、チップセットの「Calistoga(カリストガ)」、無線LANモジュールの「Golan(ゴラン)」から構成されている。

 チップセットのCalistogaは、基本的にはデスクトップPC向けのチップセットである「Intel 945G」(開発コードネーム:Lakeport)をモバイル向けとしたもので、基本的なスペックはIntel 945Gと共通になっている。なお、OEMメーカー筋の情報によれば、Calistogaの製品名は「Intel 945GM」などになる見通しで、名称からもIntel 945Gのモバイル版と考えることができる。OEMメーカー筋からの情報によれば、Calistogaのスペックは、以下のようになるという。

●ノースブリッジ
・Pentium Mバス:667/533MHz
・メモリ:DDR2-667(デュアルチャネル)
・PCI Express x16

●サウスブリッジ(ICH7M)
・PCI Express x1×6
・USB 2.0ポート×8
・Serial ATA-300×4
・HD Audio対応

 イーデン氏は、Calistogaの強化点について「グラフィックス周り」と説明するだけで、その詳細に関しては説明しなかった。しかし、Intel 945Gのグラフィックス周りの強化が、クロック周波数の向上や若干の機能強化、ADD2+への対応などであることを考えると、Calistogaに関しても同じような強化が行なわれると考えるのが自然だろう。

 Calistogaのモデルに関して今回のIDFでは明らかにされなかったが、OEMメーカー筋の情報によれば、Calistogaには以下のようなモデルが用意されているという。

 高速化技術FSB内蔵グラフィックターゲット市場
Intel 955XM667MHzワークステーション/ハイエンド
Intel 945GM667MHzメインストリーム
Intel 945PM667MHzメインストリーム
Intel 940GML533MHzバリュー

 なお、無線LANモジュールのGolanに関しては、すでに別レポートで解説しているので参考にしてほしい。

Yonah。CPUダイがスレートの上に実装されている。なお、公開はされなかったが、ピン数は現在と同じ479ピン NapaプラットフォームのチップセットであるCalistogaのサウスブリッジとなるICH7M(FW82801GMU)。PCI Express x1のポート数が6ポートに増え、Serial ATAも3GbpsのSerial ATA-300に対応している Sonomaプラットフォーム向けチップセットのIntel 915GMS。CPUやサウスブリッジよりも小さな27×27mmという小型パッケージを採用しており、マザーボードをできるだけ小さくしたいミニノートPCなどに採用することが可能。なお、Calistoga世代でも、こうした小型パッケージのチップセットが用意される予定

●Yonahの性能を向上させるIntel Digital Media Boost

YonahでサポートされるIntel Digital Media Boost。要するに、マイクロアーキテクチャが若干改善され、よりシングルスレッド実行時の性能を高めるための改良が施される。イーデン氏によれば、Yonahでのマイクロアーキテクチャの改良はメディア再生性能の改善にフォーカスが当てられているという

 イーデン氏は、今回初めてYonahプロセッサの詳細に関しての説明を行なった。

 YonahではIntel Digital Media Boostという、性能面での機能拡張が行なわれる。SSE/SSE2 μOpsフュージョン、SSEデコーダのスループット向上、SSE3命令のサポート、浮動小数点命令実行時の処理能力の向上などがその主な機能となる。イーデン氏によれば、これらの機能は主にマルチメディア系のアプリケーション実行時の処理能力を向上させることが目的になるという。

 また、YonahはIntel Virtualization Technology(開発コードネームVanderpoolテクノロジ)はサポートされるものの、x64と総称される64bit命令セットであるEM64Tや、Hyper Threadingテクノロジ(HTテクノロジ)には対応しない。

 この点に関して、Intel モビリティ事業本部 モバイルプラットフォームグループのラマ・シャクラ氏は「YonahでEM64TとHTテクノロジに対応しないことに技術的な理由はない。純粋にマーケティング上の理由だ」と述べ、x64に対応したアプリケーションがそろっていない現状などを勘案し、Yonahにはx64などを実装しないことに決めたという。

 確かに、メモリスロットが2スロットしかないノートPCでは、メモリ容量が4GBに達するのはデスクトップPCよりも時間がかかると考えられているし、x64に対応した64bitアプリケーションも、当初はワークステーション向けやハイエンドアプリケーションからであることを考えると、妥当な選択と言えるだろう。


●CPUコアのステート変更は、同時でも、別々でも可能

Yonahの省電力機能を説明するスライド。2つのコアは、同時にステートを変更することも、それぞれ別々にステートを変更することができる。このため、1つのコアをC2に入れてクロックを止める、事実上シングルコアとして動作させるなどの使い方も可能になっている

 Yonahのラインナップだが、基本的には標準電圧版(SV、Standard Voltage)、低電圧版(LV、Low Voltage)、超低電圧版(ULV、Ultra Low Voltage)の3つの熱設計消費電力(TDP)の枠が用意されるという点においては、Dothanと共通になっている。

 後藤氏の記事でも紹介されているように、IntelはOEMメーカーに対して、TDPの枠は若干引き上げられると説明している。具体的にはデュアルコアになった影響で、SV版が31Wに(現行のDothanは27W)、LV版が15Wへ(現行のDothanは12W)へと引き上げられる。

 それでも、バッテリ駆動時間に影響を与える平均消費電力は、現行のDothanとあまり変わらないレンジになることが予想されている。「Napaプラットフォームのバッテリ駆動時間は、Sonoma世代に比べて改善されることはあっても、悪くなることはないだろう」(シャクラ氏)との通り、プラットフォームトータルでの平均消費電力は悪化しないどころか、Sonomaに比べて改善されるという。

 その理由はいくつかあるが、1つはYonahの省電力技術がより進化することがあげられる。イーデン氏は「Yonahでは“Intel Dynamic Power Coordination”という省電力技術を導入する。これは、CPUコアのステートそれぞれを別々にコントロールしたり、共通でコントロールしたりするものだ」と説明する。

 CPUには、OSの状態などに応じて、複数のステートが用意されている。たとえば、Baniasファミリーの場合にはC0(通常動作)、C1(Halt命令の発効により待機状態)、C2(クロック停止)、C3(DeepSleep)、C4(DeeperSleep)という5つの状態が用意されている。

 Yonahの2つのコアは、それぞれのコアがCPU負荷などの状態に応じて、それぞれ独立してステートを変更することも可能だし、同時に同じステートに移行することも可能だ。たとえば、CPUの処理があまり大きくなく、バッテリで動いているという状態であれば、片方のコアをC0ステート(通常稼働)に移行し、もう片方をC2(クロック停止)に移行させることなどができる。

 ただし、YonahではCPUにクロックを供給するPLLや電圧をかける電圧変換器(VoltageRegulator)はそれぞれ1ユニットしか用意されていないため、CPUの電圧降下が必要になるC3ステートないしはC4ステートへ片方のコアだけを変更したり、あるいはCPUの電圧/クロックを動的に変更するSpeedStepテクノロジを利用して、2つのコアの電圧/クロックを別々に制御する、という使い方はできない。それには、2つの電圧変換器とPLLが必要になるからだ。

 ただし、Intelとしてはそれらを将来的に実現する研究は続けているという。「そうした技術は省電力の観点から有益だと考えているし、今後も研究は続けていく」(シャクラ氏)との通りだが、現時点ではマザーボード上に2系統の電圧変換器や2系統のPLLを搭載することはスペースの観点からも難しく、解決が必要な課題が多いため、Napa世代では実装が難しいと同氏は指摘した。

●薄さ、軽さを維持しながら“よりパワフルな処理能力”を

 Intelは引き続き、CPU以外のコンポーネントの省電力にも取り組んでいる。Intel モビリティ事業本部 マーケティングディレクタのティッキー・タッカー氏は「CPUの消費電力にしめる割合は依然として10%程度でしかない。したがって、ほかのコンポーネント、たとえば液晶ディスプレイの消費電力を下げるなどの取り組みを引き続き行なっている」とし、Intelがシステム全体としての消費電力を下げる取り組みを行なっていることを強調する。

 たとえば、液晶ディスプレイの消費電力の低下に関しては、液晶ディスプレイメーカーと協力して、3W以下の液晶ディスプレイの開発に協力するなど、こうした分野でも積極的にイニチアシブを発揮しているとタッカー氏は強調する。こうしたシステムの分も含めた積み重ねで、結果的にシャクラ氏のいうNapaプラットフォームはSonomaプラットフォームに比べて平均消費電力が下がるという予測につながっているわけだ。

 このように、Napaプラットフォームでは、デュアルコアのYonahが採用されるというトピックはあるものの、全体的な傾向としては初代CMTからの“キープコンセプト”が続く製品だと言っていいだろう。

 確かに、YonahのTDPが31Wにあがることで、OEMベンダの側は冷却機構などに工夫を加えなければならないが、システム全体の平均消費電力はSonomaと同じようなレンジに収まる可能性が高いため、薄さ、バッテリ駆動時間などは従来の製品と同じレベルを維持しながら、デュアルコアによる高い処理能力を得ることが可能になるだろう。

□関連記事
【3月3日】【笠原】再び修正を迫られるIntelの無線LAN戦略
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0303/ubiq101.htm
【3月3日】【IDF】Yonahの稼働モデルが公開される
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0303/idf06.htm
【3月3日】【海外】間に合わせ的なIntelのデュアルコアCPU
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0303/kaigai161.htm
【2月1日】【海外】Yonahが見えてきた、IntelのモバイルCPUロードマップ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0201/kaigai152.htm

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(2005年3月4日)

[Reported by 笠原一輝]


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