■笠原一輝のユビキタス情報局■「ルームリンク」と「VAIO Media 4.1」を試す
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新ルームリンク「VGP-MR100」 |
ソニーから、DLNAガイドラインに対応予定の新ルームリンク(VGP-MR100)が2月5日に発売された。同時に、ソニーからは同社のホームネットワークソフトウェアであるVAIO Mediaの古バージョン(V2.XおよびV3.X)をDLNAガイドライン対応予定のバージョン4.1へとアップデートするファイルも公開された。
DLNAガイドラインに対応したDMA(Digital Media Adaptor)としては、年末に発表されたシャープの「CE-MR01」についで2製品目となるが、CE-MR01の発売予定は2月24日となっており、実質的には“初”の製品だと言っていいだろう。
今回のレポートでは、この新ルームリンクとVAIO Media v4.1を使って見えてきた、DLNAが抱える課題などについてレポートしていきたい。
VGP-MR100の内部構造。割と単純な基板で、メディアプロセッサのEM8620Lがヒートシンクの下に隠れている。ヒートシンクの手前にはDRAMチップ(64MB)とフラッシュメモリが搭載されている。右側に見えるのが無線LANモジュール(miniPCI) |
VGP-MR100の本体はA5サイズとコンパクトな作りで、背面に電源ポート、D端子、Sビデオ出力、コンポジット出力、音声出力、S/PDIF、Ethernet(100BASE-TX対応)のほか、無線LAN用のアンテナが用意されており、2.4GHzのIEEE 802.11g/b対応となっている。本体以外には、ビデオケーブル、Ethernetケーブル(ストレート、クロス)、リモコンなどが付属する。
底面にある目隠し蓋に隠れているネジをはずすと、本体カバーを開けることができ、中を見ることができる(ただし、実際の製品でやると保証が受けられなくなるので注意)。
基板は非常に単純なものであることがわかる。基板上には、メディアプロセッサとしてSigmaDesignsの「EM8620L」がヒートシンクに隠れて実装されている。メインメモリは64MB。これまでのDMAは、32MB搭載というモデルが多かったが、最近では64MBが主流で、VGP-MR100もそのトレンドを取り入れたデザインとなっている。
なお、OSなどのファームウェアは、基板上に搭載されているフラッシュメモリに格納されている。無線LANは、mini PCI形式で実装されている。無線LANコントローラの型番はヒートシンクに隠れて確認できなかった。
起動時のユーザーインターフェイスは、SD解像度表示となっており、画面アスペクトも4:3で表示されるが、設定で高解像度用を選ぶことで16:9のHD解像度表示に切り替わる。
高解像度表示ではフォントも高解像度用になり、SD解像度用に比べて高品位な印象だ。この設定は、本体の電源を完全に落とさない限り(つまりACアダプタをはずさない限り)保存されるが、ACアダプタをはずした時には設定がリセットされ、SD解像度に設定が戻される。これは、SD解像度のTVに接続した時に、HD解像度の出力では表示できなくなってしまうというトラブルを避けるための仕様だと思われる。
前述のとおり本製品では、Sビデオ出力、コンポジットビデオ出力のほか、D端子が用意されている。EM8620Lの性能としてはD4(720p)まで出力が可能だが、本製品では最高でD3(1080i)出力までのサポートとなる。D3出力は、ソニーのHDVカムで撮影した1080iのHD映像用と位置づけられており、HDVカムからVAIOへ取り込んだMPEG-2 HDの動画を本製品でも再生することが可能になっている。
ただし、ハードウェアの仕様としてはD4(720p)にも対応可能であり、将来的にソフトウェアのバージョンアップなどで、WMV HDなどに対応すれば720p表示ができるようになる可能性はある。
なお、本製品では、サーバーを横断して目的のコンテンツをシームレスに探し出すことが可能な「クロス検索」には対応しておらず、最初に接続するサーバーを明示的に選択して、接続する必要がある。
デジオンのPC用DiXiMのメディアクライアントソフトウェアなどが、クロス検索をサポートしていることを考えるとやや残念だが、クロス検索が、CPUにかなり負荷をかける処理であることを考えると、高速なアプリケーションプロセッサを搭載することが難しい本製品のようなDMAでは難しいのだろう。
ただ、クロス検索ができると、ユーザーはコンテンツがどこのPCにあるかを意識せずに目的のコンテンツを探すことができるので、ぜひ次世代の製品では対応してほしいものだ。
VGP-MR100の仕様でサポートされるメディアフォーマットは次のようになっている。
DLNAガイドライン対応DMSに接続する場合 (ネイティブ) | VAIO Mediaサーバーに接続する場合の追加 (サーバートランスコード) | |
---|---|---|
音楽 | LPCM(WAV形式)、MP3 | WMA、ATRAC3、ATRAC3plus |
動画 | MPEG-2、MPEG-1 | WMV、ビデオカプセル |
静止画 | JPEG、PNG | ビットマップ、GIFF、TIFF |
筆者がもっとも気になったことは、WMVがネイティブでは再生できないことだ。実際、VGP-RM100を、デジオンのDiXiMがインストールされたメディアサーバーPCに接続しても、WMV形式の動画ファイルはグレー表示になって再生できない。この点は、VGP-MR100の弱点と言わざるを得ないだろう。
さらに言うなら、ユーザーとして納得がいかないのは、VGP-MR100に採用されているメディアプロセッサ「EM8620L」そのものは、WMVの再生に対応している点だ。
つまり、ソフトウェア側で“わざわざ”WMVファイルのデコード機能を削っていると考えられるのだ。実際、VGP-MR100のミドルウェアとして利用されているデジオンのDiXiMを利用した、ほかのDMAなどは、標準でWMVのネイティブ再生をサポートしている。
ルームリンクの企画を担当しているソニー株式会社 インフォメーションテクノロジーカンパニー 企画部 デジタルホーム担当 統括マネージャーの岸本豊明氏は、「WMVに関してはDLNAガイドライン バージョン1.0のサポート要件の中には入っていない。必須フォーマットによる全てのサーバー機器との互換性実現を重視し、WMVは実装していていない」と説明するが、本当にそうなのだろうか?
確かに、サーバー側でDLNAガイドラインに規定されていないフォーマットをサポートしないという選択肢はありだと思う。家電のホームサーバーが最初から特定のフォーマットをサポートしない場合、クライアントからはファイルを見ることもできないし、そもそもそのサーバーにそうしたコーデックのファイルを保存しておくこともできないだろう。
しかし、クライアント側は状況が異なる。クライアントの場合は、PCがメディアサーバーになっているものにも接続するし、家電にも接続する。その場合、ある特定のフォーマットをサポートしないということにすると、今回のようにファイルは見えるが再生できないということが起きうる。
まして、WMVはすでにWindowsで標準のビデオ形式といってもよいメディアフォーマットの1つだ。それが再生できないというのは、問題があると言わざるを得ないのではないだろうか。この問題は、VGP-MR100のソフトウェアを改善するだけで済むはずだから、ぜひとも追加してほしいものだ。
VGP-MR100からDiXiMメディアサーバーに用意されているWMVファイルをブラウズしているところ。グレー表示になってしまいコンテンツを再生することができない | 音楽を再生しているところ。このCDはWindows Media Playerを利用してMP3へリッピングしたものだが、MP3タグに埋め込まれたジャケットまで表示されている | DiXiM上にあるMPEGファイルを再生しているところ |
もっとも本製品は、VAIOの周辺機器という扱いなので、VAIOに接続した時に問題がなければそれでよいという言い方もできる(それではDLNAの“なんでもつながる”という意味がなくなってくるが……)。実は、VGP-MR100をVAIO Mediaのサーバーに接続した場合、とたんにWMVの非互換という問題が解決される。
VAIO側のメディアサーバーであるVAIO Mediaも、従来までのVAIO Media 3.1からVAIO Media 4.1へとバージョンアップされた。VAIO Media 4.1の最大の特徴は、DLNAガイドラインに対応予定であることだろう。従来のVAIO Media 3.xまでも、Universal Plug and Playを利用しているという点で、DLNAガイドライン対応機器にかなり近く、実際に相互接続が可能だったが、今回のVAIO Media 4.1で正式にDLNAガイドラインに対応予定であることが明らかにされ、ほかの対応機器との相互接続性が大幅に向上している。
筆者宅にあるDLNAガイドライン対応およびそれに準拠しているような製品を接続してみたところ、以下のような結果となった。
DiXiMメディアサーバー | VAIO Mediaサーバー 4.1 | 富士通MyMediaサーバー | Windows Media Connect | |
---|---|---|---|---|
DiXiMメディアクライアント | ○ | ○ | ○ | ○ |
VAIO Mediaクライアント4.1 | ○ | ○ | ○ | ○ |
VGP-MR100 | △ | ○ | △ | △ |
富士通 MyMedia | ○ | ○ | ○ | ○ |
Windows Media Connect(WMC)とVAIO Media以外は、ミドルウェアにデジオンのDiXiMを利用しているので、接続できて当たり前とも言えるが、VAIO Mediaはソニー製、Windows Media ConnectはMicrosoft製でありながら、きちんと相互接続できるわけで、DLNAの取り組みが徐々に進展していることを証明していると言ってよい(もっとも、WMCはDLNAガイドライン対応ではないが……)。
VAIO Media 4.1はサーバー側でトランスコードの機能を備えている。具体的には、WMVやAVIなど、VGP-MR100側では標準でサポートしていないコーデックのファイルであっても、サーバー側でリアルタイムにMPEG-2変換して出力可能だ。ただしサーバーとなるVAIO側には、対応するコーデックがインストールされている必要がある。
トランスコード機能は、クライアント側がVGP-MR100以外でも有効。DiXiMのメディアクライアントでも、VAIO Mediaクライアントでも、DLNAで標準サポートされていないWMVやAVIなどのコーデックを利用した動画ファイルがMPEG-2にトランスコードされて出力されるので、ほとんどすべての動画ファイルを再生できる。ただし、例外もあり、筆者が試した限りではWMV HDはMPEG-2 HDにトランスコードしてくれなかった。
トランスコード機能は、サーバー側に高い負荷をかけるのは事実だが、それでもクライアント側のコーデック互換性問題を解決する手段の1つとしてはそれなりに有効だといえるだろう。これは、DiXiMやWMCなど、ほかのメディアサーバーにはないVAIO Media 4.1だけのアドバンテージだと言っていい。今後は、ほかのメディアサーバー(特にPC用)にも搭載していってほしい機能だと思う。
なお、VAIO Mediaのクライアントソフトウェアに関しても、DLNAガイドラインに対応予定となっている。このため、VAIO MediaがプリインストールされているVAIOを持っていれば、クライアントソフトウェアをほかのPCにインストールし、DLNAガイドライン対応クライアントとして利用可能だ。今回は、過去のバージョン対応(VAIO Media 2.xや3.x)のアップデータもソニーのWebサイトで公開されており、すでに旧世代のVAIO Mediaを持っているユーザーも利用できる。
むろん、VAIO Mediaクライアントを利用して、DiXiMのメディアサーバーやWMCに接続することも可能だ。
WMCに接続しても、コンテンツの再生が行える。WMCで設定したすべてのフォルダのコンテンツが再生可能だ(ただし、WMVなどVGP-MR100が再生できない形式は不可) | VAIO Mediaサーバーの設定コンソール。機器の認証も、VAIO独自形式から、DLNA標準のやり方に変更された。ただし、以前のバージョンとの互換性のため、VAIO独自形式の認証方式もサポートされている |
以上のように、DLNAガイドラインに対応したDMAが登場したことで、家中のPCのコンテンツをTVで再生するという環境が実際に整ったということが言うことができるだろう。
ただし、VGP-MR100でWMVがネイティブ再生できない例のように、相互接続性は実現できても、依然としてメディアフォーマットの互換性問題は積み残した課題として残っている。
A社のクライアントではWMVが再生できるのに、B社のクライアントではWMVが再生できないといった問題は、残念ながら今後も続いていくことになるだろう。WMVに限らず、今後新しいコーデックが登場するたびに、DLNAガイドラインに対応したクライアントでは、同様の問題が起こることになる(近々の課題としてMPEG-4 AVCへの対応も考えないといけないだろう)。
今はまだ、PC以外のクライアントは今回紹介したVGP-MR100とシャープのCE-MR01程度しかないのでよいが、今後液晶TVやプラズマTV、HDDレコーダなどにDLNAクライアントを組み込む段階になったとき、この問題が浮上してくる可能性は高い。
その時に、「DLNAではサポートされてませんから、再生できません」と、家電のユーザーに説明して納得してもらえるのだろうか? 比較的ITに理解があるPCユーザーでも納得できないと思うのに、それが家電のユーザーでは……説明するまでもないだろう。
この問題を解決するには、ソニーがVAIO Media 4.1でやってみせたように、サーバー側にトランスコード機能を搭載するか、クライアントで考えられる限りのコーデックをサポートするか、どちらかしかない。
ただ、一言でトランスコードの機能をサーバーに組み込むといっても、簡単な話ではないのも事実だ。たとえば、家電をメディアサーバーにする場合、家電に搭載されているアプリケーションプロセッサの処理能力はPCに比べて圧倒的に低い。だから、現状のHDDレコーダなどにトランスコード機能を実装するのは不可能に近い。
現に松下電器のDIGAの最上位機種である「DMR-E500H」には、UPnPのメディアサーバー(DLNAガイドライン対応ではない)が実装されているが、実際にメディアサーバーの機能を使おうとすると、HDDレコーダの機能を停止してサーバーモードに切り替える必要がある。
こうした面倒なことが必要なのは、内蔵しているアプリケーションプロセッサの性能が低いからだろう。そんな状況のHDDレコーダにトランスコード機能を組み込むなど、不可能に近い。ハイエンドモデルであるDMR-E500Hですらそうなのだから、普及価格帯のモデルにトランスコード機能を組み込むなど夢また夢だ。だからこそ、クライアント側で、なんとかしてほしい、と思うわけだ。
エンドユーザーの立場で言わせてもらえば、正直なところ、「どっちでもいいから、自分の持っているファイルはすべて再生できるようにしてくれよ」としか言いようがない。こうしたユーザーの声を、DLNAの関係者がどれだけくみ取ってくれるのか、それがDLNAが本当に飛躍できるかどうかの鍵となるだろう。
少なくとも次世代のDLNAガイドラインでは、こうした問題を解決してほしいものだ。
□関連記事
【2005年1月27日】ソニー新「ルームリンク」開発者インタビュー
~DLNAガイドライン対応の新ルームリンクはデジタルホームの起爆剤となるか
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0127/ubiq96.htm
【1月10日】【笠原】立ち上がるDLNAガイドライン対応のホームAVネットワーク
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【1月8日】【笠原】同床異夢のWintelと家電陣営
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【1月5日】ソニー、DLNA/1080i再生に対応した新「ルームリンク」(AV)
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20050105/sony.htm
(2005年2月17日)
[Reported by 笠原一輝]