笠原一輝のユビキタス情報局

立ち上がるDLNAガイドライン対応のホームAVネットワーク





DLNA加盟企業ブースに掲げられたボード

 ソニー、Intel、Microsoft、松下電器などIT系/家電系の複数のベンダが中心となりホームAVネットワークの標準規格策定を目指す「DLNA」(Digital Living Network Alliance)に対応した製品が、International CESの会場でひっそりと展示されている。

 Blu-rayやHD DVDなどが非常に目立つ場所に展示されているのに対して、DLNA対応機器は、各ベンダのブースの奥まったところに展示され、来場者の注目を集めているとは言い難い状況だが、実は要注目の展示も少なくない。

 ここにも、デジタル家電が先行して普及する日本と、そうではない米国という差が如実に現れている。


●日本ほどは注目されていないDLNAの取り組み

 ブースを回ってみると目立つのは、間違いなく大画面HDTVだ。僚誌のAV Watchでチェックして頂ければわかるように、各ブースは大画面HDTVを競って展示し、半ばHDTVのショーケースと化している。

 既にお伝えしたように、今年のInternational CESの主要テーマの1つは“HD”であり、その再生プラットフォームとしてのHDTVは、来場者が熱心に質問する様子があちこちで見られるなど、いよいよ米国でも本格的なHDTV時代を迎えつつあることを実感できた。

 それに比べると、DLNAやWMC(Windows Media Connect)といったUniversal Plug and Play(UPnP)に対応したホームAVネットワーク機器は、どちらと言えばあまり目立たないところに展示されており、気付かずに通り過ぎてしまう来場者も少なくない。

●米国でのデジタル家電の普及度がDLNAへの興味の低さに影響

 それでは、なぜ米国ではDLNAやWMCなどのホームAVネットワークへの興味があまり高くないのだろうか? 日本でDLNA対応機器のミドルウェアを開発しているデジオンの代表取締役 田浦寿敏氏は米国でのデジタル家電の普及が、日本より遅れているのがその要因であると指摘する。「米国ではデジタル家電がまだ立ち上がっていない状況で、それとPCをつなごうというところまでユーザーの意識が進んでいない」(田浦氏)。

 確かに、そうした状況は米国の家電量販店に行ってみると納得させられる。米国の家電量販店では、そもそもDVDレコーダやHDDレコーダと呼ばれるレコーダ製品の売り場スペースが非常に狭い。しかも、その展示の大部分はTiVoという米国専用のHDDレコーダで、松下電器やパイオニアといった日本の家電ベンダのDVD/HDDレコーダも無くはないが、TiVoに比べるとあまり置いていないという状況だ。日本の家電量販店でDVD/HDDレコーダが所狭しと並べられている状況とは大違いだ。

 現在の米国では、家電とPCの架け橋となるDLNAやWMCに対応した機器に対して、ユーザーの興味があまり高くなくても致し方ないところだろう。ただ、多くの関係者は米国でも、徐々にこれらへの興味が高まっていくと考えている。

 「日本の市場でDLNA関連の製品が出そろうことで、シナジー効果がでてくる。DLNAの優位性はオープンスタンダードなことで、各社からDLNA対応製品が出そろっていくとともに、米国市場にも波及していくと考えている」(田浦氏)という声に代表されるように、DLNAに取り組む関係者が一致しているのは、まずは日本市場で立ち上げ、その勢いを米国市場に持ち込みたいという思惑であるようだ。

●東芝とパイオニアがDLNA対応のクライアント機能を内蔵したHDTVを展示

 では、今後どのような製品が登場してくるのだろうか。デジオンはInternational CESのブースで、同社のDLNAガイドライン対応製品向けミドルウェア「DiXiM」を採用した製品を多数展示し、実際に機器を相互に接続するデモを行なった。

 すでに同社製品は、NEC、富士通、シャープ、日立といった日本の大手PCメーカーのホームネットワークソフトウェアとして採用されている。また、テレビに接続しコンテンツをストリーム再生するDMA(Digital Media Adaptor)も、昨年末に発表されたシャープの「CE-MR01」、ソニーから発表されたルームリンクなどがDiXiMをベースで開発されており、さらに今回のCESではいくつかの開発途上のDMAも展示された。

 このほか、各社のブースでも、DLNAに関するデモが行なわれている。東芝は、すでに販売されている「LZ150」という液晶テレビ「FACE」をベースにした、DMA機能内蔵テレビのプロトタイプをデモ。LZ150シリーズでは東芝が「メタブレイン」とよぶ64bit CPUを中心としたシステムボードが内蔵しており、OSとしてLinuxが採用されている。高いCPUの処理能力を生かし、OSにDLNA対応のホームAVネットワーク機能を実装させたという。

 そうなると、将来的に現行機種にもこのような機能を追加できるのかが気になるところだが、東芝の説明員によれば技術的には可能であるそうだが、実際にアップグレードなどの形で提供するかどうかは未定であるという。

 このほかにもパイオニアがDMA機能を内蔵したプラズマテレビを展示した。パイオニアで展示されたのは、DLNAのメディアサーバーとメディアクライアントを内蔵したDLNAガイドライン対応のプラズマテレビ、Windows Media Connect(WMC)のクライアント機能を内蔵したプラズマテレビの2製品だ。WMCの方は、アドオンとして提供される形で、実際にアドオン用のカードも展示されていた。

 すでに日本市場ではシャープやソニーがDLNAガイドライン対応(予定)のDMAを発表し、今後はほかのベンダも続々と対応DMAを出してくる可能性が高く、次の焦点はいつのタイミングでテレビに内蔵されるか、という状況だ。

 「2005年には各社が続々とDMAを出してくる。また、HDDレコーダなどにも、徐々にメディアサーバーやクライアントが内蔵されていくことになるだろう。次のステップは2006年に向けてテレビにサーバー、クライアント機能を入れていけるかどうかという段階にきている」(田浦氏)との通り、今、家電ベンダの目はテレビへの実装に向きつつある。

 実際、デジオンでも松下電器の協力で、液晶テレビ「VIERA」にDMA機能を内蔵させたプロトタイプを、昨年10月に行なわれたCEATECや、今回のCESでも展示している。

 2006年夏に予想される「ワールドカップ商戦」では、HDTVの必須条件として、「DLNAガイドライン対応」が必須条件の1つとなっているかもしれない。

デジオンが展示した、ミツミと共同開発したDLNAガイドライン対応DMAのプロトタイプ。メディアプロセッサにシグマデザインズのEM8620Lを採用したDMA。OEMビジネスを狙った製品 デジオンが展示した、AboCom SystemsのDLNAガイドライン対応DMA。やはりメディアプロセッサにはシグマデザインズのEM8620Lを採用している デジオンが展示した、MiTACのDLNA対応DMA。メディアプロセッサはEM8620L
パイオニアは同社のハイエンド向けプラズマテレビのELITEシリーズ用の追加ボードとしてWindows Media Connectのメディアクライアント機能を搭載したボードを展示 こちらはDLNAガイドライン対応のメディアサーバーとメディアクライアントを搭載したプラズマテレビのデモ こちらはDLNAガイドライン対応のメディアサーバーとメディアクライアント機能を実装したホームAVサーバーのプロトタイプ
CEATECでも展示されていた、松下電器のVIERAにDLNA対応のDMAを内蔵させたプロトタイプ。現段階ではチューナボックスに内蔵されているが、将来的にはテレビ本体に内蔵できる 東芝が展示した、FACEのLZ150をベースにしたDLNAガイドライン対応テレビのプロトタイプ。「メタブレイン」と呼ばれる強力なアプリケーションプロセッサとメディアプロセッサを内蔵しているため、OSのバージョンアップだけで対応できたという
シャープのDLNAに関するデモ。同社のePCであるPC-TXシリーズにインストールされたメディアサーバーとDMA(CE-MR01)を接続してコンテンツを再生するデモを行なう DLNAとは関係ないが、日本では独自の10フィートUIを実装して出荷しているPC-TXシリーズに、Windows XP Media Center Edition 2005を搭載してデモ。ぜひ日本でも、アクオス用などに出して欲しいものだ

●韓国や米国のベンダもホームネットワーク関連ソリューションを展示

 DLNAガイドラインに対応したホームAVネットワーク機器という意味では、日本の家電ベンダからだけでなく、韓国や米国のベンダも出展している。ただ、日本の家電ベンダに比べると、その歩みはややゆっくりとしたものだ。

 その中でも最大のものは、韓国Samsungの展示だろう。Samsungでは一部屋をDLNAガイドライン対応デバイスの展示にあてており、DLNAの幹事企業の1つとしての意気込みが感じられる。

 Samsungが展示していたのは、DLNAのメディアサーバーとメディアクライアントを内蔵したリアプロジェクションテレビ、デジタルセットトップボックス、HDDレコーダなどのプロトタイプと、DLNA対応のメディアサーバー、メディアクライアントソフトウェアをプリインストールしたPCのプロトタイプなど。会場ではそれらを一堂に展示し、すべてが相互に接続できる、というデモを行なっていた。

 LG電子では、IntelのNMPR v1に対応したワイヤレス液晶テレビを展示していた。ベースステーションと液晶テレビ本体が用意され、液晶テレビははずして持ち歩く可能で、無線LANを利用してPC上のコンテンツなどにアクセスが可能になっている。ただ、IntelのNMPR v1は、DLNA未対応で、現時点ではDLNAガイドライン対応ではないという。ただ、将来的には対応する予定もあるとのことだった。

 このほか、米国のネットワーク機器ベンダも、いくつかのDMAを出展した。D-LINKはすでに米国で出荷済みの「DSM-320」の後継製品として、DVDドライブを内蔵した「DSM-320RD」、HDコンテンツに対応した「DSM-520」、80GBのHDDを内蔵したメディアサーバー機能を持った「DSM-5208R」などを展示した。

 DSM-320RD、DSM-520は、DSM-320と同じようにプロトコルにUPnPを利用したメディアサーバーソフトウェアをPC側にインストールすることで、PC内に蓄積したコンテンツを再生可能になっている。ただし、いずれもIntelのNMPR v1ベースで、DLNAガイドラインには未対応。

 NETGEARは「MP115」と呼ばれるDMAを展示した。MP115も、UPnPに対応したメディアサーバーソフトウェアがバンドルされており、これをPCにインストールすることで、PC内のコンテンツを再生できる。こちらも現時点ではDLNAガイドライン未対応。

 ソフトウェアベンダのインタービデオは、同社の10フィートUIベースのメディア再生ソフトウェア「Home Theater」の最新版「Home Theater 3」において、UPnPのメディアクライアント機能をサポートすること、さらにはメディアサーバーソフトウェアの提供を明らかにし、会場でそのデモを行なった。

 デモは、松下電器のDIGA(E500)にUPnPで接続してコンテンツを再生する様子や、メディアサーバーとHome Theater 3を接続してコンテンツを再生する様子などがデモされた。なお、いずれもIntelのNMPR(バージョンは不明)に基づいており、将来的にはDLNAガイドラインに対応する可能性もあるようだ。

 ただし、これらのソフトウェアは現時点では米国市場向けで、日本市場に関しては今後顧客の要求などを見極めつつという状況であるとのことだ。

Samsungが展示した、DLNAガイドライン対応のメディアサーバー、メディアクライアント機能を実装したリアプロTV Samsungが展示したDLNAガイドライン対応のホームサーバー。メディアサーバー機能を内蔵しており、動画、静止画、音楽などをストリーム配信できる Samsungが展示したDLNAガイドライン対応のデジタル放送チューナ。メディアサーバー、メディアクライアントの機能を内蔵する
LG電子が展示したワイヤレス液晶テレビ。テレビ部分を台座から取り外せる。UPnPのメディアクライアント機能を内蔵 DLNAとは関係ないが、ちょっと気になった製品がLG電子の「RM-6902」。DVD/HDDレコーダなのだが、「ネットワーク機能」を搭載。どのような機能なのかと聞いてみると、MicrosoftのWindowsネットワークのクライアントのこととのころ。つまり、Windows PCのフォルダをブラウズしてコンテンツ再生が可能 D-LINKのDSM-520。HDコンテンツに対応したDMA。UPnPのメディアサーバーソフトウェアをPCにインストールすることで利用できる
D-LINKのDSM-320RDは、DSM-320のDVD-ROM内蔵版 NETGEARのMP115はUPnPに対応したDMA。UPnPに対応したメディアサーバーソフトウェアをインストールすることで利用できる インタービデオのHome Theater 3は、UPnPに対応したメディアクライアント機能を持っている。インタービデオではメディアサーバーソフトウェアもOEMメーカーなどに供給する予定

●急速にではないが静かに進むDLNA、まずは日本で立ち上げ

 今回のCESで感じたことは、急速にということではないが、着実にDLNAの取り組みが形になっているということだ。

 確かに、HD DVDやBlu-rayのような目立つ展示はされていないが、DLNAのボードが家電ベンダ各社に置かれているという状況は、着実に家電ベンダの間にDLNAの取り組みが進んでいることを証明していると言ってよい。

 その反面、日本以外の地域、特に米国ではまだまだDLNAの取り組みが浸透していないことも事実で、日本の家電ベンダ以外は、UPnPベースのDMAだが、DLNAガイドラインには未対応というところも少なくなかった。

 デジオンの田浦氏が指摘するように、DLNAの普及は、まずは日本市場で試され、それが成功すれば、米国やそのほかの地域に波及していく、という形となる可能性が高いのではないだろうか。

□関連記事
【1月7日】【笠原】米国と日本でこんなにも違うリビングPCへの評価
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0107/ubiq90.htm
【1月7日】【CES】Intel CEO クレイグ・バレット氏基調講演
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0107/ces04.htm
【1月7日】【CES】ビル・ゲイツ氏 基調講演レポート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0107/ces02.htm

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(2005年1月10日)

[Reported by 笠原一輝]


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