■ 第277回 ■
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ThinkPad X31 |
もっとも、僕の使っているモバイルPCでさえ、購入してからもうすぐ丸2年を迎える。途中、NECの「Lavie J」に座布団バッテリを取り付けて使っていた時期もあるが、その期間を除けば「ThinkPad T40」と「X31」の組み合わせが海外出張、国内取材とも変わらぬ組み合わせ。X31は、荒っぽい使い方が祟ったのか、パームレストにヒビが入りT40をメインにしているが、最近は2kgオーバーの重さにも慣れてきた。
次々に新機種が出た頃には、評価も兼ねて3~6カ月に1度はモバイルPCを変更していた事を考えば、1年以上も物欲が湧かないというのは僕にとって異常事態だ。初代Pentium Mを採用したシステムが、いずれも粒ぞろいだったとも言えるわけだが、もしかするとバッテリ重視の運用をするならば、そろそろ新機種への移行を考えるべき時期なのかもしれない。
というのも、IntelのモバイルPCプラットフォームがSonomaに移行し、パフォーマンスが向上した反面、軒並みバッテリ持続時間では各社とも苦戦しているからだ。
●バッテリ持続時間は現世代が最長になる?
Intelが初代Pentium M/Centirinoをリリース以来、ユーザーからはバッテリ持続時間に関する不満をあまり聞かなくなったとメーカー担当者は口を揃える。システムの構成によって持続時間は異なるが、一般的な18650×6本のバッテリパックでの駆動時間は4~9時間。多くの製品が4~5時間程度という事を考えると、ヘビーモバイラーにはやや物足りないが、平均的なユーザーが不満を漏らさない程度のレベルには達しているといったところだろうか。
長時間駆動が可能なモデルの代表と言えば、松下電器のLet'snoteだが「R3F」の駆動時間は6セルで9時間、「W2F」が7.5時間、「Y2F」が7時間のスペック。ソニーの「VAIO type T」が、2.6A・時の高容量セルを採用して8.5時間で、このあたりが標準バッテリでの長時間バッテリ駆動モデルの代表格だ。
Let'snote R3F | Let'snote W2F | VAIO type T |
“そんなに長時間の駆動は不要だよ”という人もいるだろうが、バッテリは使っているうちに実効容量が減っていくものだ。完全放電と完全充電を繰り返す、ディープサイクルを施せばやや戻すといっても、1年もすれば初期の8割以下しかバッテリ容量がない事の方が多い。
つまり、ザックリと駆動可能時間を見積もると、JEITA測定法の値から15%引きぐらいで実働時間の見当を付け、その80%ぐらいの駆動時間を頭の中で描いておくと、後から残念な思いをしなくても済む(正式な評価を行なう時はきちんと計測するが、自分で機種を選ぶ時には割と幅を持たせて考えている)。
そんなわけで、ThinkPadの2台を使う場合、T40はベイバッテリとメインバッテリをダブル装着、X31はそのまま標準という状態で、必要に応じてもう1本、充電済みメインバッテリを持って出かけるのが僕の現在のスタイルだ。
ところが、この利用スタイルもSonama世代になると苦しくなるかもしれない。Sonoma世代のPCは、これまでに比べ軒並みバッテリ駆動時間が減っている。6セルバッテリで3.5時間などザラで、JEITA測定法で4時間ならば省電力だなぁと感じるほどだ。予備バッテリを常に持ち歩けばいいわけだが、容量が後々減っていく事を考えればもう少し余裕が欲しい。
よく言われているように、Sonomaプラットフォームで使われているAlvisoチップセットの消費電力が大き過ぎるというのが、メーカー技術者の率直な感想のようだ。いや、消費電力に対する不満を聞くのは、今回が初めてではない。これまでは不満を言いつつも、電源周りの設計から液晶パネルのバックライト、インバータに至るまで、さまざまな電力ケチケチ作戦をPCベンダーが積み重ねた結果、なんとかバッテリを伸ばしてこれた。
しかしそれも限界。現場からは「もしかすると現世代のシリーズが、バッテリ容量あたりの消費電力で最も低い時期かもしれない」との声も漏れてくる。
●わかっていた事とはいえ
もちろん、このことはずっと昔、Alvisoが登場する前からわかっていたことだ。何も驚くような事じゃない。とはいえ、この先を考えてみても、バッテリ駆動時間に関してあまり明るい話はない。
OEM筋、つまり何人かのメーカー開発者によるとAlvisoの次のチップセットCalistogaでも大きな期待は出来そうになく、プロセッサの面でも低消費電力プロセッサの先行きは怪しいという。
現行Pentium M、つまりDothanの次はYonahという事になっている。そのYonahは低電圧版の位置付けが現在とはやや異なるものになる。現在の低電圧版は薄型/小型のノートPCにも搭載可能な消費電力レンジに収まっているが、Yonahからはワールドワイド基準で言う薄型/軽量ノートPC。つまり14.1型クラスの薄型ノートPC向けのプロセッサへと位置付けが変更される。現在の低電圧版Pentium Mの位置付けは超低電圧版に近く、パフォーマンスと消費電力のバランスを考えた時にはややアンバランス。それを補正して、フルサイズ、薄型・軽量、ミニノート、という切り分けで、低電圧版を真ん中のレンジに持ってきたいのかもしれない。
一方、超低電圧版に関してはYonahでも現行Pentium M並の熱設計電力になる見込みだが、ひとつ決定していない要素がある。それは超低電圧版Yonahが、シングルコア専用のマスクで製造されるのか、それともデュアルコア版のYonahのうち半分の回路を無効にしたものになるのかだ。昨年秋のIntel Developers Forum Fall 2004の時点で、Intelはどちらを選択するべきかまだ決めかねていた。
というのも、デュアルコアのマスクだけで複数バージョンのプロセッサを作る方が、Intelとしては出荷プロセッサの管理をやりやすく、柔軟な戦略も採りやすいからだ。しかもテスト工数など付随するコストも大きい。
しかし消費電力だけで言えば、シングルコア専用マスクにした方が回路全体のリーク電流が減り、バッテリ持続時間は長くなる。超低電圧版Yonahの評価を行なっているPCベンダーの中でもバッテリ持続時間を重視するメーカーは、当然ながらシングルコア専用マスクでの製品化を希望しているようだが、最終的な決定はまだ連絡を受けていないという。ただ、純粋にビジネス効率を考えればシングルコア専用マスクの開発は効率が悪すぎる。
このような事情から、今後はバッテリ駆動時間が短くなる方向へと向かうだろうとの予測が出てくる。
●OEM調達製品のバッテリ駆動時間は延びる?
Lavie G Type J |
現在は消費電力面でのマイナスが大きいシリアルATAの採用や、内蔵グラフィックスのDirectX 9対応なども、長い目で見れば必要なことだ。PCI Expressに関しては賛否あるだろうが、これも大局的な流れから言えば逆らうことはできない。
現時点でモバイルワークに必要なノートPCがSonomaになる必要があるかと言えば、個人的には無いとは思うが、市場全体を見れば否定できない面もある。消費電力だけがすべてではない、と言えばそれまでだ。
幸い、バッテリ持続時間を重視したノートPCは、軒並みAlvisoではなくi855GMEを採用している。NECの新型「Lavie G Type J」がSonomaを採用しながらも6セル5.4時間というスペックを実現しているから、最新プラットフォームでモバイルPCを臨むならこの機種が最もバランスが良さそうだ。が、あくまでもそれ以上のバッテリ持続時間を望むならば、i855GME採用モデルがあるうちに買い換えるというのも選択肢のひとつだ。
もっとも、冒頭に挙げたような超低消費電力のモバイルPCは、現在すでにあらゆる省電力のアイディアが詰め込まれているが、OEM/ODM調達の製品にまでは、そうした工夫は行き渡っていない(だからこそ差があるのだが)。しかし、今後は低消費電力化の工夫も研究され、OEM/ODMベンダーの製品の低消費電力化は進むと考えられる。
そうした意味では、OEM調達でさほど省電力の工夫をしていないメーカーのノートPCは、プラットフォームの進化とともにバッテリ持続時間が伸びていく可能性はある(たとえばDellやHPの製品)。ただ、いずれにしろ現時点での“省電力キング”なモバイルPCを上回る省電力性を得ることはできないはずだ。
単に高性能なモバイルPCが欲しいなら、時間が経過するほどパフォーマンスが上がる事は自明だ。しかし、“バッテリ持続時間”を重視するならば、今年前半というのは買い換えのタイミングとして悪くない時期だろう。
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【1月19日】インテル、「Sonoma」こと新Centrinoプラットフォームを正式発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0119/intel1.htm
(2005年2月10日)
[Text by 本田雅一]