元麻布春男の週刊PCホットライン

PCとデジタル家電の境界線




●PCはリビングルームの一員となれるか?

 10月5日からの「CEATEC JAPAN 2004」、10月20日からの「WPC Expo 2004」をはじめ、10月19日に開催された「Intel R&D Day」さらには10月21日開催のフリースケール・セミコンダクタの「Smart Networks Developer Forum 2004」と、10月はさまざまなイベントがあった。

 これらのイベントで共通するテーマとしてフィーチャーされていたのが、「デジタルホーム」、あるいは「ホームネットワーキング」だ。PCと家電製品が同一のIPネットワーク上に共存し、互いにデータをやりとりできるようにしよう、というアイデアは基本的に正しい。

 だが、果たしてPCはリビングルームの一員として認めてもらえるのだろうか。単に家庭のLAN上でPCと家電製品が共存するだけなら、何もPCはリビングルームに入り込む必要はない。PCは基本的に現状のまま、ただネットワーク上に存在すればそれで用は足りる。

 しかし、リビングルームの一員として、さまざまなAV機器と肩を並べたい、肩を並べられるような新しいPC像を築きたいというのであれば、話は別のように思える。PCと家電製品は、極めて異なる製品であるからだ。それは単純に見た目がどうのとか、冷却ファンの騒音がどうの、といったスペック上の問題ではない。両者のエコシステムの違いにある。

CEATECで講演した米Intelのルイス・バーンズ副社長 同じくCEATECでデジタル家電とPCの融合をテーマに講演したマイクロソフト最高技術責任者の古川 享執行役

●家電製品とは異なるPCの寿命

 AVを含む家電製品のカタログや製品付属のマニュアルには、必ずといっていいほど、補修用性能部品の保有期限が明記してある。「当社は、HDD&DVDビデオレコーダーの補修用性能部品を製造打ち切り後、8年保有しています」。これは筆者の手元にある東芝製DVDレコーダーのマニュアルに書かれているものだが、同様な記述がいわゆる家電製品のカタログやマニュアルには必ずあるハズだ。

 こうした記述は、不当景品類及び不当表示防止法の第10条に基づく公正競争規約として、社団法人 全国家庭電気製品公正取引業議会が定める「家庭電器製造業における表示に関する公正競争規約(製造業の表示規約)」に基づいたものだ。

 この業界の自主ルールが適用される品目については規約の中に明示されているが、最も長い電気冷蔵庫やエアーコンディショナーで9年間、最も短いヘアーカーラーやアイロン、トースターで5年、AV機器のうちカラーテレビやステレオが8年、ラジオやテープレコーダーが6年といった具合に、補修用性能部品の保有期間が定められている。

 平成12年11月24日に改正された製造業の表示規約には、DVDレコーダーのようなデジタル家電は含まれていないが、上述のように東芝は、DVDレコーダーの性能部品の保有期間について、TVやステレオに準じるものとして扱っていることになる。

 それではPCはどうか。DVDレコーダーが規約にないのと同様、PCも上記の規約には含まれていない。が、いわゆる自作やホワイトボックスはともかく、大手ベンダ製のPCには、DVDレコーダーと同様、補修用性能部品の保有期限が記されていることが多い。たとえばNEC製のPC(LaVie J)の保証書には、製造終了後6年間、保守用の部品を保有することが明記してある。この点では、PCも家電製品もそれほど大きな差はない。

●保守部品があっても利用は困難

 問題は、保守という観点からみた寿命ではなく、実際に製品を利用可能な寿命だ。性能部品の保有期間が製造終了後8年となっているカラーテレビの場合、8年どころか10年くらい使われる例はおそらくそれほど珍しいものではない。

 しかし、保守できたとしても6年前のPCを使い続けるというのは、かなり難しい。今から6年前、'98年のPCというのは、デスクトップPCでPentium II(Deschutesコア)かCeleron(CovingtonあるいはMendocinoコア)プロセッサの時代。ノートPCではモバイルMMX Pentium(Tillamookコア)の時代である。

 動作クロックも200MHz~300MHz程度で、Windows XPの推奨値(300MHz以上)ギリギリだ。わざわざメーカー修理に出して、有償修理をする価値があるか極めて疑わしい。おそらく、重要な業務システムの一部に組み込まれており代替が難しい、といった理由でもない限り、6年前のPCを修理してまで使用することはないだろう。

 要するに、家電製品に比べPCは陳腐化の速度が速く、すぐに買い替えが必要になる。が、デジタルホームの時代に合わせて、PCのライフサイクルを延長しよう、という具体的な動きはほとんど見られない。

 基本的にPCは2~3年で買い換えるエコシステムで動いており、特に企業向けのクライアントにおいてはIntelやMicrosoftがPCを3年程度で買い換えることが最も効率的であると推奨しているほどだ。

 少なくとも現時点では、家庭向けと企業向けでビルディングブロック自体は変わらない(CPUやチップセットは同じ)ことを思うと、デジタルホーム向けのPCであっても3年程度の買い替えサイクルが望ましいに違いない。

 この2~3年で買い替えというエコシステムがベースにあるからこそ、Microsoftのプロダクトライフサイクルにおけるメインストリームサポート期間は5年と定められているのだとも考えられる。

●サポート期間が短いWindows XP MCE 2005

 メインストリームサポート期間の5年という長さは、家電製品の性能部品の保有期間に比べると短い。企業向けの製品に対しては、メインストリームサポート期間の5年が終了した後、さらに5年間の延長サポートフェイズが提供されるが、コンシューマ向けにはそれは提供されない。

 先日「Windows XP Media Center Edition 2005」が発表されたが、通常のWindows XPに延長サポートフェイズが提供されるのに対し、MCEには提供されないという違いがあるから、一概に廉価なWindows XPとは言えない側面があることを覚えておいた方が良いかもしれない。

 それにも増して重要なのは、Microsoftのサポートが、製品の発売日、それもシリーズ製品の場合、最初の製品が発売された時点を基点とする、ということだ。

 たとえば2001年の第4四半期にリリースされたWindows XPのメインストリームサポートフェイズは2006年12月31日に終了する。Professional Editionについては延長フェイズが2011年12月31日まで提供されるが、Home Editionについては延長フェイズがないため2006年12月31日で公式なサポートは終りとなる。

 そして発売になったばかりのMedia Center Edition 2005も、メインストリームサポートフェイズは2006年12月31日で終了するハズであり、延長フェイズの提供はない。

 メインストリームサポートフェイズの終了後、Microsoftがどのようなサポートを行なうのか(サポートフェイズが終わってもパッチ等のリリースを続けるかどうか)は、市場の動向等を見て決めることになっており、必ずしもメインストリームフェイズの終了、即サポート打ち切りとは限らないのだが、サポートを受けられる「保証」があるのはあくまでもメインストリームフェイズの終了日までだ。

 そういう意味では、Media Center Edition 2005は、2年2カ月のサポート期間しか保証されない製品として世に出てきたことになる。

●PCはPCとして売るべき

 こうしたサポートの問題まで考えると、OSも含めたPCが家電製品とはまったく異なったエコシステムに立脚していることは明らかだ。メーカーが性能部品を6年間保持していたとしても、重要なパーツの1つであるOSが発売から5年以上を経過し、重大な欠陥が明らかになっていたとしたら、そのPCを使い続けることはできるだろうか。

 今年Windows XP Home EditionがプリインストールされたPCを購入した場合、OSのメインストリームサポートフェイズが終了するのは2006年12月31日、ハードウェアの性能部品が6年後の2010年末まで保有されていたとしても、あまり意味がないかもしれない。

 断っておくが筆者は、PCをリビングルームに持ち込むことに対して否定的なわけではないし、そのもようはこのコラムで掲載している。実際、過去に持ち込んだこともある。筆者が否定的なのは、PCを家電のように装って売り込もうとすることだ。

 PCを家電として売るのであれば、PCに家電と同じ水準の性能保証をし、同じ水準のアフターサポートを提供しなければならない。そうでない以上、PCはあくまでもPCであって、PCとして販売する必要がある。ユーザーもPCとして接し、PCとして取り扱う必要があるハズだ。

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【2003年6月10日】マイクロソフト、Windows 98などサポート期限に関する説明会を開催
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0610/ms2.htm

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(2004年11月1日)

[Reported by 元麻布春男]


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