西川和久の不定期コラム

大人の休日“h_fujiwaraさんDACキット配布終了!? 突撃インタビュー”



PCM61P 8パラDAC

 本連載でもお馴染み、h_fujiwara氏が突然のDACキット配布終了宣言! 今年2月10日にPCM61P 8パラDACの工作記事を掲載して以来、筆者は随分お世話になったので、インタビューをお願いし、約10カ月間の配布活動などについて語って頂いた。

 ただし大阪・東京間と言うこともあり、特設の掲示板を用意しチャットの様な雰囲気でやり取りしたものをまとめている。予めご了承頂きたい。

Text by Kazuhisa Nishikawa


●DACを作りだしたきっかけは!?

【西】 DACの自作をはじめたきっかけを教えてください。

【藤】 秋葉原の秋月電子という店で300円/個で売っているDAC(PCM58P)を見つけて、安いので一度作って見ようと思ったのが最初です。作ってみると単なるシリアルのデジタルデータから音楽が出てくるところがおもしろくDAC作りにはまってしまいました。最初は、ステレオだからデジタルフィルタも2個いるんだろうとな、とんちんかんなレベルでした。

【西】 技術的な勉強とかはどうされたのですか?

【藤】 もともと電子工作を小学生からやっていて、トランジスタ技術という雑誌を片手に色々と回路を作っているうちにアナログやデジタルの知識が自然に身についたようです。もちろんDAやAD変換器なんかも組んだことが有りますから、オーディオDACの場合でも、ICの仕様書をみて一度作って構成を確認してしまえば、こんなもんか、といった感じでした。

【西】 アンプなども自作されている様ですが、簡単に構成を教えて下さい。また、現在の構成に落ち着くまで何年、何台程度かかりましたか?

【藤】 現在のアンプは至って一般的な構成で電源にトロイダルトランスを使い、回路はバイポーラの差動入力SEPP(Single Ended Push-Pull)です。たぶん教科書に出てくるような回路ですよ(笑)。あとアンプはたまに違う用途で使いますので出力には保護回路は必ずいれています。スピーカのネットワーク用のコイルを電磁石として動かしてポケットピカチュー(歩数計)を1週間で100万歩達成させたことがあります。子供には大受けでしたよ(笑)。ただし、連続出力20W以上なのでアンプは完全にヒータと化しました。

 自作オーディオをはじめて8年くらい経ちますが、アンプはこの間で10台くらいつくりました。いまは3WAYのマルチシステムなのでアンプが6チャンネル分いりますので、新規製作は腰が重いです(体重もありますが)。その点DACは簡単なのでこの8年で30台くらい、やっちゃいました。

【西】 凄い数ですね。メーカー品を使わなくなった理由は何ですか?

【藤】 単に作るのが好きなだけなんです。メーカー品を使わなくなったというよりCDプレーヤー以外はほとんどメーカー製を使ったことがないんです。メーカー製が嫌いというわけではなく、それどころか関西に本社のあるオンキヨーは大好きで(関西びいきです)、一時期すべてオンキヨーのコンポで揃えていたときもありました。

 ただ、メーカー品はフルサイズ(40cm幅以上)なので居住環境も手伝って2年で手放しました。それに自作ですと自由なサイズで作れるのも魅力ですよ。メーカーのアンプとCDプレーヤーの2台しか収まらなかったラックには、今はアンプやDACを含めて8台が入ります。そのかわり裏側の配線はまるで樹海です。

【西】 8年間で30台ほど作ったDAC、ヤフオクにはじめて出展したのは何台目なのですか?できれば構成なども。

【藤】 一時期不要なものはすべて処分する方針をとりましたので、1台目から出品しました。はじめて出したものの構成はPCM58(18Bit)をシングルで使ったもので、入力は光と同軸で4ch、出力も同軸出力付き。2トランス構成で1.5mmのアルミシャーシ(手作り)に入れたものでそれなりにしっかりしたものです。

 パネルには周波数インジケータをつけるなど1号機だけにこだわりました。7,000円くらいで落札された記憶があります。たぶん2,000~3,000円だったらいい方だろうと思っていましたので結構びっくりしました。

 ちなみに2号機はさらにデジタルアッテネータとディスクリートのヘッドホンアンプを追加した物量型で、これは10,000円以上で売れたと記憶しています。

 その後も3号機ではじめてPCM1710(20Bit)を使い、6号機ではPCM1738(24bit)、とずるずる続いていきました。さすがにそろそろ打ち止めにしようとして10号機ではPCM1702(20bit)を2パラにして3トロイダルトランス、OSコン、OPA627など物量投入して10万円近くかかったものを作りまして、これが現在の自分用のリファレンスになっています。

 これで終わればよかったんですが、この後にPCM61P(18bit)が共立電子産業で150円で売っているのを知って、たくさん買い込んだのがその後のキット製作につながってしまったのです。

【西】 DAC作りにドッポリはまった感じですね(笑)。ちなみにメインになっている10号機まで何カ月(何年?)ですか?

【藤】 たぶん1年くらいだったと思います。平均すれば月に1台のペースくらいです。ひどいときは週に1台のペースのときもありました。なんか憑き物に憑かれたようですね。でも最近の西川さんのDAC製作ペースも同じようなものでしょう?

【西】 私は2カ月に1台かな? 市販品の改造まで入れるともう少し数増えますけど(笑)。

 ヤフオクでいろいろな自作DACを出されていたのは知ってました。中でも一番印象に残っているのはPCM61P 32パラです。あれを作られた経緯など教えて下さい。

【藤】 知人にすごい人がいて、PCM56Pで64パラを製作されたというのを聞いて、がぜん自分もやって見たくなったんです。それが前述のPCM61Pを大量に買い込んだ理由なんです。

 しかし、いざ作る段となったときに、64パラだとIV変換のオペアンプの駆動力が足りないということとが判ったのと、やはり知人に敬意を表して32パラに留めたのです。とにかく多パラをやってみたい! それだけでしたね。

 しかし、半田付け多くて無茶苦茶面倒でした。とくにDACのパスコンは計256個以上取り付けなければなりません。半田付けとリード線の切断作業が延々と続き、もうほとんど半田付けロボット君の状態です(なんでこんなことやってんだろうと、全然楽しくないです)。これを教訓にDACキットのパスコンはリード線のないチップ部品をつかうようにしたんですよ。

【西】 作るの大変だったのですね。しかし、その割にはあっさり手放してしまったのは何故ですか? メインのPCM1702 2パラと比較して音がイマイチだったとか? またはほかの理由ですか?
PCM61P 32パラDAC
PCM61P 32パラDAC
これがヤフオクに出たときにはけっこう話題になった。結果的にかなりの金額で落札された様だ。しかしこのPCM61P 32パラDACが後のキット配布のきっかけとは、その時は思いもしなかった。

【藤】 音は中音域に張りのある元気一杯の音で楽しく音楽が聴けるDACでした。ただCD-ROM+HDDのコンボドライブの鉄ケースを流用したので、ほかの機器とのサイズの統一性がとれなかったのです。

 もちろんパネルは5mm厚アルミのヘアライン加工(といってもヤスリでけずりました)で質感もバッチリでしたので単体では全然問題なかったのですがね。一度オフミにもデビューさせましたので、まあいいかって感じです。それに、まだまだPCM61Pが手元にあるので、また次作れると思いましたから。

【西】 サイズの問題だったのですか(笑)。

●キット販売をはじめた理由

【西】 そろそろ本題のキットの話題に移りたいと思います。キットにしようと思ったのは何故ですか? 一発目の8パラはなかなかセンセーショナルでした。

【藤】 キットを思い立ったのがいくつか理由があるのですが、最大の理由は手持ちの100個以上あるPCM61Pをなんとかしたかったことですね(笑)。

 先のDACは64パラあるいはそれ以上にしようと思っていたのですが、32パラになったので大量に余ってしまった。今後ちまちま作っても消費しきれませんよね。

 それと、それまでオークションにDACを出すと結構な値段で落札されたのですが、なんか申し訳ない気がしていたんです。DACの製作って、そんなに難しくないんですけどね。それで、なんか手軽に出来るキットを出したら受けそうな気がして、作ってみたんです。

 最初の8パラの第一ロットは30セットでしたが、売れ残っても趣味と思えば痛くない範囲ですし、気長に3カ月ぐらいかかってすべて売れればいいほうだろうな、とは思っていました。が蓋をあけると予想に反して1週間ですべて売れてしまいました。ちょうど西川さんもこのとき手にされましたよね。

 それに気を良くして第二ロットは40セット作りましたが、ちょうど西川さんの製作記事と重なって、即日完売の勢いでした。今だから言えるのかもしれませんが、最初はキットの内容を記事にしていただけるということでなにかの雑誌かと思ってワクワクしていましたが、PC WatchというWeb媒体と聞いて、「知らないな~見てる人いるのかな?」とちょっと残念だったんです。いや~、多くの読者を抱える媒体だとは、あとで知りました。

【西】 なるほど、キットを出したのにはそういった背景があったのですね。あの8パラは個人が出したものとは思えない程完成度が高く驚きました。第二ロットはリアルタイムでヤフオクを見ていたのですが、あっという間に完売で私もビックリしましたよ。

 この時もそうですが、新しいDACをリリースした直後は、荷物を出したり、入金管理とか大変ではないですか? 睡眠時間無いのではとか、仕事休んでいるのでは、などと心配してました。

【藤】 確かにリリース直後は、私の部屋は戦場になります。金曜日の夜9:00に注文受付を開始すると2分間くらいで50通くらいのメールが来ますし、日が変わるまえに100通前後のメールが到着することもありました。そうなると梱包や宛名書きで丸半日はかかりますね。荷物を宅配便の集積所にもって行くのも一苦労です。ただし週末に忙しくなるようにリリース時期を調整してますので、会社を休んだりはしたことは一度もないですよ。

 半年も続けると、キット配布のノウハウもつかめてきて、あまり時間がかからなくなってきました。入金管理も、振り込み頂いた方が1週間分以上たまってから名前を50音に並べておいて、注文書と比較していけば案外簡単です。すぐに比較できるように名前にふりがなを必ずつけてもらうようにしています。また注文書を素早く印刷して残すためにも、レーザプリンタも買いましたよ。といっても20,000円程度の安物ですが。

NOSDAC
NOSDAC
標準はPCM61P 2パラ。音を出している最中にスイッチ1つでnon-oversamplingと8倍オーバーサンプリングの切り替えできるのが特徴だ。オプションで4パラ化も可能である。このコンセプトが受け爆発的にヒットした。また筆者はこれがきっかけでnon-oversampling DACばかりを作ることになっている。試しに何も知らないオーディオ友達2人に音を聞いてもらったが、2人とも百発百中でどちらかを言い当てていた。
【西】 いろいろなノウハウがあるのですね。会社を休んでないと聞き安心しました(笑)。

 8パラの後、名作とも言えるNOSDACをリリースされてますが、これは何故作られたのでしょうか? またnon-oversamplingに軽いLPFは批判的な意見も多いようですが、この点はどうお考えですか?

【藤】 NOSDACは2作目ということで、まだまだ配線パターンが稚拙でしたが、ネーミングとその内容が受けたようで、私としても一連のDACシリーズの一番の作品と思います。

 NOSDACを製作した趣旨は明確で、巷でNOS(Non-oversampling)がいいと言われていますが、本当にNOSとOs(Oversampling)が違うのかをスイッチ1つで切り替えて確認してもらいたかったのです。

 そこで、「全然違いが判らないよ」という答えを期待して、もっと音に対して客観的になろうよ、ということを言いたかった挑発的な作品だったんです(いまなら言える)。

 いかんせんオーディオは主観の世界なので、NOSがいいと言われても、それがNOSによる効果なのかそれともその他の回路の効果なのかを明確にしないまま、単にNOSがよいというのは、技術屋の自分としてはあまりにも納得できなかったのです。

 しかし、いざNOSDACでの評価を聞いてみると「NOSの方が断然いい」という声が多くて、なんか自分の駄耳ぶりをだけを公にしてしまったような感じになってしまいました。私の場合は100%の自信をもって「違いが判らない」と言えるのですがね(笑)。

 また、NOSで軽いフィルタを入れると理論的には折り返し雑音が多く出ますが、オーディオ装置は計測器ではないので、普通の音楽信号を扱う上でそれらの雑音が問題になることはないと考えています。

【西】 NOSDACにはそんな気持ちがこもっていたのですね。私はまんまとはまってしまい、手持ちのnon-oversampling機は5台あります(笑)。まぁDFが無い分、部品点数が少なく組み易いからという話もありますが……。

 3作目は「お勉強DAC I」でしたね。私は正直、ちょっと外したかな? って思いました。

【藤】 ははは、見事にはずれました。お気軽な構成で光+同軸入力構成に加えて24BitDACというコンセプトで、音質そのものよりも機能を楽しむことを前面にだしましたが、逆に音はあんまり良くないのでは? と思われたようでした。

 音も結構いいのですが、加えて趣味性にも欠けたんでしょうね。他のDACを購入された方からも「オーディオマニアは音がよくなる方向でないと絶対に買わないよ」というアドバイスが身に染みました。本当は、このお勉強DACを定番にしていこうと思っていたのですが、完全にはずれ。ニーズを掴むのは難しいですね。最後は原価を大幅に割ってようやく売り切ることができました。

 本当は8パラ、NOSDAC、お勉強DACとDAC三兄弟を出品して終了する予定だったのですが、いかんせんお勉強DACが不調なので、このままでは不完全燃焼です。そこで最後に一発どでかいDACをつくってやろうと企画したのがDAC8Dです。
お勉強DACⅠ
お勉強DACⅠ
3作目。PCM1716を使い、マイコン制御にも対応した多機能なDACだ。しかし、筆者の悪い予感は的中。最後まで残ってしまった。

【西】 やっぱり……。マーケティング的にも今DACキットを欲しい人は、昔いろいろ自作してたけど、仕事や家族を持ち、気が付いたらこの歳になっていた……って感じの層なのです。なので、作りたくなるようなキャッチーなコピーが必要です。パラ、差動、non-oversampling、これは! と言うDAC-ICとか。機能じゃないと思います。

 そして次が最後の予定だった「花火DAC」(最後の打ち上げ花火と言う意味)=DAC8Dは、高価な割りに瞬殺だったと。

DAC8D
DAC8D
PCM61P 8パラ差動で計32個のPCM61Pを使用。NOSDACで好評だったnon-oversampling/8倍オーバーサンプリング切り替え機能も搭載している。
【藤】 DAC8Dは元々40セットしか作らなかったということもありますが、メールで「次作は何ですか?」という問いに、つい答えてしまって、「じゃあ、予約お願いします」という感じでどんどん減ってしまいました。結局オークションに出たのは25セットだけでした。オプションをすべて揃えると4万円以上しましたが、夜に出品して未明に無くなりましたでしょうか。

 しかし自分でも、あれば二度は作りたくないですね。DAC-ICだけで32個もあり、200mm四方の大型基板が2枚に80VAのトランスなんて……部品多すぎです。たぶん、購入したけど作っていない人も結構多いんじゃないかな? まあ、あれだけ物量型のDACを作ったらもうお腹一杯です。

【西】 そう言えばキャッチーなコピーの中に「リクロック」もあげられると思いますが、これについては考慮したパターンにはなっているものの、標準では全て対応していませんね。何故ですか?

【藤】 いわゆる非同期リクロックはデータ欠落の欠点とジッタ低減の長所がありますが、私としては前者の問題があり、効果はかなり限定的ではないかと思っています。そのため、基板のパターンとしてリクロックは考慮するものの、対応にするのは控えています。まあ、リクロックは自分自身でやったことが無いので食わず嫌いの面は否めませんがね。

【西】 丁度この時期からHPができましたね。ヤフオクだけの頃と、どんな違いがありましたか? 個人的には写真館のコーナー大好きです!

【藤】 HPをつくるきかっけは、複数のキットを扱いだしたためにオークションのように1品1件では処理があまりにも煩雑になるためです。

 もちろん製作マニュアルやバグ情報の発信としてもとても重宝です。特にマニュアルは最初は紙でしたがあまりにもコピー費用がかかるので途中でCD-Rにしました。それでも焼き付けの時間がかかるし、更新となったら大変です。その点HPへのマニュアル掲載は一度で済みますし、更新もずいぶん楽になりました。

 しかし、なんといっても掲示板の役割はずいぶん大きく、多数の方の情報の共有の場となっているようです。

 ただ、HPの充実につれて「HPを楽しく拝見しています」というメールもたくさん頂きます。そうなると、更新もしなくっちゃという気になって逆にメンテに時間がかかるようにはなっちゃいましたね。

 あと、写真館はいいでしょう!(たしか西川さんの提案でしたね)。自分の作った基板がバリエーション豊かに活用されているのを見ると、とても幸せな気分になります。逆に自分の作品が貧弱に見えてしまいますが(笑)。

【西】 本来DAC8Dが打ち上げ花火で終わりの予定だったのが、それ以降の方が一杯出てますよね。DAC以外のものもけっこうありましたし。この辺りの事情を教えて下さい。また、製品を考える時にはユーザーの声とかを反映しているのでしょうか? それとも自分が欲しいものを作られているのでしょうか?

【藤】 DAC8D終了後も最高性能のPCM1704(24Bit)を使ったDACも出して欲しいとの要望も結構もらいました。そのためニーズがあるのなら、もう一丁やって見るか! という気になってしまったんですよ。このあたりは、ユーザーの声を反映していますかね。それにPCM1704は、まだ作ったことが無かったので挑戦してみたかったことも要因の1つです。

 このころから、DAC以外にもアンプ基板を出しはじめましたが、すべて自分で何度も組んだことのある回路でヘッドホンアンプやプリアンプ、パワーアンプ等に使っていました。アンプ基板は汎用性があり、使い回しもできますから今後も数を必要とすることがあるだろうと思い、自分用のためにも基板にしたんです。

 まあ基本的には、自分の欲しいもの、やってみたいものを基板にしていますね。でも、自作オーディオを趣味とされる同じカテゴリーの方ばかりですから、自分の欲しい物はほかの人も欲しいという式が成り立つような気がします。
DAC1704S-N
DAC1704S-N
PCM1704シングルDAC。オペアンプもシングルを使い高性能のDACが安価に作れるとして人気が高かった。ただSSOPが多いため難易度は最高レベル。失敗することも多いらしい。この頃から筆者は諦めモードに入る。

【西】 PCM1704はやはり受けましたね! しかも安い。24bitに関しては市販品のDA48やOdeon-Liteを持っていることもありパスしました。SSOPも苦手ですし……。個人的には電源キットを三端子レギュレータではなく、もう少し凝ったのが欲しかったです。

 そう言えば、この時期からキットではなく、基板+主要パーツになってますね。これはパーツ交換率が高いからなのでしょうか? また、途中からフェニックスのRコアトランスが標準オプション的な扱いになりましたが、これは音質ですか? それともカスタマイズ性からですか?

【藤】 折角、人が苦労して抵抗やコンデンサを袋詰めしても90%以上の人が使わないんですよ。ほんと、失礼な話(笑)。

 たぶん西川さんの改造しまくりの記事の影響もあるんじゃないでしょうか。一応安いキットとはいえ、アナログ部には金属皮膜抵抗やフィルムコンデンサを使うなど気をつかっているんですが、さすが1個10円くらいのものだと心理的にも敬遠されるんでしょうね。

 結局のところ主要部品のみでよいとあれば、こちらとしても部品詰めの手間も省けますし、購入する側もキットが安くなりますから一石二鳥なんですけどね。ただ、部品の店頭購入が困難な方や、本当に初めてDACキットを作られる初心者の方を排除しているようで、すこし心苦しかった点はあります。

 フェニックスは西川さんから教えてもらったものですね。ユーザーからの特注に応えてくれますので、1個のトランスでDACのすべての電源をまかなえるのが便利です。それにRコアは漏れ磁束も少なく、小型化に適しているので実装も便利ですよ。ただ、小型といっても数有ると重いので、いつも運んで頂く運送屋さんに気の毒で、「重たいな~腰悪するわ~」と言っておられました。

【西】 あっ、聞き忘れていました。開発環境などを教えて下さい。また、海外からの注文はありましたか?

【藤】 基板のCADは相当古い物で、たしかWindows 3.1頃のPROTELというソフトを入手して使っています。古いためかベタアースの描画機能がなくて、すべて手動で書いているので面倒です。またWindows XPで使うとよく一般保護エラーが出てしまいますので、頻繁な保存が欠かせません。あと動作確認には20MHzのオシロとテスターですね。回路図は方眼紙の上で手書きしてますので、紙と鉛筆があればOKです(笑)。

 海外からの注文はないです。べたべたの日本語HPではだめですよね。それに、どうやったら海外へ発送できるか、また入金をしてもらうかの知識がないので、逆に来てもらっても困りますし。

●配布終了に向けて

【西】 そして最後(?)がPCM1794=お勉強DAC IIを使ったDACですね。これは声が多かったからですか? それとも自分が欲しかったからでしょうか? また、DAC8D以降は差動が増えてます。何故か教えて下さい。

お勉強DAC II/DAC1794D-N
お勉強DAC II/DAC1794D-N
PCM1794をモノモード2パラ差動で使用する最新鋭のDACである。当面安定供給か、と思っていたところに突然の配布終了のアナウンス。眼を疑った人も多いだろう。筆者はDAC8Dの前からこれで終わりの予定……と何度もお聞きしていたので、驚きはしなかったものの、寂しい気分で一杯である。
【藤】 PCM1794は1個約2,000円と安いICですが、デジタルフィルタと差動出力を持ったCP比の高いDACです。スペック上も単体DAC-ICのPCM1704を越えていることもあり、1度作ってみたかったんです。ただ、単純にPCM1794を1個だけ使ったDAC基板ではおもしろみに欠けるので、モノラルモードにして2パラ差動型にして、すこし自作オーディオマインドをくすぐるようにしました。

 パラ化や差動というのはS/Nをあげる常套手段なのですが、コストがかかるのでメーカーでも数は少ないと思います。反面、自作では何でもありですから、よくなりそうな機能はできるだけ入れるようにしてみたのです。私の耳では違いがわからないかもしれませんが、NOSDACの件もあり、みなさんは違いがおわかりになりそうなので。

 あと、PCM1794を使うとコストの割に音も良いですし、最近のICということもあり供給面では当面心配なさそうなので、実はお勉強DAC IIを定番にしたいと思っていたんです。

【西】 なるほど。実際評判もいいですね。SSOPってのが辛い人も多いと思いますが。そういった意味からはPCM61P系も残しておいて欲しかったような気がします。

 また、「実はお勉強DAC IIを定番にしたいと思っていたんです」とおっしゃっているものの、その割には終了宣言が早かったような気がします。これは予定通りだったのですか? それとも何か理由があるのでしょうか?

【藤】 PCM61Pは、店の在庫を全部買っちゃいましたからもうあの値段で手に入らない限り復活はないでしょう。いま、ざっと計算しましたが購入したPCM61Pは約7,000個。いや~たくさん買ったものです。最初、店の人には業者と間違えられてしまいました。ICの小型化は時代の趨勢ですから、自作をする限りSSOPの半田付けくらいは必修科目と思ったほうがいいですよ(笑)。

 終了宣言をしたのは、私の環境が少し変わってきて、今後は週末に時間がとれそうにないのです。そのため、発送が遅れたり、サポートができない事態がでそうで、中途半端に続けてご迷惑をかけるよりかは、いっそのことDACの配布をやめてしまうことを決めたのです。新規開発無しで定番の基板のみをリピート配布するだけでも、入金管理とかを含めるとそれなりの時間がかかるんです。

【西】 PCM61Pを7,000個!! 絶句(笑)。配布終了はそういう事情だったのですか。さすがに週末時間が作れないと辛いですもんね。そう言えば、最後の自分専用のハズだったPCM1704 4パラ差動、結局基板だけの配布はするみたいですね。

【藤】 PCM1704の4パラについては、本当は私自身のDAC製作の区切りとして製作して、あとは見せびらかすための物だったんです(笑)。でも、メールで配布希望の声も多く頂き、これまでのご愛顧もありますので、基板配布の最後の最後として作ることにしました。ただ、これを作ると散財間違いなしですから、お気をつけくだいとの注意書きが必要ですね。

【西】 PCM1704-4パラ差動の写真見ました。かっこいいですね! ホ・シ・イ! しかし、PCM1704×16個……まともに作ると10万円を軽くオーバーするので無理です(泣)。
PCM1704-4D
PCM1704-4D
PCM1704 4パラ差動、non-oversampling/8倍オーバーサンプリング切り替え付き。氏の最後の作品となるのだろうか!?

 ところで、最近、h_fujiwaraさんに刺激されてか、数人の方がDACのキットや基板+主要パーツの配布を始めてますね。記事にも書きましたが、市販品には無い独自の世界を作り出していると思います。この点、張本人としてはどうお考えですか?

【藤】 私が張本人かどうかはわかりませんが、こういう活動が自作オーディオを盛り上げる一助になることは間違いないですから、とてもうれしいですね。メールでも「眠っていた自作オーディオの熱に火がつきました」という方も多いようですし。

 ちょうどコンピュータの世界で言えばフリーソフトやシェアウエアのようなもので、その苦労からすれば得られる対価は低いものと言わざるをえないでしょう。しかし、自分の作ったものを人に使ってもらえるというのは、とてもうれしいものです。是非とも継続してもらいたいと思います。途中でドロップアウトする私が言っても、あまり説得力ないか(笑)。

【西】 最後にこれまで配布してきて嬉しかったこと、悲しかったこと、失敗談とかあれば聞かせてください。後、配布に名乗りをあげている方にアドバイスとか。

【藤】 やはり「動きました。すごくいい音で鳴ってます!」という喜びのメールを頂くのが一番嬉しいですね。逆に「動かないんです……どうしたらいいでしょう」というメールも頂きました。色々とアドバイスをするのですが、現物を見ずにやりとりするわけですからなかなか完動までいきません。そして、そのままメールも来なくなる。こういった事態が一番悲しかったですね。特に後半のDACではSSOPのICを多用したので製作トラブル続出でした。

 あと驚くことに1,000回程度の取引がありましたが、未入金等のトラブルはゼロでしたね。この点は自作オーディオファンの善意に感謝です。失敗らしい失敗はあまりなかったですね。もちろん基板の試作過程でミスが発生することはたびたびありましたが、これは想定範囲です。

 逆に一番面倒だったことは、異物の混入でした。ある店から通販で小さいフィルムコンデンサを買って、小分けにして袋詰めにしている途中で、違う値のコンデンサが紛れていることに気づいたんです。そうなったら、いままで袋詰めしたものをすべて再度開封して、チェックする気の遠くなる作業がありました。もう丸1日つぶれましたね。

 店には、思いっきりメールで文句を言いましたが、そのお詫びに送られてきたのが単3電池4本でした。もう、こんな店には発注はしません(笑)。たぶんバイトがいい加減な作業をしているんでしょうね。

 配布に名乗りをあげている方にアドバイスとのことですが、人それぞれのやり方があるでしょうから、特には無いです。あえて言えば、基板を見れば誰が作ったのかすぐに判るように個性を強く出してもらえれば面白いと思います。

【西】 約1,000件でトラブル無しとは驚きです。特にh_fujiwaraさんは先送りですから。SSOPはやっぱり鬼門みたいですね。

 お忙しいところ、いろいろなお話ありがとうごさいました。また復活されるのを楽しみにしています!(笑)。

【藤】 SSOPは本当は使いたく無いところもあるのですが、時代の趨勢からこれが使えないと自作の幅が狭くなるような気がします。まあ、2~3回練習すればすぐにコツはつかめるとは思いますよ。

 復活についてですが2~3年後が目処です。そのころには少し環境も変わるでしょう(そこまでオーディオ熱が保てばの話ですが)。

□関連記事
【10月5日】【西川】大人の休日“TDA1543 DAC大集合!”
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/1005/nishikawa.htm
【4月28日】【西川】大人の休日“TDA1541A non-oversampling DACを作る”
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0428/nishikawa.htm
【2月23日】【西川】大人の休日“PCM61P 8パラDACを作る” 後編
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0223/nishikawa.htm
【2月10日】【西川】大人の休日“PCM61P 8パラDACを作る” 前編
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0210/nishikawa.htm
【4月28日】【西川】大人の休日“TDA1541A non-oversampling DACを作る”
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0428/nishikawa.htm

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(2004年10月15日)

[Text by 西川和久]


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