OEMメーカー筋の情報によると、IntelはノートPCベンダに対して、同社が第4四半期にリリースを予定していたPCI Express対応次世代モバイルプラットフォーム「Sonoma」のリリースを1四半期延期し、2005年第1四半期に投入すると通知してきたという。 Sonomaプラットフォームは、動作周波数が533MHzに引き上げられたシステムバスをサポートする90nmプロセスルールのPentium Mプロセッサ(開発コードネーム:Dothan)と、PCI Expressをサポートする「モバイルIntel 915GM/PM Express」チップセット(開発コードネーム:Alviso-GM/PM)、IEEE 802.11a/b/gのトライモードに対応した無線LANモジュール「Intel PRO/Wireless 2915ABG」(開発コードネーム:Calexico2)という、3つのモジュールから構成されている次世代Centrinoモバイル・テクノロジ。PCI Expressに対応する新プラットフォームとして大きな注目を集めている製品だ。 当初2004年末頃に予定されていたノートPCプラットフォームのPCI Express化は、Sonomaプラットフォームが延期されたことで来年にずれ込むことになりそうだ。
●PCI ExpressとNXビットに対応するSonomaプラットフォーム
Sonomaプラットフォームに関しては、たびたびこの連載でも取り上げてきたとおり、システムバスの周波数を533MHzに引き上げたPentium Mプロセッサ、PCI Expressに対応した次世代チップセットのモバイルIntel 915 Expressチップセット、IEEE 802.11a/b/gのトライモードに対応したIntel PRO/Wireless 2915ABG、という3つのモジュールから構成されている。現在、Centrinoモバイル・テクノロジとしてリリースされているモバイルPC向けプラットフォームの後継となる製品だ。 すでに、デスクトップでは導入が済んでいるPCI Expressに対応することがその目玉であり、同時にNVIDIA、ATIがモバイル向けPCI Expressネイティブ対応GPUを導入する見通しになっている(GPUに関しては後藤氏の記事を参照していただきたい)。 SonomaプラットフォームでサポートされるPentium Mは、基本的には5月にリリースされた開発コードネーム“Dothan”で知られる、90nmプロセスルール、L2キャッシュ2MBのPentium Mだが、既述のようにシステムバスの動作周波数が533MHzに引き上げられるほか、バッテリ駆動時にSpeedStepで可変されるクロックの下限が600MHzから800MHzに引き上げられる。これらにより、熱設計消費電力が若干引き上げられ、現在のシステムバス400MHzのPentium M(90nmプロセスルール)の21Wから27Wに引き上げられることとなる。 ただし、バッテリの駆動時間に大きな影響を与える平均消費電力に関しては1W前後と変わっていない。このため、OEMメーカーがケースをデザインする場合には現在よりも厳しい熱設計を迫られることになるが、バッテリ駆動時間に関してはあまり変化がないと考えてよい。 また、533MHzシステムバスに対応したPentium Mは、Cステップと呼ばれる新しいダイで製造されることになる(現在の90nmプロセスルールのPentium MはBステップ)。Cステップの90nmプロセスPentium Mでは、新たにMicrosoftがNXビット、IntelがXD(eXecute Disable)ビットと呼ぶハードウェアによるウィルス対策機能に対応する。なお、NX(XD)ビットへの対応はCステップのダイであれば、Pentium Mだけでなく、Celeron Mでも行なわれる。 ●4つのグレードが用意されるモバイルIntel 915 Expressチップセット
開発コードネーム「Alviso」で呼ばれてきたモバイル向けのPCI Expressチップセットは、既報の通りモバイルIntel 915 Expressチップセットとしてリリースされる予定だ。 情報筋によれば、モバイルIntel 915 Express チップセットは「Intel 915GM」、「Intel 915PM」、「Intel 915GMS」、「Intel 910GML」の4製品が用意されるという。 Intel 915GMは最もベーシックな製品で、デスクトップPC向けのIntel 915Gにも搭載されているIntel Graphics Media Accelerator(GMA)900というDirectX 9対応GPUが内蔵されているほか、PCI Express x16、デュアルチャネルDDR2-533/400およびDDR333、Serial ATAの4ポートに対応したサウスブリッジ「ICH6M」を備えている。なお、Intel 915GMから内蔵GPUを取り除いたバージョンがIntel 915PMとなる。 Intel 915GMSは、低電圧版Pentium Mと超低電圧版Pentium Mに対応するチップセット。Intel 915GMSでは、システムバスが400MHzにとどめられ、DDR2でも400MHzまでの対応となり、かつシングルチャネルのみの対応となる。 これは、低電圧版と超低電圧版はシステムバスが400MHzなためで、メモリモジュールを複数搭載することが難しいサブノートやミニノートではデュアルチャネルメモリが不要と考えられているためだ。 このように、機能を絞ったため、ピン数はIntel 915GMに比べて少なくなった。Intel 915PMではノースブリッジのピン数が1,257ピンであるのに対して、Intel 915GMSではわずか819ピンとなっている。 パッケージの実装面積もIntel 915GMが37.5×40mmとやや大型であるのに対して、Intel 915GMSは27×27mmと現在のIntel 855シリーズの37.5×37.5mmより、さらに縮小され、より小型のミニノート、サブノートPCなどを製造するのに適している。 日本のOEMメーカーは以前から、Intelに対してより小型のパッケージを要求しており、Intel 915GMSは1つの回答であると考えられる。なお、サウスブリッジのICH6Mは変わらず31×31mmのパッケージとなる。 なお、Intel 915GMSでは内蔵GPU(Intel GMA 900)のみ対応で、PCI Express x16はサポートされないため、単体型のGPUは利用できない。単体型のPCI Express対応GPUを利用してサブノート、ミニノートを設計したい場合はIntel 915PMを利用する必要がある。 Intel 910GMLは、Celeron Mのためのチップセットで、やはりシステムバスが400MHzのみの対応となるほか、デュアルチャネルDDR2-400/DDR333、内蔵GPU(Intel GMA 900)のみというバリュー市場向けチップセットだ。内蔵GPUの動作周波数がIntel 915GMに比べて低く抑えられるなどの違いがあり、その分価格も低めに設定されている。 【モバイルIntel 915 Express チップセットの各製品(筆者予想)】
こうした内容で開発が続けられてきたSonomaプラットフォームだが、これまでは今年の10月に発表する予定で製品開発スケジュールが組まれていた。2004年5月下旬の時点では、Intelは533MHzバス版Pentium M、およびモバイルIntel 915 Express チップセットの製品レベルサンプル(QS)を6月末に提供するとOEMメーカーに説明し、8月下旬には大量出荷版がOEMメーカーに届けられ、10月の発表にこぎ着ける予定だったという。 ところが、このプランは7月中旬に行なわれたOEMメーカーへの説明で大幅に軌道修正された。それによれば、6月末に予定されている製品レベルサンプルは提供されず、8月にもう1つ新しいステージのエンジニアリングサンプル(ES)が提供されることになったという。 6月に予定されていた製品レベルサンプルの提供は11月にずれ込み、大量出荷版の製品は12月出荷、1月に正式発表というスケジュールに変更されたとその情報筋は伝える。つまり、本来予定されていなかったエンジニアリングサンプルの提供が1回増え、その煽りをうけて製品の発表もずれこんだかたちとなった。 なぜ、エンジニアリングサンプルレベルのシリコンをもう1つ追加しなければならなかったのか? その背景には、2つの理由があると情報筋は伝える。 1つ目の理由は、モバイルIntel 915の平均消費電力が、思ったよりも高かったことにあるという。6月に提供される予定だった製品レベルサンプルは「B0」ステップと呼ばれるものだった。 Intelのプレシリコン(実際のシリコンになる前の)予測ではこのB0で平均消費電力が1W以下になるというものだったのだが、実際にシリコンにして計測したところ、3Wを超える値がでてしまったとそのソースは伝える。ちなみに、熱設計消費電力の方は予想スペックを下回っていたという。 そのため、8月にエンジニアリングサンプルとしてB0の改良版を提供し、11月に元々のターゲットに近い1W前後の平均消費電力を実現した改良版「B1」ステップを投入して問題を解決すると、IntelはOEMメーカーに対して説明しているという。 もう1つの理由は、533MHz版のDothanでNXビットを急遽サポートすることになったからという。元々Intelの計画では、533MHz版のDothanではリリースの段階でNXビットをサポートする予定はなかったという。 ところが、7月にこの計画は変更され、533MHz版のDothanも、リリース時からNXビットをサポートすることに変更された。このためもう1段階エンジニアリングサンプルを挟む必要ができ、チップセットと同じように8月にエンジニアリングサンプルを、11月に製品レベルサンプルを、12月に製品版(前述の通りCステップとなる)を出荷というスケジュールに変更されたという。 ●市場への影響は最小限にとどまると業界関係者
今回の延期についてIntelはOEMメーカーに対して、「10月にリリースするにはリスクが高く、出せたとしても少ない製品だけになってしまうので、延期をすることにした」と説明しているという。 すでにOEMメーカーでは、6月末にサンプルが届かなかった段階でスケジュールの変更を行なっており、Sonomaの延期はある程度織り込み済みだという。そうした意味では、業界への影響はあまり大きくないが、クリスマス商戦に新しいプラットフォームで挑もうとしていた米国のベンダにとっては、年末商戦のプラン変更に迫られているところも少なくないようだ。 日本のコンシューマPC市場への影響も限定的なものになると考えられている。元々日本のOEMベンダの多くは、9月発表の秋モデルにSonomaは間に合わないだろうと考えていたため、Sonomaのリリースが1月になっても、来年の春モデルのタイミングになるだけで大きな影響はない、と考えているようだ。 ただし、一部のベンダは、Sonomaのリリースと同時にプラットフォームの更新を予定しており、若干の影響を受けることになる。 ただ、Sonomaの延期そのものは、Intelのビジネスに大きな影響を与えるものではないと、業界関係者の多くは指摘する。「現在、市場がどんどん大きくなっているスリムノートPC市場ではIntel一人勝ちといった状況で、リリースが10月から1月になっても大きな影響はないだろう」(ある業界関係者)の言葉に代表されるように、AMDがK8コアでPentium Mに対抗できる低消費電力のコアを持っていない現状では、それも頷ける話だ。 むろん、AMDもこの状況を覆す方法を考えていることは間違いない。その現れとして、6月に発表されたAMDのロードマップの更新では、デュアルコアの登場が最大の話題とされていたが、実はひっそりとモバイルのCPUも重要な更新がされている。 6月に公表されたロードマップでは、元々2005年に予定されていた“Oakville”(オークヴィル)が2004年の後半に前倒しされている。Oakvilleは25WというPentium Mにも対抗できるような熱設計消費電力を実現するとされており、リリースされればPentium Mに対する大きな武器となるだろう。 果たして、それが(性能やリリース時期、出荷量などを含めて)Pentium Mに対抗できる製品であるのかが焦点となるが、「そうであってほしい」というのが度重なるIntelのスケジュール変更に振り回されるOEMベンダ関係者の偽らざる感想であるようだ。
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(2004年7月20日) [Reported by 笠原一輝]
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