新生VAIOのインタビューシリーズも4回目となるが、今回は液晶一体型のVAIO type Vを取り上げていきたい。 夏モデルとして発表されたVAIOの中で、筆者的に最も気になっている製品が、このVAIO type Vだ。というのも、このtype V、見た目こそいわゆる“液晶一体型PC”なのだが、その中身はPCというよりも“液晶テレビ”に近い構造を持っているからだ。 ソニーが“Motion Reality”と呼ぶその回路は、元々液晶テレビ用に開発されたものをPCに応用したもので、隣に液晶テレビを並べても、どちらが液晶テレビかわからないほどだ。これまで、PCでテレビを見るときに多くの人が感じていたであろう「なんかシャープさが足りないなぁ」とか「ギザギザが目立つなぁ……」などの問題点のほとんどがこのMotion Realityにより解決されている。 今回は、VAIO type Vの開発陣にインタビューする機会を得たのだが、9人もの開発者の方に登場頂いたので、応答形式でその内容をお伝えしたい。 ●液晶テレビとのギャップを埋める製品、それがVAIO type V
【Q】最初に、VAIO type Vのコンセプトを教えてください。 【蜂谷氏】VAIOというのは、PCとAVの融合がそのスタート地点でした。弊社はいわゆる“テレパソ”と言われるような市場を作ったという自負がありますが、もうそれも一般的なものとなってきています。そこで、次のステップへ向かうには何が必要なのかをずっと議論してきました。その中で、弊社の液晶テレビ「WEGA」シリーズと、VAIOのテレビ機能を比較したとき、液晶テレビという観点で見ると、やはり画質が劣っている部分があるのではないだろうか、そのギャップを埋めたい、というのがこの製品のスタートでした。 【Q】以前初代バイオVのお話を伺った時にも、TV in PCか、PC in TVかということをお聞きしましたが、この製品はどうでしょうか? 【蜂谷氏】基本的なスタンスは、やはりPCであると考えています。その中で、今回は特に映像面、ビジュアル面を重視していこうというのがありました。ちょうど、今回“VAIO 第2章”ということで、新しいスタートを切るのにあわせて、デザイン面でもボディカラーに黒のテイストを入れて新しい形を目指しつつ、やはり“テレパソ”なんだからテレビのようなデザインにしよう、と考えました。 【Q】今回のラインナップからは、バイオWの後継製品にあたるような製品が見あたりません。大きく見ると、今回のVAIO type Vの20型と17型のモデルがそれにあたると思いますが、どうでしょうか? 【蜂谷氏】Wの特徴というのは、キーボードが本体にくっついているという点にありました。しかし、ディスプレイのサイズが大型化するにしたがい、ある程度ディスプレイから離れて使いたいという要求がでてきました。type Vはそうしたこともふまえてデザインされているとお考えください。 【Q】20型になってしまうと、ほとんど液晶テレビではないかという指摘があります。しかし、本製品はPCの電源を入れずにテレビ単体としては利用できません。テレビとPCはライフサイクルが違うだけに、PCとして寿命が尽きたあとでもテレビとして使いたいというユーザーは少なくないと思いますが、いかがでしょうか? 【蜂谷氏】本製品のコンセプトは、やっぱり“PC”なんです。テレビそのものにしようというのはありませんでした。PCアーキテクチャの上で、Do VAIOというソフトウェアを利用して、テレビではできないことを実現していきたい。そう考えたからこそ、基本部分にはPCがあるのです。 【Q】15型の初代バイオVではパーソナルユースを意識した使い方が提案されていましたが、17型や20型の方はどうでしょうか? ファミリーユースも意識していますか? 【蜂谷氏】リビングにはもっと大きなテレビがあると思いますので、やはり17型、20型でもパーソナルユースの域をでることはないと考えています。もちろん、リビングでお使いになりたいというユーザー様もいらっしゃるとは思いますが、開発側としてはパーソナルなPCとして使うことに主眼を置いています。 ●テレビ用に開発されたMotion RealityをPC用に落とし込む
【Q】今回のtype Vの鍵となるのは、Motion Realityだと思います。Motion Realityを採用することになった経緯について教えてください。 【亀山氏】この機種にMotion Realityを入れたのは、PCのテレビの画質に疑問を感じていたからです。ウインドウの1つとして小さく表示している時はあまり問題ないですが、全画面表示をするとどうしてもギザギザ感がでてしまうんです。テレビのように使えるとか、大きな画面でということを強調したい時に、このままの画質では許されないだろうと考えていました。 しかし、現在のPCのアーキテクチャではこれ以上セットメーカー側でどうにかするというのは大変難しい。だからこそ、これまでのアプローチとは全く違ったものにする必要があるだろうと考えていました。 そうした時に、弊社のテレビ用ICデバイスを開発しているチームが、新しいICを開発しているというのを耳にし、それが使えるならちょっと研究してみようか、といってやり始めたのがMotion Realityなんです。 最初は、具体的にどの製品にということではなかったのですが、本格的にやるなら具体的な製品を意識する必要がありました。ちょうどそのころ、このプロジェクトが立ち上がりまして、それならというのが経緯です。
【Q】このMotion Realityを採用した目的はなんでしょうか? 【亀山氏】3つの目的があります。1つは、IP変換によるプログレッシブ化でギザギザ感を減らすこと。2つ目がスケーリングと呼ばれる画面サイズ変更時のぼけ感を無くすことであり、3つ目が輪郭の強調、ガンマや色温度の調整などにより、液晶テレビのよう色味を出すということです。これに応答速度を改善した液晶パネルを組み合わせることで、テレビに近い画質を実現する、これが最終的なゴールです。 先ほどテレビ単体の機能は実装しないのかというご質問がありましたが、我々としては逆にテレビだけで使うのは意味が無いと考えていました。これまでPCを利用してきたお客様の使い勝手を変えないで、かつテレビの表示品質を実現する、そこにDo VAIOがつながることで新しい世界も提案できる、そういうことをやりたかったのです。 【Q】これまでだと、映像はPCのGPUに内蔵されているDACでアナログ信号に変換されてRGB出力というのが一般的なPCの表示方式です。type Vではそれとは異なるアーキテクチャを採用しているということですか? 【亀山氏】その通りです。PCの画面、いわゆるWindowsの画面ですが、これはMotion Reality側でビデオの画面と合成して液晶にRGB出力しています。 【Q】それはどのような手法で行なわれるのでしょうか? 【亀山氏】基本的には2つの画面をうまく重ねているというイメージですが、それを実現するには幾つかのハードルがありました。例えば、ビデオとWindowsの画面を重ねる場合には、Motion Realityが想定していない使い方をしなければいけないことです。ビデオやテレビを全画面表示している場合には問題ないのですが、ウインドウ表示中に画面サイズを変えられてしまうような使い方だとやや問題がありました。もともとテレビ用途を想定したエンジンなので、そうした使い方は想定されていなかったのです。 【押領司氏】具体的には、画面サイズを変えると絵が完全に崩れてしまうという症状がみられました。実際にMotion Realityを作った部門に話を聞いてみると「そんな使い方は想定していません」と言われてしまったりとか(苦笑)。ですが、PC上で使う以上、ウインドウのサイズを変更したら絵が崩れてしまいますでは、通りませんから。 【佐藤氏】Motion Realityのファームウェアは、一度に大量のコマンドを処理するような使い方を前提としていませんでした。そこで、我々で、そのファームウェアを改良して対処しました。
【Q】具体的にはどのようにビデオのデータをMotion Realityに渡しているのでしょうか? 【亀山氏】type VではOSやアプリケーションから見て、別段特別なハードウェアとして見えるわけではありません。GPUのビデオプロセッサエンジンを利用してビデオを表示していた時と全く同じように利用可能です。 【押領司氏】今回のアーキテクチャではフィルターをうまく調整して別のドライバに渡すようにしています。要するに、本製品に搭載されているハードウェアのMPEGエンコーダボードから、あるいはビデオの再生時にはビデオのデータがMotion Realityにダイレクトに送られるようになっています。このため、GPU側のドライバも特に特殊なものを使っているわけではありません。 【Q】GPU、この場合はIntel 865の内蔵グラフィックスですが、これはMotion Realityとはどうつながってますか? 【亀山氏】形式はデジタルRGBの信号で出しています。 【Q】Motion Realityの具体的な機能について説明してください。例えば、IP変換ではどのような処理を行なっていますか? 【亀山氏】すでに説明したように、Motion RealityにはIP変換、スケーリング、色の調節という3つの目的があります。IP変換では、プログレッシブ化の段階で画質劣化の原因となる斜め線の変換を検出し、斜め線を斜め線としてきちんと表示できるようにします。 こうした補正をかけない場合は、斜め線がギザギザに見え、違和感のある画面となってしまうのです。動画の場合にはフィールド間で補正し、静止画の場合には2つのフィールドを重ね合わせて補正しますが、ただ並べて足しただけだとぼやけてしまいます。そこで、Motion Realityでは、上下7カ所の相関関係がある箇所を調べて、斜め線に対しての補正をかけながら正しい画像を作りだしていきます。
【Q】今回は液晶テレビにあわせた色の設定を行なっていると聞いています。具体的にはどのようなことをやっているのでしょうか? 【亀山氏】ポイントは、なるべくWEGAに近づけたいということです。実際に見て頂くとわかると思いますが、テレビを表示する場合には液晶の輝度の問題だけではなく、色味による違いもかなり大きいのです。そこで、液晶担当がパラメータをいじって、いかにWEGAに近づけるかを目指しました。 【Q】パラメータをいじるとそれほど変わるものなのでしょうか?
【重野氏】変わりますね。例えばRGBそれぞれに対してフィルターのかけ方とか、今までのPCのアーキテクチャではやれなかった部分にさわることができるようになりました。それだけに逆に絵の具(パラメータ)が多くて、色作りは難儀しましたね。ただ、我々の中ではWEGAといういいお手本があったので、非常によいところまでこられたのではないかと考えています。 【Q】液晶のパラメータというのはどのぐらいあるのでしょうか? 【重野氏】絵作りのポイントですが、明るさ、コントラスト、ヒュー、彩度、RGBのガンマなどがあります。ガンマの設定もどこまでの階調を黒に引き込むかとか、ほかにもさまざまなパラメータをいじっています。一般的なPCでは、今回調整した設定項目のうち1/4か1/5程度しか設定できていないと思います。 【Q】これまでのPCとの最も大きな違いはなんでしょう? 【重野氏】今までのPCとの最大の違いは色温度だと思います。従来のPCでは、一定して色温度が低いのです。それは、今までのPCは正確に映すことが求められていたからです。例えば、白は65,000度で作りなさい、のようにです。 正確に映すのと綺麗に映すのではずいぶん違っていて、今回のモデルは色温度を、“綺麗に映す”ことに主眼を置いて設定しました。 【Q】確かに人間の目はデジタルではないですものね。 【重野氏】そうですね、今回のような製品をご利用されるお客様は、ディスプレイ、具体的には超高価なディスプレイと同じように表示できないと我慢できないというわけではないと思います。ですから、今回は、自分の目で見て綺麗な絵作りをしていきました。 【Q】それは誰が綺麗って決めるんでしょうね。 【重野氏】私がです(笑) 【Q】人間が見て綺麗というのはそういうことですよね(笑)。 【重野氏】やっぱりWEGAというお手本がありますから、WEGAでできていることをお客様に提供できるというのが最低のラインで、あとは文句を言われたらその都度直していくしかないと考えています。 今回は三段階で色合いが調節できるようになっていますが、私が好きな色合いはスタンダードとシアターという2つのモードに込めてみました。ただ、ご不満のお客様がいるとまずいので、一応カスタムモードもつけてあります。 【Q】液晶WEGAや、これまでのPCと並べる比較してみると、説得力ありますね。確かにWEGAに近い画質になっています。逆に、従来までのPCと比べて見ちゃうと、その落差に唖然とさせられますね。 【重野氏】そうなんです。これまでPC業界は画質に関してちょっと大げさに言い過ぎてたところがあると思うんです。高画質、高画質とみんなが言ってるんだけど、その高画質というのはPC同士で比べてのことでした。でも、今回の製品は本物を目指したかったので、あえて目標をWEGAにおきました。今回は本当にユーザーの皆さんが直接見て比べていただきたいですね。カタログを見て頂くだけではわからないと思うので。 ●初代バイオVでやり残したことを反映してリファインされたデザイン
【Q】初代バイオVの時もそうでしたが、一般的な液晶ディスプレイや液晶テレビとあまり変わらない大きさで、PCはどこに入っているのだろう? と疑問に感じるほどです。また、初代バイオVの時に指摘されていたケーブルが横に飛び出すという問題も解消されています。 【石井氏】今回のモデルでは、初代バイオVでやり残したことをやりました。初代バイオVはバイオWの小型版というのがスタートでしたので、キーボードを外して、TVスタイルで行くこと自体が1つのチャレンジでした。ですが、今回のモデルでは、すでにそれは決まっているので、ケーブルの処理や、画質が向上しているイメージと合うように、前面パネルの処理にこだわりました。 【Q】初代バイオVでは、白と黒の2色がありましたが、今回は黒一色になっています。 【石井氏】あの時も、開発陣としてはどちらかと言えば黒が一押しだったんですよ(笑)。今回は、VAIO第2章という全体のプロジェクトの中の1製品という位置づけでしたので、黒を選択し、さらにVAIOのイメージをより引き出せるという意味で若干の青みを加えています。同じ黒でも色調を出して、深みがある色にしています。 また、今回のモデルでは端子類を背面のカバーに収納できるというのも大きなポイントだと考えています。カバーを外すことでメモリスロットにも簡単にアクセスできるメリットもありますし、デザイン上のアクセントにもなっています。 【Q】CPUなどはどこに入っていますか? 【吉野氏】CPUも基板も液晶の真裏に入っています。液晶と基板の中間にシャシーのフレームがあって、それを液晶と基板でサンドイッチしているというイメージです。初代バイオVの時も、どこに場所をとるのがよいかというのをさんざん追求してあの形に落ち着きましたので、それを継承しています。 【石井氏】やはり、本体のボックスが液晶の裏側にボコっとついているデザインは美しくないと思うんです。VAIOとしては軽やかに見せたいというのはありますので、こういうデザインを設計側にお願いしました。 【Q】初代バイオVとは共通の部品はないですね 【中村氏】ないですね。全く別の製品です。
【Q】15型に比べて液晶サイズが大きくなったので、デザイン上は余裕があるように見えますが? 【吉野氏】今回は熱とか、内部に入れているものが増えているので、15型より余裕があるというわけではないですね。 【中村氏】WEGAと比べて見て頂くとおわかりいただけると思いますが、実は液晶WEGAともさほど奥行きに差があるわけではないのです。電源部分が少し大きい程度だと思います。 【吉野氏】実際、PC部分の厚みというのは、液晶裏に装着している基板ぐらいなので、それほど差はありません。50mmくらい厚くなっている程度だと思います。 【Q】熱設計はどうなっていますか? こうした製品では熱設計は非常にシビアです。
【大塚氏】1つのヒートシンクでは放熱がしきれないので、2つのヒートシンクを用意しています。そのうち1つはCPUに直接接していて、もう1つで周辺の放熱を行なっています。 どうしても高さ的な制約があるので、デスクトップPCと同じようなヒートシンクを利用して熱設計すると、ブラウン管テレビのような厚みのある外見になってしまいますので(笑)。それはどうしても避けたかったので、薄く広く面積をとる設計にしました。 先ほど述べたように、液晶としてある程度の薄さを実現する必要があるので、一般的なデスクトップPCで採用されているような吹きつけのファンがついた背の高いCPUクーラーは使えません。そこで、2つのヒートシンクをヒートパイプで接続し、もう1つ方に熱を送って広い面積で効率よく放熱しています。
【Q】今回のモデルはCeleron 2.5GHzですから、60Wを越えるぐらいの熱設計消費電力だと思いますが、これは明らかに60W用ではないですよね? 【大塚氏】はい、違います。 【Q】では80W用ですか? 【大塚氏】いいえ、違います。 【Q】では100W用ですか? 【大塚氏】……えーと、そこはちょっと言えないんですよ(笑)、ご想像にお任せしますということで(笑)。 【中村氏】熱設計自体は非常に贅沢な設計をしていると思います。もちろん将来のヘッドルームを確保するというのもそうですが、ファンの回転数を落とせるというのも見逃せないメリットです。このため、比較的静かにできたと思っています。 【大塚氏】筐体の内部にもセンサーがたくさんありまして、LCD、CPU、マザーボード、電源の4カ所に温度センサーを入れてあります。それぞれの温度に応じてファンを回していくという設計になっているので、効率よく放熱することが可能です。 今回はファンの径をかなり大きくとったので、ファンの回転数も低速時で1,500回転、高速時でも3,000回転程度でしか回らず、16ステップで回転数を切り替えています。また、液晶が壁になってくれるというデザイン上のメリットもありますので、比較的静かに仕上がっています。 【中村氏】録画したときにファンが全開で回るようじゃ、テレビとしてちょっと情けないので、熱設計的には余裕を持たせた設計にしてあります。 【Q】光学ドライブの位置はどうでしょう。特に20型モデルですが、奥まっていてかなり取り出しにくいような気がしているんですが。 【吉野氏】今回この形を採用するにあたり、実はかなり悩んだ部分だったんです。17型と背面を共通にしたかったので、その時に光学ドライブをどこにおくかというのはかなり議論しました。液晶のすぐ後ろに置くとすると、厚くなってしまうんですね。そこで、現在の位置に置き、使い勝手を検証した上でいけるだろうと判断しました。 【石井氏】上から見てもらうとわかるのですが、若干ドライブのところだけせり出している形になっているので、使いにくいということはないと思います。 【Q】わかりました、今日はどうもありがとうございました。 □関連記事
(2004年7月1日) [Reported by 笠原一輝]
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