●EPGの事業部長が退任
しかもFister氏は、同日付で半導体CADベンダであるCadenceの社長兼CEOに就任した。これは、氏がビジネスの世界から引退したわけでもなければ、身体的あるいは精神的理由で業務が続けられなくなったわけでもないことを意味している。また、同日発表という手際の良さからすると、氏は解任というより、自ら辞任した(辞めるタイミングについてイニシアチブを持っていた)可能性が高い。
しかし今のIntelは、事業部長が突然辞任するのにあまり良いタイミングとは言えない。直前にTejasとJayhawkのキャンセルが事実上発表されたほか、翌日にはNew Yorkで定例のAnalyst Meetingが開催される。それでも辞めたということは、何か深刻な路線対立でもあったのではないかと憶測されてもしょうがないだろう。その対立が何なのか、おそらくIntelから明らかにされることは永遠にないだろうから、ちょっと考えてみたいと思う。 対立として最も考えやすいのは、64bitプロセッサを巡るものだ。ご存知のようにIntelには、最初から64bitを念頭に全く新しいアーキテクチャ(IA-64)をベースに開発されたIPF(Itanium Processor Family)と、今年の2月に発表したIA-32 with EM64T(Extended Memory 64 Technology)がある。が、EM64Tの仕様はAMDのAMD64をなぞったものであり、Intelのアイデアとは言いがたい。MicrosoftがAMD64の支持を明らかにし、対応OSとしてWindows XP 64-Bit Edition for 64-Bit Extended Systems(x64)およびWindows Server 2003 SP1 for x64の開発決定をしたため、追随をやむなくされた、というのが率直なところだろう。 このIA-32の64bit拡張だけでなく、セキュリティを向上させるNX bitのサポート(この機能をAMDはEnhanced Virus Protection、IntelはXDと呼ぶ)など、IntelはAMDの後手を踏んでいる。ついでにプロセッサをプロセッサのクロック周波数とは無関係なモデルナンバで呼ぶことも後追いである。 つまりx64に関しては、明らかにAMDがプラットフォームリーダーだ。なぜこうなったのか。その理由はおそらく、IntelのEPGがx64をやりたくなかったからではなかろうか。開発元であるEPGは、当然IPFに誇りを持っている。32bitを拡張したアーキテクチャより、(HPと共同ではあるが)自らがゼロから開発したアーキテクチャに愛着があって当然だ。 しかし、Microsoftがx64を支持した以上、Intelがやらないわけにはいかない。それではラインナップに穴が開いてしまう。Microsoftとの関係をこじらせると、肝心のIA-64に対するWindowsのサポートが後退するかもしれない(実際、x64対応Windowsの登場と同時に、IA-64用のWindows Server 2003にStandard Editionが追加された)。やむなくx64に追随するという決定が、x64対応プロセッサの登場を遅らせたのではないだろうか。 言い換えれば、IA-64とIA-32にアーキテクチャが2分された状態がIntelを弱くした、と批判されてもしょうがない面がある(Fister氏は、Intelは2本立てでも戦えるだけのリソースを持っていると反論するかもしれないが)。 ●Tejas/Jayhawkのキャンセルも対立の表われ 今年の2月にEM64Tを発表した際Intelは、EM64Tのサポートがサーバ・ワークステーション向けプロセッサのことであり、クライアントPC向けについては含みを残しながらも未定であるという姿勢を貫いた。しかし、13日のAnalyst MeetingにおいてOtellini社長は、EM64TをCeleronをはじめとするローエンドからハイエンドまで、すべてのプロセッサでサポートする用意があると言い切っている。 この変化の間には、Tejas/JayhawkのキャンセルとFister氏辞任の両イベントが挟まれている。キャンセルされてしまった以上、Tejas/Jayhawkがどんなプロセッサだったのか、その詳細が明らかにされることはないだろうが、一部ではIA-32とIA-64のギャップを埋めるものだった、ということが言われている。路線対立は、Tejas/JayhawkでIA-64に近づけるか、とりあえずAMD64互換路線を推進するか、ということだったのかもしれない。 IDFの折に筆者はFister氏に、EPGはIA-64をどうしたいのか、と直接たずねたことがある。IA-64にIntelを支える存在になって欲しいのか、それともメインフレーム級のシステムに使われているRISCプロセッサを置き換えられれば満足なのか、という風にだ。氏の答えは、Intelのサーバプロセッサを支える存在になって欲しい、というものだった。が、氏の辞任により、ひょっとするとIPFはRISC置き換えプロセッサの色彩がこれまで以上に強まっていくかもしれない。 そう考えると、いろんなことが、その伏線に見えてくるから不思議だ。たとえばマイクロプロセッサアーキテクチャ分野のシニアフェローであるJustin Rattner氏の所属が、EPGからCorporate Technlogy Groupに変わっていたり、過去2回のIDFでソフトウェア分野のシニアフェローでEPGに所属するRichard Wirt氏が、Mobile Platforms GroupのAnand Chandrasekher副社長といっしょにキーノートを務めたり、という具合だ。少しづつ外堀を埋められていったのではないか、などとつい考えてしまう。 もちろん、今回の辞任が路線対立によるものだったと仮定して、Fister氏の路線から大きく変更されることになっても、それが明日や明後日に明らかなものとなることは考えられない。プロセッサの開発は数年がかりで行なわれるものであり、今年、あるいは来年の製品については、すでに走り出しており、ガラッと変えることは難しいからだ。おそらくその影響は3年~4年後に明らかになってくだろう。 現時点で、最大限努力した結果が、Tejas/Jayhawkをスキップしてマルチコアプロセッサを前倒しにする、という決定なのだろう。
□Intelのホームページ(英文) (2004年5月17日) [Text by 元麻布春男]
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