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IntelがIA-64の優位性を訴える理由




●HPやDellを援軍にIA-64とIA-32eの共存を強調

Michael J. Fister氏
 明瞭なメッセージはたったひとつ。それは、Intelが今後も変わらずIA-64を推進していくということだ。Intelは、「Intel Developer Forum(IDF)」で、くどいほどこのポイントを強調した。

 IA-32の64bit拡張である「IA-32e(Clackamas:クラカマス)」アーキテクチャ発表後のIntelには、当然のことながらもうひとつの64bitアーキテクチャ「IA-64」に対する疑問が突きつけられた。IA-32を64bitに拡張するなら、IA-64は必要がないのではないか、という疑問だ。

 もちろん、Intelもそうした疑問の声を予期していた。だからIntelでエンタープライズ系製品部門を統括するMichael J. Fister(マイケル・J・フィスター)氏(Senior Vice President & General Manager)は、最初からキーノートスピーチに、その疑問に対する解答を盛り込んでいた。Fister氏のスピーチは、IA-64擁護一色に塗られたものだった。

 Fister氏のステージには、まずHewlett Packard(HP)のShane Robison氏(Cief Strategy & Technology Officer)が登場、同社がItaniumファミリを中核の64bitコンピューティング製品として推進していくことを明確にした。買収合併を続けたHPは現在、Itanium、MIPS、PA-RISC、Alpha、IA-32の5系列のCPUベースの製品を持っている。それを将来はItaniumとIA-32系にまとめるという。IA-32は4wayまでの、Itanium系は128Wayといった大規模構成までのスケールで狙う。IA-32eはあくまでも64bitへの架け橋に過ぎず、真の64bitパフォーマンスはItaniumにあるという位置づけだ。

 もっとも、HPはIntelとIA-64アーキテクチャを共同開発してきた関係。いわば“言い出しっぺ”の片割れ。だから、Intelと同様にIA-64を位置づけるのもムリはない。

 そこで、Fister氏は次にDellのKevin Kettler氏(Chief Technology Officer)をステージに呼び、「ItaniumとXeonは補完関係の製品になっていくと見ている」というコメントを引き出した。

●急ピッチで進むIA-64の進化

 もっとも、Fister氏が語ったのは、パートナーのエールだけではない。Intel自身がItaniumファミリとその周辺製品ラインを強化してゆく方向性も強調した。

 まず、全体のロードマップではIntelは2006年頃までのIA-64ファミリ強化の路線を再確認した。プロセッサラインとしては、現在の0.13μm版のMP向けItanium 2(Madison:マディソン)とDP向けItanium 2(Deerfield:ディアフィールド)の次に、同じ0.13μmながらキャッシュを増量+クロックを引き上げたMP向けの「Madison 9M」とDP向けの「Fanwood(ファンウッド)」を2004年に投入する。

 2005年には90nmプロセス世代のIA-64プロセッサ群として、MP向けの「Montecito(モンテシト)」とDP向けの「Millington(ミリントン)」を投入する。Montecitoは2個のCPUコアと、24MBの大容量キャッシュを搭載する。つまり、90nmプロセス化でより多くのトランジスタを搭載できるようになる分を、デュアルコアとキャッシュに振り分ける。

 また、IA-64向けのIntelチップセットも、それに合わせて更新、PCI Express対応の「Bayshore(ベイショア)」を投入する。BayshoreはDDR2メモリとより高速なFSB(フロントサイドバス)もサポートする。つまり、2005年にはItanium系も90nmとPCI ExpressというXeon系が2004年から導入する仕様に追いつくわけだ。

 IA-64系はIA-32系に対して、常に1世代古いプロセス技術を使ってきた。これは、新アーキテクチャで設計・検証に時間がかかっていたためで、そのため、IA-64は性能面では不利な立場にあった。

 だが、2005年以降はその状況は変わる。「従来よりずっと迅速に、もっとも最新のプロセス技術へと移行するようになる。90nmの次は、2006年以降に65nmに移行する。デスクトップコアとほぼ同時だ」とFister氏は、65nmでIA-32に追いつくことを強調する。

 Intelの65nmプロセス版IA-64プロセッサはコードネーム「Tukwila(タックウイラ)」で、DP版は「Dimona(ディモナイ)」。ちょっと前までこの位置のプロセッサのコードネームは「Tanglewood(タングルウッド)」だったが変わった。内容も変わったと思われるが、今発表されている概要上は変化はない。つまり、Tukwilaはマルチコアで旧DECのAlpha EV8の開発チームが開発に加わっている。ちなみに、Fister氏によると、IA-64系プロセッサに携わっているチームは全部で3つあるという。つまり、IA-32に負けない規模の開発チームが、IA-64に携わっているわけだ。

 こうしたIA-64の発展により、IntelはIA-32からIA-64への移行もサーバサイドでは進んでゆくと予測する。Intelは、IA-64計画がスタートした当初のように、全てをIA-64に置き換えるといった大胆な考えは捨てたものの、サーバサイドではIA-64が(市場によるが)主流になると考えているようだ。

 その最大の拠り所となっているのは、IA-64のパフォーマンスヘッドルーム、つまり性能の向上する余地だ。IDFで示されたプレゼンテーションによると、Xeonの性能はムーアの法則の1.1倍程度のペースでしか向上していかないが、Itanium系の性能はムーアの法則の2倍以上のペースで向上するという。3年で10倍以上のパフォーマンス向上が見込めることになる。つまり、命令セットの根本から変えたことで、この先も大幅に性能が伸びる余地があるというわけだ。

 また、2006~7年にはIA-64系システムとIA-32系で、システムコストも同じになるという。同じコストで性能は倍増するなら、IA-64がいいと、自然にそういった話になると踏んでいるようだ。

基調講演で公開されたロードマップ IA-32eとIA-64の棲み分け

●IA-64の敵はIA-32e?

 IA-64の健在を強調するIntel。しかし、同社のこうした説明は、そのままIntelの不安の裏返しでもある。IA-64の先行きに、不安があるからこそ、その未来を強く打ち出すわけだ。Intelが2つ目の64bitアーキテクチャを発表した今、IA-64の立場は以前より揺らいでいる。

 おそらく、Intelがもっとも恐れているシナリオは、IA-32e/AMD64が予想を超えた成功を収め、IA-64が占めているあるいは占めようとしている領域まで進出し始めることだ。その逆に、もっとも好ましいシナリオは、IA-64の領域がどんどん増大し、フロントエンドなど一部の市場を除けば、サーバ市場ではIA-64が完全に主流になることだ。そうすれば、さらにその下の市場にIA-64を入れるという展望も開けてくる。

 現状では、IA-64は、RISC系CPUが占めていた64bit市場を飲み込むことは成功しつつある。ここは、現状ではIA-32eが入れない上に、ライバルもあまり残っておらず、IA-32の資産がないため、IA-64が勝ちやすい。「HPC(High Performance Computing)」の上の方の市場も同様だ。

 問題は、その下のIA-32がすでに根を張っている部分だ。Intelがどう位置付けようと、IA-32eとIA-64にはオーバーラップする領域はある。そして、IA-64がデュアルプロセッササーバやワークステーションなどの市場をIA-32から取れないと、IA-64はニッチに留まってしまう。そうすると、開発コストの重みから脱落していったRISC系CPUと同じ運命を辿る可能性が出てきてしまう。

 それでも、IA-32が32bit(または36bit)に留まっていれば、メモリ搭載量の増大とともに、IA-32の市場は自動的にIA-64のものになった。32bit(または36bit)のメモリアドレッシングでは足りなくなるからだ。だが、IA-32e/AMD64でメモリアドレッシングの拡張が可能になった今、そのシナリオもなくなった。

 次のシナリオは、IA-64が性能や機能でIA-32を凌駕し、その結果、IA-64へと流れてゆくというものだ。確かに、命令セットレベルで並列性を強化したIA-64は、IA-32に対して性能向上の幅が大きい。しかし、パフォーマンスヘッドルームが大きい優れたアーキテクチャが、つぎはぎで制約の多いアーキテクチャに負けた例はいくらでもある。いくらIA-64の方が性能は上であっても、マイグレーションに痛みが伴うとすれば、一定ラインから下の市場は動かない。

 特に、今回はIntel自身が命令セット移行のハードルを低く見積もりすぎ、IA-32上の資産の重みを軽く見過ぎた。皮肉なことに、IA-32でのIntelの成功が、そのままIA-64のハードルになってしまっている。さらにまずいのは、IA-32eとAMD64にソフトウェア上の互換性があることだ。そのため、IA-32eの成功は、AMD64の伸張を導いてしまう可能性がある。特に、IntelがIA-32eに様々な制約を設けてIA-64との差別化を図っても、そんな必要がないAMDには通じない。

 だが、IntelにもIA-64を堅持しなければいけない理由がある。ある業界関係者は「IA-64の強みは、引くに引けない人がいっぱいいること」と言う。その通りで、コンピュータ業界にはIA-64に膨大な投資をして引けない状況にあるベンダーが何社もいる。Intelはそうしたパートナーの信頼をつなぎ止めるためにもItaniumの発展の手を緩めるわけにはいかない。つまり、IA-64はIntelだけでなく運命共同体で担いでいるわけだ。

 そして、もしIDFのプレゼンテーションが示すように、IA-64がIA-32よりはるかに速いペースで性能向上を続けてゆくなら、IA-64には可能性が開ける。だから、Intelは今、IA-64の優位性を強く打ち出しているのだ。

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【2月19日】【海外】Intelの64bit拡張技術「Clackamas」がAMD64と互換である謎
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0219/kaigai063.htm
【2月18日】【IDF】64bitアドレス拡張を実装したXeonを第2四半期に出荷
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0218/idf02.htm

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(2004年2月21日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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