ソニーのVAIOシリーズは、スタイリッシュなボディとAV機能へのこだわりなどで、人気を集めてきた。しかし最近は、以前に比べてVAIOらしさを感じさせる製品が少なくなってきた感があった。 今回、ソニーから登場したVAIOシリーズの新製品は、ソニー自らが「VAIO 第2章の開幕」と呼ぶだけあって、さまざまな新機軸が盛り込まれている。ここでは、新VAIOシリーズの中から、13.3型ワイド液晶を搭載した2スピンドルノートPC「VAIO type S」を試用する機会を得たので、レビューしていきたい。 ●質感の高いマグネシウム合金製ボディ今回登場したVAIO type S(以下type S)は、13.3型ワイド液晶を搭載した2スピンドルノートPCで、従来のVAIOシリーズのマイナーチェンジモデルではなく、全くの新シリーズとなる。 携帯性重視の2スピンドルノートPCといえば、バイオノートTRがすでに登場しているが(今回マイナーチェンジしてVAIO type TRと呼ばれるようになった)、バイオノートTRの液晶は10.6型ワイドなので、type Sのほうが二回りほど大きい液晶を搭載していることになる。 type Sの本体サイズは、312.5×224.8×29.9(最厚部35.4)mmであるのに対し、type TRのサイズは、270.4×188.4×34.7(最厚部36.5mm)となっている。type Sは、フットプリントはtype TRよりも大きいが、厚さは逆に薄くなっているため、カバンの中などでの収まりはよい。type Sの重量は約1.89kgで、このクラスの液晶を搭載した2スピンドルノートPCとしては軽い方だ。 type Sでは、ボディの材質に軽くて丈夫なマグネシウム合金を採用しており、質感も高い。バイオノートZと同じく、ラッチレスヒンジを採用しているため、爪や穴のないすっきりとしたデザインを実現している。コネクタ類もフタでカバーされているなど、デザインにこだわっていることがわかる。黒(VAIOブラック)を基調としたボディカラーも高級感があり、所有する喜びが感じられる製品となっている。
●1,280×800ドット表示が可能なワイド液晶を搭載
type Sは、搭載CPUやBluetooh機能の有無によって、上位モデルのVGN-S70Bと下位モデルのVGN-S50Bという2モデルが用意されているほか、直販サイトのソニースタイル専用スペシャルモデルとして、VGN-S90PS(Windows XP Professionalモデル)とVGN-S90S(Windows XP Home Editionモデル)もラインアップされている。 VGN-S90PS/S90Sでは、搭載CPUやビデオチップ、メモリ容量などを自由にセレクトできるようになっており、発表されたばかりのPentium M 745(Dothanコアの1.80GHz動作品)やDirectX 9対応のMOBILITY RADEON 9700を搭載することも可能だ。 今回は、市販モデルの上位機となるVGN-S70Bを試用した。ただし、今回試用したのは、量産出荷品ではないため、出荷品では細部が変更されている可能性もある。 type Sでは液晶ディスプレイとして、1,280×800ドット表示が可能な13.3型ワイド液晶を搭載していることがウリのひとつだ。1,280×768ドット表示が可能なワイド液晶を搭載した製品よりも、縦解像度が32ドット分広い。一般的なXGA解像度(1,024×768ドット)に比べると、一度に画面に表示できる情報量は約1.3倍となる。 type Sに搭載されている液晶は、クリアブラック液晶と呼ばれるもので、高輝度と広視野角を誇る。いわゆるツルピカ液晶の一種だが、表面に低反射コート(多層ARコート)が施されているので、外光の映り込みも少ない。表示品位は高く、DVD-Videoなどの再生にも向いている。 ●MOBILITY RADEON 9200を搭載VGN-S70Bでは、CPUとしてPentium M 1.50GHzを搭載している(下位モデルのVGN-S50BではCeleron M 1.30GHz搭載)。チップセットは、グラフィックスコア非統合のIntel 855PMを採用。 メモリはPC 2700 DDR SDRAMを256MB装備する。メモリスロットとしてMicroDIMMスロットが2基用意されており、最大1GBまで増設が可能だ。ただし、1GBまで増設する場合は、標準で装着されている256MB MicroDIMMを外して、512MB MicroDIMMを2枚装着する必要がある。
HDD容量は40GBで、モバイルノートPCとしては標準的な容量であるが、メインマシンとして使うことを考えるとやや容量的には不満がある。ビデオチップとしては、ATI TechnologiesのMOBILITY RADEON 9200を搭載。MOBILITY RADEON 9200は、DirectX 8.1世代のチップであるが、Intel 855GMEなどの統合型チップセットに比べれば、3D描画能力は格段に高い。 type Sでは、光学ドライブとして9.5mm厚の薄型DVD-RWドライブが搭載されている。記録速度は、DVD-RとDVD-RWが最大2倍速で、CD-Rが最大16倍速、CD-RWが最大8倍速となっている。 キーボードのキーピッチは約18mm、キーストロークは約2mmである。キータッチもよく、キー配列も標準的なので、タイピングはしやすい。ポインティングデバイスとしては、インテリジェントタッチパッドを採用。パッドのサイズも大きめで、操作感は良好だ。 キーボード上部には、2つのショートカットボタンを装備している。ショートカットボタンには、デフォルトでミュートや外部出力切り替えが割り当てられているが、割り当てる機能はユーティリティで自由に変更が可能だ。また、ステレオスピーカーもキーボード上部に配置されている。低音や高音をユーザーの好みにあわせて増強するメガベース機能も搭載しており、迫力のあるサウンドが楽しめる。
●上位モデルはBluetooth機能も搭載インターフェイスとしては、USB 2.0×2、IEEE 1394(4ピン)、Ethernet(100BASE-TX対応)、外部ディスプレイ出力、モデム、ヘッドホン出力、マイク入力のほか、底面にポートリプリケータ用端子が用意されている。オプションのポートリプリケータには、USB 2.0×3、パラレル、Ethernet、外部ディスプレイの各端子が用意されているので、デスクトップ代わりに使う場合に便利だ。 カードスロットとしては、PCカードスロットとメモリースティックスロットを装備している。PCカードスロットのフタは内側に倒れ込む方式なので、フタをなくしてしまう心配はない。メモリースティックスロットは、メモリースティックPROの高速データ転送にも対応している。 通信機能として、IEEE 802.11b/g対応の無線LAN機能を装備しているほか、上位モデルのVGN-S70Bでは、Bluetoothにも対応している。無線LANやBluetooth機能のON/OFFを行なうためのワイヤレススイッチとワイヤレスインジケータがキーボード右手前に用意されているので、使い勝手もよい。
●統合AV再生環境「Do VAIO」を搭載今回発表されたVAIOシリーズの新製品は、Do VAIOと名付けられた統合AV再生環境を搭載していることが特徴である。Do VAIOは、キーボードやマウスだけでなく、リモコンでも操作しやすいようにデザインされており、外観はいわゆる10 feet GUI的なインターフェイスである。
type Sは、テレビチューナは搭載していないので、単体でのテレビの視聴や録画などはできないが、写真や動画ファイル、CD、DVD-Videoなどを統一したユーザーインターフェイスで再生できることが魅力だ。 バッテリは11.1V、4,800mAhの6セル仕様で、公称約5.5時間(VGN-S50Bでは約3.5時間)の駆動が可能だ。また、オプションのバッテリパック(L)を利用すれば、公称最大8時間(VGN-S50Bは約5.5時間)もの長時間駆動が実現できるので、バッテリ駆動時間も十分であろう。 ACアダプタは薄型だが、サイズは比較的大きい。AC通電中は、DCコネクタの根元部分が緑色に点灯するようになっている。
●MobileMark2002で約5時間の駆動を実現、3D性能も優秀参考のために、いくつかベンチマークテストを行なってみた。ベンチマークプログラムとしては、BAPCoのMobileMark2002、SYSmark2002、Futuremarkの3DMark2001 SE、id softwareのQuake III Arenaを利用した。 MobileMark2002は、バッテリ駆動時のパフォーマンスとバッテリ駆動時間を計測するベンチマークであり、SYSmark2002は、PCのトータルパフォーマンスを計測するベンチマークである。また、3DMark2001 SEやQuake III Arenaでは、3D描画性能を計測する。MobileMark2002については、電源プロパティの設定を「ポータブル/ラップトップ」にし、それ以外のベンチマークについては、電源プロパティの設定を「常にオン」で計測した。 結果は下の表にまとめたとおりである。比較対照用として同じPentium M 1.50GHzを搭載したLaVie N LN500/9D(メモリは1GB実装)とFMV-BIBLO MG75G、Pentium M 1.40GHzを搭載したEndeavor NT300およびEDiCube S150Hの結果も掲載してある。 VGN-S70BのMoblieMark2002のPerfomance ratingは149で、パフォーマンスが特に高いというわけではないが、バッテリ駆動時間を示すBattery life ratingの値は296(4時間56分)とトップクラスの成績をおさめている。6セルながら8セルバッテリを採用したEDiCube S150Hに匹敵する駆動時間を実現しているのは立派だ。 SYSMark2002のOffice ProductivityのスコアはLaVie N LN500/9DやFMV-BIBLO MG75Gに比べてやや低いが、これはメモリ容量の違いやHDDの性能差(FMV-BIBLO MG75Gに搭載されていた東芝製MK8025GASのキャッシュは8MBだが、今回試用したVGN-S70Bに搭載されていた日立GST製DK23FA-40のキャッシュは2MB)によるものであろう。 3DMark2001SEは、さすがにDirectX 8.1対応のビデオチップ(MOBILITY RADEON 9200)を搭載しているだけあって、Intel 855GME/GM採用マシンの2倍以上のスコアを出している。Quake III Arenaも同様に、VGN-S70Bがほぼ2倍のパフォーマンスとなっている。 ちなみに、Intel 855GME/GMでは動作しないFINAL FANTASY XI Official BenchMark 2も、ハードウェアT&L対応のMOBILITY RADEON 9200を搭載したVGN-S70Bでは問題なく動作した(640×480ドットモードでのスコアは3,265)。MOBILITY RADEON 9600/9700搭載機にはかなわないが、ノートPCとしては高い3D描画性能を持っているといえるだろう。 【VAIO type S VGN-S70Bベンチマークテスト】
●携帯性と性能を高いレベルで両立VGN-S70Bは、13.3型ワイド液晶とDVD-RWドライブを搭載しながら、約1.89kgという十分携帯可能な重さを実現した2スピンドルモバイルノートPCである。バッテリ駆動時間も長いため、電源のないところで使う機会の多い人にもお勧めだ。 また、パフォーマンスも高いため、ポートリプリケータと組み合わせてデスクトップPC代わりに使うにも向いている。性能にこだわる人は、価格は高くなるが、ソニースタイル限定モデルのVGN-S90PS/VGN-S90Sで、Pentium M 745とMOBILITY RADEON 9700を選択すれば、最強のモバイルノートPCとなるだろう。 □関連記事 (2004年5月14日)
[Reported by 石井英男]
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