ソニーが発表した新しいVAIOシリーズは、ソニーが「バイオの第2章」と呼ぶように、これまでのVAIOシリーズとは一線を画すような新しい製品がいくつも登場している。 このうち、今回取り上げるtype Vは、昨年秋にリリースされたバイオVの後継という位置づけの製品で、液晶一体型のTV機能を重視したPCに仕上がっている。 従来製品では15型のみのラインナップで、どちらかと言えばパーソナル向けという位置づけだったのだが、今回新たに17型と20型のモデルが加わったことで、パーソナル向けだけでなくファミリーで利用するような用途も考えられている。今回は、このうちの20型液晶を搭載したハイエンドモデルを利用してその機能をチェックしていきたい。 ●リビングにおいてセカンドテレビ的な使い方も従来バイオVシリーズでは15型液晶を採用したモデルだけが用意されており、17型はバイオWという別モデルが用意されていた。 15型のVAIO Vは一人暮らしのユーザーや寝室などにおいて利用するというユーザーモデルが、17型のバイオWはリビングにおいてセカンドテレビのように使うというユーザーモデルが想定されていたのだが、今回のtype Vではその2つの製品が統合され、type Vに3つのサイズの液晶ディスプレイ(20型、17型、15型)の3製品が用意された。 ディスプレイの大きさから見ると、15型モデル「VAIO type V PCV-V151B」が従来のバイオVの製品の後継で、17型モデル「VAIO type V VGC-V171」がバイオWの後継、そして20型モデル「VAIO type V VGC-V201」が新ラインナップと考えることができるだろう。 17型と20型という大きなサイズのモデルが追加されたことで、リビングにおいてセカンドテレビとして使ったり、一人暮らしのユーザーでもやや大きなディスプレイが欲しいというニーズも満たすことが出来るようになった。 基本的なデザインは、バイオVのそれを継承している。回転する円形の台の上に液晶が乗った形状になっており、ディスプレイの方向を自由に変えることができる。さらに、ディスプレイの傾きも水平から-5度、+20度変更可能になっている。 バイオVシリーズからの改良点としては、ケーブルの取り回しが変更されたことにある。15型液晶のモデルでは、ケーブルが液晶の左側面に集中しており、前面から見るとテレビアンテナやSビデオ端子などのケーブルが、左から突き出す形になってしまっていたため、やや見苦しくなっていた。 今回の20型、17型のモデルでは端子類が液晶の裏側に装着できるように変更されているだけでなく、カバーでコネクタ類が隠れるようになっており、より見栄えがよくなっている点は評価して良いだろう。
●描画エンジンに「Motion Reality」を採用本製品のグラフィックス周りでユニークなところは、20/17型モデルに“Motion Reality”と呼ばれる独自の描画エンジンを搭載していることだろう。Motion Realityがいかにユニークであるかは、通常PCのグラフィックスがどのように映像を出力しているかを説明する必要がある。 通常のPCではTVチューナからの映像データをPCIバス経由でGPUに送り込み、GPU内部で処理を加えて、ディスプレイに表示する。GPU内部ではビデオプロセッサエンジン(VPE)において動画の処理を行ない、TVチューナから送られてきたインターレース(1フレームのうち奇数ないしは偶数のどちらかの走査線のみを表示する方式)の画像データをプログレッシブ化(奇数、偶数の両方の走査線を表示する)する作業を行なう。なぜかと言えば、PCのディスプレイはインターレースのテレビとは異なりプログレッシブ表示であるからだ。 そのプログレッシブ化されたデータに、解像度を上げるための「スケーリング」という作業が行なわれる。TVチューナから録画したアナログテレビの動画はVGA程度の解像度でしかないので、XGA以上の解像度表示が可能なPC用のディスプレイで全画面表示するには、どうしてもスケーリングが必要になるからだ(高解像度のディスプレイでTV画面を全画面表示すると、ギザギザが目立つのはこのため)。 スケーリングされたTV画面は、「RAMDAC」と呼ばれるデジタルデータをアナログデータに変換する回路において、Windowsのデスクトップ画面と合成されてディスプレイに表示されることになる。 こうした回路構成をとっていると、高画質を実現するために2つの問題がでてくる。1つは、GPUのVPEの表示品質だ。というのは、GPUメーカーにとって、VPEの表示品質をいくら上げても評価ポイントにならないため、多くのGPUメーカーはVPEの表示品質にあまりこだわっていない。 GPUの評価記事などで、3DMark03のスコアを見ることは少なくないと思うが、VPEの表示品質に関するレポートは皆無と言ってよい状況だ。そうした状況の中で、GPUメーカーがVPEの性能よりも、3D描画性能を重視するのは致し方ないと言える。しかし、表示品質を重視したいPCメーカー、特に日本メーカーにとってはこれが不満点の1つとなっていた。 もう1つは、最近のGPUはRAMDACをチップに内蔵しているため、機器ベンダ側からはパラメータなどをいじることができないということだ。表示品質というのは、アナログ部分の完成度に依存することが多く、より液晶に最適化したチューニングをしたいのであれば、このDAC部分も含めた最適化を行ないたいところだ。しかし、汎用部品として販売されているGPUでは残念ながらそれに対応することはかなり難しい。 ●より高画質な表示が可能なMotion Realityそこで、type Vで採用されている“Motion Reality”では、そうした2つの問題をこれまでとは異なるアプローチで解決している。1つには、Motion Realityは、独自のVPEとして存在しているということだ。 すでに説明したように、通常のPCでは、TVチューナボード上にあるビデオデコーダから送られたTVの動画データをGPUに内蔵されているVPEに送るが、type Vでは動画データをGPUには送らず、直接Motion Realityに送られる。そこで動画データがプログレッシブ化され、スケーリングされることになる。 Motion Realityはテレビ表示に最適化する設計が行なわれており、従来のGPU内部のVPEで処理される場合よりも滑らかで綺麗な動画データが出力されることになるという。 例えば、プログレッシブ化の作業では、一般的なGPUでは斜め線のプログレッシブ化が苦手だったが、補正技術の回路を入れることで斜め線にジャギーが出ることを防ぐ工夫が入れられている。 さらに、従来のバイオVでは搭載されていなかった3次元Y/C分離やゴーストリデューサの機能が搭載されているのも、画質向上に貢献している。 また、Motion Realityでは独自のDACを備えており、Motion Realityで処理された動画はPCIバスなどを介してGPUに送られて合成されるのではなく、直接ディスプレイに対して送られる。 ソニーの関係者によれば、GPUの出力のMotion RealityのDACに入力され、そこで合成されて出力する仕組みになっているという。つまり、ディスプレイに対して動画がWindowsの画面に合成されるのではなく、動画に対してWindowsの画面が合成されているのだ。こうした仕組みをとることのメリットは、DACを製品にあわせてメーカー自身が設計できるため、シャープネスや色合いといった画質に影響するパラメータをディスプレイごとに最適化できることだ。 これらの工夫をした結果、本製品のテレビ表示画質は従来の液晶一体型PCに比べて確かに綺麗に感じる。テレビ画像を表示した時には、スケーリング表示時特有の画像がギザギザになる現象は明らかに減っており、それだけでも十分画質が上がっていることを実感できる。 同じディスプレイを採用した製品が他にないため直接の比較はしようはないが、従来のTV機能内蔵PCに比べると、どちらかというと液晶テレビに近い画質に仕上がっているといっていいのではないだろうか。 ●液晶の画質設定もリモコンで行なうことが可能本製品に内蔵されているディスプレイは、従来製品と同じように“クリアブラック液晶”が採用されており、液晶テレビに迫るような高輝度が実現されている。輝度やシャープネスなどの設定は、後述する「Do VAIO」と呼ばれる10フィートGUIから行なえる。このため、画質設定もすべてリモコンで行なえる点は評価して良い。 液晶の解像度は1,280×768ドットでWXGA表示となっている。惜しいのは、解像度が16:9でも、4:3でもないことだ。WXGAで16:9のDVDを見た場合、上下が余ってしまうし、逆に4:3のテレビを見た場合には左右が余ってしまう(ただし、ズーム表示機能が用意されているので、テレビを見ている場合に左右に引き延ばして見たりということは可能)。 現時点では20型や17型というサイズの液晶では、WXGA以外の解像度のものを探すのが困難な現状であることを考えると致し方ない面もあるが、ぜひ次機種では16:9のディスプレイを採用して欲しいところだ。 もう1つ気になったのは、ビデオ入力系がSビデオ端子ないしはコンポジット端子の1系統しかないことだ。 おそらく本製品の購入を検討するユーザーは、20型の液晶ディスプレイ+HDDレコーダという付加価値を求めるのではないだろうか。そこで、問題になってくるのは、液晶ディスプレイとPCの寿命の違いだ。 現時点でPCの機能というのは、どんなに長く見積もっても5年が限界というところだろう。今から5年前と言えば'99年だが、その当時に発売されていた最もハイエンドなCPUであるPentium III 500MHzを搭載した製品は、すでに市場から消えているし、Windows XPで利用するにはギリギリというところではないだろうか。 そう考えると、本製品のような「Celeron」というローエンドCPUを採用した製品が5年後も現役かと言われれば、疑問符をつけざるを得ない。これに対して、ディスプレイの方は、故障するまで何年でも使われ続けるだろう。使い方にもよるが、5年以上というのは確実ではないだろうか。 そうした時に、本製品を液晶テレビのかわりに使いたいと考えても、Sビデオ端子(ないしはコンポジット端子)が1系統だけという状況だと、使い方もかなり限定されてしまう。仮にD4端子などがあれば、地上デジタルのチューナをつないで視聴に使うこともできる。 ぜひ、次機種では、本体の液晶を“液晶テレビ”として使えるよう、入力端子をもっと多く搭載して欲しいものだ。
●10フィートGUIであるDo VAIOでほぼすべての操作が可能これはtype Vに限ったことではないが、今回発表されたVAIOの夏モデルには「Do VAIO」と呼ばれる新しいユーザーインターフェイスが搭載されている。いわゆる10フィートGUIと呼ばれる、リモコン操作を前提にしたユーザーインターフェイスで、PCを家電として使うには必要な要素の1つとして最近注目されている。 春モデルまでのVAIOシリーズでもリモコンで操作可能な10フィートGUI(のようなもの)は搭載されていたが、それは各アプリケーション(テレビだったらGigaPocket、音楽ならSonicStage、写真ならPictureGear Studio、DVDならPowerDVD)を呼び出すだけのもので、操作方法はアプリケーションによって異なっていた。 これに対してDo VAIOでは、テレビ閲覧・録画、音楽再生、写真、DVD再生などがすべて統一したインターフェイスで行なえる。また、従来の製品では別アプリケーションとなっていたVAIO Mediaのクライアント機能もDo VAIOに統合されている。このため、ローカルにあるファイルだけではなく、ネットワークにあるファイルも含めて再生できるようになっている。 Do VAIOにより、ユーザーは付属のリモコンを利用してメディア再生のほとんどの操作を行なえるが、コンテンツの作成に関しては、従来通り別アプリケーションを起動して、ということになる。 例えば、CDから音楽を録音してATARC3に変換する時には、従来通りSonicStageを起動する必要がある。このあたりは、メディアファイルを閲覧する時にはDo VAIOを、作成するときにはPCに降りてアプリケーションをという区分けがされているのだと思うが、CDのリッピング程度であればDo VAIOから行なえてもいいのではないかと思う。このあたりは、今後のバージョンアップに期待したい。
●CPUにはCeleron 2.50GHzを採用し、160GBのHDDを内臓
type Vは“見る”ということにフォーカスがあてられた製品ではあるが、もちろんPCとしての基本機能もきちんと押さえられている。 CPUはCeleron 2.50GHzで、チップセットはIntel 865GVが採用されており、ビデオチップはIntel 865GVの内蔵チップが利用されている。メインメモリは標準で512MBで、空きスロットを利用して最大で1GBまで増設することが可能だ。HDDは標準で160GBが採用されており、Cドライブに30GB、Dドライブに130GBが割り当てられている。 DVD±RWドライブが本体の左側面に搭載されており、書込速度は、DVD+Rが最大2.4倍速、DVD+RWが最大2倍速、DVD-Rが最大4倍速、DVD-RWが最大2倍速、CD-Rが最大16倍速、CD-RWは最大8倍速となっている。やや気になるのは、搭載位置で、20型モデルでは液晶の裏側にDVDドライブが来る形になっているため、取り出す時には液晶の後ろに手を回してボタンを探す必要がある。慣れるまでには少し時間がかかるだろう。 本体に用意されているポートはIEEE 1394(4ピン)×2、USB 2.0×4、オーディオ端子、Ethernet(100BASE-TX)、モデム、光デジタル(角形)が用意されており、一般的な用途としては十分なものだろう。 ●“作る”から“見る”のテレビの要素も兼ね備えた本当の“テレパソ”へTV機能を備えたPCのことを“テレパソ”と呼ぶことが流行ったが、これまでのPCではTVを“見る”ことよりも、どちらかと言えば録画し、それをDVDに保存するという“作る”要素が重視されてきた。 しかし、本製品ではPCとして使える十分なスペックを備えつつ、Do VAIOやMotion Realityといった家電の皮をかぶせることで、コンテンツを“作る”という従来のPCの要素だけでなく、コンテンツを“見る”という要素にも重きを置いた製品へ大きく脱皮している。つまり本当の意味での“テレパソ”になったと言ってもよい。 特に10フィートGUIであるDo VAIOの搭載により、十分、液晶テレビ+HDDレコーダの代わりとして使えるものになっている。 これから液晶テレビとHDDレコーダの両方を買おうというユーザーには、同時にPCの機能も手に入れられる本機はお薦めと言えるだろう。 □関連記事 (2004年5月17日)
[Reported by 笠原一輝]
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