笠原一輝のユビキタス情報局

Intel ウィリアム・スー副社長 インタビュー




Intel 副社長兼デスクトッププラットフォームグループジェネラルマネージャ ウィリアム・スー氏

 Intelの、デスクトップPCおよびデジタルホーム構想を取り仕切るデスクトッププラットフォームグループ(DPG)には2人のジェネラルマネージャがいる。1人は、ルイス・バーンズ副社長で、もう1人がウィリアム(ビル)・スー副社長だ。

 バーンズ氏はIntel社内のIT部門出身でどちらかと言えば経営者肌でDPGの運営全般を見ている。一方、スー氏はDRAMセル技術者出身のエンジニア肌でDPGの技術全般を統括するという役割分担がされている。

 今回本誌では、スー副社長にインタビューする機会を得たので、その模様をお伝えしていきたい。なお、本インタビューは8日の朝に行なわれた。筆者のほか、ライターの後藤弘茂氏と塩田紳二氏も同席しており、筆者以外のメンバーの質問も含まれていることをあらかじめお断りしておく。

●Grantsdaleは第2四半期中にOEMメーカーに対して出荷することが可能

【Q】Alderwood/Grantsdaleでは、PCI Express、LGA775、DDR2とすべてが新しくなると言っても過言ではありません。大きなジャンプになりますが、現在のGrantsdaleの状況について教えてください。

【スー】PCI Expressは我々のデジタルホームイニチアシブにとって、非常に重要な要素だと考えています。HDTVチューナやHDコンテンツの編集機能といった新しいアプリケーションは興味深いものだと言えるでしょう。

 Alderwood/GrantsdaleにはPCI Express以外にも、DDR2、HDオーディオなど実に多彩な新機能が用意されており、これらを安定して動作させるには、実に多くのバリデーション(動作検証)が必要になります。弊社では現在これらのテストを続けており、第2四半期中にはOEMメーカーに対して出荷できることに自信を持っております。

【Q】PCI ExpressのキーはHD編集などHDコンテンツを扱えることではないかと思います。しかし、日本ではデジタルTVのコピーワンスの仕組みがあり、PCにおけるHDコンテンツを扱う上でこれにどう対処していくのか、ということが課題になりつつあります。これに対するIntelの取り組みを教えてください。

【スー】最初に申し上げておきたいのは、Intelの著作権保護に対する姿勢です。弊社は著作権保護のルールは必要であるという立場を明確にしています。ご存じのように、Intelも自社でさまざまな製品を販売しており、それを他社にコピーされることを望んでいないからです。

 すでに、政府や産業界は、以前はレコードのようなハードウェアの形で提供されていたコンテンツが、デジタル化され、ハードウェアという形が無くなっていることを理解しています。すでに、コンテンツ業界はメディアをデジタルファイルという形で提供することが可能であるかを模索しており、進化を続けています。

 そこで浮上してきているのは、違法なコピーにどのように対処していくかでしょう。ある人は1回だけコピーできる仕組みを採用しようとしていますし、それを3回にしようという人もいるでしょう。ルールに反するコピーを排除していくことですが、声高にコピーや転送をするなと強制する必要はないことも付け加える必要があります。

 現在映像業界は、音楽業界で起きたことを評価している状況です。音楽業界は長い間コピー問題に対して無関心でしたが、その結果、音楽業界にとって非常に悪い状況を招いてしまいました。このため、映像業界は弊社だけでなく、この業界の他のプレイヤー、例えばソニーやNEC、富士通など、こうした技術に興味がある業界各社と話を続けていて、弊社もどうしたらそれを解決できるかを模索しています。

【Q】昨日の夜に行なわれた記者説明会で、あなたは過去6~12カ月の間にコンテンツ業界はコンテンツをデジタルに置き換えるという方針に舵を切ったのだという発言をされました。なぜ、彼らはそのようにポリシーを変えたと思いますか?

【スー】いくつかの理由があります。1つにはこれまでアーチストや映画のプロデューサーなどにとってインターネットは脅威だと考えられてきました。インターネットは人々がコンテンツを簡単に違法コピーできる場だと思われているからです。

 しかし、インターネットが拡大していく過程で、実はそこには非常に大きな市場が広がっているという考えも徐々に広がってきました。そこに、新たな収入源があると考えられるようになってきたからです。

 また、これまでは米国市場においてエンドユーザーに対して新しい音楽や映画などを知ってもらおうとすれば、ラジオ局やテレビ局などにおいて取り上げてもらい、プロモーション活動を行なっていく必要がありました。アーチストはそれを自分でコントロールすることはできなかったのです。

 しかし、インターネットを利用すれば、アーチストはエンドユーザーに対するプロモーションを、直接に、そして自由に行なえることに気づき始めたのです。

●家電業界も今後は水平分業が当たり前になる

【Q】日本の家電メーカーの中には、PC業界で多大な権力を持ち、“Wintel”と称されるMicrosoftとIntelが家電の業界に進出し、彼らのビジネスモデルを壊されその領域を侵されることを恐れる関係者も少なくありません。

【スー】私はそうは思いません。確かにPC業界は驚異的な発展を遂げてきました。しかし、それは弊社やMicrosoftだけがイノベーション(革新)を実現してきたからではなく、弊社のパートナーのようなさまざまな企業がイノベーションを実現してきたからです。

 すでに新しいビジネスモデルへの移行は始まっているのではないでしょうか。確かにこれまで家電業界は、すべてを自社でまかなう垂直モデルを採用してきました。それは日本の家電業界だけでなく、日本以外の地域でもそうでした。ですが、時代はデジタルへと移り変わりつつあり、どのように家電のコンポーネントをデザインしていくかという課程は大きく様変わりしつつあります。

 例えば、アナログの時代には、レシーバーやチューナといった分野にそれぞれの会社にエキスパートがおり、自社ですべてを設計するだけの理由がありました。しかし、デジタルの時代では、水平的な分業開発体制に移行する必要があります。これは、弊社やMicrosoftがこうした分野に進出するといったことには関係なく、現在起こっている動きです。

【Q】デジタルで家電業界も水平分業体制になるということですね

【スー】弊社はそうなると信じています。すでに家電業界でも、ODMは当たり前のことになりつつあります。今後は家電業界も垂直から水平へとビジネスモデルを変更していく必要がでてくるでしょう。これは、弊社がそう思うからではなく、すでに業界に起こっていることです。

●多彩なフォーマットに柔軟に対応できることがPCのアドバンテージ

【Q】話をGrantsdaleに戻しましょう。今後デスクトップPCがよりEntertainment PCのようなメディア再生やメディア制作などに特化した機器になっていくのであれば、メディアファイルのエンコードやデコードなどの機能はより重要になっていくと思います。

 例えば、最近ではMPEG-4のエンコードや再生はPCユーザーの間では普通に行なわれるようになっています。となると、ますますCPUやGPUなどへの負荷は上がっていくと思いますが、例えば、将来のCPUやGrantsdaleの後継チップセットなどでMPEG-4やH.264などのエンコード、デコードエンジンやアクセラレーション機能を内蔵することはできないでしょうか?

【スー】CDやDVDに採用されているフォーマットはすでに固定されたものとなっています。このように、フォーマットが固定されていれば、コンポーネントベンダはハードウェアアクセラレーション機能をASICに組み込み、機器ベンダはそうした固定機能を持った再生機器などをリリースすることが可能です。そうすれば、低コストに実現できるなどのメリットがあるからです。

 それをふまえた上で考えて頂きたいのですが、PC以外でMPEG-4が再生できる機器が多数出回っている状況でしょうか? 市場を見て頂ければわかるように、まだまだ少ない状況です。なぜかと言えば、現時点ではMPEG-4のフォーマットがまだ完全には固まっていないため、MPEG-4のディスクやメディアファイルを作成したとしても、再生できる機器は限られてしまうからです。

 これに対して、PCではMPEG-4が一般的に利用されつつあります。なぜかと言えば、PCはプログラムにより機能を追加することが可能であり、最新のコーデックやコンテンツ保護技術などに対して柔軟に対応することが可能だからです。

 メディアファイルのフォーマットは進化し続けています。過去にメディアファイルの提供方法はCDやDVDといった物理的なメディアのみでした。しかし、インターネット時代には、メディアファイルの提供は目には見えないソフトという形で提供されるようになります。各ベンダは、よりよい画質を実現するためにビットレートを引き上げたり、圧縮率を日々、向上させています。弊社では、この点こそ、固定された機器に対するPC、特にEntertainment PCの大きなアドバンテージではないかと考えています。

 もう1つ重要なことは、メディアファイルのエンコード機能です。家電機器に関わる方の中には、コンシューマはエンコード機能など望んではないので、必要ないとおっしゃる方がいます。しかし、これは正しいとは思えません。

 コンシューマはトランスコーディング(コーデック変換)という形でのエンコード機能を必要していると思います。もし、MPEG-4で記録された動画があって、居間にある機器がMPEG-2しか再生できないとすれば、どうにかしてMPEG-2へトランスコードする必要があります。

 もしPCがあればトランスコードが可能ですが、仮に固定された機能しか持たない家電であればそれはできません。すでにエンドユーザーはトランスコーディングの便利さを知ってしまっているのです。

【Q】今後もハードウェアよりも、ソフトウェアによるエンコード、デコードが主流で有り続けると思いますか?

【スー】コーデック業界は、デコード時ではなくエンコード時に課金するようなビジネスモデルを採用しています。このため、デコーダ側は無料でエンドユーザーに提供されます。重要なことは、コーデック業界は競争を続けており、日々ビットレートあたりの画質改善などエンドユーザーに対するメリットを生み出しています。今後もこの競争は続いていくだろうと考えています。

 我々は常にこうしたコーデックベンダと対話をしています。彼らは我々に対して、IAベースのコーデックが今後も重要であると語ってくれています。なぜならば、IAは固定され、安定されているからです。

 こうしたことの良い例として、GPUで起こったことを振り返ってみましょう。例えば、10年前にGPUの市場でリーダーだったのは、S3やCirrusLogicやNumberNineでした。ところが、現在彼らの多くはこのビジネスをやめてしまっています。では、3年前はどうでしょう? NVIDIAでしたね。それでは今は? おそらくATIでしょう。このように、どこがリーダーシップを取っているかは短い周期で変わっています。では、CPUはどうでしょう? 10年前も弊社のIAであり、今でも弊社のIAでしょう。

 もし、コーデックベンダが、あるハードウェア向けのコーデックを書いたとします。ところが、そのハードウェアが6カ月後もリーダーである保証はどこにもありません。だから、コーデックベンダはIAのCPUに向けたソフトウェアコーデックを作成するのです。

【Q】Entertainment PCは日本市場でも成功するでしょうか?

【スー】確かにEntertainment PCは新しいカテゴリーの製品ですが、日本ではすでに存在しているカテゴリーでもあります。すでに日本のPCベンダの皆様は、こうしたカテゴリーの製品に取り組んで来られました。実際、日本の小売店には大型の液晶ディスプレイを採用し、TVチューナを内蔵した製品が販売されています。

 では、なぜEntertainment PCという取り組みを行なうかと言えば、それは相互接続性です。弊社では、このカテゴリーの製品はこれからどんどんのびていく余地があると考えています。メーカーが独自に取り組まれるのも悪くありませんが、共通の規格があれば、業界全体としてより急速な成長を望むことができると考えています。

 これは我々の顧客の皆様にも同意して頂けると思っています。例えば、ソニー、富士通、NECなどのPCベンダにはデジタルホームを実現するためのDHWG(Digital Home Working Groups)に協力していただいています。Entertainment PCはそうした第一歩にすぎず、今後も発展させていく必要があります。

【Q】Entertainment PCはHDDレコーダなどの家電に対抗して発展していけると思いますか?

【スー】重要なことは、Entertainment PCは既存の何かを置き換えるカテゴリーの製品ではないということです。これは新しいカテゴリーなのです。このため、PC業界にとっては、新しい成長の可能性を秘めているということができます。

●マルチコア化はHTテクノロジの自然な進化の方向性である

「マルチコアは、HTテクノロジの自然な未来の姿」(スー氏)

【Q】Entertainment PCにより、エンドユーザーがメディアファイルをエンコードしたり、トランスコードしていくことは当たり前のこととなります。IntelはすでにHTテクノロジをPentium 4に導入していますが、昨年9月のIDF Fallではデュアルコアを将来のCPUで導入していくという方針も明らかにしています。こうしたソリューションは、エンコードやデコードなどの性能を上げていくにはよい方向だと言えます。

【スー】マルチコアは、HTテクノロジの自然な未来の姿です。コア数を増やすことで、マルチスレッドに対応したアプリケーションにおける処理能力を向上させることができます。しかし、それらはトレードオフなく実現できるものではありません。コア数を増やせば、ダイサイズは増大しますし、消費電力も上昇していきます。

 それでは、これからシングルスレッドの性能を上げていくのと、マルチスレッドの性能を上げていくのと、どちらがエンドユーザーにとって意味があると思いますか?

【Q】ソフトウェア業界が、こうしたアーキテクチャの変化を受け入れる必要があると思いますが、仮に彼らがそれを受け入れるのであれば、マルチコア化による性能上昇の恩恵を受けることができます。ソフトウェア業界はハードウェア業界に比べて進化が遅いという問題はあるとは思いますが。

【スー】そうです。こうした問題は常に“鶏と卵”なのです。仮にHTテクノロジやマルチコアに対応したCPUが市場に無ければ、ソフトウェアを最適化していくことはできません。だから、我々はHTテクノロジを1年半前に導入したのです。おかげさまで、日本市場ではHTテクノロジは世界のどの市場よりも受け入れられました。日本のユーザーやOEMメーカーのエンジニアの皆さんはそのメリットを理解して頂いて、使って頂いていることと思います。

 さて、ソフトウェアのマルチスレッドかシングルスレッド、どちらがメリットがあるかという問題ですが、これは現在の皆様のご利用方法を考えて頂ければ自ずと答えがでてくると思います。仮にシングルスレッドのアプリケーションが速くなったとして、どこまで速くなれば速くなったと思いますか? 例えば、PowerPointが20%速くなったとして、それで速くなったと感じるでしょうか? おそらく、そうではないでしょう。

 しかし、現在最速のPentium 4、例えば3.40GHzや3.20GHzのPentium 4を使っていたとしても、ビデオエンコードの性能は、まだまだ十分ではないというのが現状ではないでしょうか。これをデュアルコアのプラットフォームでやってみたら、どうでしょう。かなり速くなるのではないでしょうか。マルチスレッドは、こうしたタイプのアプリケーションでは大きなメリットがあるからです。

 このため、弊社は将来のマルチコア化はデジタルホームの時代には適した進化ではないかと考えています。

【Q】マルチコア化へのハードルはダイサイズの増大、そして消費電力の増大という2つの問題をどのように解決していくかということではないかと思います。Intelが2005年に導入する65nmプロセス世代になることで、ダイサイズの問題はある程度解決されるのではないかと思いますが、消費電力の問題は依然として残ると思います。

【スー】おっしゃるとおりです。マルチコア化は、ダイサイズと消費電力の増大を招きます。それを防ぐ魔法は残念ながらありません。注目して頂きたいのは、誰もがマルチコア化を口にしていますが、誰も今のところ製品化に成功しておらず、それを実現するにはまだプロセステクノロジの微細化に取り組まなければいけないということです。なぜかと言えば、デュアルコア化するためには、より小さなダイサイズと低消費電力が必要になるからです。

【Q】それは、デュアルコア世代には、より電力効率の優れた新しいプロセッサコアが必要になると言うことですか?

【スー】そうです。新しい世代に移行する際には、例えば130nmから90nm、90nmから65nmへと移行する場合、同じような処理能力レベルで比較すると、消費電力は上がってしまいます。なぜならば、現在では消費電力が上がってしまったからといって、それが処理能力の向上につながらないからです。

 今日、我々の製品ラインでは、HTテクノロジが同じような消費電力で性能を上げるよい方法の1つです。あるいは、NorthwoodからPrescottへとコアに改良を加えるのもその1つと言えます。私は、私のボスであるポール・オッテリーニ社長に対して、我々は将来デュアルコアを導入する必要があると説明していますし、今後性能を向上していく1つの方向性であると考えています。

【Q】プロセッサナンバーを導入することで、今後クロック周波数を上げていくという方向性は無くなっていくと考えていますか?

【スー】いえ、今後もクロック周波数は上がっていくことになるでしょう。プロセッサナンバを使う理由ですが、例えば3つの製品があるとします。3.40GHzと3.60GHzのPrescottとAlderwoodチップセット、仮にシステムバスが1,066MHzだとします。決して、そうした製品をリリースする予定があるということではないですよ(笑)。

 また、システムバスが800MHzの3.60GHzと3.40GHzも同時にラインナップされていたとします。ここにいる皆さんには800MHzの3.60GHzと、1,066MHzの3.60GHzは同じではなくどちらが高い処理能力を発揮するかご存じだと思いますが、これまで周波数だけに注目してきたコンシューマにとってはどちらも同じことなのです。

 そこで、プロセッサナンバーを導入することで、これらの2つが違うものだということを説明することが可能になります。我々はプロセッサナンバーの仕組みにより、エンドユーザーは周波数以外の機能に関しても容易に理解することができるようになる、そう考えています。

【Q】デュアルコアを導入したときに、シングルコアとデュアルコアの違いを簡単に説明できるようになりますね。

【スー】1つの方法としては考えられるでしょうね。

●2段階で導入していく、Vanderpool Technology

【Q】Intelはハードウェアレベルでの仮想化技術であるVanderpool Technology(以下VT)を、将来のCPUで採用することを明らかにしています。VTの導入計画などに関して説明してください。

【スー】我々はVTを複数の段階を経て導入していくつもりです。現在、仮想化はソフトウェアレベルで行なわれており、処理能力や信頼性は満足いくものではありません。第一段階の2年間では、ハードウェアレベルでの仮想化実現で、これらの信頼性、処理能力を引き上げます。

 その初期段階に、VTをサポートするソフトウェアやOSが登場することになると思います。現在でもソフトウェアレベルで仮想化を実現するソフトウェアがありますが、これらがVTをサポートすることになるでしょう。これらのソフトウェアが市場に登場し、ハードウェアでも多くの製品がVTをサポートするようになれば、VTの新しい使い方がでてくるでしょう。これが第2段階です。

 例えば、私は昨日東京のある企業とミーティングを持ちました。彼らはVTをマイグレーションに利用しようと考えています。現在多くの企業ではNTベースのアプリケーションを利用していますが、今後はそれをWindows XPやLongHornにマイグレーションしていく必要があります。また、今後登場するOSではウィルス保護機能などが強化され堅牢性がさらに増していきます。このため、OSをより新しいバージョンに移行しようという動きがでてくると思いますが、そうした時にすべてのアプリケーションで利用可能かどうかを検証するのは非常に骨が折れる作業です。

 そうした時にVTがあれば、非常に便利です。新しいOSのメリットを享受しつつ、古いアプリケーションを利用し続けることが可能になるからです。

【Q】VTには2つの段階があるとおっしゃいましたが、セカンドバージョンのVTが存在すると言うことでしょうか。

【スー】我々は現在将来のバージョンのVTに関して詳細をご説明する段階にはありませんが、将来のバージョンでは性能や機能が増えることになるでしょう。どうなるかを予想するのは、皆さんプレスの方々への新しい宿題ですね(笑)。

【Q】現在仮想マシンソフトウェアには異なる実装が行なわれています。現在、ゲストOSはホストOS上で動かす必要はありません。将来のOSで、ハイパーバイザータイプのソフトウェアレイヤーがサポートされれば、それをサポートすることも可能になります。Intelにはそうした計画はありますか?

【スー】我々はまだ最終的な計画を決定していません、ソフトウェアレイヤーはまだ開発中なのです。現時点で最適な答えは、業界はインフラを作り出すように努力しています。それは、Intelだけでなく、我々のパートナーを含めてです。

●FB DIMMは当面はデスクトップPCに必要ない

【Q】Intelは2月にサンフランシスコで行なわれたIDFで、FB(Full Buffered) DIMMの導入を2005年にサーバーセグメントで行なうという方向性を明らかにしました。この方向性はデスクトップPCにも広がっていくことになるのでしょうか?

【スー】FB DIMMはサーバーセグメントで必要とされるソリューションです。なぜならば、サーバーでは大容量のメモリが必要となり、これを実現するためにはバッファを入れて安定動作させる必要があるからです。

 しかし、クライアントPCでは事情は異なります。というのも、クライアントPCではサーバーほどは大容量のメモリを必要としないからです。技術的には、FB DIMMをクライアントで利用することに何の問題もありません。

 しかし、クライアントPCでは常に“コスト”という問題を意識せざるを得ません。そう考えていくと、FB DIMMをクライアントに持って行くというのは現実的ではないと考えます。

【Q】DRAM業界の関係者はDDR2-800は、実装が難しいと言っています。800MHzを越える場合にはそうしたソリューションが必要になるのではないでしょうか?

【スー】ハイエンドセグメントでは、FB-DIMMのようなソリューションが使えるかもしれません。しかし、問題はやはりコストです。FB-DIMMを導入することで、バッファーチップそのもののコストだけでなく、パッケージにもコストがかかります。仮にこのコストが小さいのであれば、FB-DIMMは様々なセグメントで利用されるようになるでしょう。しかし、そうでない場合には、ハイエンドだけにとどまることになるでしょう。

【Q】システムバスとメモリバスは依然としてパラレルバスにとどまっています。GPU側のバスがシリアルになるのにです。これらが将来ポイントツーポイントのシリアルバスなどに変更される可能性はあるのでしょうか?

【スー】DP(デュアルプロセッサ)やMP(マルチプロセッサ)のサーバー/ワークステーションとUP(1プロセッサ)のクライアントPCでは、それぞれ別のこととして考える必要があります。クライアントPCを考えた場合、確かにCPUとチップセットはバスという形で接続されていますが、実際には電気的にはポイントツーポイントになっています。この状況で、UPのクライアントPCのシステムバスをシリアルにしたとしても、あまりメリットはないでしょう。もちろん、DPやMPでは事情は変わってきます。

【Q】ポイントツーポイントのシリアルバスではより高い周波数で動かしたりすることが可能です。

【スー】その通りですが、すでに申し上げたようにUPのクライアントPCではすでにポイントツーポイントと同じような状況ですから、シリアルバスに変更しても大きな性能向上を期待するのは難しいでしょう。DPやMPのサーバー/ワークステーションでは、確かにメリットがあるのではないでしょうか。

【Q】DRAMはどうですか?

【スー】よい質問ですね、それはラムバスですか?(笑) DRAMの場合にはいくつかのトレードオフがあります。最も重要なことは、DRAMはコストがすべてを決定するということです。実際我々はDRAMのシリアルバス化にチャレンジしました。その結果は皆さんがご存じの通りです。DRAMをシリアルバス化するには、そのコスト構造を含めて検討しなければいけないこともあり、そう簡単にはいかないでしょう。

●モバイル系コアとデスクトップ系コアの設計思想は将来融合する

【Q】Pentium Mを搭載したデスクトップPCの可能性はどうでしょう?

【スー】オールインワンPC(筆者注:液晶一体型のデスクトップPCなどのこと)のようなシステムで、いくつかのPCベンダがすでにそうした取り組みを行なっています。現在、PC市場にはPentium Mを搭載した薄型ノートPCと、Pentium 4を搭載したタワー型のデスクトップPCの間に、オールインワンPCやDTR(DeskTop Replacement)ノートPCなどの製品があるという構成になっています。DTRノートPCにデスクトップPC用のPentium 4を搭載した製品だってありますから、その逆も当然考えられるでしょうね。

 弊社にしてみれば、OEMメーカーの皆様がどちらをお使いになったとしても、“Pentium”であればハッピーで問題ないですよ(笑)。

【Q】マルチコア世代では1つのコアを利用してスケーラビリティを実現することが可能になると思います。例えば、クアッドコアをDTにデュアルコアをモバイルに、シングルコアを組み込み系にと使い分けるとか……。

【スー】可能でしょうね。ただ、大事なことはソフトウェア側のサポートです。2スレッドをサポートするアプリケーションは非常に増えてきていると思います。他方で、サーバーでは8スレッドのアプリケーションは多数あります。では、クライアントアプリケーションが、どのようにマルチスレッドをサポートしていくか、そこがポイントになるでしょう。

【Q】AlderwoodとGrantsdaleの差は、ECCとPATのサポートの点だと思いますが、例えばAlderwoodで36bitアドレスをサポートしていくことは可能でしょうか?

【スー】現時点ではそうした具体的な計画はありません。現時点では一般的なクライアントPCではメリットは非常に小さいといえます。ワークステーションやサーバーにはそれがありますが、クライアントではそうではないと考えています。

【Q】Pentium 4 Extreme Edition(Pentium 4 XE)とPentium 4の間で何らかの差別化をする必要があると思います。

【スー】あなたはどう思いますか、良い計画がありますか(笑)?

【Q】そうですね、例えば1,066MHzのシステムバスとAlderwoodの36bitサポートでIA-32eをサポートしたPentium 4 XEとかどうでしょうね?

【スー】じゃあ、新しいブランドネームについても考えておいてください(笑)

【Q】FMBデザインはこれまで非常に複雑でした。OEMメーカー筋の情報によれば、Intelは2つの種類のFMBを計画していると聞いています。パフォーマンスFMBとメインストリームFMBの2つがあると聞いています。なぜこうした新しいFMBの仕組みを導入するのでしょうか?

【スー】OEMメーカーも、Intelも、技術的には1つのマザーボードですませるのが理想だと考えています。しかし、問題はハイエンド向けに高性能を実現するデザインでは、高コストになってしまうということです。このため、我々は異なるデザインポイントのマザーボードを作っているのです。これは、カスタマーにとって、技術的な理由ではなく、異なる価格帯を作り出すために必要なことなのです。

【Q】昨日の記者会見で、あなたは将来的な技術的なヒントをくれました。デスクトップPCプロセッサのデザインとモバイルプロセッサのデザインの考え方が融合する、と。現在PCプロセッサのデザインの限界は、熱にあると言えます。Intelの将来のデザインでは、電力あたりの性能などの効率を重視する方向に向かうのでしょうか?

【スー】電力あたりの性能は、我々にとって常に重要なパラメータの1つです。例えば、Pentium 4とPentium Mを比較した場合、一般的な用途では確かにPentium Mの電力あたりの性能は優れています、しかし、ビデオエンコードなどの用途では、Pentium 4の方が優れていると思います。これはどういうアプリケーションを使うかによりけりなのです。

【Q】例えば、もし、よりPentium Mに高いボルテージをかければ、より高いクロックで動かせるのではないですか?

【スー】そうではないと思います。2つの製品ではパイプライン構造も異なっています。電圧がそうしたアーキテクチャの違いほどは大きな影響を与えるものではないと考えます。

【Q】わかりました。本日はありがとうございました。


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(2004年4月9日)

[Reported by 笠原一輝]


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