笠原一輝のユビキタス情報局

“すべてが変わる”AlderwoodとGrantsdale
~立ち上げ時期延期の可能性を探る




Intelが第2四半期中の出荷を目指すAlderwood/Grantsdaleチップセット

 先週は、日本でもIntel Developer Forumが開催され、本誌でもいくつかの話題が取り上げられたが、筆者の連載では、Intel デスクトッププラットフォームグループ共同ジェネラルマネージャのウィリアム・スー副社長のインタビューを取り上げた。

 この中で、Intelがデジタルホーム参入への武器と考えている新世代チップセット「Alderwood」や「Grantsdale」も大きなトピックとして取り上げたが、今PC業界はこれらチップセットの立ち上げ時期を巡って揺れている。


●Prescott延期時と同表現をしたスー氏の発言

 冒頭でも説明したとおり、前回のこの連載では、Intelのスー副社長のインタビューの模様をお伝えした。その中で最も驚かされた発言が「弊社では現在これらのテストを続けており、第2四半期中にはOEMメーカーに対して出荷できることに自信を持っております」(スー氏)というものだ。

 この台詞を聞いてピンと来た読者は、なかなか鋭い。実は、この「~四半期中にOEMメーカーに対して出荷する」という発言は、昨年のPrescottの延期問題の時にIntelの幹部が使った発言とほぼ同じ種類の発言であるのだ。

 Intelは、μPGA478ベースのPrescott(現Pentium 4プロセッサ)を第4四半期中に発表する予定だった。ところが、μPGA478のPrescottに関してはいくつかの問題が発見され、その結果発表は今年の2月に延期されてしまった。

 その経緯に関しては、筆者のIDFレポート後藤氏のレポートを参照して頂きたいが、9月のIDFでスー氏とともにデスクトッププラットフォームグループ(DPG)のジェネラルマネージャを務めるルイス・バーンズ氏は、Prescottの発表はいつになるのか、という質問に対して「OEMメーカーへの出荷は第4四半期中」と述べ、Prescottの発表時期は未定、出荷は第4四半期中という発言に終始した。これは、IntelがPrescottの発表延期を事実上認めた瞬間だったと言ってよい。

 今回のスー氏の発言も、この時のバーンズ氏の発言と同様に、OEMメーカーへの出荷が第2四半期になると述べるだけで、発表時期は明言していない。つまり、言外に、発表が第2四半期ではない可能性を示唆するものだと言ってよい。アナンド・チャンドラシーカ副社長が、基調講演で「Dothanは第2四半期中に発表し、搭載製品が多数投入される」と説明したのと天と地ほどの差がある。

●実は遅れているGrantsdaleの製品レベルのサンプル

 では、AlderwoodやGrantsdaleの発表時期は第2四半期ではなくなったのだろうか? 実のところ、“現状では”発表も第2四半期中に行なわれるというのがOEMメーカーに提示されているスケジュールであるという。OEMメーカー筋の情報によれば、6月のCOMPUTEXでお披露目され、発表されるスケジュールとなっているという。予定という意味では、これまでと大きなスケジュール変化はない。

 では、なぜスー氏は「第2四半期に発表して製品を投入する」とは言わなかったのだろうか? ここが重要なポイントだ。実は、AlderwoodおよびGrantsdaleのスケジュールは若干遅れ気味で、かつバリデーション(動作検証)の段階でいくつかの問題を抱えているという。スー氏もインタビューの中で、現在Alderwood/Grantsdaleの現状がバリデーションの段階であることを認めている。

 情報筋によれば、本来であればもう少し早く渡されるはずだったGrantsdale製品版(B1ステップ)のサンプルは、先週から今週にかけて一部のOEMメーカーに届いたばかりで、元々のスケジュールに比べてかなり遅れているという。

 OEMメーカーにおけるバリデーション(動作検証)のリードタイムを考えると、すでにギリギリのタイミングで、仮にB1ステップのサンプルでも問題が解決できないようなら、OEMメーカー側は出荷を遅らせるかどうかの決断を迫られることになる。

 おそらく、スー氏の「OEMメーカーに対して出荷する」という発言はこうした状況を受けてのものだろう。つまりベストケースでは予定通り出荷でき、発表もできるが、ワーストケースでは出荷は若干遅れ、発表もずらさなければならない事態も想定している、そうした状況の裏返しであると読み取ることができる。

●CPUソケットやDRAMに関しては大きな問題はないと業界筋

 では、なぜ製品版のサンプルは遅れてしまったのだろうか? これに関する確たる情報は今のところ無い。だが、AlderwoodやGrantsdaleに関しては、問題が発生しそうな箇所をいくつも抱えているというのは事実だ。というのも、Alderwood/Grantsdaleでは、すべてが変わるといっても過言ではないほど、前世代のIntel 875/865世代に比べて大幅な変更が加えられているからだ。

 CPUサイドでは、システムバスはP4バス/800MHzと従来製品から変更はないものの、CPUソケットに関してはμPGA478(いわゆるSocket478)からLGA775への移行が行なわれる。

 また、メモリに関してはDDR1から、DDR1とDDR2への両サポートへと移行する。GPUを接続するバスに関しては、これまでのAGPからPCI Expressへと移行する。このほか、サウスブリッジとの接続バスがDMI(Direct Media Interface)と呼ばれる物理層にPCI Expressを利用したシリアルバスへと移行するなど、ノースブリッジに関してはすべてが変更されるといっても過言ではない。

 このうち、CPUソケットとDRAMに関しては特に問題は発生していないと業界関係者は証言する。

 LGA775で、Intelはグランドに関するピンを増やすなどの改良を行なっているという。これは、μPGA478では高速バスを駆動させるにしてはグランドのためのピン数が十分ではなく、安定させて動作させるのが難しくなってきたことが影響しているという。逆に言えば、LGA775に変更すると、μPGA478に比べて安定動作が可能であると言い換えることもでき、この点が問題になっている可能性は低い。

 DRAM、特にDDR2に関しても、DRAM業界の関係者によれば、特に問題なく動作しているという。もっとも、もしDDR2に問題が発生しても、AlderwoodやGrantsdaleではDDR1もサポートすることが可能だ。大手PCベンダに関してはほとんどがDDR2ではなくDDR1を採用する予定でもあり、この点から問題が発生しているとは考えにくい。これは、当初のDDR2の価格がDDR1に比べて圧倒的に高いためで、DDR2はPentium 4 Extreme Editionを採用するような一部のハイエンド製品のみにとどまると考えられている。

 実際、3月のCeBITで、Intel デスクトッププラットフォームグループ チップセット ソフトウェア マーケティングディレクタ(当時)のビル・レツィンスキー氏は「DDR2が本格的に立ち上がるのは今年の後半から2005年にかけてとなるだろう」と発言するなど、Intel側でもDDR2がすぐにメインストリームになると考えていないことは明白だ。

●製品レベルサンプル遅れの原因はPCI Express周りか?

 残る問題として考えられるのはPCI Express関連だ。特に、AGPという選択肢が用意されていないAlderwoodやGrantsdaleでは、PCI ExpressのGPUがきちんと動作しなければ、製品として意味をなさないことになる。どうやらここに問題がある可能性が高そうだ。

 実は、PCI Expressが問題になりそうなのは、いくつかの伏線があった。ATI Technologiesは、2月にサンフランシスコで行なわれた米国のIDFで、同社のPCI Expressネイティブ対応GPUを利用してデモを行なった。内容は、PCI Expressを利用したHDコンテンツのレンダリングデモで、PCI Express対応GPUを利用した場合、AGP対応GPUに比べて高速なレンダリングができるというデモだったのだが、実際にやってみたところ、PCI Express版がトラブルを起こしてしまい、AGPの方が滑らか、というデモになってしまった。

 この時にはATIのスピーカーが「今朝はうまくいっていたのに……」と説明したため、そういうものかと思っていたのだが、その後、CeBITなどでもPCI Expressを利用したデモをいくつか見たが、OEMメーカーの関係者が筆者にこっそり教えてくれたところによると、過大な負荷をかけると問題が発生することがあるという。こうしたことから、どうやらPCI Express周りに問題があるのではないかという疑いを持つようになった。

 実際、ほかにも状況証拠は集まりつつある。ある台湾系のソースは、やはりIntelがPCI Express、特にネイティブのPCI Express X16に対応したGPUとの間で問題を抱えていると指摘する。ブリッジチップを利用したソリューションとの組み合わせでは問題ないが、ネイティブのPCI Expressとの組み合わせでは何らかの問題が発生しているという。こうしたことから、Intelのサンプル出荷が遅れてしまった理由は、PCI Express周りである可能性が高いことは間違いない状況だろう。

●ギリギリまで調整が続けられる見通しだが、果たして?

 繰り返しになるが、Intelは現時点では6月発表というスケジュール通りに動いている。従って、現在行なわれていると見られる最終調整がうまくいき、すべての問題が解決されれば、予定通り出荷される可能性はまだ捨てられていないという。

 実際、情報筋によれば、Alderwood/Grantsdaleに対応した製品を計画しているマザーボードベンダやPCベンダなどは、現在もIntelとやりとりを続けており、6月発表というスケジュールに間に合わせるべく努力を続けているという。

 IntelやAlderwood/Grantsdaleを待つユーザーにとってよいニュースは、最近届いたB1ステップでは、この問題の多くの部分が解決されてきているという、OEMメーカー筋からの情報だ。うまくいけば首の皮一枚のところで、問題なく出荷できる可能性が残っているという。

 仮にこの修正が間に合わなかった場合でも、発表自体は6月に行なわれる可能性は高い。というのも、OEMメーカーの関連製品は、この6月をターゲットに発表スケジュールが組まれている。仮にAlderwood/Grantsdaleそのものの発表時期をずらすとすれば、そちらもずらさざるを得なくなり、影響は甚大だからだ。

 また、6月にはマザーボードベンダのお膝元である台北において、COMPUTEX TAIPEIが行なわれる。一年で最大のアピールが可能なCOMPUTEXで発表できないとすれば、マザーボードメーカーの強い反発が予想され、Intelに対するロイヤリティ(忠誠心)の低下を招きかねない。そうした観点からも発表するしか選択肢はないようだ。

 ただ、この場合には、2月に発表されたμPGA478版Prescottがそうであったように、限られた顧客への出荷を第2四半期に開始し、大量の製品出荷は1四半期程度ずれ込む可能性がでてくる。こうした事態を想定して、スー氏は「弊社では現在これらのテストを続けており、第2四半期中にはOEMメーカーに対して出荷できることに自信を持っております」と慎重に言葉を選んで状況を説明したと考えることが可能だろう。

 どちらにせよ、残された時間はあと2カ月しかない。それまでに課題が修正されてAlderwood、Grantsdaleが無事に出荷されるのか、それともIntel 820延期時のように騒動が再び起こるのか、現在PC業界の関係者は固唾を飲んで行方を見守っている段階であるという。

 その答えは2カ月後のCOMPUTEX TAIPEIで明らかになる。


□関連記事
【4月9日】【笠原】Intel ウィリアム・スー副社長 インタビュー
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0409/ubiq56.htm
【2003年10月27日】【海外】Prescottの遅延理由ついに判明
~バスインターフェイス不具合でステッピング変更
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/1027/kaigai038.htm
【2003年9月17】【IDF】Intel、L3キャッシュ2MBのPentium 4 Extreme Edition 3.20GHz
~Athlon 64追撃へ!
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0917/idf02.htm

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(2004年4月15日)

[Reported by 笠原一輝]


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