Intelのアナンド・チャンドラシーカ副社長(モバイルプラットフォームグループ ジェネラルマネージャ)は、筆者とのインタビューの中で「Sonomaプラットフォームの次世代では、アーキテクチャ的にパラレル処理の実現を実現することを検討している」と述べ、同社がなんらかのマルチスレッディング技術を次世代のCPUで導入することを示唆した。 その後の情報筋への取材により、Intelが2005年にDothanの後継として投入を計画している、65nmプロセスルールで製造される次世代モバイルプロセッサ「Jonah」(ヨナ、開発コードネーム)において、デュアルコア技術の導入を検討していることが明らかになってきた。 しかも、単なるデュアルコアではなく、パワープロファイルによりコアの数を動的に変更していくことも可能になっているという。 ●マルチスレッディング技術の導入を示唆したチャンドラシーカ副社長
謎のベールに包まれていたJonahの正体が徐々に明らかになってきている。以前のレポート「スリムノートも45Wへ!?」でも説明したように、Jonahの熱設計消費電力は45Wになり、バッテリ駆動時の平均消費電力はDothanとあまり変わらないレンジになると、複数の情報筋が証言していた。 その後の取材で、Jonahのさらなる詳細が明らかになってきた。IDFにおける筆者のインタビューにおいて、同社のチャンドラシーカ副社長は「Sonomaプラットフォームの次世代では、アーキテクチャ的にパラレル処理の実現を実現することを検討している」と述べ、同社がDothanの次の世代のプロセッサにおいて“パラレル処理の実現”を検討していることを明らかにした。パラレル処理とは非常に曖昧な言い方だが、昨今のトレンドから考えて、マルチスレッディング技術の導入を指していると考えてほぼ間違いないだろう。 マルチスレッディング技術の導入と言えば、Pentium 4のラインで導入されているHyper-Threadingテクノロジ(HTテクノロジ)をPentium Mのラインにも導入ということが予想されるところだ。 しかし、Intelはそうした予想を上回る答えを用意していた、それがJonahのデュアルコア化だ。
●Dothanのデュアルコア版となる65nmプロセスルールのJonah
複数の情報筋によれば、IntelはJonahを「Dothanのデュアルコア版である」とOEMメーカーに対して説明しているという。つまり、Pentium Mのラインは、従来型のシングルプロセッサから、HTテクノロジによるSMT(サイマルテニアスマルチスレッディング)を飛び越え、物理的な2つのCPUコアによるデュアルコアプロセッサへいきなり移行することになる。 Jonahが2つの物理コアを1つのダイに統合できる技術的な背景は2つある。1つは、IntelのDothanのダイサイズは非常に小さいということだ。Dothanのダイサイズは87平方mmと、IntelのPC向けCPUとしては格段に小さくなっている。 これがいかに小さいかは、同じプロセスルールを利用しているPrescottと比較してみればわかる。Prescottは1億2,500万トランジスタを112平方mmに詰め込んでいる。これに対して、Dothanは1億4,400万トランジスタを87平方mmに詰め込んでおり、ダイサイズに影響するL2キャッシュ容量の違いはあるものの、Dothanがより多くの機能を、より小さいダイサイズにまとめることに成功したことが見て取れる。 もう1つの背景はJonahが65nmプロセスルールで製造されることだ。別記事で紹介したように、チャンドラシーカ副社長は、Dothanの次世代が65nmプロセスルールで製造されることを認めているほか、実際複数のソースがJonahは65nmプロセスルールであると認めている。 この2つの要素を組み合わせれば、Jonahを妥当なダイサイズで作ることは可能だろう。詳しくは後藤氏が別記事で説明しているのでここでは触れないが、コアがデュアル化したとしてもダイサイズが現在のPC用プロセッサと同じレベルでとどまるとすれば、デュアル化へ向かうという流れは自然な流れだろう。 ●デュアルコアを採用することで熱設計消費電力が45Wへ上昇
だが、デュアルコア化は、モバイル向けCPUには弊害をもたらすことになる。システムバス周りこそ共用することになるが、基本的にはCPUの演算器やキャッシュなどがすべてCPUダイに2つ入っている形となるため、消費電力が上がってしまうのだ。 すでに、Jonah世代のデザインでは熱設計消費電力が45Wに引き上げられることは、OEMメーカー筋の証言から判明している。OEMメーカー筋の情報によれば、Jonahのシステムバスは、今年の第4四半期にリリースされるDothanと同じ533MHzだが、Dothanの熱設計消費電力は27Wであり、いきなりJonahで45Wになってしまうのはなぜなのか、という疑問はついて回っていた。 実際にはキャッシュ周りの仕様が明らかになっていないため直接の比較は難しい。しかし、27WのDothanコアが2つ入るとして、2つのコアが1つのシステムバスロジックを共有することによる減少分、プロセスルールの微細化によるダイナミックパワーの減少分、プロセスルール自体の改良による減少分などを引いていけば、Jonahの熱設計消費電力が45Wになるというのも妥当だと言えるだろう。 それでは、この45Wという熱設計消費電力で、現在Banias/Dothanで実現されているような薄型ノートPCのシャシーに入れ込むことが可能かどうかが次の課題となる。 CPUを作ったは良いが、現在のBaniasで採用されているシャシーに入らず、もう一度ノートPCの厚さを拡張しなければならないとすれば、Pentium Mの存在意義が問われることになりかねない。 ただ、45WのCPUを現在のノートPCに入れるのは不可能ではないとOEMメーカーは考えているようだ。あるノートPCベンダのエンジニアは「放熱機構などに利用している素材を見直したりすることで現在の厚さに45WのCPUを入れるのは不可能ではない」と説明しており、大変だがやってできないことではないと考えているようだ。 実際、Intelのチャンドラシーカ副社長は「マーケットのニーズは1インチのシャシーを維持することにある」と説明しており、熱設計技術が進化し、現在のCentrinoベースのノートPCが実現している1インチの厚さを維持することができれば、熱設計消費電力は上がってしまってもよいと考えているのは明らかだ。 ●動的にCPUの数を増減させる新技術を採用
熱設計消費電力が上がってしまうのは、熱設計の見直しで対応するとしても、バッテリ駆動時間に影響を与えてしまう平均消費電力の上昇に関しては、カバーのしようがない。CPUコアが2つになれば、当然平均消費電力も倍になる可能性が高い。 現時点ではシステムバス533MHzのDothanの平均消費電力は明らかになっていないが、OEMメーカー筋の情報によれば第2四半期にリリースが予定されているシステムバス400MHzのDothanの平均消費電力は1.25W前後という数字が伝わってきている。 第4四半期に投入されるDothanでは、システムバスが533MHzに引き上げられ、さらにSpeedStep動作時の最低クロックが800MHzに引き上げられることになるため、平均消費電力も若干上昇することになると考えられるが、おそらく1W台にとどまることになるだろう。 これが2つ分になるのだから、そのまま使った場合にはJonahの平均消費電力は3Wを越えることになり、モバイルPentium 4と同じレンジに来てしまい、“平均消費電力が低い”というPentium Mのアドバンテージが失われてしまう。 だが、OEMメーカー筋の情報によれば、Jonahのバッテリ駆動時の平均消費電力はDothanと同じレンジにとどまるという。なぜかと言えば、JonahはCPUコアを動的に増減できる仕様になっているからだ。 具体的にはデスクトップPCの代替として机の上で利用している場合にはCPUコアは2つが動作し、モバイル環境で利用している場合にはCPUコアは1つがOFFになり1つだけが動作することになる。OFFになったCPUコアには電源供給も含めて完全に止めてしまえるため、実質的に平均消費電力に関してはDothanと同等ということになる。 CPU数の増減は、なんらかのトリガーを利用して自動で行なわれる。すでにWindows XPでは、OSのインストール後でもCPU数の切換を手動でできるようになっている。これを何らかのAPIやソフトウェアなどの追加により、OSが自動で行なえるように改良するものと見られている。 おそらくこの機能はSpeedStepの新機能として追加されることになるだろう。例えば、ACアダプタで利用している場合にはCPUコアは2つで動作し、バッテリで駆動している時にはCPUコアは1つで動作するなどだ。現時点では、そのほかのトリガーについては予想するのは難しいが、おそらくACアダプタの有無以外にもアプリケーションからCPUの増減を指示したりという仕組みを作ったりするのも不可能ではないだろう。 例えば、通常状態はCPUコアを1つで動かしておき、アプリケーションからもう1つのCPUコアを必要とするリクエストが来た時だけもう1つのCPUをロードするなどのシナリオだ。 ●Crestineプラットフォームではさらに高速なFSBを採用
OEMメーカー筋の情報によれば、JonahのシステムバスはDothanと同じ533MHzにとどまっており、CPUソケットも現在と同じμPGA478でリリースされる見通しであるという。今年の第4四半期にリリースされるDothanと同じプラットフォームで利用することができる。つまり、第4四半期に533MHz版Dothanと同じAlvisoチップセットで利用できることになる。 Intelのチャンドラシーカ副社長は「Dothanは、Baniasと同じチップセット、電気設計、ソケットなどが利用できる。OEMメーカーは現在あるプラットフォームをそのまま利用できる。これはSonomaプラットフォームでも同じ状況で、65nmのプロセッサがリリースされれば、OEMメーカーはSonomaをそのまま65nmプロセッサへ移行できる」と、同社のプラットフォーム戦略が、前世代のプロセッサに最新チップセットを組み合わせることでまずプラットフォームを立ち上げ、その後で新世代のプロセッサを投入し、安定したプラットフォーム上で動作させるというものであることを明らかにしている。 おそらく、この戦略はJonah以降のプラットフォームでも同様だと考えられる。IntelはAlvisoチップセットの後継としてCrestine(クレスティーン、開発コードネーム)というチップセット、さらにJonahの後継としてMerom(メロム、開発コードネーム)というCPUコアを計画しているが、おそらくCrestine世代のプラットフォームはJonahの高速システムバス版で立ち上げ、ある程度Crestineプラットフォームが安定した段階でMeromを投入するというプロセスを経ることになるだろう。 実際、情報筋はMeromのシステムバスがJonahにかなり近いものになると指摘しており、そうした戦略である可能性は高い。 Meromのアーキテクチャについて、現時点では詳しい情報は伝わってきていないが、情報筋はMeromがBanias世代とは大きく異なるアーキテクチャになると伝えてきており、全く新しいデザインとなる可能性が高い。 情報筋は、IntelがMerom世代では現在モバイルPentium 4がカバーしている市場を、Pentium Mのラインがカバーする、と説明していると伝えてきており、かなり大規模な改良となる可能性が高いだろう。 □関連記事
(2004年2月27日) [Reported by 笠原一輝]
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