CeBITにおけるPC関連の展示で最大のトピックとなったのはPCI Express関連の展示だろう。 IntelのIntel 925X(Alderwood)やIntel 915(Grantsdale)などのチップセットのほか、GPUでは、ATI RV380やNVIDIA GeForce PCXシリーズなどのPCI Express関連製品を、本誌のレポートでも取り上げた。 しかし、そうした表で目立った展示とは別に、静かに注目されている製品がある。それが台湾ベンダ各社が展示したノートPCだ。というのも、Centrinoの普及によりノートPCのシェアが高まるにつれ、大手PCベンダのノートPCだけでなく、チャネル向けのノートPC市場への注目が集まってきているからだ。 実際、COMPUTEXに引き続き、CeBITのマザーボードベンダのブースにもチャネル向けのノートPCが多数展示されていた。 ショップブランドのデスクトップPC“ホワイトボックス”のノートブック版ということで“ホワイトブック”などとも呼ばれるこれらの製品は、新しい可能性として注目されている。 ●大手マザーボードメーカーのほとんどがCeBITでノートPCを展示
CeBITでは、大手のマザーボードベンダのほとんどがノートPCをベアボーンシステムとして展示した。従来より展示しているGIGABYTEやAOpenなどに加え、これまでノートPCの事業には取り組んでこなかったMSIも参入したことを明らかにし、対応製品を展示していた。
これらマザーボードベンダがノートPCに取り組んでいるのには、今後チャネル(流通業者)市場向けのノートPCが普及するという見通しを持っているからだ。 現在、ノートPCのビジネスは、Dell、HP、IBM、NEC、富士通など世界市場で10位までを占めるような大手PCベンダの寡占状態にあると言ってよい。 ケースも含めたパーツが標準化されているデスクトップPCでは、大手PCベンダのような高い技術力がなくても、汎用品のパーツを入手してPCを製造することが可能で、ホワイトボックスを中心としたチャネル(流通業者)によるPC市場ができあがっている。 市場には多くのケースやマザーボードなどが流通しており、それらの組み合わせで多くのバリエーションを作り出すことができ、チャネルが容易にオリジナルのPCを製造し販売することが可能だった。それも、大手PCベンダが提供するPCよりも安価に提供することが可能で、確実にある一定のユーザー層を引きつけてきた。 これに対してノートPCの市場では、そうした汎用品という形での提供が難しかった。マザーボードもケースも、製品ごとに作り込む必要があり、完成した形でチャネルに提供する形になる。これだとコスト面でもOEMメーカーとさほど変わらないレベルとなってしまい、メリットは少なかった。 このため、ノートPCにおける大手PCメーカーのシェアは8~9割にも達すると言われてきた。明確な資料があるわけではないが、Intelに近い情報筋によればデスクトップPCでは4~5割程度がチャネルであるとされているのとは対照的だ。 そうした事情から、これまでチャネルではあまり“ホワイトブック”の可能性は検討されてこなかったのだ。 ●ノートPCへの傾倒を深めるIntel、ノートPCでのチャネル率向上が課題に
だが、そうした状況は大きな変化を見せ始めている。最大の要因は、ノートPC市場の位置づけの変化だ。 日本市場は別として、ワールドワイドマーケットで見た場合、ノートPCのシェアは20%程度と言われてきたが、今後このシェアは増えることはあれど減ることは無いだろうと考えられている。 実際、2月に開催されたIntel Developer ForumにおいてIntel モバイルプラットフォームグループ ジェネラルマネージャのアナンド・チャンドラシーカ副社長が、「ガートナーグループの調査によれば2004年のモバイルPCの成長率予測は22%で、2004~2007年というレンジでは20%の成長が予測されている。これはデスクトップPCの3倍近くとなっている」と述べているように、ノートPC市場の成長を疑う業界関係者はいない状況だ。今後、PCにおけるノートPCのシェアは上がり続ける可能性が高い。 実際、IntelもモバイルPCへの傾倒を深めるばかりだ。昨年、「Centrinoモバイル・テクノロジ」(CMT)ブランドを広めるのに多額の予算を使ったIntelだが、そのキャンペーンは引き続き今年も継続され、ある台湾マザーボードベンダのデスクトップPC担当マーケティングマネージャが「もう少しデスクトップPCのキャンペーンにお金を使ってくれてもいいんじゃないか……」とぼやくほど、CMTキャンペーンには多額の費用が使われているという。 しかし、ノートPCの成長率が高まり、デスクトップPCとのシェアが変わってくると、Intelはあるジレンマを抱え込むことになる。というのも、ノートPCが増えれば増えるほど、Intelはチャネルに販売するCPUの量が減り、トップ10のOEMベンダのようなOEMメーカーへ販売するCPUの量が増えていくからだ。すでに述べたように、ノートPCではデスクトップPCに比べてチャネルのパーセンテージが低いのだ。 チャネルに販売するCPUの量が減ることは、Intelにとって利益率の低下を招くと情報筋は指摘する。というのも、大量の製品を一度に納入するOEMビジネスでは大幅なディスカウントが当たり前の世界であり、よくIntelがプレスリリースで発表している“1,000個ロット時の価格”から大幅なディスカウントが行なわれるのが通例だ。 これに対して、チャネル向けにはほとんどの場合、大幅な値引きがされることはなく、CPU 1つあたりの利益率はOEMベンダに販売する場合に比べて高くなる。このため、チャネルに出荷する割合が減ることはIntelの利益にも直結する重大な問題なのだ。 ●Intelが“ホワイトブック”向けの拡張支援プログラムを実施
むろん、チャネルへのCPU出荷量が減るということは、チャネルにとっても販売量の減少を意味することになり、ビジネスチャンスの減少と言うことになる。また、市場全体にとっても、大手メーカーのシェアがまだ小さい中国などの成長市場では現在ホワイトボックスのデスクトップPCを購入している層の受け皿を用意するという意味で、ホワイトブック市場の創造は急務と言える。 Intelに近い情報筋によれば、Intelは台湾のノートPC製造ベンダに対して、ホワイトブック市場を拡大させるためのプログラムを行なっているという。具体的にはデスクトップPCで行なわれている“Innovation Alliance”と呼ばれる取り組みをノートPCでも行なっているという。 ノートPC版Innovation Allianceには台湾のノートPC製造ベンダのトップ5であるASUSTeK、Compal、FIC、Quanta、Wistronの5社が加盟しており、この5社に対してIntelはノートPC設計製造のノウハウ、テストツールの提供、エンジニアレベルでのサポート、CPUなどのサンプルの早期提供などを実施し、台湾ベンダのノートPCの製造レベルを高める努力をしていると情報筋は伝える。 要するに、この取り組みは、Intelが過去にデスクトップPCで行なってきたことの繰り返しだ。これまでIntelは早期にサンプルを提供したり、詳細なデザインガイドを提供したり、あるいはエンジニアレベルでの手厚いサポートを行なうなどして、台湾のコンポーネントベンダのレベルを引き上げてきた。それにより、チャネルの市場を育てると同時に、OEMメーカーのODM元としても育ててきた。それをもう一度ノートPCでやっていこうというのがこのプログラムの狙いだろう。 実際、マザーボードベンダの中には自社ではノートPCを製造する施設を持っていない場合があるので、そうしたベンダは前述のノートPC製造ベンダなどからODM供給を受けてチャネルに販売しているという。ASUSは別として、前述の5社はODM専業メーカーである場合が多く販売チャネルを持っていないので、こうした形態がとられているという。 Intelは最近IDF(Intel Developer Forum)などで、モバイルPCのリファレンスデザインを公開することが多い。リファレンスデザインの公開は、チャネル向けノートPCのプロモーションの1つであるようだ。 Intelのチャンドラシーカ副社長は「日本メーカーは依然としてモバイルPC市場の革新をリードする立場であり続けると思うが、弊社の顧客には、弊社から次世代の方針を示さなければいけないところもある」とIntelがリファレンスデザインを示す理由を説明する。 要するにターゲットは自分で革新的な製品を作り上げることができる日本のPCベンダではなく、それ以外のPCベンダに新しいコンセプトを提案するのがリファレンスデザインの目的なのだという。 Intelがまずリファレンスデザインを作り上げ、それをターゲットに台湾ベンダが作る、というデスクトップPCで行なってきたモデルを、モバイルでもやっていこうとしていることが、この発言からも伺える。 ●ワールドワイド市場では徐々に立ち上がるノートPCのチャネル市場
こうした背景もあり、現在チャネル向けとして投入されているノートPCも魅力的な製品が増えつつある。 特に、DTR(DeskTop Replacement)と呼ばれる、デスクトップPCの代替となる製品では、各社とも差別化が難しいため、価格面で有利なチャネルのノートPCはコンシューマユーザーやSOHOユーザーにとって魅力的な存在となっている。また、A4薄型で2kg台の2スピンドルノートPCでも、チャネル向けノートPCが登場しつつある。 だが、より小さなサブノート、ミニノートPCなどに分類されるウルトラポータブルなノートPCでは、莫大な開発費がかかる割には市場が小さいため、引き続きこのマーケットでは日本メーカーがリーディングメーカーであり続けると考えられている。 ただし、これらの話はワールドワイド市場での話であり、日本市場では状況は大きく異なっている。日本ではデスクトップPCでもチャネルによるホワイトボックスPCのシェアは世界市場に比べると小さい。 チャネルブランドによるノートPCであるホワイトブックが成功していけるかは、現時点では未知数と言わざるを得ない。特に、日本ではTVチューナを内蔵したノートPCなどもすでにリリースされており、それなりのポジションを築いている。日本市場にも適した“ホワイトブック”を台湾のODMベンダが用意できるか、そこが鍵となるのではないだろうか。 あるいは、現在デスクトップPCに比べて割高なノートPCだが、その常識を打ち破るような低価格な製品がチャネルから登場したりすれば、いきなりチャネル向けの“ホワイトブック”が市民権を得る可能性もあるかもしれない。 □関連記事
(2004年4月2日) [Reported by 笠原一輝]
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