●Meromをデスクトップとモバイルの両方に投入 Intelは、2006年に新アーキテクチャのデスクトップCPUとモバイルCPUを投入する。モバイルCPUは「Merom(メロム)」、そしてデスクトップCPUもMeromと同系列コアになる。つまり、2006年にはモバイルCPUがデスクトップCPUエリアへと入ってくる。 これによってデスクトップCPUは劇的に変わる。上昇する一方だった消費電力は、前世代(Tejas/Cedarmill)から初めて下がる。そしてマルチコア化によって、CPUのパフォーマンス向上は、周波数の向上よりもマルチスレッド性能向上に負うようになる。そのため、中期的にはソフトウェア開発の手法も変わっていかざるを得ない。 IntelのモバイルCPUは、現在の0.13μm版Pentium M(Banias:バニアス)の後、90nm版Pentium M(Dothan:ドタン)、65nmと推定される「Yonah(ヨナ)」へと続く。Dothanが今年第2四半期、Yonahが2005年後半、そして、2006年前半にはYonahの後継としてMeromが登場する。Yonah以降はマルチコアとなり、Yonahは2MBのキャッシュを搭載、Meromは4MBのキャッシュを搭載する。 Intelは、Yonah~Merom世代のためのプラットフォームとして、「Napa(ナパ)」を準備している。これは、今秋に登場する「Sonoma(ソノマ)」プラットフォーム(Alvisoチップセットベース)の後継で、第2世代のPCI Expressチップセット「Calistoga(カリストガ)」をベースにする。Napa世代では、CPU TDPは45Wが予定されていると見られる。つまり、MeromのTDPは45Wが想定されていることになる。 Intelが計画している次々世代デスクトップCPUは、Meromの派生品となる。モバイル版は異なるコードネームがついている可能性もある(Conroeという報道もある)が、まだ確認はできていない。Merom系コアの、デスクトップ版とモバイル版の最大の違いはTDP。モバイル版のTDPが45W程度からスタートするのに対して、デスクトップ版は90W前後と言われている。どうやら、2倍程度のTDPの差があるらしい。 ●想定されるMeromアーキテクチャ では、Meromはどんなアーキテクチャを持つCPUなのだろう。いくつかのポイントは明白だ。 ○65nmプロセス まず2006年前半という時期から、Meromは65nmプロセスのCPUであることがわかる。モバイルCPUではYonahが65nm、デスクトップCPUでは次世代CPU「Tejas(テハス)」のシュリンク版の「CederMill(シーダミル)」から65nmになる。つまり、Meromはデスクトップでもモバイルでも、65nmの第2世代CPUとなる。 Yonahがデュアルコアであることから、Meromもデュアル以上のマルチコア構成であることは確実だ。Intelは昨年9月のIntel Developer Forum(IDF)で、数年後にデスクトップにデュアルコアCPUを投入することを明らかにしている。この時のアナウンスがMeromを指していると推定される。 可能性としてはデスクトップMeromはクアッドコア(CPUコアが4個)構成というケースもありうる。というのは、デスクトップ版のTDPがモバイル版の2倍になっているからだ。単純にコアが2倍に増えてTDPが倍になったと考えることもできる。ちなみに、65nm世代では、IntelのPentium M系CPUコアの面積は、機能拡張を考慮に入れても40平方mm以下だと推定される。そのため、クアッドコアもダイサイズ(半導体本体の面積)の面からは不可能ではない。 もっとも、Intelは、デスクトップCPUはデュアルコアと説明しているため、Meromの世代ではデュアルである可能性が高い。クアッドコアになると、FSB(フロントサイドバス)の拡張なども必要になってくるだろう。しかし、このペースなら近い将来(45nmプロセスなど)にはクアッドコアに移行することも考えられる。 現在、YonahについてはデュアルのCPUコアの動作を、AC時とバッテリ時に切り替えられることがわかっている。つまり、AC時にデュアルコア、バッテリ駆動時にシングルコアとなるらしい。この方向のアプローチの次のステップはおそらく、CPU負荷に応じて動的に動作するコア数を調整することだろう。実際、ある情報ソースは、Merom世代ではパフォーマンスをオンデマンドで提供することがテーマになっているという。もちろん、そこにはまた技術ハードルがある。 ●ついにデスクトップCPUのTDPが下がる デスクトップMeromは90W前後のTDPになると言われている。デスクトップCPUのTDPが下がるというのは朗報だ。それは、現在のCPUは、プロセス技術が微細化しても消費電力/TDPが下がらないからだ。そのため、90nm版Pentium 4(Prescott:プレスコット)以降はTDPが上がる一方となっている。 例えば、2005年のデスクトップCPUのTejasのTDP枠は125W。これは、Tejas向けのマザーボード設計のガイドライン「Performance FMB(Flexible Motherboard) 2005」のTDPが125Wであることから明らかだ。 Intelは以前のMicroprocessor Forumで、デスクトップPCに搭載できるCPU TDPの上限は140W程度と説明している。つまり、Tejas世代ではTDPは上限にかなり迫るレベルになってしまうのだ。103WのμPGA478版Prescottでさえ、熱設計はかなり苦労する。それが125Wとなると、妥当なコストで設計できる限界に近い。そのため、Intelは熱設計シミュレーションをきっちり行なったBTXのようなフォームファクタ規格を提案せざるをえなくなっている。 だが、MeromになるとTDPがNorthwoodレベルにまで再び下がる。そのため、デスクトップPCの設計はかなり容易になると推定される。 疑問は、デスクトップとモバイルの両Meromの2倍程度のTDPの差はどこから生じているかだ。モバイルMeromがデュアルコア、デスクトップMeromがクアッドコアだとしたら、話は簡単で、TDPの差はコア数の差ということになる。しかし、現在のIntelの説明を聞いている限り、その可能性は薄そうだ。 すると、デスクトップとモバイルのTDP枠の違いは、周波数&駆動電圧の差から来ていると想定される。もしそうだとすると、Meromは現在のPentium Mよりは、高周波数化が可能なスケーラビリティを持つと推定される。NetBurstほど深くはないが、Banias/Dothanよりは深いパイプラインになるのではないだろうか。 ●4MBのキャッシュを搭載するMerom Intel CPUは搭載キャッシュ量を急増させている。Prescott/Baniasの1MBが、Tejas/Dothanでは2MBになり、Meromでは4MBになると言われている。これには2つの意味がある。(1)プロセスの微細化によってSRAMセルのサイズが縮小していること、(2)消費電力の低いSRAMを一定量搭載することでダイ(半導体本体)上の熱を拡散、電力密度を下げる。 0.13μmプロセスのBaniasのCPUコアはダイ写真からの推定では約50平方mm程度、90nmのDothanになると約37平方mm。プロセスが1世代微細化すると原理的には同じ機能ブロックの面積は半分になるはずだが、BaniasとDothanでは70数%までしかダイが縮小していない。これは、機能拡張やプロセスへの最適化など様々な理由があると見られる。 DothanからYonahへの移行で、現在のダイが60~70%に縮小すると仮定すると、65nmでのCPUコアは計算上で約22~27平方mmになる。そこに64bit化などの拡張が加わるとして例え50%増になったとしてもコアサイズは33~40平方mm。これなら、デュアルコアにして、4MBのL2キャッシュを搭載してもダイサイズは150平方mm以下に収まる計算になる。これは、IntelのメインストリームCPUのダイとしては一般的なサイズだ。クアッドコアだった場合には200平方mm超になるが、それでもWillametteクラスだ。 Meromのバスアーキテクチャはまだわかっていない。しかし、YonahがDothanと同じバスアーキテクチャを採用していると見られることから、Meromも少なくとも最初の世代はPentium 4/M系バスである可能性は高い。というのは、YonahとMeromは同じチップセット/プラットフォームで対応するからだ。ある業界関係者も、「今のところモバイルCPUで新しいバスの話は聞いていない」と言う。 ただし、コアの拡張を考えると、今後長期的にはバスを拡張していく方向にあると見られる。コアの拡張に従って必要なピークバス帯域も高くなっていくからだ。 では、Meromに実装される機能はどうなるだろう。これも、ある程度までは想定できる。次回のレポートでそれを説明したい。 □関連記事 (2004年3月15日) [Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]
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