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Intelがなぜモデルナンバーを採用するのか
〜それは熱とスレッドのため




●Intelがモデルナンバーライクな指標を導入へ

 近い将来のIntel CPUは、クロックではなく“7xx”とか“5xx”といった、馴染みのない数字で区別されるようになるかもしれない。「Intel、Intel版「モデルナンバー」導入を検討」で笠原氏がレポートしている通り、Intelがモデルナンバーライクなグレード表記「プロセッサナンバー」の導入を、顧客に対して打診し始めているからだ。

 しかし、これは意外なことではない。というのは、もう1年も前から、Intelはプロセッサナンバーの導入が必要な状況にあったからだ。それは、(1)CPUの高周波数化のペースが落ち、(2)Pentium Mの導入によって周波数を付加価値にできないCPUを並行して売らなければならなくなっていたからだ。さらに近い将来には、(3)マルチコア化によって、周波数ではなくマルチスレッド処理による性能向上へと向かい、(4)デスクトップCPUにもモバイル系マルチコアCPUを投入することで、最終的には周波数によるCPU差別化が不可能な状況になる。つまり、Intelとしては周波数以外のグレード付けを定着させなければならない状況にある。

 こうした背景を考えると、Intelのプロセッサナンバーの導入は必然だったと言える。

●破綻しつつあるクロックによる差別化

 Intelはこれまで、動作周波数至上主義でCPUの差別化を進めてきた。周波数を十数%刻みで差別化した8〜10段階程度のグレードを用意。各グレードで、典型的には30%程度の価格差をつけることで、高クロックCPUで高利益を上げ、CPU全体のASP(平均販売価格)を引き上げる戦略を採ってきた。それは、CPUの動作周波数が、1四半期に1グレードづつ、1年に約150%程度づつ向上してきたからだ。

 だが、この戦略は、2003年頃から破綻の兆しが見えていた。IntelのデスクトップCPUの周波数、2001/2002年の間は年に1.5倍近く伸びていた。だが、以前のレポート「周波数向上が停まり、爆発するCPUのバリエーション」で説明した通り、2003年に入るとPentium 4の周波数の伸びは止まり、年にわずか10%以下しか周波数は伸びなかった。

 2004年は多少は周波数が向上するものの、それでも4GHz止まり。1年で1.25倍程度しか向上しない。そして、2005年も、おそらく同程度の周波数の伸びに留まるものと推定される。それは、CPUのTDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)が上限に近づいているため、動作周波数を伸ばすことが難しいからだ。

 Pentium 4ブランドの周波数が伸び悩む一方、IntelはCeleronの周波数の向上は継続させてきた。Celeronは2002年末から2003年末にかけても、1.2x倍程度周波数が向上している。そのため、現在、Pentium 4とCeleronの周波数差がどんどん狭まってきている。かつて、Pentium 4の最高クロック品と、Celeronの最低クロック品は、周波数で2倍以上の差があったのが、今は1.4倍程度。

 その結果、2004年のIntel CPUは同じ周波数で機能や性能の異なるCPUが多数オーバーラップすることになってしまう。例えば、2.8GHzのCPUは全部で9種類のバリエーションが登場してしまう。CPUコアやFSB、パッケージ、L2キャッシュサイズ、機能のバリエーションがあるからだ。

 一方、ライバルAMDに目を向けると面白いことがわかる。AMDもじつは同じ状況にある。AMD CPUも動作周波数が伸び悩み、高クロック品と低クロック品の周波数の差はわずか1.4倍前後になりつつある。ところが、AMDの場合はモデルナンバーのおかげで、実際の周波数以上の差が見かけ上つけられている。

 さらに、Athlon 64 FXになると、異なるモデルナンバーを採用しているため、単純な数字の大小比較もできない。つまり、AMDは同状況にあっても、モデルナンバーのおかげで、問題を隠蔽できているわけだ。

 こうして見ると、CPUの動作周波数が伸び悩む現状では、AMDのソリューションがマッチしていることがわかる。

 Intelは、現在、デスクトップとモバイルのパフォーマンスCPUに700番台、メインストリームCPUに500番台、そしておそらくバリューCPUに300番台のプロセッサナンバーをつけることを検討しているらしい。そうすると、同じ周波数のCPUでも、機能の差を反映して異なるナンバーをつけることができるようになる。明確な差別化が可能になる。

●クロックでの位置付けが難しいPentium M

 さらに、IntelはPentium Mで従来とは全くことなる価値基準を導入した。Pentium Mのフィロソフィは、高いパフォーマンス/消費電力の実現で、そのために、ロスの大きい高クロック化=長パイプライン化は採らなかった。その結果、Pentium Mは同クロックの他のCPUと比べると性能が高い。だが、その反面、動作周波数は相対的に低く、それが原因で、日本以外の市場ではコンシューマ市場で伸び悩んでいる。

 Intelは、Pentium MをモバイルCPUと位置づけ、周波数以外の付加価値をアピールしている。無線LANをバンドルしたCentrinoブランド戦略を採ることで、明瞭なブランドマーケティングも行なっている。しかし、それでも対Pentium 4でのポジショニングは難しい。

 さらに、モバイルCPUもデスクトップCPUと同様の悩みを抱えている。それは動作周波数の向上が伸び悩んでいることだ。一定のTDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)の枠内での周波数向上は、以前はプロセス技術の微細化によっていた。だが、現在はプロセスを微細化しても、さほど消費電力が下がらないため、微細化による周波数向上は厳しくなっている。

 だが、ここにプロセッサナンバーを導入すれば状況は変わる。例えば、デスクトップとモバイルのパフォーマンスCPUに同じ700番台をつければ、クロックでは2倍近い開きがあったとしても、見かけ上は同グレードのCPUに見える。FSBの向上など、クロック以外のフィーチャも数値化できるため、周波数の向上以上に性能が上がって行くことを見せることができる。

 もっとも、現在のPentium Mは、まだそれでも位置づけが容易だ。というのは、Intelは2005年後半になると、モバイルにデュアルコアCPU「Yonah(ヨナ)」を投入するからだ。デュアルコアの性能をどう数値化するか、これは難しい問題がある。

 Yonahは、AC電源時には2つのCPUコアが同時に動作することで、マルチスレッド性能を引き上げる。だが、おそらくYonahでは動作周波数はそれほど上がらない。つまり、Yonahではパフォーマンス向上は、デュアルコア化に負う可能性が高い。

 これは非常にクリティカルだ。というのは、デュアルコアでのマルチスレッド性能向上は、単純に測ることができないからだ。こうしたアーキテクチャでの性能を引き出し、測るためには、アプリケーションもベンチマークも変わっていかなければならない。いずれにせよ、Yonahはクロックで差別化することはできない。そのため、Yonahでは、プロセッサナンバーによる差別化は必須となる。

●クロック至上主義からスレッド至上主義へ

 そして2006年には、同じ現象がデスクトップCPUにもやってくる。というのは、Intelは2006年のモバイルCPU「Merom(メロム)」をベースにしたデスクトップCPUを、同年に投入するからだ。そして、デスクトップCPUのMeromベースへの移行は、Pentium MからYonah/Meromへの移行よりずっとハードルが高い。それは、デスクトップではNetBurstアーキテクチャによって、クロック至上主義が採られてきたからだ。

 MeromベースCPUになると、デスクトップCPUもマルチコア型アーキテクチャになる。そして、おそらくクロックは2005年のCPU「Tejas/Cedarmill(テハス/シーダミル)」よりも向上しないか、下がる場合すらありうると推定される。つまり、パフォーマンス向上は、複数CPUコアによるマルチスレッド性能向上に完全に依存する。

 こうなると、Intelは従来のクロック至上主義を継続することは不可能だ。つまり、2006年までにIntelは完全にクロック至上主義を捨て、デスクトップでもモバイルでも、新しい価値観を示すグレード表記を定着させなければならないことになる。

Intel CPUコアの移行予想図
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 Intelは、現在提示しているプロセッサナンバーは、まだ本決まりではないというニュアンスで顧客に伝えているらしい。つまり、本当にブランド別に700番台、500番台といった数値になるのかどうかはわからない。しかし、Intelがクロックを離れ、プロセッサナンバーへと向かっていることだけは確かだ。

 これは、IntelがAMD64に続き、AMDのアイデアを流用したように見える。しかし、64bit化がCPUの必然的な進化のトレンドであったのと同様に、プロセッサナンバー化も必然的な流れだ。消費電力の制約から周波数の向上が難しい現状で、いかにCPUをグレード化するかを考えると、クロック以外のグレードの導入は必須となる。

 また、Intelのこうした変化は、最終的にはCPUのクロック至上主義時代の終わりを意味する。そして、長期的には、この変化はCPUアーキテクチャにも変化を及ぼすと見られる。つまり、縦にクロックを上げて行くのではなく、横に機能を拡張する方向へとCPUを進化させることになるだろう。それを象徴するのは、マルチスレッド化だ。

 そして、それはソフトウェア側のアーキテクチャやベンチマークの作り方に影響を及ぼし、さらにはPCに適したアプリケーションは何かという根本的な問題もつきつけるようになるだろう。つまり、プロセッサナンバーは、単純にナンバーをつけたというだけではなく、CPU/ソフトウェアアーキテクチャの転換点の始まりを意味する。

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【3月12日】【笠原】Intel、Intel版「モデルナンバー」導入を検討
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【3月5日】【海外】マルチコア+マルチスレッド+動的スケジューリングへと向かうIA-64
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【2月27日】【海外】Intelの次々世代モバイルCPU「Jonah」はデュアルコアで登場
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【2003年11月19日】【海外】周波数向上が停まり、爆発するCPUのバリエーション
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/1119/kaigai047.htm

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(2004年3月12日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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