●IntelのFMBとCPUのTDPの関係
デスクトップPCの中に収まっているのは、140WのCPUと100Wのグラフィックスカードと数十Wのメモリ。例え、廃熱技術が十分に発達したとしても、あまりいい気持ちはしない。しかし、メインチップだけで300Wを使うPCが、このまま行くと冗談ではなく実現してしまいそうだ。一体、PCはどこまで熱くなるのか。どんなペースで消費電力と熱は増えて行くのか。 IntelのデスクトップCPUのTDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)は、IntelがOEMやマザーボードベンダーに提供しているマザーボード設計のガイドライン「Flexible Motherboard (FMB)」でおよその予想を立てることができる。FMBスペックを見ていると、何GHz時点でTDPは何Wに達するのかが見えてくる。 とはいえ、Intel CPUとFMBの関係はわかりにくい。その原因は、PCベンダーのシステムはもちろん、市販のマザーボードも、どのFMBに準拠しているかが明記されていないあたりにある。FMBは、あくまでも、バックステージの仕様で、ユーザー向けの話ではない。また、各マザーボードも、厳密にどれかのスペックに準拠しているわけではない。FMBスペックを部分的に凌駕しているところもあったりする。そのため、参考にしかならないが、一応0.13μm版Pentium 4(Northwood:ノースウッド)以降のFMBを整理してみた。 Intelは、OEMベンダーに対して、各CPU世代毎に2種類のFMBを提供している。例えば、Northwood向けは「Northwood FMB1」と「Northwood FMB2」がある。また、NorthwoodはPrescott向けの「Prescott FMB1」でもサポートされる。オーバーラップするのは、移行期をカバーするためだ。例えば、典型的なパターンでは、最初の世代のFMBは前世代のCPUと新世代のCPUの両方をサポートして、移行しやすいようにする。 例えば、Northwood FMB1は2002年のWillametteからNorthwoodへの移行期の仕様で、Intel 845E以降のチップセットがベース。基本的にはμPGA478ベースのWillametteとNorthwoodの両方をカバーする。しかし、Northwoodもすべてをサポートするわけではなく、2003年第1四半期までのNorthwoodまでしかサポートしない。 それに対して、Northwood FMB2は2002年後半からのHyper-Threading Northwoodをターゲットにした仕様となる。現在、このFMBを分ける最大のポイントは消費電力=CPUへの供給電流量となっている。高クロックCPUになると消費電力が多くなり、マザーボードを通じて供給する電流の量を増やさなければならなくなる。これが技術的にハードルが高い。そのため、IntelはFMBのバージョンを上げるたびに小刻みにTDPと電流量を引き上げている。ちなみに、Northwood FMB2では、TDP 82W(電流量Icc MAXは70A)まで対応し、Northwoodの周波数は3.2GHzと、同CPUのEOL(製品寿命終了)までをサポートする。
次がPrescott FMB1で、TDPは89W、Icc MAXは78Aにまで上がった。しかし、このスペックなら、NorthwoodとPrescottの両対応ができる、移行期マザーボードとなるはずだった。ところが、前回のコラムでレポートしたように、Prescottは実際のシリコンの消費電力が予想を大幅に上回ってしまったため、完全にこのPrescott FMB1の枠内に収めることができなくなってしまった。そのため、現在は、これにさらに対応TDPを103W(91A)に高めたPrescott FMB1.5スペックが加わっている。 もっとも、前回のレポートでは、Prescott FMB1ではPrescottが全くサポートできなくなる可能性があると書いたが、Intelはそれは回避するつもりらしい。最初に登場するバージョンの3.2/3.4GHz PrescottはFMB1の枠をはみ出してしまうが、来年に入ると、電流量を下げてPrescott FMB1の枠内で駆動できるバージョンを出すという。そのため、来年には、最高クロックのパフォーマンスPC向けPrescottはPrescott FMB1.5、メインストリームPC向けPrescottとNorthwoodはPrescott FMB 1という区分けになるらしい。つまり、同じPrescottでも、マザーボードによっては載せられたり載せられなかったりということになるようだ。 だが、いずれにせよその2重状態もそんなに長くは続かない。というのは、来年第2四半期になればPrescott FMB2が出てくるからだ。Prescott FMB2では、LGA 775ベースのPrescottと次々世代CPU「Tejas(テハス)」の両方をサポートすることになる。Prescott FMB2ではPrescottはEOLまで対応なのでおそらく4GHz台のPrescottにも対応する。Prescott FMB2は、以前は97W(Prescott)と100W(Tejas)と伝えられていたが、これも変わる可能性が高い。 ちなみに、そのあとのTejas FMB1では110WまでのTejasをサポートすることになっていた。おそらく、5GHz台のTejasを、このTejas FMB1の枠内に押さえ込もうというわけだろう。もっとも、このあたりは、どう変わるかまだわからない。今回同様に実際のシリコンができてみたら、TDPが予想より高かったということも起きる可能性はある。いずれにせよ、Intel CPUのTDPは、確実に100Wを越えつつあることは確かだ。 ●140Wへ向けてひた走る? Intel CPU
こうしてみると、問題点と不安点は誰の目にも明らかだ。着実にひたひたと上がって行くIntel CPUのTDP。はたして、CPUはこのままどこまで熱くなるのか。しかも、必ず予測値よりも高くなるというのは、危険な兆候だ。 もっとも、Intelは、とりあえず140W程度までにはCPUの消費電力を抑えようとしているようだ。Intelが一昨年のMicroprocessor Forumで行なった、10GHzのCPUの問題点を論じたスピーチでも、現在見通せる冷却技術では、140W程度が対応できるTDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)の限界ラインだと示されていた。10GHz CPUも、そのレンジに納めなければならないというストーリーだ。 また、IntelのWilliam M. Siu(ウイリアム・M・スー)副社長兼ジェネラルマネージャ(Vice President and General Manager, Desktop Platforms Group)も、今年4月には「CPUの電力消費は、トレンドから言って100Wか、そのもう少し上まで行くと思う。だからといって150~200Wにはならないだろう」と言っていた。つまり、1xxWは行くが150Wよりは下というラインが、Intelの想定する上限とされているようだ。 しかし、今の流れを見ていると、その140Wに駆け上がって行くのも、意外と早いかもしれない。来年第1四半期までのCPUは89W TDPだったはずが、今は103W TDPへと上がっているのだから。 外野から見ていると、果てしない性能競争を続けるCPUベンダーに押し切られて、ずるずるとTDPが上昇しているように見える。CPUの性能が先にあり、そのために上がる消費電力をなんとかしようという理論になっているからだ。こういうマシンを作りたいから、こんな(消費電力の)CPUが欲しいという論理は、そこにない。SFF(Small Form Factor)デスクトップには、35Wや45WのCPUしか入らないから、と日本のPCベンダーが主張していた頃が遠い昔のようだ。 ●今の半導体の抱える根元的な問題
だが、問題は、これはIntelが悪いわけではないという点にある。この消費電力の向上の根元的な原因は、じつは半導体の現在の技術がある種の壁に当たってしまったことにある。業界全体の問題だ。ひとつは、0.18μm以降は電源電圧の下降のペースが落ちたために、電源下降による消費電力の低減の比率が落ちてしまったこと。もうひとつは、プロセスが微細化する毎にトランジスタのリーク電流がどんどん増えつつあることだ。 これまでは、CPUベンダーがCPUの高性能化を進めて行くと、プロセスの微細化にともない消費電力も下降した。つまり、高性能化で増えた分の消費電力が相殺され、CPUの消費電力向上は抑えられた。ところが、今ではプロセス微細化であまり消費電力が下がらなくなってしまった。そのため、CPUメーカーがCPUの高性能化を進めると、消費電力が突出して伸びるようになってしまったというわけだ。 というわけで、今後はCPUの消費電力向上を抑えるためには、プロセス技術や回路技術も含めた、総合的な対策が必要となる。問題は、それが間に合うかどうかだ。少なくとも、90nm世代のPrescottでは、かなり困った問題を抱えているように見える。 もっとも、同じIntelの90nm世代CPUでも、モバイル向けの次世代CPU「Dothan(ドタン)」では、今のところ消費電力は抑えられているらしい。本当のところはまだわからないが、周波数は9月末または10月頭登場の最初のバージョンで1.8GHzからと高いのに、TDPは現在の0.13μm版Pentium M(Banias:バニアス)より低いという。どうやってか、ある程度問題は解決できたようだ。 今回のPrescottのTDP 100W越えでは、ひとつのことが鮮明になった。それは、今後のCPUやプロセス技術の開発では、消費電力の低減が最大かつ最重要のテーマであることだ。 □関連記事【7月22日】【海外】この夏、Prescottが熱い。来年は消費電力100Wオーバーへ http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0722/kaigai005.htm 【2月27日】【海外】Prescott/Tejasは5GHz台、65nmのNehalemは10GHz以上に http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0227/kaigai01.htm (2003年7月25日) [Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]
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