2月29日、日本工学院専門学校 蒲田校(大田区)にて「第1回スーパーロボット決定戦 ROBO-ONE Special」が開催された。ROBO-ONEはアマチュアによる二足歩行ロボット競技大会。いつもはトーナメント制でのロボットバトル大会だが、スペシャル版の今回は、ロボットの運動性能を競う総合競技大会として開催された。 競技は4つ。階段を上って降りる「ROBO-ONE Stairs」、ドアノブを握ってドアをあけ、通り抜けたあとで閉める「ROBO-ONE Door」、横になった状態から起きあがり、180度ターンして目標まで歩行する「ROBO-ONE Dash」、そして鉄棒を滑り降りたあとに飛び降りて着地、ターンテーブルやシーソーなど段差のあるブロックを乗り越えていく「ROBO-ONE Eagle」である。 実は筆者は、この話、特に「ROBO-ONE Eagle」の話を聞いたときには、「そんなのできるわけないだろ」と思った。ROBO-ONE委員会もまたずいぶん冒険するなあと感じた。ところが実際の競技結果は「やっぱり何事もやってみないと分からない」ということを実感させるものになったのである。 ●階段昇降「ROBO-ONE Stairs」
まず競技は階段昇降の「ROBO-ONE Stairs」から実施された。Stairsそのものはこれまでの大会でも行なわれている。第3回大会では森永さんの「MetallicFighter」がトライするも惜しくも失敗、だが第4回大会では前田さんの「OMNIHEAD」が成功をおさめている。つまりアマチュアのロボットでも成功は可能だと分かっているわけだ。また、トライしたことのある参加者もいたため、これはそこそこ良い結果が出るのではないかと思われた。 ところが実際には転倒する機体が続出。ちょっと階段が傾いているんじゃないかとの声もあったが、ROBO-ONEは一般家庭でも使えるロボットを実現することを目標にしている競技。一般家庭には水準器で水平を取る階段などない! というわけで、競技は続けられ、機体はこけ続けた。
惜しいロボットもいたが、ことごとく失敗していく。後頭部を打ちつけ、見ているこちらが心配になるくらい、がつんがつんと音を立てて転倒を続けるロボットたち。そんななか、下記の3台のロボットが成功。しっかりした危なげない歩行で1分13秒のタイムを記録した、Dr-GIYさんの「ヨコヅナグレート不知火」がStairs優勝。
●回らないドアノブ「ROBO-ONE Door」 ドアを開けて通る「ROBO ONE Door」は第3回大会から加わった競技だ。ふつうのドアについているのと同じドアノブを、小さなロボットがなんとかして回し、ドアを開けて通ったあと、再びドアを閉めて目標地点まで歩行する。これも「そんなことできるか」と思ってしまうような競技だが、すでに第4回大会で、韓国から挑戦したOH SUNG NAM氏がマスタースレイブ式のコントローラーを使って操縦する「MYRO」で成功済みである。だが日本人で成功した人はいない。というわけで、日本人初の成功者が出るかどうかに期待が集まった。 だがドアノブは思っていた以上に滑るらしく、参加者はみな悪戦苦闘。ドアノブを握って回すためにはけっこうな把持力とトルクが必要になるようだ。
「ヨコヅナグレート不知火」はドアノブ用のアタッチメント付きの腕でドアを開け、自分の体で押し開いて見事通過したが、転倒してしまった。腕にドアを開けるためのオプションパーツをつけていたため起きあがることができずリタイア。九州大学チームはドアを開けて通過することには成功したものの、ドアを閉めるための旋回中にステージ場外に出てしまい、やっぱり惜しくも転倒。
結局、今回は成功者なしとなった。「ドアノブは軽く、ちょうつがいは固めのほうがいいのかもしれませんね」とは先河原 副実行委員長の弁。 ●トーナメントの明暗!? 「ROBO-ONE Dash」 倒した状態から起きあがり、目標に向けて歩く「ROBO-ONE Dash」は予想外の展開となった。ほとんどのロボットが起きあがって歩き出したところで制限時間の30秒を過ぎ、競技終了となってしまったのだ。 ROBO-ONE Dashは全競技中唯一、完全にロボットの自律制御だけで競われたトーナメント競技で、競技中に制作者がロボットに指示を出すことは一切できない。 そのためか、遅々として進まない、あるいは転倒復帰することができず、床でのたうち回るロボットばかりだった。出場したロボットは当然、転倒しても起きあがることができるロボットたちであり、ROBO-ONEにはかなりの早足で歩くロボットも登場しているだけに、意外といえば意外な展開である。
なお30秒という時間制限は、第4回大会で行なわれた「ROBO-ONE Corner to Corner」という競技の成功結果をもとにしたという。「Corner to Corner」は、青コーナーに向かって立ち、回れ右をして反対の赤コーナーに10秒以内にダッシュすれば成功、というもので、実際に坂本元さんの「はじめロボット4号機」が成功した。 だがやはり、自律状態で正確に180度ターンし、まっすぐ歩く、という性能を実現することはなかなか難しかったようだ。単なる車輪のおもちゃでも真っ直ぐ走らせることは意外と難しいのだから、二足歩行するロボットが苦労するのは当然といえば当然かもしれない。中にはチャーリーさんの「FZ3」のように、目標の方向へと自分の歩行方向を修正していくロボットもあったが、実力を発揮できなかった。
そんな中、はじめてレースらしいレースとなったのは、スギウラファミリー「Dynamizer」VS 坂本元「HAJIME ROBOT」戦。軍配は「HAJIME ROBOT」にあがったが、大股で歩く「Dynamizer」の歩行プログラムはなんと息子さんが組んだものだとか。これから期待できそうだ。この一戦と、やはりレースらしいレースだった「ARIUS」 VS 「HAJIME ROBOT」戦は、動画をごらんいただきたい。
決勝は不調ながらも強運と笑い(?)で勝ち上がってきた「マジンガア」と小柄ながら抜群に安定した「ARIUS」の一戦となった。どう見ても「ARIUS」有利と思われたが、なんと「ARIUS」は転倒! しかもこれまでの連続トライが影響したのか、なかなか起きあがれず。まるでドラマのような展開となり、優勝は「マジンガア」へ!
なおロボットのゴールタイムは、「グレート不知火」が27秒58、ARIUS2が22秒18と22秒71。そして3位決定戦になってようやく本調子になった、しんむらさんの「ハマカゼ」が15秒45。これがレコードタイムとなった。レコードタイムを出しても3位とはこはいかに、という気もするが、トーナメントなので仕方ない。 ●予想外の展開!? ROBO-ONE Eagle
そして最後の競技がROBO-ONE版アスレチック競技、「ROBO-ONE Eagle」。競技フィールドは90cm×90cmのステンレス製ブロック9つから構成されている。競技内容は、まず10度の傾斜を持つパイプを滑り降り、着地。ぐるぐる回るターンテーブルの上を突破したあとは段差のあるブロック。最後にシーソーのように傾くブロックを超えて最終ブロックで立ち上がればクリアとなる。 これを二足歩行ロボットがやるのである。かなりの堅牢性や運動性能、操縦テクニックが要求される。競技参加者、運営側、そして見る側も初めての競技だ。なおステージ製作はR-BlueシリーズでROBO-ONE常連の吉村浩一さん。今回彼は出場しなかった。 パイプには人間がつかまらせてもいい。そのあと足を上げるなどして滑らせるのだが、滑る滑る。ほとんどのロボットがパイプの支柱へ見事に激突、落下。非常に激しい音を立てて激突したロボットもあった。 だが中にはうまい仕掛けでブレーキをかけるロボットや、落下しても大丈夫なようにクッションに身を包んだロボットなど工夫が見られ、この競技一番の見所となった。
パイプの下にはロボットを守るための床のクッションがある。だがこのクッションが曲者。ロボットの足をとる鬼門となり、転倒やフィールドからの落下を招いた。 落下したロボットも自力で這い上がることができれば落下したブロックから開始することができるが、段差は10cm。小型のロボットにとっては大きな壁だ。多くのロボットが最初からやり直しとなり、タイムをロスした。 だが、そこを突破してしまえばあとは意外と簡単だったようだ。というのは、この競技は出場した10台のうち5台がクリアしたのだが、多くが歩行というより「前転」することで突破してしまったからである。 ターンテーブルも回転速度が遅く、ロボットのちょこちょこした歩行周期と大きな足裏の前には、あまり障害とならなかったようだ。前転は確かに良いアイデアだと思ったが、正直、ちょっと拍子抜けした。そうは言っても、倒れても倒れても起きあがるという動き自体が、ちょっと以前の状況からは考えられない動きなのだが。
優勝した大河原和浩さんの「MAGI」は文句なくすばらしかった。ほかのロボットが3分以上かかっているところを、優勝タイムはダントツの1分37秒。練習のときには1分のタイムも出したとか。上方の片腕を広げることでブレーキをかける動きも、うまいアイデアである。
●今後の展開に期待
初めてのロボットによるアスレチック競技、ROBO-ONEスペシャル。大会実行委員長の西村氏は「技術者のモチベーションをあげていくような競技にしていきたい」と述べた。見ているこちらとしては、第一回のROBO-ONEを思い出させられるようなほのぼのした大会だった。今後、競技もどんどん練り上げられていくだろうし、参加者側もどんどんレベルアップしていくだろう。 8月6~8日には第6回ROBO-ONE大会が行なわれる予定だ。そこではまた別の戦いが繰り広げられる。 ところで、そろそろ(富士通のHOAP以外の)各メーカーや(研究室有志ではなく)大学研究室が開発したロボットが、デモンストレーションでもいいから参加する姿を見たいと思うのだが……。一度くらい参加してくれないだろうか。かなわぬ願いかもしれないが。 □ROBO-ONEのホームページ
(2004年3月4日)
[Reported by 森山和道]
【PC Watchホームページ】
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