最近ではデスクトップPCにテレビチューナカードが入っていることは珍しいことではない。特にコンシューマ向けのデスクトップPCではローエンド向けの一部製品を除き、ほとんどのモデルでテレビチューナ機能が採用され、PCでテレビ録画が可能になっている。 だが、録画したテレビ番組をどのように見るか、それが意外と問題なのではないだろうか。というのも、PCのディスプレイはテレビに比べて輝度が低かったり、あるいは画面サイズが小さかったりと、映像を閲覧するデバイスとしては、やはりテレビの方に一日の長があるからだ。 そこで、PCに録り貯めた動画、さらには音楽、静止画などをネットワーク経由で再生する“ネットワークメディアプレイヤー”や“ネットワークメディアレシーバー”などと呼ばれるセットトップボックスが最近注目を集めつつある。Ethernetや無線LAN経由でサーバーとなるPCに接続し、動画、音楽、静止画などをネットワーク経由で転送して、テレビのビデオポートに出力することが可能になるデバイスだ。 今回は、そうしたネットワークメディアプレイヤーの中から代表的な4製品を取り上げて、その使い勝手などを比較していきたい。取り上げたのは、アイ・オー・データ機器のAVeL LinkPlayer、ソニーのルームリンク、バーテックスリンクのMediaWiz、バッファローのPlay@TVの4製品だ。 ●DVD-ROM機能を持っていることがユニークなAVeL LinkPlayer
基本的に、4製品とも、PCのHDDに保存されているメディアファイルを再生するという意味ではほぼ同じ目的の製品となっているが、ハードウェアの点ではいくつかの大きな違いがある。 今回の4製品の中で最も特徴的な製品は、アイ・オー・データ機器のAVeL LinkPlayer(アヴェル・リンクプレーヤー)だろう。というのも、AVeL LinkPlayerはDVD-ROMドライブを内蔵しており、DVD+R/DVD+RW/DVD-R/DVD-RW/DVD-ROM/CD-R/CD-RW/CD-ROMという各メディアの読み取りが可能になっている(DVD-RAMは読めない)。このため、これらのメディア上に保存されている動画、音楽、静止画の他、DVDビデオのディスクを再生することが可能だ。 つまり、ネットワークから読み取るだけでなく、DVD-ROMドライブを利用してDVD-Rなどに記録したMPEG-2やDivXなどの動画ファイルをローカルで再生することも可能だ。例えば、CD-Rに書き込んだMP3ファイルやDVD-RにDVDビデオ形式にしないで書き込んだMPEG-2ファイルなどを再生することができる。この点は、今回取り上げた他の3製品にはない特徴だ。 そのほかの点では、どの製品も基本的な機能は同様だ。すべての製品が100BASE-TXの有線LANを備えているほか、AVeL LinkPlayer、MediaWiz、Play@TVはPCカードスロットを備えており、IEEE 802.11bの無線LANカードを挿入して利用可能になっている。各製品ともESSID、WEPなどの設定も可能であり、一般的なアクセスポイントに接続して利用することが可能だ。 ただし、IEEE 802.11bを利用した場合には、実効的な帯域幅が3~5Mbps程度となるので、一般的な5Mbps程度のビットレートのMPEG-2ファイルなどをネットワーク経由で再生するのは難しいと言える。製品の持つ本来の性能を発揮させたいと考えるのであれば、有線LANで利用するのが望ましい。 なお、MediaWizとAVeL LinkPlayer独自の機能として、DVIポートとD4端子(MediaWizはコンポーネント出力)を備えることがあげられるだろう(Play@TVもD1端子を備えている)。このため、D4、コンポーネント入力、DVIポートなどを備えるテレビや液晶モニタなどを利用することで、より高品質な映像を楽しむことができる。
【ソニー:ルームリンク】
次に、PC側ソフトの使い勝手を見ていきたい。各製品とも、サーバーとなるPCにサーバーソフトウェアをインストールすることで、ファイルをプレーヤーに転送することを可能にしている。 このうち、最も使いやすいのは、ソニーのルームリンクだ。ルームリンクでは、追加のソフトウェアを導入する必要はない。というのも、ルームリンクの場合、ソニーのバイオの周辺機器という位置づけであるので、すでにサーバーソフトウェア(VAIO Mediaサーバー)はバイオにプレインストールされているからだ。 逆に言えばVAIO Mediaサーバーがプレインストールされていないバイオでは利用できない。モデルによってはバージョンアップが可能になっており、詳しくはソニーのWebサイトを参照してほしい。 ルームリンクが利用するサーバーソフトのVAIO Mediaでは、バイオの付属ソフトウェアであるGigaPocketを利用して録画した動画、SonicStageを利用してエンコードされた音楽ファイル、Picture Gear Studioを利用して保存した静止画などを閲覧できる。 しかも、ファイルの更新は自動で検知され、ルームリンクからVAIO Mediaサーバーに接続された時には、常に最新のファイルリストが自動で表示される。また、音楽ファイル名や動画の内容などもアプリケーション側で自動で作成したものが、そのままルームリンク側に表示され、いちいちホームサーバーソフト側で手動で入力するなどといった面倒がないのはよい。このように、難しいことを考えなくても使い勝手がよいという点がルームリンクの特徴だ。 また、ルームリンクの機能ではないが、サーバーソフトのVAIO Mediaにはクライアントソフトウェアが用意されており、バイオ以外のPCからバイオに接続して音楽を聴いたり、ビデオやライブテレビを見たり、写真を見たりすることが可能になっている。外出先のモバイルPCから接続する機能も用意されており、複数のPCを持っていて併用するというユーザーには便利な機能だ。 ただし、先にも述べたとおり、バイオがなければルームリンクは利用できない。これがルームリンクの弱点とも言えるだろう。 【アイ・オー・データ機器:AVeL LinkPlayer/バーテックスリンク:MediaWiz】
AVeL LinkPlayerとMediaWizのサーバーソフトはほぼ同じ仕様になっている。というのも、両製品に利用されているデコーダチップはどちらもSigma Designsのチップであるからだ。このため、MediaWizからAVeLのサーバーソフトに接続したり、その逆も可能となっている。 AVeL LinkPlayerを例にとると、AVeL Link Serverと呼ばれるソフトウェアが用意されており、そのソフトウェアで動画、音楽、静止画を保存しているフォルダを指定するだけというシンプルなものになっている。シンプルであるためにわかりやすいという点がメリットと言えるだろう。 ただ、1つだけ気になるのは、そのフォルダを自動的に監視するのではなく、ユーザーが自分でAVeL LinkPlayerから「更新」という作業をしないと、ファイルのリストが更新されない点だ。 例えば、毎日テレビ番組を録っていた場合、再生前には必ずPC側で更新作業を行なっておかないと、新しいファイルをAVeL LinkPlayerから見ることができない。 せっかくテレビからPCの中のファイルを閲覧可能にするために導入したはずなのに、わざわざPCのところへいって「更新」しなくてはいけないようでは魅力も半減だ。AVeL LinkPlayerを起動してPCに接続した時に自動で更新するような仕様に変更して欲しい。おそらくサーバー側のソフトウェアの改良などですむはずなので、今後のサーバーソフトウェアのバージョンアップなどで対応できないだろうか。 【バッファロー:Play@TV】
Play@TVでは「メディアオーガナイザー」という編集ソフトが付属しており、エクスプローラなどを利用して、動画、静止画、音楽ファイルを手動で登録する必要がある。そういう意味では二度手間となり、やや面倒だ。 ただし、ビデオだけはフォルダの指定が可能で、このフォルダに録り貯めたものに関しては自動でファイルリストが更新される。このため、テレビチューナカードのオプションで、メディアオーガナイザーで指定しているフォルダを保存先に指定すれば、ユーザーがいちいちPC上でファイルを更新する必要は無くなる。 ただし、フォルダの中のサブフォルダの中までは見てくれない仕様になっており、使い勝手の点ではやはり問題が残る。 なお、手動で登録しないといけないが、その分ファイルリストなどはユーザー側で編集することが可能であり、音楽ファイルの題名やジャケットなどを自由に登録できる。また、CDのリッピング機能も用意されており、メディアオーガナイザーからMP3に変換してHDDに取り込むなども可能になっている。 このように、Play@TVのメディアオーガナイザーは、手間を惜しまないというユーザーであれば、柔軟性のある選択肢だと言えるだろう。
●使い勝手の差は早送りとブックマーク機能に現れる
動画再生機能だが、各製品ともにサーバーに蓄積されている動画ファイルにアクセスし、それをネットワーク越しに転送して再生するという機能は変わらない。 ただ、AVeL LinkPlayer、ルームリンク、MediaWizの各製品が動画ファイルをそのままデバイスに転送して再生する形式になっているのに対して、Play@TVでは一度PC側でファイルをリアルタイムにエンコードしてからファイルを転送する形式となっている。 MPEG-2ファイルの場合には、有線LANを利用している場合4Mbps程度に、無線LANを利用している場合には2Mbps程度に再エンコードされて転送される。このため、ややブロックノイズが気になるほか、PC側の負荷も高くPentium 4 2.80C GHzを搭載したサーバーを利用した場合、CPU負荷率は50~60%程度と高かった。その代わり、PCで再生可能なファイルであれば再生できることになるので、ファイルの互換性は高く、この点はメリットと言える。 実際、AVeL LinkPlayerとMediaWizはDivXのビデオファイルを再生することができるが、筆者が自分でエンコードしたDivXファイルは再生できないものもあった。こうしたことを考えると、Play@TVの互換性の高さは評価できる。なお、AVeL LinkPlayerとMediaWizでは、MPEG-2、MPEG-1でエンコードした場合には、どんなビットレートでも基本的には再生することが可能だった。 気になったのは、早送り、早戻しの機能とブックマーク機能の有無だ。早送り/早戻しの機能は、機種により異なっていた。最も使いやすかったのは、ルームリンクのフィルムロールだ。バイオのGigaPocketでも採用されているこの機能は、画面の下部にフィルムのような画面を表示させ、素早く目的の場所へジャンプすることができる。かなり後ろの方まで飛ばしたい時にはやや面倒だが、CMだけをスキップしたいという時には便利だ。Play@TVも便利で、早送りしようとすると、画面の下にタイムバーが表示され、目的の時間にジャンプしやすい。 AVeL LinkPlayerとMediaWizではリモコンの早送り、早戻しのボタンを利用して、1~4倍の間で早送り、早戻しできるようになっている。また、先頭からパーセント表示で目的の場所にジャンプする機能を持っている。ただし、正直に言ってパーセント表示はわかりにくい。普通動画を先頭から何%のところまで見たと記憶している人はあまりいないだろう。そうした意味では、他の2機種のように時間やフィルムロールなどで飛ばせるようにしてほしい。 また、ルームリンクとPlay@TVには見た場所を記憶してくれる“ブックマーク機能”が用意されている。Play@TVの場合はユーザーがリモコンのブックマークボタンを押すことで位置を記憶し、ルームリンクの場合には前回見た場所を自動的に記憶してくれる。前回見た場所から見れるという意味では家電的な使い方と言え、便利だ。 ルームリンクのユニークな機能としては、バイオのテレビチューナを利用してライブのテレビを見る機能と、ファイル名ではなく録画した番組のタイトルを表示する機能だ。 テレビにつないだネットワークメディアプレイヤーで、PCのテレビチューナを利用する必要があるかには疑問も残るが、見ている時に録画ボタンを押すことでバイオに録画できる。なお、番組予約も可能だが、iEPGには対応していないため、あまり意味はないだろう。ぜひとも今後はiEPGを利用した番組予約に対応して欲しい。 また、他製品が主にファイル名で再生する動画を選ぶのに対して、ルームリンクでは番組名から選ぶことができる。これはソニーのGigaPocketが、“ビデオカプセル”という考え方を採用していて、iEPGなどを利用して予約録画した場合、番組名などを別ファイルの形で保存しているためだ。ルームリンクでは動画ファイルに関連して保存されているこのビデオカプセルを参照して表示するため、ユーザーは番組名から選択できるようになる。
●ジャケット表示やBGM機能などに違いがある
音楽、静止画ファイルの再生機能は、基本的にはどの製品もほぼ同じような機能を備えている。ルームリンクはATRAC3を再生できるなど若干のファイル形式の違いはあるが、多くのユーザーがMP3を利用している現状を考えると、特に気にする必要はないだろう。 音楽ファイルでユニークなのは、ルームリンクとPlay@TVではジャケットを登録すると表示が可能である点だ。ルームリンクではバイオ上のSonicStageを利用して、Play@TVではメディアオーガナイザーでファイルリストにジャケット写真をリストに関連づけておくことで、メディアプレイヤーで表示されるようになる。 これに対して、AVeL LinkPlayerやMediaWizでは、音楽ファイルが格納されたフォルダを指定するだけなので、そうした高度な機能は無い。ただ、その代わり自分が利用している音楽ソフトが保存しているフォルダを指定だけしておけば簡単に再生できる。この点はメリットであるということができるだろう。 写真の表示ではスライドショー再生時のBGM機能の有無に関して注意したい。ネットワークメディアプレイヤーでは、PCに保存されている写真をテレビでスライドショー表示できる。来客者に対して写真を見せたい場合に有用な機能だ。 ルームリンクではルームリンクがアクセス可能な音楽ファイルをスライドショー再生時にBGMとして鳴らすことができる。Play@TVでもBGMは鳴らせるのだが、プリセットの曲だけとやや寂しい。できればユーザーが登録した曲の中から再生できるようにして欲しいものだ。
●完成度ではルームリンクだが自作PCユーザーであればAVeL LinkPlayer
以上にように、4製品を主に使い勝手などを中心にチェックしてきた。使い勝手ということを重視するのであれば、やはりソニーのルームリンクが最も優れている。ルームリンクは動画を閲覧する際にもフィルムロールで早送り、早戻しができたり、今回取り上げた中で唯一録画ができたりなど使い勝手はかなり家電に近い。実際、ルームリンクを使っていると、まるで家電のHDDレコーダを閲覧しているかのようだ。 ただ、そうした機能を実現するために、ルームリンクではバイオのみにしか接続できないという弱点もある。すでにバイオを持っているか、あるいは今後バイオを購入する予定があるというユーザーであれば文句なくルームリンクをお薦めしたい。 バイオはもっておらず、今手持ちのPCに保存しているファイルをテレビで見たい、というユーザーであれば、AVeL LinkPlayer、MediaWiz、Play@TVのどれかを選択すればいいだろう。 AVeL LinkPlayerとMediaWizの違いは事実上DVDドライブを内蔵しているかいないかであるので、DVDビデオの再生やDVDメディアに保存した動画ファイルの再生機能が必要かどうかで選択すればいい。また、もし音楽ファイルのプレイリストなどを細かく編集したりしたいというユーザーであれば、サーバーソフトの機能が充実しているPlay@TVを選択するといいだろう。 各製品とも2~3万円程度と比較的安価な価格帯に設定されており、ビデオを見る機会が少なくない、この年末年始にぜひ導入を検討してみてはいかがだろうか。 □アイ・オー・データ:AVeL LinkPlayer
(2003年12月26日) [Reported by 笠原一輝]
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