元麻布春男の週刊PCホットライン

PDAへの期待と課題



PEG-NX73V

 いまさらながら振り返ってみると、2003年は個人的にはPDAの年だった。春先のPocket PCでPDAとPCの同期を行なうActiveSyncプログラムが、Outlook(PC上)の個人フォルダをフッ飛ばすというトラブルにはじまり、5月に型落ちのCLIE(PEG-SJ30)購入、秋にはPEG-NX73Vに買い替えと、PDAを結構頻繁に更新した。

 もちろんPDAを使うのはこれが初めてではない。たぶん自宅を探せば、初代ザウルスやWIZだってどこかに転がっているハズで、それなりに昔から触っている。仕事で触れる機会も合わせれば、新しいモデルにも継続的に触っているだろうと思う。にもかかわらず、これまで長続きしたことがなかった。だいたい、買った当初は持ち歩いても、1カ月と経たずに放り出すというのがこれまでのパターンだったのである。

●PDAの長所と短所

 それがなぜ、PDAを使うようになったのか。その理由の1つが、昔ほど自分の記憶力を頼りにできなくなった、ということであることは間違いない(残念ながら)。昔なら楽々覚えられた電話番号や開発コード名といったことが、なかなか思い出せない。おのずと機械に頼らざるを得なくなってしまった。また、普段はそれほど忙しいスケジュールで外出することなどない筆者だが、IDF等のイベント時はそれなりに忙しくなる。こうしたイベント時のスケジュール管理にPDAを使ってみたら意外と便利だった、ということも大きな理由だ。

 逆にPDAでなければダメな理由もいくつかある。筆者が住んでいるのは都内の私鉄沿線だが、記者発表会等の会場に使われるホテル等に、ほとんどの場合1回電車を乗り換えて45分程度のところである。この車内で簡単に使えるか、という点でノートPCは残念ながら失格だ。つり革につかまってノートPCを使うのは非現実的だし、すぐに使えないのも困る。どんなにスリープからの復帰が速かろうが、すべてが半導体メモリの上にあるPDAに、こと起動速度に関してかなうハズがない。

 もちろん筆者はPDAですべてがこなせると言いたいわけではない。正直言って、PDAで原稿は書けないし、将来的にも無理だろうと思っている。それは、原稿を書くという行為が、単なるテキストの入力だけではなく、様々な資料を参照しつつ考えながら文章をつづる行為であり、そのためのワークスペースがPDAの上では確保できないからだ。PDA上でメモがとれるのは事実だし、時には質問事項のメモをPDAに入れて出かけたりもするが、原稿を書くことはおそらく今後もないだろう。自宅の外で原稿を書くならノートPC、書く予定がないならPDAというのが、筆者にとって何を持って外出するかの基準となっている。

 そういう意味で、筆者にとってPDAのライバルは、ノートPCよりは携帯電話ということになる。で、おそらくこれは筆者に限らず、多くの人が同じように思っているのだろう。携帯電話の普及に反比例するかのように、PDAの市場は縮小しているのが現実だ。1月27日に市場調査会社であるIDCが発表したプレスリリースによると、2003年通年でのPDAの出荷台数(世界市場)は2002年から17.9%マイナスの1,040万台に終わったという。PDAに置き換わっているものがあるとしたら、それが携帯電話であることに異論のある人はあまりいないのではなかろうか。

●日本で「スマートフォン」が出てこない理由

 だが、どうも国内と海外では、PDAの代わりに携帯電話が売れるという図式が少し違うように思えてならない。ここにきて海外で市場が伸びているものの1つにスマートフォンが挙げられる。何をもって「スマートフォン」と呼ぶかについてはこれという定義は難しいが、筆者は次のように考えている。

 単なる音声通話機能に加えて、PIM機能やインスタントメッセージング、オーディオ/ビデオプレイヤー機能を備えた多機能携帯電話で、Windows CE、Symbian、Palm OSあるいはLinuxといった汎用性を持ったOSを搭載した端末。多機能なため、通常の携帯電話より若干大型であることが多い。

 要するに携帯電話とPDAが融合したデバイスであり、使い勝手もそれに準じたもの。ある意味PDAが置き換えられるのも当然である。

 ところが日本ではスマートフォンは売られていない。確かに日本の携帯電話は多機能だが、汎用性や操作の統一性、拡張性などの点でスマートフォンとは異なる。それでも、機能性さえちゃんとしていれば、汎用OSがのっていようがそうでなかろうが、大きな問題ではないかもしれない(買い替えの際に不安が残るが)。問題は、日本の多機能な携帯は、PDAを駆逐できるほどの機能性を本当に備えているのか、という点にある。そしてこれは、日本でスマートフォンが販売されない理由と無関係ではない。

 わが国の携帯電話事業は、かなりいびつな形が定着している。それが最も象徴的に現れているのが量販店の店頭で見かける「0円」とか「1円」という端末の販売価格だ。部品代を考えなくても携帯電話の端末を0円とか1円で売って利益が出るハズがないことは、赤ん坊だって分かる理屈だ。にもかかわらず0円や1円の販売が成り立つのは、電話事業者が販売報奨金(インセンティブ)を出して、差額を負担しているからにほかならない。電話事業者は慈善団体ではないから、販売報奨金の分を上乗せした形で通信料金を設定する(せざるをえない)。手短にいえば、端末を安く売っておいて、通信料金で取り戻す仕組みだ。

 このビジネスモデルがいつまでも続けられるものではない、ということに関しては野村総合研究所が発行する「NRI Consulting NEWS」2004年1月号の「販売インセンティブ廃止は携帯電話業界の福音となるか」という論文でも取り上げられているので、興味のあるむきはそれを読んで欲しい。筆者がここで言いたいのは、日本の携帯電話事業の歪が端末にも現れてしまう、という点である。上で述べたように、わが国の携帯電話事業は割高な通信料金に依存している。自ずとわが国で売られる端末には、「通信料金をかせぐ」という重大な使命が課せられることになる。多機能携帯電話が備える様々な機能のうち、重視されるのは通信料金の発生する機能(写真付メールや動画メールなど)、という傾向に陥りがちだ。

 筆者とて、携帯電話を持っていないわけではないが、そのPIM機能はオマケの域を出ない。さすがにアドレス帳(メモリダイヤル)だけは実用になるレベルだが、予定表やメモといった機能は、登録可能なデータ量、操作性、視認性のいずれをとっても、中途半端なものだ。また、データのバックアップとレストア、PCとの連携といった機能がなくては、いまどき仕事には使えない。こうした機能を持った、あるいはオプションで提供された携帯電話があることを知らないわけではないが、PIM機能をいくら良くしたところで通信料収入が増えるわけではないことを思えば、現状のビジネスモデルのままで、大幅な改善や誰もが満足するような機能の実現は難しいと考えている。もし、そんな携帯電話を作ったとしたら、みなインセンティブ込みの割安料金で購入し、1カ月で電話の契約を解約してしまうに違いない。1円でPIM機能付のデジタルカメラを販売し、差額を負担させられては電話事業会社は成り立たない。

 スマートフォンのようにPDAでも実績のあるOSを導入することは、PIM機能の強化にもなるわけだが、これはもう1つの問題を生む。それだけでは通信料収入が増えないばかりか、OSのライセンス料の支払いで確実に持ち出しが増えてしまう。基本的にOSのライセンス料には量産効果も期待できないからなおさらだ。端末の販売価格を端末の機能性や性能が反映される市場原理が働くものにしない限り、スマートフォンが日本に登場することは難しいだろう(そうした上でスマートフォンが売れる、売れないというのはまた別の問題だ)。0円や1円で端末が売られる状況というのは、携帯電話会社に不幸であるばかりでなく、選択の幅が狭められるという点でユーザーにも不幸なのである。

 というわけで、携帯電話とPDAが1つになればとは思うものの、実際には難しいだろうという判断から、PDAを使い続けている。両者が別々になっているということは、バッテリを2つ持っているということであり、駆動時間的には有利な反面、やはり重量負担は増す。が、これも当分はやむを得ない。

●気に入っているCLIE

 さて、現在使っているPEG-NX73Vだが、ソニーが販売するCLIEの中堅モデルといったところだろうか。秋に購入して以来、外出時はだいたい携帯しているのだから、かなり気に入っているのだろう。NX73Vで筆者が利用する機能は、予定表やアドレス帳といったPIM機能、MP3プレーヤー、ビデオプレーヤー(録画はメモリースティックビデオレコーダーを使用)、ボイスレコーダー、地図表示(Pro Atlas Liteを使用)にたまに電子メールといったところ。

 逆に使わない機能は、内蔵するハードウェアキーボードとカメラといったところだろうか。筆者はPDAで入力することはほとんどないので、キーボードは要らないのだが、320×480ドットのワイドハイレゾ液晶をサポートしたCLIE中、本機が一番安かったので、これになった。筆者が利用している普段の状態で、空きメモリが3MB強と、若干心もとなくなってはいるが、おおむね満足している。

 以前使っていたPocket PC機に比べ、OSとしての機能性は分が悪いし、特定のアプリケーションのデータは特定のフォルダにないといけないといった「お約束」が多くてとっつきが悪いように思うが、その分動作が軽い。また、Pocket PCがPCに似て非なる部分でいらだつのに対し、CLIE(というかPalmOS機)は全く別物として諦めがつく。というか、諦めがつけられるほど、機能の割りきりが良いと感じている。

 PEG-NX73Vに限らず、現行のCLIEシリーズで感じる最大の不満は、常用するPIM機能にある。かなり良くできてはいるのだが、いかんせん古さが隠せない。画面1は、PC上で動作するPalmDesktop上の予定表だが、これがCLIE上では画面2のように表示される。CLIE上では時間の重なった予定の重なり具合が線で示されるのみで、視認性というか一覧性が悪い。たとえばIDFのように、同じ日、同じ時間帯に複数の予定が同時に開催されるようなイベントでは、この予定表はとても不便だ。同じような不満は、アドレス帳などほかのアプリケーションでも感じている。このあたりもPocketPC(のPocket Outlook)の方が優れている部分だろう。

 こうした不満を感じる最大の理由は、内蔵するPIMアプリケーションが、基本的には最初のPalmから大きく進化していないことにある。160×160ドットのモノクロ液晶用に基本デザインされたアプリケーションでは、CLIEが内蔵する320×480ドットの液晶の良さが生きないのだ。バッテリの持ちより、伸縮式のスタイラスより、何よりこれが一番の不満である。が、どうやらこの不満がようやく解消されそうだ。それは次の回で御紹介したい。

画面1 画面2

□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□製品情報
http://www.sony.jp/products/Consumer/PEG/PEG-NX80V/
□関連記事
【2003年4月16日】【元麻布】CLIEとPalm Desktopを試す
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0526/hot262.htm

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(2004年2月3日)

[Text by 元麻布春男]


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