大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

今年のキーワードは「BMW」と「AUDI」だ


 今年のキーワードを、ある言葉に置き換えて示すという、いわば「言葉遊び」は、新聞や評論家の間では、定番中の定番である。それに倣って、IT産業における今年のキーワードを考えてみた。

 ズバリ、今年のキーワードは、「BMW」と「AUDI」である。

 といっても、もちろん、ドイツ製高級外車の話をしようというわけではない。このなかに、IT産業の今年のキーワードが隠されているのである。


●BMWで通信環境は大きく変わる!?

 まずは、BMWから見てみよう。

 BMWは、昨年来、一部の間で、言われてきたキーワードだが、ブロードバンド(B)、モバイル(M)、ワイヤレス(W)を示す。

 Broadband(ブロードバンド)は、昨年11月の段階で、ADSLの加入者が120万人に到達したことを見ても明らかなように、急速な勢いで浸透しはじめている。今年に入ってからは光ファイバーによるサービスが本格化すると見られ、ブロードバンドの契約者数増加にも弾みがつくことになるだろう。

 ただ懸念材料がないわけではない。現在のブロードバンド契約者は、常時接続や高速化などを目的にしているが、必ずしもブロードバンド特有のサービス、コンテンツを目的としているわけではないからだ。

 先頃、財団法人デジタルコンテンツ協会が発表したブロードバンドに関するアンケート調査では、ブロードバンドを利用する最大の動機として、85.7%のユーザーが「常時接続環境」をあげた。だが、インターネット放送、ネットワークゲーム、インターネット電話などといったブロードバンドならではのサービス、コンテンツを利用することを動機とした回答者はいずれも20%以下に留まった。

 また、ソフトや音楽などを有料でダウンロードするサービスを利用したことがある利用者は、パソコンソフトで30.3%、音楽で23.3%、映像で21.8%となり、いずれも、ナローバンド利用者と比べても、わずか数%多いだけという結果になった。

 業界関係者の間でも、キラーコンテンツ不在の現状は、ブロードバンド普及の足かせになるとの見方が強い。ブロードバンド先進国の韓国では、テレビの再放送をインターネットで閲覧できるといったキラーコンテンツの存在が、これを後押ししたが、日本では著作権保護の問題もあって、現実のものにするには障壁が多すぎる。日本特有のブロードバンドコンテンツの登場が期待されるところだ。

 Mobile(モバイル)に関しては、FOMAの登場によって、携帯電話による高速データ通信がさらに進展するのは間違いない。音楽や画像データの送受信による各種サービスが増加、さらにサービス地域の拡大もこれに拍車をかけることになるだろう。

 NTTドコモでは今年4月以降、全国規模でのFOMAサービスを開始、J-Phoneも6月には関東で、10月には全国での次世代携帯電話サービスに参入、KDDIも、4月1日に全国主要都市で最大144kbpsでの高速データ通信を実現するCDMA2000 1xを導入する計画だ。

 だが、NTTドコモの立川敬二社長は、「FOMAでは、当初はビジネス分野での利用を想定している。個人向けサービスが広がるのは2003年以降」としており、当面は企業ユーザーが主要顧客となりそうだ。

【お詫びと訂正】初出時にKDDIのサービス開始時期を9月としておりましたが4月の誤りでした。お詫びして訂正いたします。

 事実、個人ユーザーの反応はいまひとつだ。BCN総研の調べによると、FOMAの認知度は81.4%に達しているものの、購入したいというユーザーは51.7%に留まっている。その理由としては、「通信料金が高そう」が最も多く57.2%に達したほか、「電話番号を変えたくない」が33.6%、「サービス開始早々なので不安」が28.2%、「現状の電話に満足」が27.2%、「通話エリアが狭い」が20.6%、「必要ない」が9.9%と続いている。

 まだまだ個人ユーザーにとっては、敷居が高く、今年一年だけを見れば、次世代携帯電話は、企業需要を中心に拡大することになるだろう。パソコンにおけるモバイル利用では、ワイヤレス環境との融合が課題となる。

 Wireless(ワイヤレス)としては、普及段階に入り始めたIEEE802.11bに加えて、米国で広がりつつある54MbpsのIEEE802.11aがあるが、さらに802.11bとの互換性をもちながらも54Mbpsを実現するとして新たに採択されたIEEE802.11gも、今年は注目される技術だろう。家庭内でのホームサーバー利用などが増加するに従って、ワイヤレスの利用場面も拡大することになるのは間違いない。

 これまで注目を集めていたBluetoothは、一部のPDA/家電製品などに限定された利用になり、IEEE802.11とは完全に棲み分けた使い方になってくるだろう。

 公共施設においてのワイヤレス環境の整備も今年は進展しそうだ。ホテルのロビーや空港のラウンジなどでの設備に加えて、待ち合わせ場所などに利用される人が数多く集まる“ホットスポット”でのワイヤレス環境の設備も進展しそうだ。また、新幹線をはじめとする鉄道でのワイヤレス利用の実験も始まっており、ワイヤレスによる利便性はますます高まることになりそうだ。


●AUDIはPCのキーワード!?

 そして、BMWに続く、もうひとつのキーワードの「AUDI」である。

 Aは、ADSLを意味することもできるが、BMWの「B=ブロードバンド」と一部重なるので、ここでは、あえて「オーディオ」という言葉を当てはめたい。

 昨年末から今年前半にかけて、オーディオメーカー各社は、パソコン分野に相次いで参入してきた。オンキヨー、ケンウッドなどの取り組みがそれだ。そして、ソニーも、バイオとは別に、オーディオの事業部門がパソコン機能を搭載したオーディオ機器「ビットプレイ」を製品化した。

 こうした動きは、今年以降本格化すると見られているインターネットによる音楽ダウンロードの普及を見越したものといえる。オーディオ製品は、音楽を再生するメディアの変化への対応が重要である。レコードからテープ、CD、MDと発展してきたが、今度はインターネット、ハードディスクが主力メディアになろうとしている。今年は、まさにオーディオとパソコンが本格的に融合する元年といえるだろう。

 Uは、USB2.0である。昨年はMicrosoftがWindows XPでサポートするのかどうかが話題になったUSB2.0だが、すでに周辺機器などが出揃い始め、今年はいよいよUSB2.0の普及段階に入りそうだ。そして、今年春以降の製品では、パソコン本体への標準搭載も始まりそうだ。

 Dには、DVDとDDRの2つの意味を持たせたい。

 DVDドライブを搭載したパソコンは、いまや売れ筋パソコンの必須条件ともなっており、搭載比率は急速に上昇している。一部品薄を起こしているパソコンメーカー幹部も、「DVDドライブの品薄が生産の遅れにつながっている」ことを明かす。

 今年は、こうした動きがさらに進展するのに加えて、書き込みが可能なDVD-RAM/R、DVD-RW/RW、DVD+RWといったドライブの需要が高まりそうだ。すでにDVD-RAMドライブは、実売価格で3万円台で販売されるなど、購入しやすい価格帯にまで下がっており、主要各社も昨年後半から増産体制をとりはじめている。低価格化に拍車がかかれば、一気に需要も拡大することになるだろう。

 DDR SDRAMは、Intelが公式サポートを打ち出したことで、RDRAMを退け、次世代の主流になることが確実となったが、さらに、IntelがDDR2系RAMをサポートすることを明らかにするなど、対応を積極化したことで、今年から来年にかけて、さらに、その位置づけが強固なものになるといえるだろう。今年は、普及が見込まれるPentium 4搭載パソコンには、標準でDDRが採用されることになり、DDR一色といってもいい環境が出来上がるかもしれない。

 Iには、「IA64」と、「IPv6」の2つの意味を持たせたい。

 昨年、登場したIA64プロセッサ「Itanium」は、一部サーバー製品などに搭載されて出荷されたが、今年は、これが本格化することになる。

 また、次世代のIA64プロセッサであるMckinleyも、昨年12月の段階で一部メーカーにサンプル出荷が開始された模様で、今年半ばにはサーバーメーカーなどに正式出荷されることになる。IA64の本命は、Mckinleyだとの見方もあり、これが投入される今年はIA64が飛躍する年になる可能性が強い。

 もうひとつのIとして、IPv6も、今年の重要なキーワードだ。

 これまで、e-japan重点計画のなかでも、IPv6への移行が唱われていたものの、その取り組みはほとんど具体化されていなかった。だが、昨年末に情報通信審議会がIPv6への移行計画についてのロードマップづくりに着手すると発表、今年1月にはワーキンググループを発足させ、ようやく具体的な活動が開始される。2002年中にどこまでこれが具現化されるかは未知数だが、その第1歩が明確に刻まれる年になるだろう。


 さて、今年1年をBMWとAUDIという言葉に置き換えて占ってみた。

 これらのキーワード以外では、パソコンの低迷がいつまで続くのか、そして、いつになれば需要拡大へと転じるのかといった点も見逃せない。

 業界関係者の声をまとめると、今年前半は相変わらず厳しい状況が続くことになるのは間違いなさそうだ。

 だが、後半に関しては、意見が大きく割れている。引き続き厳しい環境が続くと予測する声に加えて、下期からは拡大路線に転じるとも見方も出ている。

 しかし、共通しているのは、仮に拡大路線に転じたとしても、かつてのような大幅な成長が見込めないという点だ。当面は、各社とも慎重な事業計画を立てて、事業を推進することになりそうだ。

 慎重な1年は今年も続きそうである。

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【Keyword】IEEE 802.11a
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20011019/key185.htm#802
【Keyword】IEEE 802.11g
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20011207/key190.htm#802

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(2002年1月7日)

[Reported by 大河原 克行]


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