12月13日に発売になったPSXは、2003年最後の大型商品との呼び声が高かった。フタをあけてみると、大型商品の発売にはつきものとなっている長蛇の行列はなかったし、今も入手困難というほど供給はタイトではないようだが、それなりには好調なようだ。爆発的ヒットではないものの、ジワジワと売れている、ということらしい。 実は筆者もPSXに飛びつけなかった1人である。79,800円~99,800円という価格を高いと思うわけではないのだが、何というか、ふんぎりがつかなかった。それは、すでにハイブリッドDVDレコーダとPS2の両方を持っているせいかもしれないし、筆者がPSXがターゲットとしているユーザー層とは異なるせいかもしれない。 あるいは、ソニーまで取材に行ったにもかかわらず、PSXについて完全につかみきれなかったことが、わだかまりとして残っていたせいかもしれない。そんな筆者のもとに、編集部からPSXが届けられた。まだ5日間ほど触っただけだが、また少しPSXについて理解できたような気がする。 ●ハイブリッドレコーダとして商品化 PSXは何なのか。HDD内蔵のハイブリッドDVDレコーダでありながら、PS2が採用するゲームエンジンを備え、PS2との互換性を有するPSX。この位置づけは当初から微妙だった。
だが、届けられたPSXのパッケージやマニュアルは明快である。これらにはハッキリと「ハードディスク搭載DVDレコーダ」と明記されており、誤解する余地はない。外箱、あるいは本体の前面パネルに描かれたPlayStation 2ならびにPlayStationのロゴがなければ、ゲーム機と思わせる部分はほとんどないからだ。実際、ゲームコントローラは別売で付属しないし、コントローラ端子はアクセスしやすいとは言いがたい背面にある。PS2互換のメモリカードスロットも、ふたを閉じてしまえば見えないシーリングポケットの内側だ。 また、メモリカードスロットは、メモリカードを挿すと、カードが一部はみ出す格好になるので、シーリングポケットを閉じることができなくなってしまう。メモリースティックスロットがメモリースティックを挿しっぱなしにしてもシーリングポケットを閉じられるのと比べ、扱いが低く感じる。 確かに、メモリカードは手で抜き差しせねばならない(メモリースティックのようにプッシュ式で飛び出す機構はない)が、もう少しデザインを工夫する余地はあったのではないかという気がする。やはりゲーム機というのはオマケなのだろうか。 以前、PC Watchに掲載されたPSXの基板を見ても、そのような印象を拭い去ることができない。基板のそこかしこに、様々なタイプのDRAMがベタベタと貼られたマザーボードからは、ゲーム機的なセンスや合理性をあまり感じないのである。 ゲーム機というのは、単に安く作らなければならないだけではない。プラットフォームとして3~5年のライフサイクルを踏まえ、最初に提供する価格が安いだけでなく、ライフサイクル中に値下げしていくことが前提となる。そのために許される無駄などないのだが、そうした研ぎ澄まされた感覚がPSXのマザーボードからはあまり漂ってこない。なんというか、流行り廃りの激しいデジタル家電として、1年くらいの寿命という雰囲気を感じてしまう。
●操作性に残るゲーム機感覚 では、完全に家電感覚かというと、必ずしもそうとばかりも言えない。画面1はPSXのユーザーインターフェイスだが、このアイコンや背景からはPS2に類似した雰囲気を感じる。操作性という点でも、東芝や松下電器のDVDレコーダとはかなり感覚が違う。
たとえば筆者の手元にある東芝「RD-XS40」のリモコン(残念ながらあまり評判はよろしくないが)の場合、特定の機能が割り当てられたボタンが多い。メニュー、字幕、アングル、録画、スキップといった具合だ。 PSXのリモコンにも、番組表とか録画など、特定の機能を持ったボタンがないわけではないが、その数は少ない。その代わり、PSXのリモコンはPS2互換のゲームコントローラが備えるボタンをすべて包含するものになっている。 その結果、PSXの操作は、アイコンを選択し、オプションメニューを開き、メニュー項目を選択する、という操作性になる。特定の機能が割り当てられたボタンを押すことで、直接特定の機能を呼び出すことが多い、民生機のレコーダとは著しく雰囲気が異なる。 確かに、ボタンに特定の機能を割り当てていけば、リモコンはボタンだらけになるし、それが必ずしも分かりやすいとは限らない。しかし、PSXのリモコンも、「ハードディスク搭載DVDレコーダ」には不要なボタン、言い換えればゲームにしか使わないボタンが多く、それほど分かりやすいとも思えない。
ゲームコントローラの付属しないPSXでも、一応リモコンだけでゲームができるようにしようという配慮なのかもしれないが、それは分かりやすさとは別の次元の話だ。PS2との共通点の多いGUIや、それを用いた操作性は、PS2になじみのある若い世代には受け入れやすいだろうが、はたして高齢者にも受け入れやすいものなのだろうか。 操作対象(オブジェクト)を選んで、オプションボタンでメニューを出すという操作は、家電というよりIT機器っぽい。PSXのTV CM等を見ていると、デジタル家電のユーザーインターフェイスはこうだ、みたいな主張が感じられるのだが、意匠をオープンにしない限り、結局はこれもソニーの囲い込みに過ぎないのではないかと思われてならない。 再びマザーボードに話を戻すと、PSXのマザーボードは、「HDD搭載DVDレコーダ」の部分と、PS2互換のゲーム機の部分を合体させた印象であり、2つの部分の融合を感じるのは新しく起こされたEE+GSチップくらいである。そのEE+GSチップも、「HDD搭載DVDレコーダ」として使われているのはGUIまわりくらいで、MPEG-2のエンコーダーやデコーダーには専用チップが使われている。 つまり、EE+GSチップを駆使してソフトウェア処理を多用することで、合理的なアーキテクチャを作ろうというより、すでに出来上がっているDVDレコーダとゲーム機を1枚の基板に盛り込んだ印象が強い。その方が今回はコスト的にも、ソフトウェアにつきもののバグという点でも有利だった、ということなのかもしれないが、PSXのワクワク感が減ってしまった一因はこれではないかと思う。 ソニーの取材では、PSXは家電製品であり、家電として設計された、という趣旨の話をうかがった。しかし、改めて製品を手に取ると、家電製品の衣の下に、ゲーム機的な部分がのぞき見えるような気がしてならない。少なくとも、最初から家電製品(家庭向けAV機器)としてデザインされていたとしたら、操作性はもう少し違ったものになったのではないだろうか。 これはあくまでも筆者の憶測に過ぎないが、PSXは最初はEE+GSチップの採用を前提に、もっとゲーム機的な性格の強い、PlayStation 2をベースにしたDVDレコーダとして企画されたのではなかろうか。この段階では、もっとソフトウェア寄りの内容だったハズだ。それが、開発が進むにつれ、当初予定していたスケジュールには到底間に合わないことになり、いったん白紙に戻され、今のPSXとしてゼロから企画が再スタートした。再企画化の際の前提条件はEE+GSチップを何でもいいから使うこと。それくらい、2つの機能はPSXの中で分離してしまっている。 ●機能面では未完成な部分も それはともかく、実際にPSXを使ってみて、いくつか気づいたことがある。以下ではそれを述べることにしよう。まず全体的な操作感だが、一応PS2を持っている筆者は、それほど違和感は感じなかった。
G-Guideによる番組表(画面2)はもう少し見通しが利いて欲しいところだが、高解像度ディスプレイを前提にしたPCのiEPGと、TVを前提にしたPSXの番組表を同列に比べてはいけないだろう(同じ地上波EPGでも、DMR-E200Hの番組表はもう少し見やすいように思うが)。とりあえず、TVを見る、iEPGで予約してHDDに録画する、ここまでの使い勝手は十分良いと感じた。 PSXの使い勝手に不満を感じるのは、HDDに記録した番組を記録型DVDメディアへ保存(ダビング)する場合だ。基本的にPSXはレート変換がなく、分かりやすい形でのプログラム分割/結合の機能がない。どういうことかというと、うっかり映画や舞台など長時間のプログラムを、1枚のメディアに収まらないビットレートで録画してしまうと、DVDメディアに書き出すのがとても面倒になる、ということだ。 たとえば12月25日にTBS系で放映された「釣りバカ日誌13・ハマちゃん危機一髪」を予約録画するとしよう。放送時間は9時から11時20分で2時間20分になる。PSXは録画予約時に、その録画プログラムがメディアをどれくらい占有するかパーセント表示で教えてくれる。この例の場合、1枚のメディアに収めようとするとLPモード(DVDダビング時のディスク使用量76%)以下のモードにしなければならない。これはPSXに用意された6種の録画モード(表)のうち、下から3番目のモードだ(マニュアルビットレートは選択できないため、1枚のメディアにピッタリおさまるようには録画できない)。
もしここで、この番組をもっときれいに録画したい(よりビットレートの高いモードで録画したい)と考えたとしよう。最もビットレートの高いHQモードを選ぶと、PSXは使用量が221%で、ディスク3枚になることを教えてくれるが、容量に空きがある限りHDDにはごく簡単に録画しておくことができる。 問題は、このプログラムが気に入ってDVDメディアにダビングしようと思った場合だ。通常のDVDレコーダの場合、考えられるオプションは、1枚のメディアに収まるよう再エンコードして(ビットレート変換して)録画する、3枚のメディアにまたがるのを覚悟してプログラムを分割する(再エンコードなし)、3枚ではあんまりなので2枚におさまるよう再エンコードを伴う形でプログラムを2分割する、といったあたりだろう。ところがPSXは一切の再エンコードができないから、1枚のメディアにおさまるようなダビングはできないし、2枚に収まるような分割もできない。 3分割は可能だが、プログラム分割を行なう直接的な機能はないから、手順が面倒だ。編集機能を用いてとりあえず1枚目のメディアにダビングしたいと思う部分以外をカット編集してしまう。そしてカットしたプログラムをタビングしたら、今度はダビング済みの部分をカットして、2枚目のメディアにダビングしたい部分のカット編集を解除してダビングする。3枚目も同じことを繰り返す。 ハッキリいって、この手順は分かりやすくないし、PSXは映画や舞台といった長時間ものの録画には適していないように思う。 こうした編集手順でも分かるとおり、PSXでの編集は他のレコーダでいうプレイリスト編集であり、カット編集してもHDDの空き容量が増えるわけではない(上述のようにDVD-Video互換でダビングする場合のダビング量は編集により減る)。したがって、いつでもカット編集を取り消すことが可能だ(画面3)。 また、DVD-RWメディアについてはDVD-VideoモードとDVD-VRモードのどちらかを選ぶことができる(画面4)のだが、なぜかDVD-VRモードを選択すると編集結果は反映されず、プログラム全体がダビングされる(言い換えれば、DVD-Videoモードでのダビングはプレイリストコピー、DVD-VRモードはオリジナルコピー)。 DVD-VRモードを選んだからといって、コピーワンスの番組をムーブできるようになるわけでもなければ、プログラムの追記が可能になるわけでもない。音声フォーマットはモードにかかわらずドルビーデジタルである。なぜDVD-VRモードが選択できるのか、理由がよく分からない(将来的に何か機能をサポートする予定があるのなら、DVD-VRモードのサポートはその時でよかったのではないかと思う)。 編集機能は、カットする不要部分を指定するタイプ。一時停止すると停止点付近のサムネイルが表示され、それをクリックすることでカットする部分の始点と終点を指定することができるため、編集作業自体は分かりやすい。難点は、サムネイルで排除したはずのシーンが編集後のタイトルに残ること。もちろんこれは編集単位がGOP単位であるせいで、ユーザーインターフェイスに対しWYSIWYGにならない。 これは決して望ましいことではないが、マニュアルではごく簡単に「飛ばしたはずの場面が多少再生されてしまう場合があります」と触れられているだけだ。これではピンとこないユーザーも多いのではないか。
DVDレコーダ以外の機能については、発売直前に仕様が変更になったことでも明らかなように、完成度が低い部分が多々見られる。たとえばメモリースティックから写真(静止画)を取り込む場合にしても、現時点ではPSXのHDDに取り込んだデータをCD-R、DVD-R、メモリースティックといったメディアに書き出すことができないため、データをどんどん取り込んで蓄積していこうという気になれない。 PSXに取り込んだ写真は、TV表示以外できなくなってしまうからだ。また、縦位置で撮影した写真をTV表示する写真を回転して表示するだけでも、メモリースティックから一度HDDに取り込まなければならないなど、中途半端な仕様となっている。 またゲーム機としてのPSXは、機能的にはBBユニットつきのPS2と完全に同じではない。たとえばプレイステーションBBへの対応は、ファームウェアのアップデート待ちという状況だ。 こうした未完成な部分についてソニーは、今後のファームウェアアップデートで対処したい、としている。だが、最初からファームウェアアップデートを前提に見切り発車する、という行為自体が極めて家電らしくない。何というか、PCの悪しき慣習の影響を見た思いだ。 そもそも、本来PSXが対象としているハズの入門者は、ファームウェアアップデートによって、機能が増えることを望んでいるのだろうか。むしろ、このメニューで実行ボタンを3回押したところにある機能の内容が変わっては困る人たちなのではないかと思う。 ●デザインと静粛性は利点 では、現時点でのPSXで優れているのはどこだろう。まず最初に思いつくのはスペースファクタの良さだ。HDD内蔵DVDレコーダとPS2を別に設置すると、軽くPSXの2倍のスペースが占有される。縦置きできる点も有利で、見た目的にも優れている。 また、PS2に比べて圧倒的に静かなことも間違いない。PS2ではDVD-ROMドライブの動作音や冷却ファンのノイズなどが時に気になるが、PSXではそうしたことはほとんど感じられない。この点は素直に賞賛したい。 色々書いてきたが、筆者も160GB HDDモデルで79,800円、250GB HDDモデルで99,800円という価格を考えれば、PSXが買って損のない製品であることは間違いない事実だと考えている。だが同時に、現状のPSXはゲーム機という木に家電製品という竹を接いだ印象がどうも拭いきれない。(接ぎ目はかなり巧妙に処理されているとは思うが)。 やはりPSXは、おのずと若い男性が中心になるだろうPS2やPCのユーザーを対象に、最初の仕様に問題があっても、ファームウェアのアップデートでガンガン機能を追加していくのでお楽しみに、くらいの尖がったマシンだった方が良かったのではないだろうか。その方がワクワクする製品になったハズだ。なぜ一般向けHDD内蔵DVDレコーダのラインナップにPSXを加えなければならなかったのか、コクーンとスゴ録の2シリーズではなぜダメだったのか、どうも筆者にはまだピンとこないでいる。 □関連記事 (2003年12月26日) [Text by 元麻布春男]
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