元麻布春男の週刊PCホットライン

Intelの通信事業統合と人事



●事業統合の時期

Ronald J. Smith副社長
 Intelは12月11日(現地時間)、同社通信関連事業を統合しICG(Intel Communications Group)に集約すると発表した。

 これまでIntelの通信関連事業は、Ronald J. Smith(Ron Smith)副社長率いるWCCG(Wireless Communications and Computing Group)と、Sean Maloney副社長率いるICG(Intel Communications Group)に分かれていた。WCCGの事業分野は、携帯電話や携帯情報機器向けのXScaleプロセッサおよびフラッシュメモリ、ICGの事業分野はネットワークプロセッサ、有線LAN/無線LAN関連製品、通信事業分野向けインフラストラクチャ製品(通信事業者向けのIAサーバー含む)といったところ。

 今後は事実上の存続事業部となるICGが上記の事業全体を管轄する。また事業部長も、旧ICGのSean Maloney副社長が新生ICGの事業部長を引き続き務め、Ron Smith副社長は来年初めに退任することとなった。

 この発表を聞いてアレッと思ったのは、すでに発表されている来年春のIDF(2004年2月17日~19日)のキーノートスピーチに、Ron Smith副社長が予定されていることだ。もちろん肩書きはWCCGの事業部長である。

 事業統合を発表したIntelのプレスリリースには、いつをもって統合する、という時期が明言されていない。が、原文が現在進行形で書かれていることから考えて、2月の半ばにWCCGが存続しているとは考えにくい。IDFのキーノートは、必ずしも毎回、すべての事業部長が顔を揃えるわけではないことを考えると、IDFのアジェンダが作成された時点においては、通信事業の一本化は決まっていなかったか、決まっていても一握りのトップだけが知る機密事項だったのだろう。


●フラッシュメモリ分野の後退とRon Smith氏退任の理由

 普通に考えて、IDFにおいて存在しない事業部の退任した(原文ではRetireとなっている)事業部長がキーノートを行なうとは考えにくい。もし2月の時点でWCCGがまだ存在していたとしても、英語でいうLame Duck状態(日本語では死に体か)であり、キーノートを行なったとしても説得力はない。近い将来、IDFのアジェンダは改訂されるのではないかと思われる。

 このICGによるWCCGの事実上の吸収は、突然発表されたが、今思えば伏線は張られていた。11月20日にニューヨークで開かれたアナリストミーティングにおいてPaul Otellini社長は、同社のフラッシュメモリ事業の失敗を痛烈に自己批判したのである。

 「1年前の価格政策の失敗によってIntelはフラッシュメモリ市場におけるシェアと売り上げを失った」、「この1年はこの失敗のリカバリに費やされてしまった。これは他社との競争に負けたからではなく、Intelが自滅したのである」と。Intelの役員が公の場で失敗を認め、このような自己批判を行なうことは極めて珍しいことだ。

 様々な調査会社の発表等によると、Intelはこの1年でフラッシュメモリ分野におけるシェアを1位から4位に落としたとされている(1位:Samsung、2位:東芝、3位:Spansion)。

 すでに確定している2003年第3四半期決算において、WCCGは1億2,400万ドルの赤字となっている。これは前期比で100万ドル赤字幅が微増したことを示し、前年同期比では9,400万ドルの大幅赤字増である。第3四半期終了時点での9カ月決算においても、前年の1億9,600万ドルの赤字に対し、3億4,100万ドルと赤字幅が大幅に増大している。

 赤字という点ではICGも同様だが、2003年第3四半期決算において、赤字幅は前期比、前年同期比、9カ月決算前年比のいずれもで縮小している。逆に売上高は、いずれの比較においても増大しており、改善の傾向が見られる。基本的にIntelの決算は、IA事業の黒字で他の事業の赤字を補うという性格が強いのだが、WCCGの赤字幅の増大は、許容範囲を超えてしまった、ということなのだろう。

 こうした事情を考えると、Ron Smith氏の退任は、解任の性格が強いものではなかったのかとも思われる。おそらくRon Smith氏には、降格したポストが用意されたのではないかと思うが、固辞して退任の道を選んだのではなかろうか。元々Smith氏は技術畑出身で、市況商品の性格の強いフラッシュメモリ事業にはあまり向いていなかったのではないか、という気がしてならない。Intelを退任するといってもまだ53歳。くしくもOtellini社長と同じ年齢である。引退しても困らないだけのものはすでに得ているだろうが、もうひと働きしてもおかしくはない。


●事業統合後のIntel

Sean Maloney副社長
 一方、WCCGの事業を継承することになったMaloney副社長だが、赤字のお荷物を引き受けたと見るか、大きなチャンスを得たと見るか、と言われれば後者だろう。Maloney氏はIntelのトップエグゼクティブとしては比較的珍しいソフトウェア畑出身といわれており、Intel Europeからキャリアをスタートさせている。

 Andy Grove CEOのテクニカルアシスタント時代に、Grove CEOの懐刀としてPentiumの浮動小数点バグ問題解決の実質的な指揮をとったことが飛躍のきっかけとなった(要するにピンチのときにこそ大きなチャンスがあるということ)。

 その後、香港でアジア太平洋地域のセールス担当、本社セールス担当、マーケティング担当副社長、そしてICG事業部長と、Intelの様々な部門を満遍なく経験している強みがある。すでにExecutive Vice Presidentの肩書きを持ち、将来の社長候補と目される同氏だが、これでICGを黒字化させ成長軌道に乗せるようなことになれば、その地位は磐石ということになる。

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(2003年12月18日)

[Text by 元麻布春男]


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