大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

PC98の育ての親が率いるサポート専業企業「NECフィールディング」


富田克一社長
 今日、9月8日は、「98(きゅうはち)」の日だ。単なる語呂合わせで、PC-9800シリーズを販売しているNECが決めたわけではないが、今月末でPC-9800シリーズの受注生産が中止されるだけに、そう思えてしかたがない。

 日本を代表するパソコンであったこの製品の終焉は、古くからPC-9800シリーズの動向を追ってきた立場としては、感慨深いものがある。ひとつの時代が終わろうとしていると感じるのは筆者だけではないはずだ。

 そのPC-9800シリーズの育ての親ともいえ、NECでパソコン事業部門のトップを務めた富田克一氏は、今年6月から、NECの保守、サポート専門会社であるNECフィールディングの社長に就任し、新天地において、まさにPC-9800シリーズ全盛期を彷彿とさせるようなアグレッシブな動きを開始した。

 コンピュータシステムの保守・サポートの専業ベンダーであるNECフィールディングは、調査会社やコンピュータ専門誌が実施する顧客満足度調査でナンバーワンの実績を誇るなど、この分野のリーディングカンパニーともいえる存在である。

 その同社が、報道関係者を対象に、同社のコールセンターおよび教育拠点となっているNEC中河原技術センターを初めて公開した。

 いまでも、自身の自動車のナンバーに「98」を掲げ、「きゅうはち」に強い愛着を持ち続ける富田克一社長のコメントを交えながら、中河原技術センターの様子を紹介しよう。



●8年連続増収増益、NECグループの優良子会社

増収増益を示すグラフ
 NECフィールディングは、もともとはNECのメインフレーム保守子会社として事業を拡大してきたサポート専業企業。現在では、メインフレーム、スーパーコンピュータからコンシューマ向けパソコンまで幅広いコンピュータシステムに対応できるサービス/サポート体制を確立。

 全国429カ所の保守拠点、約5,000人のカスタマエンジニアを擁し、全国20万社、38万サイトの顧客をカバーしている。月間のコール数は6万3千にも達する。顧客対象となるのは、企業ユーザーがほとんど。とはいえ、「アクティブワン」というサポート拠点を設置するなど、個人ユーザー向けのサポートにも乗り出している。

 同社は、NECグループのなかでも極めて優秀な企業である。

 今年3月期の売上高は2,387億円。経常利益は150億円。このご時世に、8年連続の増収増益という業績を記録している。

 しかも、「細かく見ると、9年前の業績もわずかに前年を下回っただけ。'57年の設立以来、常に右肩上がりの成長を続けている」(富田克一社長)という。

 そして、驚くことにこんな記録もある。NEC本社は、直系子会社を対象に半期ごとに予算達成企業に対して感謝状を出している。NECフィールディングは、現在、これを43期連続で受賞しているところだ。つまり、20年以上に渡ってNEC本社が評価するほど成長を続けているのである。

 「今年6月に社長に就任して以来、最大のプレッシャーは、この連続記録をいかに止めないか、ということ」と富田社長は笑うが、この点でも、NEC関連会社のなかでもきわめて優秀な企業であることがわかる。


●NEC製品以外にもサポート範囲を広げる

 NECフィールディングは、富士通の直系サポート会社のFsasとよく比較される。だが、富田社長は、「Fsasは、販売といった部分にまで乗り出しているが、当社はその分野には乗り出さない。保守、サポートの部分を徹底的にやるにはやはり専業でなけれは駄目」だと話す。

 その同社は、自らの事業形態を大きく2つに切り分けている。

 ひとつは、プロアクティブ・メンテナンス事業だ。これは、ビジネス保守サービス、パーソナル保守サービスなどだが、ひとことでいえば、コンピュータシステムが壊れた時点で修理するという、古くからのコンピュータ保守に関する代表的な事業形態ともいえる。

 「ここは収益のベースを確保するという意味で重要な事業。だが、これまでのように壊れるまで、なにもしないというのではなく、監視、予知技術を駆使してITシステムのトラブルを未然に防ぐということも必要。この点に力を注ぎたい」と話す。

 もうひとつの事業がフィールディング・ソリューション事業。コンピュータやネットワーク機器のセットアップ、移設、増設、撤去などのインストレーションサービス、ネットワーク構築のためのネットワーク施設サービス、消耗品、オフィス周辺機器の販売などのサプライサービス、運用効率向上に向けたソリューションサービスの提供といった事業が含まれる。

 「この分野は成長分野。ここで年率30~40%の成長を維持することで、全社規模でも5%増程度の成長を達成できる」として、全社の成長エンジンと位置づけている。

 同社の売上構成比を見ると、NEC本体およびNECグループ会社が導入したコンピュータシステムに対するサービス/サポート事業が全体の75%を占める。企業名にNECのブランドを冠した企業としては当然のことだろう。だが、最近では、それにこだわるものではない、として、NEC以外のブランドにもサポートの領域を広げる考えだ。

 中河原技術センターでも、NECの製品保守以外にも、EMCのストレージの保守や、今年6月に発表したサン・マイクロシステムズのサーバー製品の保守にも対応できる体制を整えている。

 「今後、どんなメーカーの製品を保守することになるのか、という質問に対しては、すべてのメーカーの製品の保守を行なう可能性があると回答できる。外資系コンピュータメーカーとの提携も増えることになるだろう」と富田社長は語る。

 外資系コンピュータメーカーの弱みは、もともと販売やサポートの地盤を持たないこと。販売に関しては、全国系ディーラーとのパートナーシップによってカバーすることもできるが、サポートに関しては一筋縄ではいかない大きな問題となっていた。ここに、国内最大規模の保守網を誇る同社のサポート網を利用できる強みはきわめて大きいといえるだろう。

 すでに、ロゴからは「NEC」の冠を外していることも、他社とのパートナーシップを強化していく姿勢の表れともいえまいか。

NEC製のiストレージだけでなく、EMCのストレージもサポートしている


●iモードを利用した情報システムが下支え

 NECフィールディングのサポート体制を下支えしているのは強固な情報システムと教育体制だ。

 同社では、2001年10月に、それまで全国約130カ所に分散していたコールセンターを、東日本、西日本の2カ所に統合。それに伴いコールセンターシステムを一新した。

 「以前はセンターを分散することで、地域密着、顧客密着という体制をとっていた。だが、全国均一での質の高いエンジニアによるサポートが難しいこと、24時間365日での対応が不可能だという問題があった。センターの統合によって、こうした問題が解決されることになった」(木村義行執行役員)という。

 東日本では、一次対応要員が75人、専門的な技術対応が必要な場合に応対するテクニカルサポート要員を78人配備、西日本でもそれぞれ69人、47人を配備している。なんらかの事情で、いずれかのコールセンターが対応できなかった場合にはもう一方のコールセンターへと振り替え受付が可能となっており、コールの集中時や障害時などにも24時間365日の体制で柔軟に対応できるようにしている。

コールセンターの様子。24時間365日体制で対応している。企業ユーザーが主要顧客のため、オペレータもほとんどが男 性 顧客対応のための画面。顧客情報がポップアップされる

顧客対応状況の一覧。着信率や保守対応状況がわかる。棒グラフの緑の部分が当日に保守が終了した案件数 コールセンターの入口はすべて指紋認証で管理される。富田克一社長が実際にやってみたがはねられた。社長でもむやみに入室できない

 コールセンターは、CTIシステムに加え、ALIVEと呼ばれる自動通報システム、さらに作業手順自動作成・配信システムのPRIDEなどで構築されている。

 顧客からのサポート要求は、電話、FAXの場合はCTIシステムによって処理される。オペレータは、机の上のパソコンから顧客情報データベースの閲覧が可能で、保守契約内容、システム情報、ネットワーク構成、作業履歴などを呼び出せる。また、1万4000件にのぼる過去の保守事例データベースから、自然語検索により障害内容、対応方法などの閲覧が可能となっており、実機が手元になくとも、このデータベースをもとに操作方法や修理方法などが、電話口で指示できるようになっている。

 電話の平均応答時間は6.8秒。2コール程度で応答している計算だ。また、電話に出なかった場合の指数である途中放棄呼率は2.6%。窓口処理時間も昨年10月には平均約12分であったものが、今年6月には約10分に短縮した。

 特筆されるのは、iモードを活用したフィールド体制の構築だ。

 顧客からの問い合わせで、出張保守が必要な場合には、全国のカスタマエンジニアに対してiモードによる出動指示および作業指示が配信される。エンジニアはiモードで送られる情報から指定されたURLをクリックして顧客先、作業内容、装置情報などを閲覧。同時に修理に必要な部品の配送状況も確認できる。

 さらに、顧客からの問い合わせの際の音声情報も聞くことができ、顧客の要求状況を確認できる。

 iモードを活用する以前は、顧客の要求がひとつの誤りもなくカスタマエンジニアに伝わっている例は60%程度しかなかったという。だが、現在ではそれが86%まで上昇している。さらに、センターへの問い合わせが、再度エンジニアが顧客先に連絡をして、同じことを繰り返し説明してもらうこともあったが、これも激減したという。

 「今年4月の調査では98%のユーザーに満足していると回答していただくことができた」(木村執行役員)というのもこうした仕組みが威力を発揮している。

60%が2~5個の資格を取得している
 もうひとつの教育体制では、都下・中河原、兵庫県・播磨の2つの研修施設や、地方拠点の教室を設けて、実機による研修、ネットや映像素材を活用した研修などが行なわれる。

 新人に関しては、約8カ月間に渡る徹底した研修が行なわれ、今年4月に入社した新入社員は、9月の時点でもまだ研修を行なっているという段階だ。

 全社員1人あたりの教育コストは年間84万8千円。全社合計では86億円にものぼる莫大な教育投資だ。さらに、フィールディングコンテストと称して、年2回の割合で、エンジニアの技術力、ビジネスモラルなどの顧客対応力などを競い合うコンテストも行なわれている。そして、マイクロソフトの認定資格者、シスコ認定資格者、オラクル認定資格者の数は競合他社よりも圧倒的に多いと胸を張る。

 「サービス事業は、人がすべて」と富田社長がいうように、社員教育には手を抜いていない。ここにも顧客満足度ナンバーワンの下支えがあるといえそうだ。

今年4月に入社した社員の研修会の様子。現場への配属は11月以降。約半年かけてじっくり鍛えられる。中河原技術センターには、こうした教室がいくつもある 教育用ビデオの制作スタジオ。これも中河原技術センターの内部にある

研修用のハードウェア。左が研修専用に作られたスーパーコンピュータ、中が銀行ATM、POSレジ、サーバーなど、右が研修機器として導入されているサンのUNIXサーバー


●目指せ! きゅうはち

 今年度の事業計画は、売上高では、5.4%増の2,530億円、経常利益は9.1%増の165億円、当期純利益は9.3%増89億円と、9年連続の増収増益を目指す。

 そして、昨年9月に東証一部に上場してからは、その株価の行方も、ひとつの評価基準として気になるところだろう。

 「私が社長に就任した時の株価が5,550円。なんとしてでも、これを下回らないようにしなくてはならない」と富田社長。

 5550といえば、日本IBMのかつてのパソコンの型番と同じ数字だ。

 「5550を超えて、その次のターゲットは5800。そして、その次は9450。最終的な目標は9,800円かな?」と富田社長はジョークを飛ばす。

 補足するが、5800はNECのサーバーであるExpress 5800、9450はかつての富士通の上位パソコンであるFACOM9450のことだ。

 9,800円には社長就任時の倍近い株価上昇が求められ、その道のりは遠い。だが、富田社長は、なんとか、こだわりの「きゅうはち」を達成したいと考えているようだ。

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【2002年3月4日】【業界】富田克一 執行役員常務インタビュー
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0304/gyokai24.htm

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(2003年9月8日)

[Text by 大河原克行]


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