大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

NECのパソコン事業は大丈夫か!
富田克一 執行役員常務インタビュー

NECソリューションズ
富田克一執行役員常務
 昨年10月から新体制で臨んだNECのパソコン事業。だが、5カ月間の成果を見る限り、コンシューマ分野ではシェアが3位にまで落ち込み、残念ながら新体制の効果が出ていないといも受け取れる。しかも、赤字の状況からも依然として抜け出ていない。
 果たして、NECのパソコン事業は、今後どうなるのか。パソコン事業を統括するNECソリューションズの富田克一執行役員常務にインタビューを行なった。


●反省材料は「あまりにも慎重になりすぎた」こと

-2月4日付けのこのコラム「シェア追求を捨てた!? 冬商戦でNECが低迷」で、「NECのパソコン事業にはまったく勢いが見られない」との記事を掲載しました。この点を富田執行役員常務は、どう判断されていますか。

富田 「勢いがない」という点に関しては、不本意ですが、確かに指摘された部分があるかもしれません。ただ、「勢いがない」というよりも、むしろ、新しい体制を軌道にのせるために「慎重になりすぎた」という点が強いかもしれません。今後は、まず、このあたりの改革からすすめなければと思っています。

-「慎重になった」というのは、具体的にどんな点だと認識していますか。

富田 不良在庫をなくすという点での取り組みは成果があがっていると思います。競合他社に比べても、不良在庫は少なかったといえますし、在庫のコントロールもできた。しかし、ここにあまりにも力を注ぎすぎて(笑)、売れ筋商品が品薄となり、結果として、チャンスロスにつながっている。このあたりを捉えて「慎重になりすぎた」と思っているのです。

-昨年10月からの新体制において、「プロダクトアウト」から「カスタマイン」への転換に取り組まれましたね。これに対する自己評価はどうですか。

富田 狙ってきたところは達成しつつあると思います。新体制としては、従来、販売を担当していたNECパーソナルシステムが、NECカスタマックスとして生まれ変わり、コストセンターからプロフィットセンターへと転換し、コンシューマ向けのマーケティング、製品企画という点でも責任をもつようになった。販売店との取引方法や需給バランスの読みという点でも、着実に成果がでるようになっている。カスタマインを指標にした業績評価、社員のマインドも浸透してきたといえます。

-しかし、カスタマイン型の製品というのが、なかなか見当たらないですね。むしろ、話題性のある製品が少なくなったような気がします。

富田 カスタマイン型の製品というのは一言ではいいにくい。それよりも、パソコンを買う場合に、どこで買って、どう注文したらいいのか、周辺機器やソフトやコンテンツはどう手に入れるのか、トラブルが起こったときにはどうしたらいいのか、パソコンの新たな使い方はどんな使い方があるのか、こうしたトータルな環境を提案できることが「カスタマイン」の基本的な考え方です。パソコン本体の性能がどうだとか、価格がどうだとか、というものではないのです。ウェブで様々なサービスや、購入の手法を提供したり、サポート窓口を24時間体制にしたりということで、徐々にカスタマインの環境が実現できる。パーソナルアドバイザー制度を実施するというのも、まさにカスタマインとしての取り組みのひとつです。

 ただ、最近のNECのパソコンには主張がない、あるいは業界を引っ張るような製品がない、という声はいくつかいただいています。それは強く認識していますし、この点は、早期に改善していかなくてはいけないと考えています。業界を引っ張れるような製品を発信していかないと、「勢いがない」といわれますからね(笑)。具体的にどうするというのは、いまの段階では申し上げられませんが、これからの取り組みに、ぜひ、期待していただきたいと思います。


●顧客満足度は合格点に

-昨年10月の新体制とともに、もうひとつ掲げたのが、リピート率の向上を指標とした顧客満足度の向上ですね。

富田 昨年10月の段階で、現在のNECのリピート率は32%であり、これを64%にまで高めたいという表明をしました。このリピート率に関しては、最新の調査では50%台まで上昇し、競合他社と同じ水準まであがってきたと認識しています。もう当社だけが低いというものではありません。これは「カスタマイン」への取り組みが成功している証のひとつだと思います。

-しかし、その一方で、新体制に移行した途端にシェアが下がりました。コンシューマ領域では、年明け以降、ソニー、富士通に続く、シェア3位が続いています。

富田 昨年10月時点でも明確にしましたが、シェアは第一義ではない、と考えています。大量に製品を作って、価格を引き下げて販売すればシェアはとれます。ただ、このようにお金を出して、シェアをとるようなやり方がいいのか。時間はかかるかもしれませんが、「メーカー発想」から「サービス発想」の事業形態に移行した段階でシェアをとれればいいと。顧客満足度をあげて、リピート率を高めれば、結果的にシェアはあがると考えています。

-シェアは第一義ではない、といっても3位という位置は、事業を担当している立場から納得できるものですか。

富田 トップシェアを維持し続けるということは重要です。しかし、それ以上に大切なことがある。健全な事業体質をもち、顧客満足度を高める体制をつくるということです。メーカー発想からサービス発想への転換が、最も重要な課題だと考えています。ただ、サービス発想だからといって、パソコンの本体そのものに魅力がなくてはいけない。あくまでも、一番の軸にあるのは製品です。ここへの取り組みを慎重にやってはいけない。目立つくらいのことをやらなければ、と思っています。

-当初は、下期(01年10月~02年3月)からの黒字転換が見込まれていましたが、残念ながら赤字のままです。これも慎重になりすぎた要因のひとつではないでしょうか。赤字の原因はどこにあると見ていますか。

富田 第3四半期(02年10~12月)の市況があまりにも悪すぎたのがひとつの要因です。もうひとつの要因は、固定費がかかりすぎているという点です。確かに、慎重になりすぎた理由のひとつとしては見逃せません。

-固定費の削減という点では、4月に大幅な人員削減あるいはシフトなどを予定しているのですか。

富田 4月の段階で大きく人を動かすということは考えていません。しかし、サービス発想という流れのなかで、それにあわせた体制へと、徐々に人員をシフトすることを考えています。モノをつくるという場面だけでなく、顧客との接点という場面での人の配置を強化します。


●他社製パソコンの扱いは必然の流れ

-中国でのパソコン生産を加速させますね。これはどんな背景があるのですか。

富田 ひとことでいえば、コスト削減ですが、それ以上に大きな狙いがあります。というのも、昨年10月の段階で、マーケティング、販売を担当するNECカスタマックスと、開発、生産、保守を担当するNECカスタムテクニカをそれぞれ発足させた。それまでは、設計から開発、生産、販売、サポートまでを、NECが一極で責任を負うという体制だったものを水平分業したわけです。水平分業になると、それぞれが効率的に動くにはどうするか、利益を出すにはどうするか、ということを考える。その上でのひとつの回答が中国での生産ということです。

-それにあわせて群馬事業場では、パソコンの生産から撤退し、修理や検査に特化、今後は、他社製パソコンの修理も担当するということですが。

富田 これも同様に、水平分業した場合、それぞれがどう発展するか、という上での答えです。そうした考え方をすれば、当然、NEC製パソコンだけでなく、他社のパソコンを扱って事業を拡大するという考えも出てきますね。NECには、NECフィールディングという保守の専門会社があり、全国に修理の受付窓口を持っている。これだけのインフラはなかなか競合他社はもてません。それならば、この窓口を使って他社のパソコンの修理を受け付けて、群馬で修理すればいいわけです。パソコンメーカー以外でも、ウェブサイトなどで販売したものを修理する窓口がない、となれば、このインフラを利用すればいい。NECにとっても、ビジネスチャンスが明らかに広がるのです。だから、競合他社の製品だからやらない、とかではなく、ビジネスライクにお互いが納得すれば、積極的に他社製品の修理も扱っていこうと考えています。これは、なにも、サポートだけに限定した話しではないと思います。

-となると、生産や販売にも。

富田 生産という点では、すでに3年後には10%を他社からのOEMにしたい、と当社社長の西垣が言及していますし24時間365日のサポート体制を実現している121コンタクトセンターも、他社からの受託による展開を模索しはじめています。販売のカスタマックスでは、すぐにパソコン本体を取り扱うというのは難しいと思いますが、すでに、他社のブランドの一部周辺機器やソフトの取り扱いを開始しています。それぞれが専門的に持っているものをどう生かすか、という考え方が根底にありますから、その上で、他社のパソコンを扱うというのは必然の流れではないでしょうか。

-一方、中国生産を開始すると、製品供給などに問題が出やすくなりませんか。品質面、納期、モデルミックスのコントロールなども難しくなるのでは。

富田 品質面では、当然、当社の技術者が張りついて、NECの生産ノウハウを生かした形で精度を高めますし、納期もしっかりと管理できるという点での確信があります。中国の工場は最新の設備を導入していますし、新しいですから外観も群馬事業場よりきれいですよ(笑)。単純に、中国から輸入する分、納期はかかりますが、在庫は出荷するギリギリまでむこうの資産になりますし、製品寿命の最後には余らないような仕組みをつくります。エンドゲームのところで製品を余らせないという点では、ある種の割り切りが必要かもしれません。ただ、サプライチェーンの見直しにも着手しますし、中国生産のところまでかっちりとSCMに組み込んでいきますよ。

 いずれにしろ、NECの事業に「勢いがない」といわれないように、こうした取り組みをしていることについても、次々と発信していかなくてはならないですね。業界を引っ張っていくような製品を出すための取り組みを、様々な角度から強化してきます。

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【2月4日】【大河原】シェア追求を捨てた!? 冬商戦でNECが低迷
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0204/gyokai22.htm
【2月27日】NEC、他社製パソコンの生産、保守、サポート事業に乗り出す
~来年度末には中国生産を7割に拡大
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0227/nec.htm

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(2002年3月4日)

[Reported by 大河原 克行]


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