だが、まだその制度の詳細に関しては、細かい点まで理解しているユーザーは少ないだろう。 リサイクル制度開始まであと1カ月強ということもあり、今回は、ユーザーが疑問に思うであろう問題について明らかにしたい。
●10月から個人向けPCのリサイクル制度が開始 個人向けパソコンのリサイクル制度に関しては、これまでにも何度となく本誌で取り上げてきた。公表されている内容については、それらの記事で網羅できるようになっているので、それを参考にしていただくのがいいが、本コラムでも、この制度の基本的な部分にだけ簡単に触れておきたい。 今回の制度は、資源有効利用促進法に基づいて実施されるもので、10月1日以降、個人向けパソコンに関しては、メーカーが回収、リサイクルする義務が生じることになることで新たに実施される制度だ。 10月1日より前に販売されたパソコンについては、排出する時点で回収、リサイクル費用を支払い、10月1日以降に販売されるパソコンについては、事前にその費用が販売価格に上乗せされる販売時徴収とする。すでに費用を支払ったパソコンには、それを識別するために「PCリサイクルマーク」が本体に貼付されることになる。 ここでいう個人向けパソコンとはなにか、という問題だが、これはメーカー側が個人向けパソコンとして定義したものになる。詳細は8月末にも各社から順次発表されることになるだろうが、NECを例にとれば、VALUESTAR、LaVieは個人向けパソコンだが、MATE、VERSA Proは企業向けとなるだろう。デルコンピュータや日本IBMなど、個人と企業向けモデルが混在するメーカーは、搭載しているOSなどをひとつの目安として、メーカー各社が個別に判断して、定義することなりそうだ。 では、企業向けモデルを個人で利用している場合はどうなるか。この場合は、10月1日までに販売されたパソコンと同様に、排出時点で費用を支払えば回収、リサイクルしてもらえる。 また、個人向けパソコンを企業で利用している場合には、PCリサイクルマークが貼付されているパソコンであれば、企業が排出する時点でその分の費用は支払わなくて済むことになりそうだ。ただ、個人向けパソコンが一般廃棄物であるのに対して、企業向けパソコンは産業廃棄物に区分されることから制度が異なり、それに係わる事務費用などは別途必要となりそうだ。 一方、リサイクル料金に関しては、現在、料金を発表しているメーカーは、デスクトップパソコン、ノートパソコン、液晶ディスプレイ、液晶ディスプレイ一体型パソコンがそれぞれ3,000円、CRTディスプレイおよびCRTディスプレイ一体型パソコンが4,000円と横並びとなっている。つまり、CRTディスプレイが別構成となっているデスクトップパソコンの場合は、7,000円の費用がかかる計算になる(いずれも消費税別)。 CRTディスプレイの料金が割高なのは、2つの理由がある。ひとつは、重量が重たいという点。そして、もうひとつはCRTに利用されているガラスを引き取ってくれる業者がなく、むしろお金を払って回収してもらっているのが実態という、市場原理が作用しているためだ。
この回収、リサイクル料金を最初に発表したのは業界最大手のNEC。個人向けパソコンの出荷量という点で見ると、過去の累計出荷では他社と圧倒的な差を誇る同社だが、リサイクルは、回収量や回収率によって、かかるコストが変化する。端的にいえば、数量が多い方がコストメリットがでることになる。実は、この料金は、NECの立場から見て採算ギリギリの料金だという。最大手のNECがギリギリだとすれば、なかには、一部赤字を覚悟というメーカーもあるはずだ。だが、競争力を維持するためにNECの料金にあわせざるを得なかったというのだ。つまり、NECの価格破壊を発端として、各社が横並びの料金設定を余儀なくされたという構図なのである。 ところで、この料金の一般的な考え方だが、大雑把な見方で、約3分の1が回収費用、約3分の1がリサイクルに関わる費用、そして、残りの3分の1が一連の作業に関わる管理費用だという。 この料金は、10月1日よりも前に販売されたパソコンに適用される。10月1日以降に販売されるパソコンについては、最初から販売価格のなかに含まれ、リサイクル料金が明示されることはないという。だが、新規に伝票発行する費用が不要であることや、将来に向けて回収比率が上昇するなどの観点から、現在公表されている既販パソコンのものよりも、数百円程度割安にできる公算が強い。 なお、以前、本コラムで、今年は、リサイクル制度開始を直前にした需要を当て込んで、主要各社が9月に前倒しで冬モデルが発売されるだろう、と予測したが、かなりのメーカーがそのスタイルをとりそうだ。そして、メーカーによっては9月発売商品に関しても、PCリサイクルマークを貼付(つまり、リサイクル費用を上乗せ)して販売する例もあるようだ。 個人向けパソコンのリサイクルでは、郵便局(=日本郵政公社)を窓口に行なわれることが明らかになっている。だが、これはJEITAの回収スキームに参加しているメーカーのパソコン、ディスプレイに限られる。これに参加しているのは、8月18日現在、以下の32社。今後、台湾系メーカーなど参加企業が増加する可能性もある。
例えば、出張や転勤などで海外で購入して、それを日本に持ち帰った場合は、日本法人があれば、その日本法人に連絡をすればリサイクル対応してもらえる。個人輸入したパソコンも同様だ。
●自作PCは自治体ごとの対応 では、この32社以外のパソコンに関してはどうしたらいいのだろうか。とくに、読者にとって、もっとも大きな疑問は、自作パソコンは果たして個人向けパソコンのリサイクル制度の回収対象になるかどうか、という点だろう。 自作パソコンに関しては、義務者不存在として、各自治体ごとに回収することになる。 また、ショップブランドパソコンのなかには、年間1万台以下の出荷量(個人向け、企業向けをあわせて)であれば、資源有効利用促進法のなかでメーカーは回収義務を免除されていることから、これらも自然と義務者不存在として、各自治体ごとに回収を行なうことになる。 この自治体の対応も実はバラバラである。現時点では、粗大ゴミとして回収する自治体がほとんどだが、仙台市のように独自の回収、リサイクルの仕組みを用意する例もあるほか、東京都のように都全体として、JEITAのスキームを利用する例もある。 東京都の場合は、パソコンは粗大ゴミとしては一切回収せず、すべてリサイクルを前提とした回収になる。料金設定は、管理費用の必要性や年間の排出量が限定されることでのリサイクル可能な分量の少なさから、メーカーが提示しているリサイクル料金よりもやや割高になる可能性が高いという。先に触れたNECの価格破壊に東京都までがあわせる必要はないという側面もあるだろう。この価格も9月中には明らかになるはずだ。 JEITAでは、いくつかの自治体レベルから問い合わせを受けていることを明らかにしているが、自治体単位ではあまりにも数が多く、対応が煩雑になることから、各都道府県単位で回収・リサイクル対応の話し合いを行ないたいとしている。そうした意味で、東京都以外にもJEITAのスキームを利用する都道府県が出てくる可能性がある。 東京都の在住で、自作パソコンや倒産メーカー品(=義務者不存在パソコン)を所有している場合は、まずは、JEITA(Tel.03-5282-7685)に連絡をして、回収してもらうことになる。JEITAのスキームに参加している32社の製品の場合には、まずは各社に連絡してから、郵便局に持ち込んだり、戸別回収をしてもらうことになる。
●パーツを交換したPCの対応 では、ボードやハードディスクといったパーツ単位での回収は可能なのだろうか。自作ユーザーの多くは、筐体をまるごと廃棄するというよりも、パーツ単位に取り替える例が多い。そのためパーツ単位のリサイクルが可能かどうかは、PC Watch読者も気になるところだろう。 だが、これは残念ながら不可能だ。今回の個人向けパソコンリサイクル制度の対象はあくまでもパソコン本体やディスプレイといった単位であり、パーツ単位での回収はできない。これは、不燃ゴミとして出すしか方法はない。 つまり、裏を返せば、自作パソコン(メーカー製パソコンでもいいが)をパーツごとにバラバラにして、不燃ゴミとして捨てることが可能ということにもなる。リサイクル費用を支払うのを回避したいと思うユーザーは、きっとこうした「捨て方」も考えるだろう。 実は、この方法で、パソコンを捨てても罰せられることはない。 ただ、この点に関しては、環境保護、循環型社会というなかで、利用者の見識が問われる点である、ということだけは付け加えておきたい。 メーカー製パソコンに関しても、回収対象となるのは、パソコン本体および出荷時点に付属していたものという制限がある。そのため、最初から付属していたマウスやキーボードなどは一緒に回収してもらえるが、家で一緒に使っているから、あるいは同時期に一緒に購入したからといっても、最初から同梱されていないプリンタやスキャナー、デジカメなどは回収してもらえない。 この前提から考えると、あとから購入したキーボードやマウス、あるいは付け替えたハードディスクは回収してもらえないことになる。つまり、厳密にいえば、改造した部分は回収対象から外れることになる。 だが、仮に、後から買い換えたキーボードやマウスといった他社製のものがパソコン本体と一緒に出したとしても、事実上は、こうしたものもそのまま回収されてしまうということになりそうだ。これを再度、メーカーごとに仕分けして、それぞれの間でやりとりするのでは余計なコストが発生するだけという問題もあるからだ。ただ、メーカーとしては、リサイクル率(回収したひとつの製品からどの程度までリサイクルできるかの比率)を引き上げることが求められており、リサイクル率の低下の要素にもなりかねない他社製の製品が混ざるということは避けたいのが本音。当初は、グレーゾーン的な扱いとして回収されたとしても、あまりにもそうした例が多くなると、厳密な対応が図られる可能性があるかもしれない。 個人向けパソコンのリサイクル制度が開始されるまで、あと1カ月。その間に、自治体の対応やJEITAのスキームに参加する企業の増加など、新たに決定する要素もいくつか出てくるだろう。 所有しているパソコン、住んでいる地域によって、最初に連絡すべき場所が、メーカー、JEITA、自治体と異なることも、利用者は知っておくべきだ。 正しいリサイクルのためには、ちょっとした学習が必要である。
□関連記事 (2003年8月20日)
[Text by 大河原克行]
【PC Watchホームページ】
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