大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

9月商戦を巡って水面下の激しい攻防
~リサイクル制度直前の駆け込み購入はトクか?


 いま、パソコンメーカー各社にとって、9月をどう乗り切るかが、最も頭の痛い問題となっている。例年ならば、話題が少ない9月なのだが、今年は違う。それどころか、この9月にどんな手を打つべきかで、今年度の各社のパソコン出荷計画にも大きな変化が生じるからだ。

 すでに、メーカー間では、相手がどんな手を打ってくるのか、9月の出方を注意深く観察しているところだ。

 では、なぜ9月がパソコンメーカー各社にとって重要な月になっているのだろうか。


●9月に想定される駆け込み需要

10月から使用されるPCリサイクルマーク
 最大の要因は、10月から開始される個人向けパソコンのリサイクル制度の影響である。

 ここ2週間の間に、9月までに販売された既販パソコンの回収・リサイクル費用が、主要パソコンメーカーから発表されたのは、本誌でも既報の通り。基本的には、各社ごとに料金が設定されるため、料金にはメーカー間の格差が出てもいいはずだが、これまでに発表されたNEC、富士通、ソニー、日本IBM、日立製作所を見る限り、全社横並びの料金設定だ。

 ちなみに、リサイクル料金は、ノートPC 3,000円、デスクトップPC本体3,000円、CRTディスプレイが4,000円、液晶が3,000円。

 10月以降に販売されるパソコンは販売時徴収となるため、この料金が製品価格に上乗せされると考えていい。関係者に聞くと、「将来のリサイクル率の上昇などを加味すると、リサイクル料金の引き下げが可能であり、販売時点に徴収される費用は、発表された既販パソコンのリサイクル費用に比べると、低くなる可能性が高い」とはいうが、その差は数百円単位に留まると見られる。つまり、基本的には、10月以降は、この料金に近い金額がパソコンの販売価格に上乗せされると見ていいのだ。

 問題は、このリサイクル制度開始前の駆け込み需要があるのか、そして、それはどの程度の「山」となるのか、という点だ。

 もともとパソコンメーカー側は、9月の駆け込み需要を最小限に抑えたい、と考えていた。

 一時期に需要が集中すると、大量の部材確保に走らねばならず、直接的に大きなリスクを抱えることにつながるからだ。また、需要集中後の反動を恐れたという点も見逃せない。一昨年4月に開始された家電4製品(冷蔵庫、テレビ、洗濯機、エアコン)のリサイクル施行前には、前年比2倍以上の販売実績となったものの、その後約1年間に渡って需要が低迷、長期間の前年割れが続くという状況に陥ったという前例がある。パソコン市場は、すでに7四半期前年割れという低迷ぶりを続けるだけに、一時の需要喚起の反動によって、家電リサイクル同様、またパソコン需要の低迷が長期化することを避けたいとの思惑があるのは当然だ。


個人向けPCの回収/再資源化の流れ(NECの例)
 一方、販売店では、駆け込み需要を積極的に煽りたいとの思惑がある。パソコン市場低迷脱出の起爆剤にしたいとの思いがあるとともに、メーカー各社とは違って、パソコン本体販売後に期待できる周辺機器、消耗品などの需要拡大が期待できること、量販店ではパソコン以外にも家電などの商材を抱えていることから、それらの販売でカバーできるとの読みもある。

 ここ数カ月、メーカーと販売店の間では、何度も協議を重ね、9月の需要予測および商品供給体制について調整をしてきたようだ。その結果、メーカー側が、販売店側の駆け込み需要喚起策にあわせざるを得ないという結論に達した模様である。

 だが、一部パソコンメーカーの間では、「家電の場合は同じ製品が売られるという点で駆け込み需要が集中した。パソコンの場合は、モデルチェンジと性能向上が激しく、家電のような極端な集中はないはず」と、依然として駆け込み需要への対応には慎重な姿勢を崩していないのも事実である。


●早くも懸念される部材不足

 依然としてメーカーが慎重な姿勢を崩していない理由のひとつに、早くも一部部材の不足が予想されていることがある。

 中でも、CD-RWドライブや、DVDドライブなどの一般的に「光モノ」と呼ばれる部材が不足する可能性が高いといわれる。そのため、需要が集中しても、それに対応できるだけの部材が調達できないという問題が起こりそうなのだ。

 ある大手パソコンメーカーによると、「当社は、すでに大量に調達しているので問題はない」と前置きしながらも、「ちょうど秋以降、ドライブ関連の品薄が表面化するはず。ここでどれぐらいの数を供給できるかが、各社のシェアを左右することになるだろう」と予測する。

 別のメーカー幹部も、「確かにドライブの品薄はこれから問題になりそう。販売店に対しては、9月に需要が集中しても、要求量を供給できるとは限らない、と話している」と語る。

 光モノの品薄は、デジタル家電分野におけるDVDレコーダーの伸張や、SARSの影響による中国での生産の遅れなども影響しているようだ。

 もうひとつは、例年、10月にモデルチェンジを予定しているメーカー各社が、9月という夏モデル最終処分段階に、大量の夏モデル製品を確保するリスクを避けたいとの本音がある点だ。

 もし、駆け込み需要の思惑が外れ、大量に生産した夏モデルが余れば、10月以降の新製品投入にも影響を及ぼすばかりか、夏モデルを処分価格で販売することにつながり、逆にメーカーの収益性を大幅に悪化させてしまうからだ。

 ここ数年、パソコンメーカー各社が取り組んできたのは、シェア拡大戦略よりも、収益確保を前提とした戦略だ。大手パソコンメーカー幹部が、「新製品切り替え直前の最後のタイミングでは、品物を処分してシェアを取るよりも、むしろ商品がなくなり機会損失した方が、結果としては得策」とまで言い切っていたほど、切り替えのタイミングを強く意識していた。それだけに、9月という最終処分段階に、大量の在庫を抱えるというのは多くのメーカーが嫌がる。

 「販売店の要求にはある程度対応する。だが、収益確保を捨ててまで供給するつもりはない。どれくらいの数量ならば売り切ることができるのか。それを見極めている段階」(大手パソコンメーカー幹部)だという。


●9月に冬モデル投入はあるのか?

昨年のソニーは「PCG-C1MZX」などを、ドリームワールド直前に発表し、9月末に投入した
 だが、夏モデルの最終処分リスクを回避するひとつの手段がある。それは、冬モデルを例年よりも1カ月早い9月に投入するという施策だ。事実、昨年の例を見ても、ソニーが9月に冬モデルを先行して投入したという経緯がある。

 実は、今年もソニーの動きがひとつの鍵だと、競合各社は警戒する。

 昨年、ソニーがいち早く9月に冬モデルを投入した背景には、同社のプライベートイベント「ソニー・ドリームワールド」があった。同イベントは、昨年は9月14、15日の2日間に渡って開催し、ソニーの最新製品、最新技術を一堂に展示してみせたが、バイオリシーズの冬モデルもこれにあわせて発表。各社より2週間から1カ月早い製品投入となったのだ。

 このソニードリームワールドが今年も開催される。しかも、今年は9月上旬の日程だ。それだけに昨年同様、9月の冬モデル投入も予感させる。

 ただ、今年の開催場所が日本ではなく、パリとなる。ここに合わせて発表されたとしても、日本のユーザーに対しては、まずは各メディアを通じての紹介ということになる。

 ソニー関係者も、「バイオに関しては、昨年ほど、目玉といえる製品展示はないようだ。また9月の新製品投入についても決定していない段階」として明言を避ける。

 また、富士通の動きも見逃せない。同社では、今年の春商戦、夏商戦と他社より1週間早い新製品投入で先行、その施策が功を奏してシェアを確保してきたという実績がある。そうした意味で、他社よりも前倒しでの製品投入が可能な体制を確立しはじめたともいえる。

 富士通幹部は、「前倒しでの新製品投入が可能な体制はできている。だが、9月に冬モデルを投入するかどうかは検討中だ」とこちらも明確な発言を避ける。

 NECも、「9月の需要規模が読み切れない。そこに新製品を投入するのは大きなリスクがある」と様子をうかがっている段階だが、6月末には「今年秋には投入できる新技術」を含めて多数の製品モックアップを見せていることから、9月の製品投入の可能性も完全否定はできない。

 このように、各社は9月の新製品投入を巡って、相手の動きを警戒している段階といえる。

 だが、9月の新製品投入には2つの大きな問題がある。

 ひとつは、9月に冬モデルを投入すれば、駆け込み需要を喚起することにつながり、10月以降の冬モデルの売れ行きに明らかに影響する点だ。

 もうひとつは、秋にも発売が予定されているマイクロソフトのOffice 2003への対応をどうするか、という点だ。9月モデルではOffice 2003の搭載は間に合わないのは明らか。だが、アップグレードサービスを添付するとなると、ここ数年のマイクロソフトの施策からして、メーカー各社の持ち出しの上で対応しなければならないことになるのは間違いない。これも収益性を重視するメーカー各社にとって、苦渋の選択を迫られる要因のひとつだ。


●購入予定者は9月の動きをウォッチすべし

 しかし、裏を返せば、9月はユーザーにとっては、パソコン購入のひとつのチャンスであることは間違いない。

 販売店では、既存製品の下取りキャンペーンなどを実施して、買い換えを促進する施策を用意しているという話も聞く。また、9月に冬モデルが投入されれば、購入時点ではリサイクル費用を支払わずにパソコンを購入できるということにもつながる。リサイクル制度を否定するつもりはないが、例えば、その後、そのパソコンを下取りに出せば、自らがサリイクル費用を支払わずに済むという計算も成り立つ。

 9月はメーカー、販売店がどんな動きを見せるのかは現時点では定かではない。しかし、パソコン購入を考えているユーザーは、9月の動きを注目しておくのが得策であることは間違いない。

□家庭系PCリサイクルのホームページ
http://it.jeita.or.jp/perinfo/pcgreen/
□関連記事
【6月27日】NEC、使用済みPCの回収費用を決定
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0627/nec.htm
【6月26日】JEITA、ショップブランド向けにPCリサイクル制度を拡充
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0626/jeita.htm
【4月21日】【大河原】JEITA、10月から個人向けPCのリサイクルを開始
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0421/gyokai56.htm

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(2003年7月14日)

[Text by 大河原克行]


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