今回取り上げるのは、日本ヒューレットパッカード(HP)の「iPAQ PocketPC h1920」である。現在は、HPの直販サイトでのみ販売されていて、価格は24,800円。このh1920、昨年米国で発売されたh1910とは匡体は同一ながら、CPUがIntel PXA255(h1910はPXA250)になっており、クロックは変わらないものの、バス速度の違いやWrite-Backキャッシュのバグ修正などにより、高速化されている。なお、米国では、h1910を299ドルで販売しており、国内の価格はそれから比べると大幅な値下げとなっている。 匡体は、かなりコンパクトだ。最近の機種だと、シャープのLinux搭載Zaurs A300と同じぐらい。厚みもなく、持った感じはかなり小さい。少なくとも、かさばることはないし、ワイシャツの胸ポケットに入れても負担を感じるようなサイズ、重量ではない。
●コストダウンで簡素化されたハードウェア h1920は、70×13×113mm(幅×奥行き×高さ)と、従来機種のh5450(84×16×138mm)に比べてひと回り小さい。匡体が小型化されたのは、iPAQシリーズの特徴でもあるジャケットによる拡張機能を備えていないからだ。ジャケットはCFスロットやバーコードリーダなどの機器を増設するための仕組みだが、その名のとおり本体を包み込む様に装着するため、この機構を最初に装備したh3600シリーズ以来、匡体サイズはほぼ同一だった。
ジャケット機構を諦めた第一の要因は、コストと思われる。この機種では、同じくiPAQシリーズの特徴でもあるバックライトの自動調整機能なども備えていないし、ROMも16MB(h5450は48MB)と小さく、CDに添付されるソフトもほとんど省略されている。 米国では、Dell Computerが低価格なPocketPCで今年から参入しており、これに対抗するという意味があるだろう。世界的なシェアでいえば、HPはPalmやソニーに次ぐ第3位のPDAメーカーだ。が、Dellが得意の直販ビジネスと低価格でシェアを急拡大させており、調査によっては、HPに次ぐ第4位のPDAメーカーとなっているのだ。国内での販売価格から考えると、おそらく米国では199ドルという価格付けが可能と思われる。200ドルを切るDellのAximシリーズに対抗するマシンでもあるのだ。 インターフェースは、IrDAおよびSDカードスロット、クレードル接続用のコネクタ(充電、同期ポート)を備える。ただし、SDカードスロットは、SDIOに対応していない。
オーディオ用のマイク、スピーカー、ヘッドホン端子を持ち、メモ録音が可能なほか、Windows Media PlayerなどでMP3の再生も可能だ。ただし、ヘッドホン端子は、ポータブルオーディオ機器で広く使われている3.5φのものでなく、2.5φ(携帯電話のイヤホンマイクコネクタと同じサイズ)を採用している。これは、本体が13mmと薄いためだろう。なお、製品には、インナイヤー型のヘッドホンが付属している。 ディスプレイは、QVGA(縦型なので240×320ドット)、65,536色表示の可能な半透過型TFT液晶を採用している。前述のようにバックライトの自動調整はできないが、手動でバックライトの明るさを変更することは可能だ。また、完全にオフにすることもでき、屋内の蛍光灯のもとでも表示内容を視認することはできる。直射日光下ならば、オフにしておいたほうが見やすいかもしれない。 バッテリはリチウムイオンで、着脱が可能。オプションのクレードルには、予備バッテリを充電するためのホルダも用意されている。電池容量は900mAh。カタログでは約8時間の利用が可能となっている。h5450シリーズが1,250mAhのリチウムポリマ電池を使っていて、約12時間の利用が可能とのことなので、この部分でも多少のスペックダウンがある。 プログラム実行とファイル保存に使うRAMは64MB。PocketPCでは小さな容量とはいえないし、ファイル領域が不足するならSDカードで補うことができる。 ●匡体デザインなど ボディは銀色で、従来のiPAQ hシリーズと同じ感じ。液晶下部には、4つのアプリケーション起動ボタンと4方向カーソル、実行キーを兼ねる円形の5Wayナビゲーション ボタンがある。なおh3600シリーズ同様、このボタンの裏側にスピーカーが配置されている。音楽を再生しても、本体の裏側から音がするようなことはない。ただ、5Wayナビゲーションボタン自体が小さいせいか、ちょっと押しにくい感じがある。 本体上部には、充電、アラーム通知用のLEDを兼ねた電源ボタンがあり、本体側面には、IrDA受発光部とボイスレコーダー起動ボタン(ただし、設定で変更可能)がある。 また、海外メーカーのPDAにしては珍しくストラップ取り付けが可能だ。米国製のPDAのほとんどはストラップ取り付け穴がない。筆者の知る中では唯一、Treo 90が取り付け可能だった。そういえば、携帯電話にもストラップが付けられない。なにか理由があるんでしょうか? 不思議なことに付属の説明書には、このストラップ取り付け穴については何も記載がない。窪んだところに針金が渡してあるのを見て、日本人なら誰もがストラップ取り付け用と思ってしまうのだが、もしかしたらこれは違う目的があるのかも……と勘ぐってしまう。 ストラップ取り付け穴があることや、米国よりも日本で先に発売されたことなど、この機種は日本向け、あるいは日本法人の要望を受けて製品化されたものなのかもしれない。 バッテリは、背面にあるフタを外して取り付ける。背面にあるスライドスイッチをずらすだけでフタは簡単に開くが、間違って開けてしまうようこともなさそうだ。バックアップバッテリが入っているので、電源をオフにしている間に電池交換すれば、メモリや実行状態が失われることはない。電池は、8時間ぐらい保つが、心配ならオプションの電池を買って併用できるようになっているわけだ。 リセット穴は本体側面にある。付属のスタイラスの先で押すことができ、リセットをかけるのは簡単だ。筆者が操作した限りでは、リセットをしなければならないような事態には一度も陥らなかった。
●付属品、オプションなど パッケージには、ACアダプタ、シンクロケーブル(USB)、ヘッドホンが付属する。マニュアルは付属CDROMの中にAcrobat形式で格納されていて、印刷物は「お使いになる前に」と題された簡単な説明書(6つ折りにした1枚の紙)だけだ。 付属のACアダプタは、長方形でそんなに大きいものではないが、超小型というサイズでもない。なお、ACアダプタの先は、丸形のいわゆる電源コネクタになっており、h1920シリーズに直結する場合には付属の変換コネクタを使う。iPAQではHPのh3800シリーズ以来このスタイルを採用している。変換コネクタはゴムバンドで電源ケーブルに付けてあり、コネクタを無くしたり、忘れたりするこはない。このあたりの細かい配慮は、他のメーカーも見習って欲しいところだ。 PCとの同期には、付属のシンクロケーブルを使う。このケーブルにはACアダプタの接続コネクタもついており、PCとの接続と充電は同時に行なえる。いわゆるトラベルキットのようなものが標準で付いていて、クレードルは本体には付属せず、オプションとなっていてる。 HPのサイトによれば、h1920用のオプションとしては、交換用バッテリ、ACアダプタなどがあるものの、シリアルケーブルやコンパクトキーボードなどは用意されていないようだ。せめて折りたためる「ホルダーキーボード」ぐらいは対応してほしいのだが……。
●内蔵ソフト 内蔵ソフトは、Pocket PCの標準的なもので、Pocket Outlook、Pocket Word、Pocket Excelなどがインストールされている。通信関連としては、Pocket Internet ExprorerやMSN Messengerクライアントなどが装備されている。手元にあったh3870と比較してみると、どうやらターミナルサービスクライアントが組み込まれていないようである。また、iPAQシリーズに付属していたタスクマネージャである「iTask」なども組み込まれていない。これは内蔵ROMが16MBに変更されたため、入らなかったのではないかと思われる。また、従来のiPAQシリーズでは、ROMの空き領域にアドレス帳データなどを保存しておく機能があったが、これもなくなっているようだ。このほか設定画面にあったバックアップユーティリティもない(なおバックアップは、ActiveSyncにその機能がある)。 付属のCD-ROMには、Active Sync 3.5とOutlook 2002が入っている。Pocket PCでは、スケジュールデータなどの同期はOutlookに対してしか行なえないので、Outlookが必須になるからである。一方Pocket PC用のアプリケーションは、Windows Media Player 8 for Pocket PCのみで、他にアプリケーションらしいものは何も入ってない。 付属ソフトも含めて、h1920はほとんどピュアなPocket PCのまま。まあ、サードパーティのソフトやオンラインソフトなどをダウンロードしてきてインストールすればいいのだが……。オマケソフトがないとちょっとつまらない感じもする。まあ、この値段なら仕方ないところか。 Pocket PCに標準で含まれるPocket Outlookのスケジューラやアドレス帳は、最低限の機能を持つ。悪くいえば、昔の電子手帳並。週間や月間表示で予定を文字で表示できず、ToDoの表示がないなど使い勝手もあんまりよくない。筆者は、シェアウェアの「Pocket Informant」を使っている。これは週間、月間表示で予定を文字やグラフィックで表示できるもので、アドレス帳の機能も入っている。 あとは、せめてJPEGビュアーぐらいはほしかったところだ。SDメモリーカードに入れた画像をちょっと他人に見せるぐらいの使い方はしたい。いちおうPocket Internet ExplorerがデフォルトではJPEGなどの画像表示アプリケーションとなるが、速度的な問題や拡大率を変えることができないなどの不満がある。 ●割り切ればよい選択 製品はシンプルながら、速度もまあまあ、サイズもコンパクトで、悪くない。しかし、こと、日本国内のことを考えると、出先で通信する方法がほとんどないのが欠点。SDスロットはSDIOに対応していないし、CFカードスロットもない。となるとPHSの通信カードは全滅、かろうじて、IrDAがあるので、ここ経由での通信は可能だ。となるとIrDA装備の携帯電話か携帯電話用IrDAアダプタを使うことになる。 というわけで、外出中にメールを受信したり、Webを見たりするのは不可能ではないものの、ちょっと面倒だ。IrDAで携帯電話と接続するとなると、片手に携帯電話、片手にPDAというスタイルとなって、操作がしにくい。 なお、メールだけなら、デスクトップPCとのシンクロ時にOutlookから受信したメールを読み込むことが可能だ。たまったメールを外出先で空いた時間に読んだり、オフラインで返事を書いておいて、PCとシンクロしたときに送信するといった使い方は可能なのだ。 最近の携帯電話はメールのやりとりやWebアクセスが可能で、液晶も結構大きい。なので、わざわざ携帯電話をPDAと接続してまで使うというメリットはあまりない。メールやウェブアクセスをすべて携帯にまかせると割り切れば、h1920はサイズもコンパクトだし、よい選択である。動作はキビキビしているし、基本性能でも問題はない。 PDA入門用として、初めて使うのなら、価格も安いし、これでいいのかもしれない。しかし、すでにPDAに手慣れたユーザーだと、通信機能などの点で不満を感じると思う。データ閲覧専用という割り切りが必要なマシンといえるだろう。 □日本HPのホームページ (2003年6月16日)
[Text by 塩田紳二]
【PC Watchホームページ】
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