前回のTungsten Cに続いて紹介するのは、低価格路線を行くZireシリーズのPalm OS 5.2搭載機「Zire 71」だ。このマシン、299ドル(1ドル=120円で換算しても36,000円弱)という低価格のマシンだが、VGA(640×480ピクセル)解像度のデジタルカメラを内蔵している。 ●外観はオーソドックスなPalm機 Zire 71は、一見するとオーソドックスなPalm OSマシンだ。液晶とその下のGraffiti領域、さらに本体下部には、4つのハードウェアボタンとTungstenシリーズにも採用されている5 Way Navigation Keyを持つ。 本体は、液晶側の青い部分と背面にあたる金属光沢のある部分に分かれている。青のみが販売されており、いまのところカラーバリエーションなどはない。まあまあのデザインだが、他の色も欲しいところだ。 背面部分を下にスライドさせると、本体上部にカメラレンズが現れる。シャッタースイッチは本体下部に飛び出した背面部分に装備されている。 本体裏側のスライドするパーツは、金属ではなくプラスチックを塗装したものだが、金属の質感が出ており、見た目は悪くない。低価格機種だと、作りもチープというイメージがあるが、Zire 71はプラスチック製ながら、あまりチープなイメージはない。ただ、少しカジュアルな感じなので、背広を着た人が使うと少し違和感があるかもしれない。 スタイラスは、本体上部から差し込むタイプ。押し込むとちょっとしたクリック感があるので、抜け落ちないように内部で押さえているようだ。だがスタイラス自体は、プラスチックの形成品で安っぽい感じがする。 この機種もTungsten C同様に、山田達司氏の「J-OS for Zire 71」で日本語化が可能だ。 ●カラー液晶とARMアーキテクチャのCPUを搭載 ディスプレイはTungsten C同様に、320×320ドット表示可能な半透過型カラーTFT液晶。表示行数などは従来のPalm機と同じだが、高品質なフォントでの表示が可能だ。また、ハイレゾリューション対応のアプリケーションであれば、より多くの情報を表示させることもできる。 CPUは、Texas InstrumentsのOMAP310。ARM9相当で、クロックは144MHz。OMAPシリーズは、もともとは携帯電話などに組み込むことを想定したプロセッサで、DSPを組み込んであるものが多いが、OMAP310はDSPを持たないタイプだ。とはいえ、ある程度のCPUパワーはあり、JPEGの表示やMP3の再生も十分可能になっている。 本体には、SDメモリーカードスロット、IrDAと、クレードルなどに接続するためのユニバーサルコネクタが装備されている。なお、このユニバーサルコネクタは、m500以降のPalmシリーズで共通となっており、クレードルやホットシンクケーブルなどがそのまま利用できる。以前は、Palmシリーズでも、機種ごとにコネクタが違っていて、マシンを変えると周辺装置まで全部買い直しだったのだが、ユニバーサルコネクタが採用されてからそういうことはなくなった。他社のPalm OS機では、いまだに機種ごとにコネクタ部分が違っていてクレードルや周辺機器が共有できないものもあるが、そろそろ、共通化してほしいところだ。 本体下部には、4つのハードボタンと5Way Navigation Keyが配置されている。ボタンは少しくぼんだところに配置されていて、ケースに入れても自然とボタンが押されることはなさそうだ。5Way Navigation Keyは、小さなジョイスティックという感じで、操作もしやすい。電源オフの状態でこの5Way Navigation Keyを押し込むと電源が入り、時計(World Clock)が起動する。このままなにもしなければ10秒ほどで自動的に電源が切れる。時計代わりに使うときに便利な機能だ(この機能はm100あたりから入っている)。 ●進歩したサウンドのハードウェア 本体上部にはステレオヘッドホン端子があり、3.5φのステレオミニプラグが使えるようになっている。また、モノラルながら簡単なスピーカを内蔵しており、ここからも音を出せる。従来のPalm機のような圧電スピーカではないようだ。このスピーカは背面側にある。 なお、サウンド出力ハードウェアは少し高級になっているらしく、SDカードを挿したときの音などが従来機種よりもちゃんとしている(音そのものも違う)。従来機種では、いかにも方形波といった感じで「ピッポ」という音だったのが、シンセサイザーっぽいオルガン系の音で「チャンツッ」と鳴る。 Zire 71には、BluetoothもIEEE 802.11b無線LAN機能などもなく、通信するならユニバーサルコネクタ経由でモデムなどを接続するか、IrDA経由で携帯電話と接続する必要がある。また、現時点では、PalmのBluetoothアダプタ(SDカード)は、Palm OS 5に対応しておらず、Bluetoothは使うことができない。 低価格路線の機種であるせいか、Zire 71は、アラーム兼用の充電状態を示すLEDを装備していない。充電が始まると「ピッ」と音がするが、電源を入れてアプリケーション画面でも見ない限り、充電しているかどうかは判定できない。 ●内蔵カメラはトイカメラ並み 背面をスライドさせてレンズ部を露出させると、自動的にカメラモードに切り替わる。この状態では、他のアプリケーションを起動することはできず、撮影専用のモードとなる。
カメラモードでは、画面にプレビューが常に表示されている。多少のタイムラグや画面更新の遅れはあるものの、表示自体はこの手の機種にしてはそこそこの速さだ。 しかし、シャッターを押してから映像を取り込むまでには少しタイムラグがあり、目の前を動いている人などは、撮ったときには視野の外といったこともある。また、シャッターを押した瞬間にプレビューが止まって画面がまっ黒になる(設定していればこのときにシャッター音がする)のだが、このタイミングも少し遅い。 暗いところだとシャッタースピードが遅くなることもあって、シャッターを押したあとに、撮影した画面が表示されるまで、一呼吸待つ必要がある。これに慣れないと、写ったと勘違いしてZire 71を動かしてしまい、ぶれた画像になりやすい。なお、撮影後のプレビューはオフにすることも可能だ。 撮影時に設定できる項目はホワイトバランスと撮影画像の明るさ、コントラスト、解像度(640×480/320×240/160×120ピクセルの3段階)ぐらいだ。そのほか画像の保存先(Zire 71の本体メモリ、もしくはSDメモリーカード)、ファイル名のフォーマットなどが設定できる。また、銀塩の全自動カメラのように画像の隅に日付などを書き込むDate Stamp機能がある。 画像は、本体メモリ内ではPDB形式ファイルだが、SDメモリーカードに書き込まれたり、コピーされる場合には、JPEGファイル形式となる。また、付属のPalmDesktop 4.1にはアルバム機能があり、PDB形式の画像ファイルは、PCに取り込まれた時点でJPEGファイル化される。なおこのJPEGファイルにはExif情報が付加されず、撮影日時などをJPEGファイル内に保持していない。 解像度がVGAなので、撮れる画像はトイカメラ並だ。偽色っぽいノイズが少し目立つが、スナップ写真や画像メモ程度には十分か。ただ、日本だとみんな携帯電話のカメラと高解像度のデジカメに慣れているので、あまり高い評価は得られないかもしれない。
●MP3はRealOne Playerで再生 Zire 71はやはりTungsten Cと同じく、Palm OS 5.2を搭載している。メモリは16MBを搭載しているが、同容量のメモリを持つTungsten Tよりもヒープ領域は大きく約1MBある。 実際にデータの格納などに使う領域は、13.8MB程度となっており、従来のPalm OS 4と同程度の使い方は可能だろう。もちろん、CPUがARMアーキテクチャになっているので、処理速度的にもそんなに不満はなく、JPEGなども実用範囲内の待ち時間で表示できる。 JPEG表示は、ROMに組み込まれているPhotoプログラムで行ない、MP3の再生は付属CD-ROMに収録されている「RealOne Player」を使う。CD-ROMには、このほか電子メールソフト「VersaMail」や電子ブックリーダ「Palm Reader」などが収録されている。ただし、WWWブラウザなどはなく、VPN通信機能もない。 RealOne Playerは、RealNetworks製のオーディオプレーヤーで、再生リスト機能もある。また、再生中に一定時間操作がないと画面をオフにして、バッテリ消費を抑えることができる。再生は、バックグラウンドでも行なえ、再生を開始すれば、あとは他のアプリケーションを使いながらでも音楽を聴くことができる。 よほど負荷の高いアプリケーションでもなければ音飛びなどはしないが、逆に実行中のアプリケーションによっては処理速度の低下が目立つ。アドレス帳やスケジュールなどの閲覧がほとんどのソフトは目立たないが、ゲームのようにグラフィックを動かすようなものではかなり遅くなっているのがはっきりとわかる。 MP3ファイルは、SDメモリーカードに入れておけば、そのまま再生可能だが、Windows上のRealOne Playerから転送を行なうこともできる。この場合Zire 71は、MP3プレーヤーの様なデバイス扱いとなる。転送は、USB経由でWindows上とPalm上のRealOne Playerが直接行ない、HotSyncを行なう必要はない。 ●Graffitiも進化 Tungsten Cでは触れなかったが、Palm OS 5.2からは文字入力がGraffiti2となり、よりアルファベットに近い形での入力が可能になった。たとえば、従来のGraffitiではアルファベットのIは、単に縦棒を入力していたたが、Graffiti2では、縦棒と点(i)と入力するようになった。初めて使うユーザーからすると、以前のものよりも覚えやすいというメリットはあるが、すでに過去のやり方に慣れてしまうとちょっととまどうことがある。TやV、Kといった文字が以前のGraffitiとは違っていて、慣れてしまったユーザーはかなり入力時にひっかかることがある。 Graffiti領域は、右側が数字、左側が文字と分かれているが、その間に文字を書くと大文字として認識されるようになったために、大文字用のシフトなどが不要になった。また、液晶部分全体をGraffiti入力エリアとして使う機能もある。 なお、アルファベット入力のときに“t”、“p”、“y”、“$”に関しては、書き順を変えることも可能。たとえばTは、先に縦棒を書き、その後短い横棒を書くのが標準だが、先に横棒を書くようにも設定が行なえる。設定できるのは上記4つのみだが、Graffiti2は通常でも、1つの文字に対して複数の書き方を許しており、書き方で困るようなことはほとんどないので、前記の4つの文字のみ自分の書き方と違うようならば設定ができるということである。 ●Palm本来の良さを感じる機種 全体的なパフォーマンスはそこそこだが、軽いし、手軽で価格も299ドルと手頃。Palm VからPalm m505/515あたりが持っていたPalm本来の良さを感じる機種といえる。Graffiti2でちょっと戸惑うかもしれないが、従来の68k系のPalm機からの乗り換えにもいいかもしれない。 □Palmのホームページ(英文) (2003年6月6日)
[Text by 塩田紳二]
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