元麻布春男の週刊PCホットライン

メインメモリが買いにくくなった理由【状況編】



 メモリはPCの動作に欠かせない重要なデバイス。だが、現在デスクトップPC向けのメインメモリは、なかなか買いにくい状況にある。それは価格が急騰したからではない。互換性のハードルが上がったことが原因だ。その直接の原因は、新しく登場してきたチップセットにより、新しい速度グレードのメモリが使われるようになったこと、そしてそのメモリが十分な標準化プロセスを待たず、いわば見切り発車で市場に投入されたことだと考えられる。

 今回から3回に渡って、メインメモリの最新事情を概観してみる。


●Intelの新チップセット投入で活気づくPC3200 DIMM

 ここでいう新しい速度グレードのメモリとは、言うまでもなくDDR400メモリであり、それを用いたPC3200 DIMMを指す。正確には、昨年の後半あたりからサードパーティ製チップセットの中にDDR400対応をうたうものが登場していたが、DDR400メモリの供給量が少なかったこと、またDDR400メモリを用いた場合のDDR333メモリに対する性能向上率が小さかったことなどから、大きな話題になることはなかった。しかし、4月、5月とIntelが連続して投入した新チップセットのうち、Intel 865Pを除く3種(Intel 875P/865G/865PE)でDDR400メモリがサポートされ、これに応じる形で市場に供給されるPC3200 DIMMの数量は劇的に増加している。すでに秋葉原などでは、PC3200 DIMMが主流になろうとしているほどだ。

 IntelはDDR400メモリのサポートに際して、JEDECで進められていた標準規格を補完する規格を独自に定義し、互換性の確保につとめたが、規格が公開され、それに準拠した製品が製造され、さらに市場に流通するには一定の時間がかかる。と同時に、互換性のカギを握るBIOSの設定が新しいメモリに対応するにも、やはり時間を要する。そんなわけでDDR400メモリは、標準化と互換性確保のプロセスが現在市場において進行中、というところで、互換性のリスクが存在する。

 このDDR400メモリの互換性問題をさらにややこしくしているのが、新しいIntel製チップセットによるメモリバスのデュアルチャネルサポートだ。Intel 875P/865G/865PE/865Pチップセットはいずれも2本のメモリチャネルを備えており、それぞれのメモリチャネルにインストールされるモジュールが一定の条件を満たすと、それにより特定のメモリアクセスモードが利用可能となり、性能が向上する。1つがデュアルチャネルモード、もう1つがダイナミックページングモードと呼ばれるものである。


●Intel新チップセットとメモリチャネルの関係

【図1】Intel 875P/865G/865PE/865Pチップセットのメモリチャネル
 上述のようにIntel 875P/865G/865PE/865Pチップセットは2本のメモリチャネルを持ち、それぞれ2本のDIMMスロット、計4本をサポートする(図1)。メモリの最小増設単位は1本で、チャネルAあるいはチャネルBのどちらかのメモリスロットにメモリモジュールをインストールし、1チャネルだけで運用することが可能だ。この最小構成の運用を、1チャネルだけを利用することからシングルチャネルモードと呼び、メモリコントローラからメモリは64bit幅のメモリバスに接続されたものとみなされる。

 ところが、チャネルAとチャネルBの両方のチャネルに、同じメモリを対称にインストールすると、メモリコントローラは2本のメモリチャネルを1本の128bit幅のメモリチャネルとして利用可能になる。これがデュアルチャネルモードであり、Intel 875P/865G/865PEチップセットがサポートする理論上のメモリ最大データ転送速度である6.4GB/secは、このデュアルチャネルモードが前提となっている。デュアルチャネルモードを有効にするには、

1.チャネルAのスロット1とチャネルBのスロット1に同じメモリをインストールする
2.チャネルAのスロット2とチャネルBのスロット2に同じメモリをインストールする
3.チャネルAのスロット1とチャネルBのスロット1に同じメモリを、チャネルAのスロット2とチャネルBのスロット2にスロット1のメモリとは異なるもののスロット2同士で同じメモリをインストールする
4.4つのメモリスロットに同じメモリをインストールする

 このうちのいずれかを満たす必要がある。文章で書くと何やらややこしいが、図で考えてみると、それほど難しいことではない。

 もう1つのダイナミックページングモード(単にダイナミックモードあるいはダイナミックアドレッシングモードともいう)は、同じメモリチャネル内のメモリを同じものに揃えることで、同時に開くことができるページ(同一行アドレスで指定可能なデータの集まり。DRAMからデータを読み出す際に高速アクセス可能なデータの単位)を増やすことができるというもの。これにより、メモリにアクセスする際のオーバーヘッドが軽減され、性能が向上する。

 そしてデュアルチャネルモードの可否とダイナミックページングモードの可否はそれぞれ独立しているから、順列組み合わせで計4通りの構成が考えられる。最も性能が良いのがデュアルチャネルモードとダイナミックページングモードの両方が有効な組み合わせ、最も性能が悪いのが両方とも無効の組み合わせだ。Intel純正のIntel 865GチップセットマザーボードであるD865GBFのマニュアルによると、2番目に性能が良いのがデュアルチャネルモードでダイナミックページングモードが利用できない組み合わせ、3番目がシングルチャネルモードでダイナミックページングモードが成立する組み合わせだという。

 要するに、極力同じメモリモジュールを使った方が性能は良くなりますよ、ということなのだが、ここで問題なのは、何をもって「同じ」と呼ぶか、ということだ。一般に市場で売られているメモリは、「128MB PC2100 DIMM」などと表示されるのが普通で、あとはせいぜいCAS Latency(前述のページのロードに要する時間のこと)が2だとか3だとか、搭載されているチップのブランドが何か、ということがわかる程度であることが多い。では、128MB PC2100 DIMMであれば、Intel 875P/865G/865PE的に同じメモリかというと、そうではない。Intelによると、メモリモジュールを同じとする条件は、

1.メモリモジュールの容量が同じ(128MB DIMM、256MB DIMM、512MB DIMMのように)
2.使われているメモリチップが同じ容量(128Mbit DRAM、256Mbit DRAM、512Mbit DRAMのように)
3.使われているメモリチップのチップ単位のバス幅が同一(×8あるいは×16のように)
4.メモリの実装面が同じ(片面あるいは両面)

 となっている。逆に言えば、メモリモジュールが同じである条件として、同じブランドであることや、同じアクセスタイミングであること(たとえばCL=3だとかCL=2.5であるとか)、さらには同じクロックスピードであること(DDR400であるかDDR333であるか)さえ問わない(ただしアクセスタイミングやクロックスピードで高速品と低速品を混在させた場合、速度は遅い方に合わせられることになる)。つまり、ただでさえ互換性に不安の残るDDR400メモリだというのに、実際にはDDR400メモリを用いたメモリモジュールには様々な種類があり、どのような組み合わせで購入するか、どうインストールするかによって性能が変わってしまう、というわけだ。冒頭でデスクトップPC向けのメインメモリが買いにくい状況にあると述べたのは、こういう事情を指してのことだったのである。

 次回以降は、実例を挙げながら互換性と速度の問題を追及してみたい。

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(2003年6月11日)

[Text by 元麻布春男]


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