元麻布春男の週刊PCホットライン

次世代の超高速無線通信技術UWB



●IDF JapanでUWBをデモ

IDF Japan最終日のキーノートでUWBについて紹介するIntelフェローのケビン・カーン氏

 Intelが開発者向けに開催するIDF(Intel Developer Forum)は、まず米国で開催された後、世界各国を巡回して開催される。この春は、イラク戦争と新型急性肺炎SARSの影響で、台湾と中国での開催がキャンセルされたものの、日本では予定通り開かれることとなった。

 とはいえ米国開催と世界ツアーの間は2カ月足らず。2カ月で全く新しい話題がそう沢山あるハズはないのだが、今回のIDF Japanでは米国のIDFで見られなかったデモも含まれていた。それは、ひょっとすると今一番ホットかもしれない「UWB」に関するものだ。

 UWBというのはUltra Wide Bandの略。その名前の通り、超広帯域の電波を利用した無線通信技術を指す。電波の利用で最も一般的なものの1つであるテレビ放送は、チャンネル設定された一定の周波数帯を常に占有している。たとえば地上波の1チャンネルの場合、90MHzから96MHzまで6MHz分の周波数帯を連続的に利用して、映像と音声を伝送している。つまり、電波を利用した通信技術の多くは、時間軸的には連続しているが、周波数軸的にはごく短い帯域を使って、データのやり取りをしている。

 これに対しUWBは、非常に広い周波数帯の電波を数ナノ秒というごく短い時間出力するインパルス波を元にした通信技術だ。言い換えれば、周波数帯的には極めて広い電波を、時間軸的には不連続で極めて短い波形として出力することでデータの送信を行なう。もちろん、時間軸的に短くても、電波が広い周波数帯で出力される以上、そのままでは他の用途の電波と干渉してしまう。だから、UWBは出力を極めて小さく抑えることで干渉の影響を排除する、ということを基本とする。

 PCに限らず、身の回りの電化製品は、意図的に電波を出さなくても、ノイズという形で電波を放出している。たとえば、ラジオのそばに他の家電製品を近づけると、ラジオの音声に影響が現れる、ということは多くの人が経験しているハズだ。しかし、一定の距離さえおいてしまえば、家電製品の電波ノイズがラジオに影響を及ぼすことはない。出力の小さいUWBは広い周波数帯を利用するが、ごく近距離にしか電波が到達しないため、他の製品に対して害を及ぼすことはない、というアイデアに基づいている。

 逆に、距離こそ限定されるものの、到達範囲内に受信機と送信機があれば、広い帯域の電波を使ったデータのやり取りができる。これはユーザーがデータ交換に利用可能な帯域も広くなる、ということ。「超広帯域」とまではいかないかもしれないが、数百Mbpsの帯域が利用可能になるといわれている。

●マルチバンド化により200Mbpsを越えたスループット

UWBのマルチバンド化により、他の無線技術との干渉を回避しやすくなる

 このUWBについて、昨年秋に開かれたIDF Japanで、100Mbpsの接続実験デモが行なわれた。今回のIDFのデモが新しかったのは、マルチバンド化が行なわれたことと、200Mbpsを超えるスループットが示されたことだ。

 昨年の100Mbpsの接続実験では、利用可能な周波数帯域を1つのインパルス波で利用していた(シングルバンド)。シングルバンドの方が、室内での反射等による影響を排除しやすいものの、他の無線技術との干渉を本当に排除できるのか、という疑問がもたれている。上記のように、出力を抑えることで干渉を防ぐのが基本ではあるが、これでは1つのデバイスにUWBとその他の無線技術を共存させることは必ずしも保証されない。UWBの到達範囲内で他の無線技術の利用ができなければならないからだ。

 マルチバンドは、UWBが利用する周波数帯を複数のサブバンド(チャネル)に分割して利用しよう、というアイデアだ。今回、Intelがデモしたシステムは、3GHzの周波数帯域を6つのサブバンド(バンドあたり500MHz)に分割したもの。それぞれのチャネルあたりの帯域は42Mbpsで、6つ合わせて252Mbpsが理論上のピーク帯域ということになる。

 もし、干渉を検知した場合、干渉のあった周波数帯のサブバンドを無効にすることで、干渉を回避できる。これにより、UWBと無線LAN(5GHz帯のIEEE 802.11a)を同一のノートPCに実装することが可能になるという。また、複数のサブバンドを用意し、必要に応じて無効化できるということは、国ごとに異なる電波規制にも対応することが容易になる。

 キーノートで行なわれたデモでは、252Mbpsの理論値に対し、200Mbpsを超える実データレートが示されていた。実際のUWBのピークデータ帯域がどのくらいになるかはまだ明らかではないが、米国では7.5GHzに及ぶ帯域が利用可能になるといわれており、その場合500Mbps以上のデータ帯域が利用可能になるものと思われる。もちろん、距離によってもデータ帯域は変わってくるが、最大でも10m程度。ピークに近いデータ帯域を利用するには、ほんの数m程度の距離であることが必要になるだろう。

今回のデモに使われたUWB実験リグ。アンテナ間の距離は2m弱というところ。アンテナを手で握ったりすると、たちまちデータレートが落ちた3GHzの帯域に6つのサブバンドが設定された今回のデモ Ch0~Ch5まで6つのチャネル、それぞれが42Mbpsの帯域を持ち、トータルで252Mbpsのデータレート(理論値)が提供される。画面左下の209Mbpsが実効レート(209Mbps)で、現行の無線LANに比べれば理論値との乖離は少ない

●実用化は2005年~2006年に

 ほんの数mの距離だが数百Mbpsのデータ転送レートが利用できる。この技術の使い道として最も有力なのは、ユーザーの身の回りのケーブルの置き換えである。500Mbpsの帯域があれば、現在使われているUSB 2.0を置き換えることが可能だ。そういう意味では、UWBはUSB 2.0をワイヤレス化したもの、と見ることもできるだろう。

 また、近距離に限定した無線通信技術ということでは、すでにBluetoothが実用化されている。帯域が700Kbps~1Mbps程度に限られることが、Bluetoothの市場ニッチを見つけることを困難にしていたが、500Mbpsあれば民生用のAV機器など多くの用途が現実味を帯びてくる。そういう意味では、UWBは第3世代のBluetoothという捉え方も可能だ。いずれにしても、現時点でUWBのプラットフォームは、IPv6をベースに、上位に様々なアプリケーションを載せることを想定しており、コンピュータ、通信、民生機器を問わない、幅広い応用が考えられている。

 もちろん、到達距離が限られているため、たとえば無線LANの置き換え、といった用途にはUWBはあまり適していない。だが、それは、現行の無線LANが有線LANの置き換えをベースにしているからでもある。もし、無線端末同士が互いに接続され、おのおのがルータとなって、パケットを交換し合えば、1台1台の端末の到達距離は短くても、トータルでは地球をカバーするようなネットワークも構築できるかもしれない。Internetにも似たこうしたネットワークは、実現までには多くの難問が控えている(セキュリティの問題や、料金負担の問題は誰しもがすぐに思いつくところだろう)が、「メッシュネットワーク」と呼ばれ研究が行なわれている。

UWBのアプリケーションは、USB over TCP/IP(IPv6)over UWBのようなイメージ。IEEE 1394やBluetoothなど、様々なアプリケーションが想定されている 無線でパケットをバケツリレーする「メッシュネットワーク」

 このように高いポテンシャルを持つUWBだが、いったいいつごろ利用可能になるのかが気になってくる。Intelによると業界標準に準拠した、最初のユーザー向け最終製品が提供される時期は2005年~2006年とのこと。低出力であるUWBは、Intelが得意とするCMOSプロセスとの相性も良いため、コスト面も有望視されている。

 ただ、UWBの将来は必ずしもバラ色ばかりではない。早急に解決されなければならないのは、電波の利用規則の問題だ。現時点において、UWBのような広い帯域の電波を利用する通信技術が認められているのは米国しかない。UWB機器が既存の無線機器と共存した時に本当に問題がないのか、議論は続いている。合法化されている米国も、見切り発車に近い状況だ。ただ、今回のIDF Japanでのデモ用に、総務省が実験用の免許を交付したように、わが国でも実用化に向けて動き出していることは間違いない。

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【4月11日】UWBによる250Mbpsの無線通信を世界初披露
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0411/idf05.htm
【2002年4月30日】【Keyword】UWB(Ultra WideBand)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0430/key205.htm#UWB
【2002年4月17日】「ムーアの法則を超えて」 --ゲルシンガーCTO基調講演
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0417/idf2.htm

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(2003年4月16日)

[Text by 元麻布春男]


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