元麻布春男の週刊PCホットライン

“熱すぎる”グラフィックスカード「GeForce FX 5800」



●冷却ファン停止時の温度は92度

FX Flowを搭載したGeForce FX 5800 Ultra

 このところNVIDIAのGeForce FX 5800 Ultraがなにかと騒がしい。FX Flowと呼ばれる、2スロット占有タイプの純正冷却システムの騒音レベルが高くて、本当に騒がしいのはもちろんのこと(今のところ多くのサードパーティ独自冷却システムも似たり寄ったりの騒音レベルのようだ)。性能が大幅に向上する「魔法のドライバ」なんて話も飛び出した。さらには、3Dスクリーンセーバーを使うと、スクリーンセーバーが動作した瞬間だけFX Flowが動作して、あとはファンが止まる、という現象まで報じられた。

 GeForce FX 5800 Ultraは、2Dグラフィックス利用時(Windowsのデスクトップやオフィスアプリケーションを使っている時)は、3Dグラフィックス利用時(ゲームや3Dグラフィックスベンチマーク等を実行している時、コアクロック500MHz、メモリクロック1GHz)の60%に動作クロックが引き下げられる。2Dグラフィックスモードでは冷却ファンを止めることで、騒音を抑えようというわけだ。ただ、これだけでは不安が残るため、危険温度(コア減速しきい値)を設定しGPUのコア温度が規定以上に上昇した場合は、コアクロックを落とす安全策がとられている。

 上のファンが停止する問題は、アイドルが続き3Dスクリーンセーバーが動作した際、冷却ファンが回りだすのに、すぐに停止してしまう、というものだ。もし、3Dスクリーンセーバーが3Dグラフィックスモードで動いているのなら、たちまち温度が上昇して、かなり危険な状況になりかねない(それを防ぐために危険温度設定があるわけだが)。

 それは大変というわけで、実際のカードでテストしてみたのだが、それほど致命的なことにはならなかった。3Dスクリーンセーバーが動作した後、ファンが停止したまま1時間ほどほおっておいたが、GPUコアの温度は92度程度まで上がったところで、ほぼ横ばいとなった(ドライバによる温度制限の初期設定値は140度)。3Dスクリーンセーバーでは、ハードウェアアクセラレーションは使われておらず、GPUは2Dグラフィックスモードで動作している可能性も考えられるが、とりあえずファンが回らなくても、GPUコアの温度が初期設定のしきい値を越えない程度なのだから、それほど大きな危険は生じない。

 というわけで、とりあえず3Dスクリーンセーバー動作中にグラフィックスカード上の冷却ファンが動作しなくても、それはスペック内におさまる、ということが分かった。が、この92度というのはかなり驚くような温度だ。

WinFast A300 Ultra TDを起動した直後の温度情報。コアを減速させるしきい値(危険温度)は、デフォルトで140度に設定されている 初期設定における2Dグラフィックスモードでのクロック設定。3Dグラフィックスモードの60%になっている

初期設定における3Dグラフィックスモードでのクロック設定。スペック上の最高値となっている 3Dスクリーンセーバーを1時間ほど動作させた後の温度情報。コアの温度の上昇は92度程度でとまったことらかも、実際には2Dモードで動作していたものと考えられる。なお、テストを実施したのが比較的涼しい夜だったことを付け加えておきたい

●とにかくうるさい冷却ファン

Leadtek「WinFast A300 Ultra TD MyVIVO」

 今回テストに用いたのはLeadtekのWinFast A300 Ultra TDというカードだが、カード全体を覆うようなヒートシンクが触れないほど熱くなる。もちろん、3Dグラフィックスのハードウェアアクセラレーション中は、冷却ファンが猛然と回る。その騒音は、これまでグラフィックスカードに取り付けられた冷却ファンや一般的なCPUの冷却ファンの比ではない。デスクトップPC用のATX電源も比較にはならず、マシンルームで用いるラックマウントサーバと勘違いするようなレベルである。それでも筆者は、冷房設備のないアパートや研究室で、GeForce FX 5800 Ultraが無事に日本の夏を乗り越えられるかどうか、自信がもてない。

 NVIDIAは常々、半年に一回、GPUの更新を行なうと明言してきた。半年毎に新しいコアを出すのは難しいが、新コア、マイナーチェンジ版、新コアといったサイクルで半年毎に更新する、というのが公約である。しかし昨年の後半は、一応、既存チップのAGP 8X対応版が出るには出たが、新チップであるGeForce FXは発表のみ。発売は翌年に持ち越され、事実上GPUの更新サイクルは1回スキップとなってしまった。

 つまりGeForce FX 5800シリーズは、いわば待ちに待った新チップのハズなのだが、どうも過去ほど順調ではない。ようやく始まった出荷にしても、昨年11月の発表時点では1月末から2月上旬と言っていたのが、1カ月以上も遅れた。しかも、チップの供給は潤沢からはほど遠く、秋葉原の店頭では品薄が続いている。あるカードベンダは、チップの入手性の悪さから、NV30はスキップすることにしたという。今のままでは、NV30が入手できる頃にはNV35がリリースされてしまいかねない情勢らしい。

 そもそもFX Flowなどという巨大なファンが必要になっているだけでも、そうとうマズイ気がする。日本国内で省スペースPCや静音PCが流行っているだけでなく、IntelもPCI Expressによる新しいフォームファクタ(Big Waterプログラム)と、それを用いた省スペースのコンセプトプラットフォームを展示会に出展したりする今日この頃、巨大なヒートシンクを要求するNV30はまるで恐竜のようだ。新しいグラフィックスチップを開発する際は、それがハイエンド向けのものであっても、特殊な冷却が不要なことはもちろん、Low Profile対応まで念頭において欲しいと思うのは筆者だけだろうか。

●0.13μmプロセスの投入タイミングは正しかったのか?

 また、熱処理にこれだけの物量が投じられているにもかかわらず、ライバルであったRADEON 9700 PROに対する性能上のマージンが不足しているように感じられるのも、筆者としてはイマイチ物足りない。まだRADEON 9800 PROとは直接手元で性能を比較したことはないが、GeForce FX 5800/5800 Ultraの後から出す以上、少なくとも同等の性能だろうし、このところの状況を考えれば上回っている可能性もある(演算精度の問題など、2つを同一条件で比較できるかどうかさえ、不明ではあるが)。そのRADEON 9800 PROは、発表会等での情報を見る限り、RADEON 9700 PROとほぼ同じ、常識的な冷却ファンで済んでいる。少なくとも、耐えられないほどうるさいファンではない。

 入手性が悪く、発熱量が並大抵ではないとなると、疑われるのは製造上の問題だ。GeForce FX 5800シリーズはTSMCの0.13μmプロセスで製造されるが、ライバルのATIがハイエンドチップに選んだのは古い(枯れた)0.15μmプロセス。最近になってGeForce FX 5200シリーズが比較的豊富に出回り始めたが、これも0.15μmプロセスである。

 TSMCの0.13μmプロセスの歩留まりは十分なのか、0.13μmプロセスをこのタイミングで使ったのは正しい判断だったのか、という疑問はつきまとうことだろう。この疑問の答えは当事者にしか分からないことだが、これまでTSMC一筋だったNVIDIAが、新しく製造パートナーにIBMを加えたことを見れば、NVIDIAがTSMCの0.13μmプロセスに満足していないことは明らかだ(ただし、だからといって、その非がTSMCにあるとばかりは限らない)。

●ソフトウェアでユーザー/デベロッパを囲い込むNVIDIA

 こうしたハードウェア/製造関連の問題に加え、筆者が気になっているのは同社の戦略、特にソフトウェアに関する戦略だ。シェーディングプログラムを記述するために自社製コンパイラであるCgを用意したこと、自社製グラフィックスチップに最適化されたアプリケーションに対するロゴプログラム(The best way to playロゴ)、さらにはElectronic Artsとの間で同社製タイトルの独占的OEMバンドル権まで獲得した。これらに共通する点があるとしたら、ソフトウェアによるユーザー、あるいはデベロッパの囲い込みである。

 もちろん、ユーザーやデベロッパの囲い込みというのは、多かれ少なかれ、どのベンダもやっていることだし、どのベンダも囲い込みたいと心の奥では思っていることだろう。現実にIntelだって同じようなことをやっている。しかし、これをやり抜くには、相当な覚悟と力が必要だ。時には他のベンダ、たとえばMicrosoftとさえ衝突することだって考えられる(実際、IntelがMicrosoftとぶつかったことがあるのは、Microsoftの独禁法訴訟の途上で明らかになった通り)。シェーダープログラミングひとつをとっても、ISVに対しMicrosoftは、Cgを使うよりDirectX標準のHLSL(High-Level Shader Language)を使って記述して欲しいと望んでいるハズだ。

 Intelは、プロセッサを開発するだけでなく、それを製造するという点まで含めて、圧倒的なシェアを持っている。プロセッサの製造工場の数でも群を抜いた存在であることは、以前にもこのコラムで紹介した。ソフトウェア開発者の数だけでも数千人規模を誇る。それだけの裏づけがあるからこそ、Microsoftに伍していけるのである。

 DirectX 8.1固有のフィーチャー(PS 1.4)は、ATI風味が強いとATI以外のベンダには嫌われているが、それを敢えてMicrosoftが採用したのは、NVIDIAに対する牽制球だった可能性だって考えられる(これがまた、3DMark 2003等にも影響を及ぼすわけだが)。

 それより何より、グラフィックスベンダによるコンパイラの提供やソフトウェアの動作認証(ロゴプログラム)といった手法は、どうもPCのカルチャではないような気もする。たとえば、グラフィックスワークステーションの世界では、こうしたことは日常的に行なわれている。NVIDIAは、SGIのグラフィックス部門を吸収したが、ひょっとするとそうしたことによる影響が現れているのかもしれない。

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【3月10日】【元麻布】Fabから予測する今後のIntel
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【2月18日】【元麻布】3DMark03に異議を唱えるNVIDIA
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0218/hot244.htm

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(2003年4月24日)

[Text by 元麻布春男]


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