大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

東芝が「不得意な」個人向けパソコンに挑む理由



 東芝が、いよいよ反撃の狼煙(のろし)をあげようとしている。

 同社では、2003年度からの中期経営計画を策定。それを「守りから攻めへの転換」と位置づけるが、その中で、同社の岡村正社長自らが、ノートパソコン事業におけるトップシェア奪還を宣言した。

 今や、コンピュータメーカーの社長が、中期経営計画の柱のひとつにパソコン事業を掲げることは少ない。先頃、社長に就任したNECの金杉明信社長も、就任会見では、パソコン事業には何ら言及しないまま。富士通の秋草直之社長や高谷卓副社長、日本IBMの大歳卓麻社長も、最近は、記者からの質問が飛ばない限り、パソコン事業には言及しない。

 コンピュータメーカーを差し置いて、重電メーカーの社長がパソコン事業に言及するという不思議な構図が見られるのだ。だが、裏を返せば、それだけ東芝がパソコン事業を重要な事業の柱だと位置づけていることにほかならない。

 調査会社の調べでは、2002年実績では、全世界のノートパソコン分野において、東芝は、デルコンピュータに破れ、第2位となった。だが、早ければ、今年度中にも首位奪還を達成したい考えだ。

 4月1日からデジタルメディアネットワーク社の事業グループ分担役員を務めている西田厚聰上席常務は、かねてから、1位にこだわる重要性を社内に訴えてきた。

 「1位になれば、新たな市場を作るというリーダー戦略を推進できる。だが、2位になった途端、1位のフォロアー戦略しかできない。つまり、1位にならないと決して市場を開拓するいい製品が出てこない。1位と2位の差は、僅差だとしても、事業に与える差はきわめて大きい」

 東芝がノートパソコン事業でトップシェアにこだわるのも、こうした背景があるからだ。


●「製品はいいが、売れない」からの脱皮

3月の中期経営計画発表で、首位奪回を宣言する岡村正社長
 各社が、それぞれにパソコン事業を語る時、強調するポイントは大きく異なる。たとえば、低価格であり、ソリューション戦略であり、付加価値戦略である場合もある。

 だが、東芝が一貫してこだわってきたのが、技術である。

 先頃の中期経営計画の社長会見でも、岡村社長は、トップシェア奪還のための取り組みとして、「ワイヤレス、AVメディア、燃料電池などの新技術投入が鍵だ」と、やはり技術面での優位性を前面打ち出す姿勢を見せた。

 これはいわば東芝の伝統的な取り組みだといってもいい。

 しかし、これが必ずしも、プラスになるとはいえない側面もある。

 「製品はいいが、売れない」、これは東芝製品に対しては、何度となく使われてきた言葉だ。

 その先進的な技術の採用や完成度の高さ、安定した稼働環境は、多くの人が評価する。だが、それが「売れる」ということには直結しない。

 特に、今やパソコン分野において重要な顧客層になってきた女性からは、「技術先行」だけでは、なかなか支持が得られないのは、周知の通りだ。

 個人的な意見であるが、岡村社長が、ノートパソコン分野における首位奪還宣言の上で技術だけを唱えたことに対しては、これまでの戦略との差が見られず、やや不安感がないともいえなかった。



●象徴的なdynabook C7への取り組み

 先日、東芝のパソコン事業部の山下文男事業部長に取材する機会があった。

 取材時間は1時間30分以上にも及び、今、東芝がパソコン事業において、どんな取り組みをしているのかを克明にお伺いすることができた。

 その結果、導き出すことができたのは、東芝は「技術先行型+α」の取り組みをすでに開始していること、そして、これまで得意としていたパワーユーザーだけではなく、不得意としていた女性層などにも積極的なアプローチを開始し、それが効果となって表れつつあること、さらに、今後もその方向性を加速するという点だった。

 では、技術先行+αの部分とは何か。

dynabook c7
 それは、今年1月に投入したdynabook C7に集約される。

 この製品は、パールホワイトの筐体から、アップルコンピュータのiBookや、NECのLaVie Nにデザインが似ていると言われやすい外観を持っている。

 だが、同社がこの製品に行き着くまでには、過去1年間に渡る、従来の東芝には見られない取り組みがあった。

 それは何か。

 徹底的にユーザーの声を聞くということだった。

 いまでこそ、パソコンメーカー各社は、「顧客の声を聞く」、「市場の声を聞く」ということを唱っているが、多くのメーカーは、物づくりを担当する事業部主導というスタイルが根強く残っている。技術志向の強い東芝は、その傾向が強い1社だったともいえる。

 だが、市場の声を聞くと決めた東芝の取り組みは、徹底したものだった。

 まずは、4,000人規模のヒアリングを定期的に行ない、今のパソコン市場を大きく4つに分類した。

 最も市場規模が大きい「スタンダードニーズ」、そして、企業が利用する「ビジネスニーズ」、高性能を求める「ハイリテラシーニーズ」、そして女性層などが含まれる「ライフスタイルニーズ」の4つのニーズグループだ。

 この中で、同社が着目したのが、今後需要拡大が見込まれるライフスタイル層である。

 顧客の声を分析した結果、この層のニーズを、「センス良く、気軽に持ち運べる、高品質なパソコンが欲しい」と定義したが、言い換えれば、この分野は、東芝のこれまでの製品イメージでは、評価されにくい層でもあった。

 そこで、若手を中心とした製品企画プロジェクトを発足。何度も顧客の声を収集して、ライフスタイル層が欲しがる製品コンセプトを煮詰めていった。パールホワイトの色調は、かつてのDynabook製品においてオプションで用意した何色ものカラーバリエーションの中で、最も女性層に高い人気を誇った色調だったという実績もあった。

“モバイル&ワイヤレス”をイメージした新しいロゴマーク(dynabookユビキタス・ロゴ)
 そして、新たな小文字で始まるロゴも従来の技術先進的なイメージから、ライフスタイル層でも購入しやすいイメージへの転換を狙ったものだった。

 実は、このロゴの変更も社内では大変な問題だったようだ。

 確かに、ロゴを変更するという意見が出た場合に、大変な労力を要することは容易に想像できる。各方面の意見調整が、大手企業ならばどこでも大問題になるのは、共通のことだろう。

 だが、ここにも、新たな市場開拓に真剣に取り組もうとする東芝の姿勢が見える。

 若手の意見を尊重するために、若手も上司もすべて一票という投票権での会議を実施したという。つまり、これによって、従来は上司の意見で潰されていた若手の意見が通りやすい環境を作ったのだ。そして、その若手の意見を後押ししているのが、「市場の声」という構図だ。ロゴの変更は、ライフスタイル層に受け入れられるためには、必須の取り組みだと強力に訴えた若手の意見と、それを採用する社内の仕組みの変更によって実現したのだ。



●見せびらかしたくなるパソコン

 dynabook C7は、好調な出足を見せた。発売直後から品薄状態となり、品切れ店も相次いだ。

 山下事業部長は、「あの質感を出すために、表面塗装を7回も行なっている。それが品薄の原因にもなっている」と軽口を言って笑うが、予想外の人気ぶりには驚きを隠せない。

 しかも、さらに予想外だったのが、20~30歳代の購入者を見ると約6割が女性層であること、そして、これまで決して高い評価を得ていなかったデザインについては、71%のユーザーが「デザインが良い」と回答しているのだ。いずれも、従来の東芝パソコンでは考えられない結果なのである。

 dynabook C7は、「見せびらかしたくなるパソコン」を目指したというが、その狙いは見事に達成されている。


●ライフスタイル層で過半数突破を目指す

dynabook E8
 東芝は、ライフスタイル層を開拓する製品として、dynabook C7とdynabook E7の2つの製品群をもつ。

 そのうちのdynabook E7の後継機を早くも投入、dynabook E8として、4月18日から出荷を開始する。

 さらに、今年6月以降には、dynabook C7の後継機も発売されることになるだろう。

 山下事業部長は、「C7とE7をあわせて、現在、ライフスタイル層向けの出荷比率は1~2割にまで上がってきた」と話す。これがそのまま、東芝のシェア上昇につながっているといえるだろう。パソコンショップ店頭におけるシェアも、もう一息で10%に到達するところまできた。C7の品切れがなければ、2桁突破は確実だったとさえ予測できる。

 「品切れさせないだけの玉を、夏商戦では用意したい」と山下事業部長は、シェア拡大に意欲を見せる。

 そして、E8の投入、次期Cシリーズの投入によって、「夏には、ライフスタイル層向けの比重を一気に半数以上にまで引き上げたい」とも話す。

 これは、これまで不得意としていた個人向けパソコン分野で、一気にシェアを引き上げるとの宣言ともいえ、パソコン事業におけるユーザーターゲットの明確な路線変更ともいえる。そして、これが、トップシェア奪還のための試金石になると読んでいるのだ。

 そのために、今、東芝は、最後の詰めに入っている。

 果たして、「センス良く、気軽に持ち運べる、高品質なパソコンが欲しい」というライフスタイル層の心を、C7以上に、がっちりと掴むことができる製品が投入できるのか。

 まだ詳細はわからない。だが、今から東芝の夏モデルが楽しみだ。

□dynabook c7コンセプトページ
http://c-style.dynabook.com/pc/c-style/
□関連記事
【3月7日】東芝、岡村社長がノートPC首位奪還宣言
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0307/toshiba.htm
【4月10日】東芝、DVDマルチドライブを搭載したdynabook E8など
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0410/toshiba.htm
【1月22日】東芝、新デザイン採用の2スピンドルノートPC「dynabook C7」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0122/toshiba1.htm

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(2003年4月14日)

[Text by 大河原克行]


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