大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

JEITA、10月から個人向けPCのリサイクルを開始
~販売価格に料金を上乗せし、リサイクルマークを貼付



●郵政公社が戸口回収を担当

告知用のポスター
 電子情報技術産業協会(JEITA)が、個人向けパソコンのリサイクルに関する詳細内容を発表した。

 基本的な概要に関しては、すでに4月7日の段階で公式発表しているが、10月1日以降に出荷されるパソコンに貼付される「PCリサイクル」マークを新たに公開するなど、10月1日の制度開始に向けて、これら内容の周知徹底を図っていく考えを強調した。

 同協会パソコン3R推進事業委員会 片山徹委員長(NEC)は、「どのような仕組みを作っても、消費者の理解と協力がなくてはパソコンの回収、再資源化は不可能。国、自治体、販売店を通じて、消費者に理解を求めたい」とした。

 試算によると、2004年度には190万台の家庭向けパソコンが排出されるとし、そのうち約20%がリサイクルされるだろうとしている。また、2009年度には390万台の家庭向けパソコンが排出され、半数がリサイクルされると予測している。

 今回発表した個人向けパソコンのリサイクルシステムは、昨年、経済産業省産業構造審議会、環境省リサイクル検討会の合同会合によって、取りまとめられた報告書に則って仕組みが検討されてきたものだ。

 報告書では、次の3点を盛り込むことを条件としている。

 第1点目は、戸口回収を実現すること。パソコンは、持ち帰り購入が多いことから、大型家電製品のように購入商品を配送した際に、古い商品を引き取るといった仕組みが構築しにくい。また、新品購入と保有品廃棄が同時に起こるとは限らないといったパソコンならではの特徴がある。そのため、廃棄するパソコンを戸口まで回収にくる仕組みが前提とされた。

 第2点目は、資源有効利用促進法に則って、パソコンメーカー側がそれぞれに再資源化の仕組みを用意するということだ。いわば、メーカーの責任において、指定回収場所を設置し、再資源化拠点を用意することになる。

 そして、第3点目は、複数メーカーの同時排出に対応できるという点だ。パソコンの場合、付属品を含めて複数のメーカーの組み合わせで使用されることが多いため、本体はこっち、ディスプレイはあっちという仕組みでは、消費者の間に浸透しにくいし、混乱が起こる。そのため、複数のメーカーが共通活用する宅配業者の選定が必要とされた。

 これらの条件を前提として、JEITAでは、4社の宅配業者と日本郵政公社に条件を提示。それぞれから提出された内容を吟味し。回収費用の価額、拠点数、サービス品質などを考慮した上で、回収ルートとして日本郵政公社を採用した。

 片山委員長は、「全国2万カ所以上の郵便局を指定回収場所として利用でき、離島に関しても同一のサービスを実現できる。また、集配郵便局から排出者宅への戸口集荷を追加料金になしでできるといったメリットがある」と日本郵政公社を選択した理由をあげた。

 日本郵政公社が戸口回収した排出パソコンは、物流を行なう山九株式会社の各地の拠点に送られ、そこから各メーカーの再資源化拠点に送られる。山九は、個人向けパソコンのリサイクルに関わるコールセンター機能や、ゆうパックの伝票発行など行なう。

 「郵政公社と山九は、かねてから提携関係にあり、この関係があったことも、スムーズなスキームが描けることにつながった」(片山委員長)という。


●10月1日以降は「PCリサイクルマーク」を貼付

リサイクルマークとホームページのURL
 個人向けリサイクルの仕組みは、次のようになっている。

 2003年10月1日以前に出荷されたパソコン(既販パソコン)は、排出する時点でリサイクル費用を支払うことになる。一方、10月以降に出荷されるパソコンについては、販売価格にリサイクル料金が上乗せされており、それを証明するものとして、「PCリサイクル」マークが貼付されることになる。

 回収を依頼する場合には、パソコンメーカーに連絡をし、回収の申し込みを行なうことから始まる。連絡先は、各社およびJEITAのホームページで公開する予定。

 既販パソコンについては、各メーカーが指定する方法に則って、回収資源費用を事前に支払う。支払いに関する用紙などはメーカー各社から送付される。郵便振替、銀行振込、クレジットカードやコンビニエンスストアでの支払いが可能になりそうだ。

 既販パソコンは費用を支払ったのちに、「PCリサイクル」マークが貼付してあるパソコンはメーカーに回収を申し込んだのちに、それぞれ専用の「ゆうパック」伝票が送られてくる。

 ゆうパック伝票は、ビニールケースに封入された3つ折りタイプのもので、届け先(メーカーの再資源化施設)や依頼主の欄はすでに印字済みとなっており、梱包した排出パソコンの箱に貼ればいいだけとなっている。

 梱包が完了したら、最寄りの郵便局の小包窓口に持ち込むか、ゆうパック伝票に記載されている郵便局に連絡すれば、戸口回収してくれる。

 ゆうパックの法定規格では、重量が20kgを超えたり、縦・横・高さの合計が150cmを越えるものについては、輸送ができないが、「特別に大きなディスプレイ以外は、ほとんどが対応が可能。さらに法改正の準備が進んでおり、この規格を超えた輸送が可能になる」(片山委員長)という。

 対象となるのは、デスクトップパソコン、ノートパソコン、パソコン用ディスプレイ。パソコン本体に同梱されているマウス、キーボード、スピーカー、ケーブルなどの付属品も一緒に送ることが可能。一方、1kg下のパソコンやPDA、ワープロ専用機、プリンター、スキャナーなどは対象にならない。

 パソコンのメモリやハードディスクなどを抜き取って排出することも可能だが、「リサイクル率を高めるためには、基本的には、購入時点の形で排出することが望ましい」(パソコン3R推進事業委員会 海野隆氏)という。

 現在、21社のパソコンメーカーが、郵政公社を通じた回収に合意しており、「これで、市場全体の95%をカバーできる。21社以外のメーカーの参入を排除するものでなく、むしろ、積極的に参加企業を募りたい」(JEITA)としている。

リサイクル制度の詳細資料


●リサイクル料金は5,000円前後?

 ところで、リサイクルに関わる費用だが、「基本的には各社が独自に設定することになる。5~7月には、各社がそれぞれに料金を発表することになる」(片山委員長)として、具体的な料金については言及されなかった。

 だが、業界筋では、リサイクル費用および回収費用を含めて5,000円前後になると見られている。ノートパソコンは、もう少し安い料金設定となる。

 また、倒産メーカーや事業撤退メーカーのパソコンおよび個人輸入品、自作パソコンは、「義務者不在」と位置づけられ、自治体に排出することになる。この料金設定も自治体に委ねられており、リサイクルされずに粗大ゴミとして回収されたり、無償で回収したりといった例も出てくることになりそうだ。

 家電製品のリサイクルや粗大ゴミに比べると、比較的、リサイクル費用が高いため、既販パソコンについては、リサイクルを敬遠するユーザーが多くなるのではないかと、一部では見ている。

 ただ、料金徴収に関して気になる点がある。

 2003年10月以降に発売されたパソコンに事前に上乗せされるリサイクル費用の管理については、メーカー各社がプールして、排出時にリサイクル費用として活用することになるが、現行の制度では、これが利益の内部留保となり、法人税として一律40%が課税されることになる。JEITAでは、「準備金として見なしてもらえるように申し入れているが、10月1日には間に合わないのは明らか。早くても、平成16年度(2004年度)からの実施になる」という。つまり、この準備金制度が認可されるまでの間は、40%分の税金がリサイクル費用に上乗せされ、消費者負担となる可能性が高い。

 JEITAでは、「課税分を価額に反映させるかどうかは、各社ごとに判断することになる」としているが、この問題は、このコラムでも、2001年12月の段階で指摘していたものであり、それを考えると、業界側の対応が遅いといわざるを得ないといえる。

 また、事前に本体価格に上乗せする形でリサイクル費用を支払ったものの、当該メーカーが事業撤退したり、最悪の場合には倒産したという際には、義務者不在の状況になる。つまり、排出する際には、消費者が改めて自治体に対して回収依頼を行なうことになる。

 これでは、費用を2重に支払うのと同じ結果だ。そのためにも、10月1日以降は、事業撤退をしないと見込まれるメーカーのパソコンを選択する方が得策という構図になる。


●駆け込み需要のあとで買い控えも

 別の角度からもうひとつ気になる点がある。パソコンの需要動向への影響だ。

 パソコンの需要低迷が続いているが、個人向けパソコンのリサイクル開始前には、リサイクル費用が上乗せされていないパソコンの駆け込み需要が想定される。単純計算で、同じ仕様でも数千円安く購入できること、排出時徴収といっても、中古パソコン店などに売却すれば、自らはリサイクル費用の負担を回避できるからだ。

 リサイクル費用が上乗せされない最終モデルは、6月から順次発売される夏モデルになる公算が強いと見られるが、一部メーカーの間では、例年10月に発売する冬モデルを、約1カ月前倒しにして出荷する計画を練っているといわれる。

 これによって、9月のパソコン需要は例年以上の盛り上がりとなりそうだ。

 NECでは、「例年、上期と下期の出荷比率は、45対55であるものが、今年は48対52程度になりそうだ」として、上期の需要増大を期待する。とくに、9月はマイナス成長で推移しているパソコン需要が、プラス成長に転じると予測しており、これはメーカー各社に共通した見解となりそうだ。

 だが、この裏返しとして10月以降の買い控えは一層深刻になりそうだ。

 家電リサイクルの場合には、駆け込み需要があまりにも集中したため、約1年間に渡る長期の反動が出たが、パソコンの需要は、もともと低迷路線にあるだけに、一時的な需要増大は、長期的な低迷を招く要因となる可能性もある。

 パソコン需要の回復を祈る業界関係者のなかには、駆け込み需要による一瞬の盛り上がりを期待するものの、その後の反動の大きさを懸念する声があがっている。

□JEITAのホームページ
http://www.jeita.or.jp/japanese/index.htm
□ニュースリリース
http://it.jeita.or.jp/perinfo/release/030407.html
□関連記事
【2001年12月25日】【大河原】リサイクル法で「個人向けパソコン」からの撤退が相次ぐ?
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20011225/gyokai18.htm
【4月18日】NEBA、個人向けパソコンリサイクルの懸念材料を指摘
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0418/neba.htm

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(2003年4月21日)

[Text by 大河原克行]


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