第192回
2004年、ノートPCのバッテリは、さらに20%増加する?



 Intel Developers Forum Spring 2003が終わり、もうすぐ3週間になる。今さらの感はぬぐえないが、今週はIDFの資料から特にバッテリ持続時間に関連するトピックを取り上げていくことにしたい。

 先日行なったアンケートでも、バッテリ持続時間の延長を求める声は非常に大きかった。24時間使いたいという人も多かったほどである。Intelの見積もりによると、6セルバッテリで5時間程度のバッテリ持続時間を、14.1型クラスの大きな液晶パネルを積むノートPCでも実現できそうだ。しかし、さらに小さなノートPCではどうだろうか?

●14.1型で平均10W以下が目標

 バッテリ持続時間を延長するための要素は実にシンプル。バッテリ容量を平均消費電力で割れば、持続時間を求めることができる。しかし、シンプルであるが故に、地道に省電力技術を積み重ねなければ、大きな変化を望むことはできない。

 そこで昨年の秋のIDF Taipeiでキックオフしたのが、Extended Battery Life(EBL) Working Groupだった。このワーキンググループでは、PCにコンポーネントを供給している様々な業種のベンダーが参加し、システム全体の消費電力を下げることに関してアイディアを持ち寄り、必要な部分ではコンポーネントの標準化を進めていこうとしている。

 【図1】でもわかるとおり、ノートPCが消費する電力の半分以上は液晶ディスプレイ、プロセッサ、電源回路がほとんどを占めている。このうちプロセッサに関しては、今年第4四半期に投入が予定されている次世代Pentium M(Dothan)により20%削減される見込みだが、他の要素はどうなっているのだろうか。

 IDFで配布された資料には、Intelは2004年のモバイルPCがどのような消費電力構成になるのかを【図2】のように見積もっているかが示されていた。これによるとプロセッサ以外にも、液晶ディスプレイ、電源ロス、クロックジェネレータなどによる消費電力削減が見込まれているようだ。

【図1】
ノートPCにおける消費電力の内訳
【図2】
2004年のノートPCにおける消費電力の内訳

 液晶ディスプレイの省電力化に関しては、Intelは低温ポリシリコン液晶パネルを14.1型クラスの比較的大きなサイズでも採用することで達成する見込み。Intelによると、低温ポリシリコン液晶パネルは開口率が高くバックライトの電力を節約できるほか、液晶パネルを駆動する信号に必要な電力が小さく、ドライバチップ込みの消費電力を通常のアモルファスシリコンよりも低くできるという。現行で平均4.2Wの消費電力が3.2Wで済むようになるというのだからその差は大きい。

 ただし、気がかりな点もある。14.1型低温ポリシリコン液晶パネルは、IDFの展示会ブースにおいてIntelが実物を展示していたが、Intelはワールドワイドでモバイル向けのニーズが高い14.1型にフォーカスしている。実際に製造する液晶ベンダーが、より小さなフォームファクタもラインナップすれば良いとはいえ、12.1型クラスの人気が最も高い日本とは事情が異なる。

 もう一点、大きく下がっている電源ロスは、回路中にバッファとして配置している細かなコンデンサを極力省くなどで実現する。その分、信号タイミングの設計が厳しくなるが、IntelがリファレンスのデザインガイドやOEM向けのきめ細かなサポートを行なうことで実現させる。ただし、これも松下電器のLet'sNOTEシリーズでは、すでにベンダー独自の技術として利用されているテクニック。他の日本のベンダーにも、それを実践する力が元々あることを考えると、日本で主流のモバイルPCに対して有効かどうかはふたを開けてみなければわからない。

 こうした省電力化可能なコンポーネントとは裏腹に、GMCHやメモリ、ICHなどはわずかずつながら消費電力が上がるとの見積もりだ。GMCHはパフォーマンスアップ、ICHはシリアルATAの導入、メモリは容量の増加とクロック速度の上昇が、それぞれ消費電力増加の原因になっているためだ。

 この結果、プロセッサや液晶ディスプレイ、電源、クロックジェネレータの節電効果を組み合わせても、システム全体で平均10Wの消費電力を切ることができない。そこで、いくつかの実に細かい、0.1W単位での“電力ケチケチ”アイディアが盛り込まれる。

●Intel版電力ケチケチ方針2004年版

 前述したLet'sNOTEシリーズは、ベンダー自身の力量で小さな省電技術を積み重ね、実効性のある省電力化をトータルで実現したわけだが、Intelはそれを業界標準の技術で実現しようとしている。PC用パーツのサプライヤに対して、省電力化に有効な設計の指針や必要となる部品のスペックを提示することで、あらゆるPCベンダーが安価に省電力なノートPCを設計できるようにするためだ。

 2004年に標準化される見込みの省電力技術は5種類。

 まず、液晶ディスプレイのドライバ回路への電源供給ロスを減らす。現在はシステムボードから3.3Vの電源を取り出し、それを7Vに昇圧して利用するのが一般的だそうだが、3.3Vのラインとは別にバッテリから直接取り出した電源を入力し、それを7Vに減圧して利用するように電源レギュレータの仕様を改訂するという。これにより、液晶ドライバ部の電源効率は80%から95%へと向上。0.2W程度の電力をケチることができる。

 またDVDドライブの電源供給回路を見直し、最大で0.3W(平均的には0.2W程度)の省電力を実現する。また、Windows XPがオートプレイ機能を有効にしている時に行なうドライブのポーリング(定期的な監視)により、プロセッサがC3/C4といった省電力モードに入らなくなる現象を避けるため、IDEドライバとドライブの電源管理機能を強化する。

 もう1つはAutomatic Backlight Control with ALSというもの。ALSはAmbient Light Sensorの略で、周囲の光量を計測するセンサーのことだ。つまり、周囲の明るさをセンサーで検知し、それを元に自動的にバックライトを調整する機能である。エンドユーザーはバックライトの明るさを調整するのではなく、どの程度明るく見えて欲しいかを設定しておけば、バックライトを自動的に最適化してくれる。明るいところでは明るく、しかし暗い場所では暗くなるわけだ。

 Intelは光量センサーを標準化し、システムとの接続方法やソフトウェアも含めたトータルのソリューションとしてPCベンダーに提案していく。センサーはSMBusに接続可能な1ミリW以下で動作するローコストなものになる。この機能は省電力化にも役立つだろうが、使い勝手の面で大きな進歩にもなるだろう。

 残りの2つは非常に細かな電源効率向上のための努力だ。電源効率を高めるため、回路ごとに電圧と電流のバランスを最適化。電圧レギュレータの出力電圧段数を増やし、もっとも効率の良い電流値になるようにする。また、ACアダプタからの入力とバッテリからの入力の両方に対応する電源入力部の回路設計を見直すことで、効率を高めることができるとか。

 これらの組み合わせで、平均1Wの消費電力を下げられるというのがIntelの見積もりである。結果、14.1型2スピンドルのノートPCは、平均消費電力が9.99Wと10Wを切るようになる。2003年版と比べると約10%ほど省電力になるわけだ。

●でも、それって本当に省電力?

 もっとも、平均10Wという数字が、本当にスゴイ数字なのかと言うと、実はそうでもない。確かに省電力ではあるが、たとえば丸形の6セルパックだと48W・時ぐらいの容量しかない。これが来年、50W・時になったとしても、平均10Wだとバッテリ持続時間は5時間。

 しかも、この数字(平均約10W)を達成している製品は、Pentium M搭載1号機の中に少なくとも2台存在しているらしい。つまり、20%もバッテリ持続時間が延びるのは、あくまでも消費電力を削ることに熱心ではない製品での話であって、すでに省電力化を尽くしている製品についてではない。もちろん、平均消費電力の測定基準が異なるからなのかもしれないが、次のように考える方が自然だろう。

 Intelは来年、IntelがPCベンダーに提供するリファレンスデザインとそのガイドラインに準拠することで、あらゆるベンダーが平均10Wを切るノートPCを開発できるよう、その準備を行なっているということだ。この目標が達成されれば、モバイルPCのバッテリ持続時間は、底辺から底上げされる。言い換えれば、省電力化を積極的に推し進めているベンダーならば、さらにバッテリが伸びることになる。

 もちろん、電源周りの省電力化などには限界もある。しかし、Intelの勧める省電力技術のいくつかは、すでに平均10Wを実現しているメーカーの製品にも効いてくるだろう。今回の話で中心となった14.1型クラス2スピンドル、6セルバッテリの構成で5.5時間ぐらいの性能にはなるかもしれない。

 このコラムの読者は、さらに小さく軽いモバイルPCを利用しているユーザーが多い。このため、12.1型や10.4型クラスの製品でも、Intelが14.1型クラスで投入しようとしている省電力技術の恩恵を受けることを期待する人も多いのではないだろうか。たとえば10.4型クラスの製品なら、丸形6セルで8時間以上実用できる製品が登場するのではないか、と想像するかもしれない。

 来年の平均的なバッテリパックの容量が50W・時と仮定して、8時間駆動にするための平均消費電力を求めると6.25Wという非常に厳しい数字が出る。しかし、実はこれとほぼ同等の平均消費電力を、松下のLet'sNOTE R1は(バッテリ容量が小さいため5時間だが)モバイルPentium III-Mですでに達成している。ならば、もっとイケルのか? というと実はかなり難しい。

 というのも、他社製品を分解・分析しているあるメーカーのエンジニアは「電源周りや液晶インバータ周り、液晶ドライバ周りの省電力化は、すでにLet'sNOTE R1やT1シリーズでやり尽くされている」そうで、Intelの提供しようとしている省電力技術はあまり役に立たないと予測している。

 確かに来年はDothanの登場でプロセッサの消費電力は下がるが、すでに省電力化が進んだ後での進化だけに駆動時間全体に対する影響力は小さい。その上、グラフィック周りやICHの消費電力は上昇傾向にあるため、相殺されて今年並みのバッテリ持続時間になるだろう、というのが10.4型クラスにおける予測だ。

●安心してBaniasマシンを買える?

 今週、BaniasことPentium M搭載機が発表され、夏モデルではさらに多くのBanias機がリリースされることだろう。これらの製品は、モバイルPentium III-M機と同等以上のバッテリ性能を実現しつつ、Pentium 4クラスのプロセッサパワーをユーザーにもたらしてくれる。PCベンダーも新プロセッサを契機に力の入ったモデルを用意しているだけに、(無線LANモジュールの動向は別途注視するとしても)、自信を持ってBanias機を選ぶといい。この時期を待っていた人は少なくないはずだ。

 しかし、さらに先のDothanでどうなるか? と考えている人。さらなるプロセッサパワーが必要ならば、そうした選択肢もあるだろう。だが、さらなるバッテリ持続時間が欲しいのであれば、バッテリ技術のブレークスルーを待つ必要がある。その時期はまだ遠い。安心してBanias機を買えばいい。

 もしBanias機購入で迷う要素があるとすれば、それはDothanではなくTransmetaのTM8000だ。ただしTM8000も、競合するのは当面の間、超低電圧版だけになるだろう。しかし、超低電圧版が競合する超小型ノートPCの分野では、大きなどんでん返しが待っている。おそらく今週、“小さなパソコンが好きなユーザーは”Intelの決断に驚くことになるはずだ。

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【2月26日】【本田】見えてきたIntelプラットフォーム戦略の真意
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【2002年11月26日】【本田】本当に速くなるのかな? TM8000を巡るヒソヒソ話
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/1126/mobile181.htm

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(2003年3月10日)

[Text by 本田雅一]


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