第193回
Banias投入の初回からCeleronブランドを使ったIntelの思い切り



 おとといの記事( http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0310/mobile192.htm )で、最後に“Intelの決断に驚くだろう”と書いたところ意外に多くの反響があって、むしろそちらの方に驚いてしまった。それほど意味深な演出を狙った訳ではなかったのだが、ちょっと想像力を掻き立て過ぎたのかもしれない。

 IntelはBaniasことPentium Mと、ワイヤレス技術を統合したプラットフォーム技術であるCentrinoを本日発表した。しかし驚くだろう決断の成果は、Intelのプレスリリースには書かれていない(ハズだが、もしかすると正式にラインナップとして記載されている可能性もある)。驚きはソニーの製品発表に隠れている。

 すでに情報を集めている人はご存じだろうが、僕が驚いたIntelの決断とは、超低電圧版モバイルCeleron 600A MHzを決めたことである。超低電圧版モバイルCeleron 600A MHzは物理的にはBaniasコアであり、Pentium Mの2次キャッシュメモリを半分の512KBに減らし、拡張版スピードステップを削除。最低クロックで固定されたプロセッサである。

●バイオUのためにソニーが特注??

超低電圧版モバイルCeleron 600A MHzを搭載するソニー バイオU

 超低電圧版モバイルCeleron 600A MHzについて、Intelは自ら進んで話をしようとは決してしない。なぜなら、本来はラインナップには存在しない製品だからだ。Intelはこれまでも、新しいマイクロアーキテクチャを開発すると、それをハイパフォーマンスプロセッサのPentiumシリーズに採用。その後、市場動向を見ながら、機能を落とした上でバリュープロセッサのブランドであるCeleronに採用するというルールを守ってきた。

 ところが、今回はその禁を破って、新マイクロアーキテクチャ投入の初回からCeleronブランドを持ってきたのだ。しかも、超低電圧版モバイルCeleron 600A MHzは、製造コストの面から言うと決して安いシリコンではないと推測される。

 超低電圧版モバイルCeleron 600A MHzの動作電圧などの仕様に関して、ソニーもIntelもアナウンスしていない。しかし、笠原氏のレポート( http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0220/idf03.htm )の表にもあるように、通常電圧と低電圧版のPentium Mは最低クロック周波数が600MHzで、そのときの電圧は0.96Vとなっている。

 しかしこのときの熱設計電力(TDP)は6W。Intel 855MのMCHと合わせると、Crusoe TM5800シリーズのノースブリッジ込みのTDP(7W)を超えてしまう。しかし、超低電圧版Pentium Mと同じ低電圧動作特性を持つ個体ならば、600MHz動作時もコア電圧は0.85Vで良く、その結果TDPも4Wまで下がる。これならば、十分にTM5800がターゲットにするミニノートPCもカバー可能だ。

 超低電圧版モバイルCeleron 600A MHzのコア電圧は明らかではないため、実際にどうかとなると自信が持てないが、少なくともPentium Mとして出荷できない余りものの個体を使っているわけではないようだ。むしろ、Pentium M 1.30GHzなどよりも特性の良い個体である可能性がある。

 ところが、いくら“できの良い個体”であっても、動作クロック周波数が600MHz固定では、そうそう高い値段を付けることはできない。むしろTM5800シリーズに対抗しうるぐらいの低価格が必要とされる。そこで苦肉の策として、低クロックや低価格を正当化できるCeleronブランドのプロセッサとして、機能を変更した上で投入したようだ。

 「Intelは、そこまでしてCrusoeを潰そうとしているのか」と考える人もいるだろうが、実際にソニーやIntelの担当者に話を聞いてみると、ソニーがIntelにねじ込んで超低電圧版モバイルCeleron 600A MHzを用意してもらったようだ。

 うがった見方をするならば、Intelが「ソニーが無理に発注したことにしておいて」という条件付きでソニーにオファーを出した可能性も捨てきれないが、そこまでしてバイオUの市場を取りに行くとも考えにくい。

 しかし、Intelが大変なのはこれからかもしれない。

●Banias-Celeronが既成事実となってしまうと……

 Intelが今回の超低電圧版モバイルCeleron 600A MHzを正式にアナウンスしないのは、本当はこの製品を出荷したくないからではないか? とも考えられる。前述したように動作電圧の低い個体を抜き出して使っていると仮定すると、超低電圧版モバイルCeleron 600A MHzは、決してコストの安いプロセッサではない。正式にアナウンスした製品となると、他社からの発注にも応えなければならず、Intelが本気で立ち上げたいCentrinoプラットフォーム戦略にも影響する可能性が出てくる。

 しかし、実はライバルメーカーは、このプロセッサがソニーに供給されることを、かなり以前から知っていたようだ。筆者はソニー以外のOEM先から「Crusoeキラー」と呼ばれるプロセッサについて、何度か噂を耳にしていた。超低電圧版モバイルCeleron 600A MHzは、TM8000シリーズよりは低速だがTM5800シリーズとの比較ではかなりパフォーマンスが良くなる。TM5800の置き換えとして、超低電圧版モバイルCeleron 600A MHzはなかなか魅力的なプロセッサと言える。

 もしOEM先がソニーと同じ超低電圧版モバイルCeleron 600A MHzを使いたいと言えば、Intelはソニーだけを特別扱いにすることはできないだろう。そうしたいと言い出す可能性は、すべてのTM5800搭載機ベンダーにある。

 たとえば東芝の関係者は「次のLibrettoは、大きく変わるものになる」と話していた。ここで言う大きな変化がプロセッサのサプライヤであるならば、LibrettoシリーズがBaniasアーキテクチャで登場するかもしれない(もちろん違うかもしれない)。BaniasアーキテクチャのCeleronが、PCベンダーにとって既成事実になってしまえば、柔軟に製品の展開を再検討できるだろう。

 以前、僕はBaniasではノートPCのフォームファクタは変化しないと書いたが、低電圧で動作する低クロックで安価なCeleronが出てくるなら話は別だ。Intelは望んでいないだろうが、BaniasのプラットフォームでもCrusoeがもたらしたような超小型の製品が登場してくる可能性がある。ミニノートPCが好きなユーザーは、その後の動向に目を向ける必要がある。

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(2003年3月12日)

[Text by 本田雅一]


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